とある創造神とダンジョン支援システムのメッセージ
『突然異世界転移しろって言われた上、断ったら元の世界に返してもらえずに無理矢理別の世界のダンジョンの中に放り込まれました。しかも、ステータスも自分で見れないし異世界特典のスキルというやつも使えなくて困っています。返信待ってます』
書類仕事をしている最中、突然目の前に表示されたメッセージ。
それは今している書類仕事に関係のある物でもなければ、神々が使用している内部連絡用のものでもなかった。
僕はそっとペンを机に置いて、このメッセージを送ってきた者…いや、システムに問いかけた。
「オペレーターシステム、これはなんだい…?」
『回答。クレームです。』
「いや、それは分かるんだけど。」
オペレーターシステム。
それは神々が世界の管理を行いやすくするためのサポートを行う為の独立システム。
また、ダンジョンマスターが抱える質問に対し嘘偽りなく事実を回答するサポート型スキルの管理をしているシステムでもある。
本来オペレーターシステムは50年周期の定期報告をする以外にシステムの方から神に連絡を取ることはないのだけれど、今はその定期報告が送られる時期じゃない。
更に言えば、目の前に表示されているメッセージは明らかに生きている誰かの手によって書き込まれた物だ。
もしこのメッセージが本当だったらメッセージの持ち主はかなりの窮地にいる事になる。
けど、僕はここ3百年ほど異世界転移を行った事はない。
ということは、僕の管理する世界の一つに存在する国が召喚魔法でも行ったのか?
「オペレーターシステム、僕の管理する世界で異世界人を召喚するための魔法を使った履歴はあるかな?」
『回答。ありません』
「えっ、じゃあどうやって僕の世界に異世界人が?」
『回答。このクレームの送信を要請した者は貴方様の管轄する世界ではなく、他の神が管轄している世界に存在しています』
「は!?」
これは益々おかしい。
何故オペレーターシステムを使ってメッセージを送っているのかは置いておいて、そのメッセージを何故その世界の創造神に送らないのだろう。
嫌な予感をひしひしと感じながらも、僕はオペレーターシステムに再度質問をする。
「だったらなんでその世界の創造神にメッセージを送らなかったんだい?」
『回答。クレームの送信を要請した者からの要望で、送信先を指定されました』
「送信先を指定する理由は?その世界の創造神じゃ駄目だったのかい?」
『回答。異世界転移を実行した者が要請者がいる世界の創造神だった為、送信先の指定候補に除外されたと推測されます。』
「はああああ!?」
オペレーターシステムからの回答に僕は思わず立ち上がってしまった。
確かに創造神が別の世界の住民を異世界転移させるケースはある。
しかしそれは異世界転移者が前の世界で本来死ぬことがなかった者が死んでしまった際の辻褄合わせの処置や、文明の発達のため神同士の慎重な対談で取り決められた後、本人の意思を確認し了承した時に行われる物だ。
内容から見てこのクレームを書いた人は異世界転移を断っているらしいし、明らかに神々の中で決められた規律を違反している。
明らかにきな臭い。
「オペレーターシステム…?」
『回答。はい、なんでしょう?』
「その異世界転移ってちゃんと規律に沿って合法的に行われた物なのかい?明らかに異世界転移に関する規律を破っているように感じるのだけど…」
『回答。非合法です。異世界転移を実行した神は事前の申請手順を行っておらず、転移元の創造神の許可を得ずに複数人の住人の異世界転移を行っています。』
「だよね!!!そうだと思ったよ!!」
異世界転移自体は確かに良くある事なのだけど、稀に規律を完全に無視した異世界転移をされる時がある。
世界の管理をしている創造神は、自分の世界の文明を発達させると神々の序列が上がるのだけど、その文明発達を楽に行うために文明の進んだ世界から住民を引き抜いて、言葉巧みに誘導して転移させる事があるのだ。
これは世界の住民が言う所の『拉致』に当たる。
一人だけでもアウトなのに複数人もの非合法な異世界転移が行われたなんて…。
「異世界転移されたという子達はどこの世界出身なんだい?」
『回答。「地球」と称されている世界です』
「地球の管理をしている創造神というと、あの大雑把で変わり者のゼノスか…。」
確かゼノスは仕事はかなり出来るものの、よく自分の管理している世界に住民として自分が管轄する世界に旅行に行っている事が多い。
今回の件を彼に伝えるにしても、彼の居場所を特定して連絡を取るのに一体どれだけの日数が掛かるのか…。
いや、一先ず優先すべきはこのメッセージの送信主の安全の保障だ。
実際に確認したわけじゃないから分からないけれど、異世界転移者にも関わらず異世界転移者特典のスキルを使えないということはスキル回路が起動されていないということになる。
異世界転移者特典のスキルは異世界転移した者がその世界で弊害なく生活できるように渡されるスキルだ。
それが使えないとなると、その世界で生活するのにかなり不便だろう。
元の世界に戻すことも重要だけど、戻すまでに生活が出来るようにしてあげなくてはいけない。
幸いアイテムボックスや鑑定程度だったらスキル回路だったら自分の管轄外の世界の住民でも変更することが出来る。
「はぁ…分かった。取り敢えずその子のスキル回路をオンにして、異世界転移者特典スキルを使えるようにしよう。オペレーターシステム、その子のスキル回路にアクセスするための画面を表示してくれ」
『回答。出来ません。』
「はっ!?」
基本何でも行えるはずのオペレーターシステムからの出来ません発言に思わず変な声が出てしまう。
オペレーターシステムからそんな言葉を聞くなんて、一体何百年ぶりだろうか?
「オペレーターシステム、何故送信主のスキル回路にアクセス出来ない?」
『回答。要請者は異世界転移者なのですが、本来転移先の創造神によって異世界転移直前に行われるべき手順が途中で放棄されております。故に手順が済まないと外からのスキル回路のアクセスを行うことが出来ません。』
「そ、それはつまり、このメッセージを送信した子はその異世界転移なんてした創造神に捨てられたということかい…?」
『肯定。その通りです』
「なんて馬鹿なことをしてるんだその神は!」
転移元の世界の創造神に無断で住民を異世界転移させるのだって良くないのに、その中の一人を自分の世界に捨てた?転移直前に必ず行うべき手順も途中放棄して?
そんなのは規律以前の問題だ。
異世界転移者にとって神から捨てられたという事は神から与えられる祝福を全て与えられてない事を意味する。
ステータスが見れなければ自分の使用できるスキルや自分の体力を確認する事も出来ない。
鑑定スキルで物の価値を調べる事が出来ず、アイテムボックスに必要な荷物を仕舞う事も出来ない。
その世界の常識を知る術も、生きるためのスキルもない、そんな絶望的な環境下に陥っているという事を指すのだ。
そんな状況で文明の乏しく、危険な魔物が多い世界で生きることは限りなく難しい。
そして更に最悪なのが、非合法な異世界転移ということは今回異世界転移させられた地球の住民達は神々が共有している異世界転移者のリストに載っていないという事だ。
それはつまり、このメッセージの送信主がどの世界に飛ばされたのかも分からないという事だ。
居場所の特定にどれだけ時間がかかるのか…。
時間が長引けば長引くほど、送信主の身は危険だと言うのに…!
僕は見たことのないメッセージの送信主の安否が心配になり、オペレーターシステムに慌てて問いかけた。
「それで、その子は大丈夫なのかい?こうしてメッセージを送っているという事は今は大丈夫という事だけど…。」
『回答。転移先がダンジョンマスターのいないダンジョンだったこともあり、そのダンジョンにてダンジョンマスター登録を行い【ダンジョンマスター】付属スキル<オペレーター>を入手。その後、<オペレーター>を使用して自分のステータスを確認し、使用できるスキルと能力値を確認し自分の状況を把握。その後ユニークスキルを使用し衣食住の確保に成功しています』
「いやその子生存能力が高いなぁ!?」
普通はそんな状況に陥ったら人は戸惑って何も出来なくなるだろうに、絶望的と言われる状況への完璧な対応をしている…!
そう言えば、最近地球じゃ『異世界転移』ものの書物が流行っているって地球の文化が好きな神が言っていたな…。
というかユニークスキルで衣食住ゲットってどんなユニークスキルだったの?!普通ユニークスキルって聖剣召喚とか全属性魔法を扱えるとかそういう効果のものが殆どだよね?
ま、まあ、取り敢えず暫く生き延びられるようで安心した。
転移先の創造神が行うべき手順を行ってないとなると外部からのサポートがしにくい。
転移先の創造神に直接掛け合う事が出来れば大丈夫だけど、その創造神は非合法な異世界転移をした張本人。
はぐらかされて、最悪証拠隠滅のためにその子を消滅してしまうかもしれない。
創造神にバレないようメッセージの送信主に干渉してスキル回路にアクセスするには良くても数ヶ月は時間を要するだろう。
ダンジョンマスターになれたのは不幸中の幸いだった。
ダンジョンマスターはその付属スキルとして神々とは独立した支援システムの一部を使用できる。
オペレーターシステムで完全にスキル回路をオンに出来ないとしても、仮起動させて異世界転移者特典スキルの劣化版を使用できるようにすることが出来る。
更に、外部からの送信主への直接干渉は出来ないけれど、オペレーターシステムを介してその子の状況を知ることは可能だ。
「オペレーターシステム。このメッセージの送信主の状況を一日置きでも良いから報告して欲しい。」
『了。畏まりました』
「それと、この件を上位の神にも報告しないといけないね。」
『回答。その件に関しては不要です』
「え、どういう事?」
『クレームの要請者からの送信先の指定により、創造神の上位にあたる神と創造神の中でもまともそうな神にこのクレームを送るように命じられておりましたので、貴方様にメッセージを送信するのと同時に上位神にも同じものが送信されております。』
「僕、まとも枠として選ばれたのかい!?えっ、その上位神って一体誰のことなんだい…」
「わたしだよ。アーノールくん。」
声の聞こえた方向に振り返ると、そこにいたのは扉の前で冷ややかな笑顔で立っていた上位神のイェラン神だった
イェラン神の姿を見た僕は、慌てて立ち上がり姿勢を正した。
「い、イェラン神?!何故此処へ…」
「オペレーターシステムから君が送られてきたものと同じメッセージを見せられてね。事情を聞いた後、同じメッセージを送られた者が誰かを聞いてやってきたのだよ。君も大変そうだね、アーノールくん」
「え、えぇ…本当に」
イェラン神は物腰こそ優しいけれど、とても規律に厳しい神だ。
今だって表面上笑っているけれど、今回のことを仕出かした神に対して激しく怒っているのが分かる。
オペレーターシステム…確かにイェラン神は創造神の中でもかなり上位の立場にいる神だけど、何故この人を選んだんだ!
「メッセージの送信主のいる世界の特定と非合法な異世界転移の証拠集めはわたしが受け持とう。君は、オペレーターシステムを介してメッセージの送信主の状況を逐一確認するんだ。何か非常事態が起きたら、私の所まで報告するように」
「は、はい!分かりました!」
「うむ、じゃあ頼むよ。それとオペレーターシステム、送信主は返答を希望しているようだが、此方がメッセージを送ることは可能かな?」
『回答。可能ですが、創造神に気付かれる可能性があります』
「そうか、じゃあ送信主がメッセージの返答について確認した時にこう答えて欲しい。『メッセージを受け取った。此方でも君と他の異世界転移者の保護と今回の件の解決に尽力するが、解決までにかなり時間が掛かる。それまで生き延びていて欲しい。大変申し訳ない』と。」
『了。クレームへの返答に対する質問に対する回答として設定致しました。』
「では、アーノールくん。さっき頼んだ事、宜しく頼んだよ。それと、今回の件は無関係な神には黙秘するように。下手に騒がれると、犯人が感づいてしまうやもしれないからね」
「はい!勿論です!」
にっこりと微笑みながら告げられた上位神からの絶対命令に、僕は冷や汗を垂らしながら了解する。
イェラン神はうんうんと頷いた後そのまま僕の執務室から去っていった。恐らく、調査に向かったのだろう。
僕は力が抜けたように椅子に座り、一息ついた。
どの創造神がやったのかは分からないけれど、イェラン神のあの様子からして犯人が分かった時にはただじゃ済まされないだろう。
「違法な異世界転移についてはよく話を聞いていたが、まさか僕がそれに巻き込まれるとはね…。」
今この瞬間、管轄している世界に災害が起きていなくて本当に良かった。
もしメッセージを送られた時が管轄している世界に災害が起きていて調整作業に追われている時なんてしたら地獄だった。
取り敢えず、今ある仕事は一ヶ月先まで済ませておいた方が良いだろう。
送信主に何かあった時に仕事が山積みで何も出来ないなんて状況になったらイェラン神の怒りを買ってしまう。
「はぁ…なんで僕がこんな目に…」
僕の呟きは虚しく執務室の中で響き、そのまま消えたのだった……。




