そういうのはラノベの中だけにしてください
そうして気がつけば私はリア充グループの男女5人と共にラノベで良くある真っ白な空間にいた。
動揺するリア充グループ達を眺めながら、状況整理をしようと頭を働かせていると、頭上から声が掛かった。
その声の正体は神々しいオーラを纏った金髪美女だった。
金髪美女は混乱している私達を落ち着かせると、今の状況を説明した。
今私達の目の前にいる金髪美女は地球とは別の世界を管理している創造神だそうだ。
彼女はいくつもの世界を管理しているそれはもう偉い神様なのだが、彼女には悩み事があった。
それは、彼女の管理している世界の一つがなかなか良い発展をしないことである。
その世界は異世界転移もののラノベで良くあるような魔法やダンジョンが存在する世界で、地球のある世界が科学の力で発展した世界であれば、彼女の管理するその世界は魔法の力で文明が出来た世界らしい。
しかし、ここ数百年もの間、その剣と魔法の世界があまり発展らしい発展をしていないらしい。
度々発展の兆しが出るけど、それも疫病や国同士の戦争、魔物の大量発生などですぐに潰えてしまう。
創造神である女神はあまり世界に干渉することも出来ない。
そこで女神が思いついたのは、地球にいる人間を異世界転移させることだった。
女神いわく、地球は彼女の世界よりもかなり発展した文明のある世界で、なおかつ地球の人間はより強力なスキルを持つ事が多いらしい。
そのため地球の住民は異世界に良い影響を生む事が出来るらしい。
実際に地球の人間を転移させた世界の文明はさらなる栄転を示す事が多くあるそうだ。
要は社会でいう所の『引き抜き』である。
女神の話に目を輝かせるリア充グループ。既に話に乗る気満々だ。
『異世界に転移するにあたって、わたくしの方からいくつかサポートをお付けしましょう。
勇者様、聖女様、賢者様方。どうか今から行く別の世界を救ってはくれないでしょうか?』
そして、話は冒頭へと戻る。
今現在、女神とリア充グループ5人は全員私の方をポカンと呆然と見ている。
正直目立つことが嫌いな非リア充な私には、この視線の雨はかなり痛い。
そんな中、最初に我に返ったのは、金髪美女の女神だった。
『え、えっと……、断るとは一体どういう事でしょうか……?』
「私は異世界転移とか興味ないので、元いた場所に戻してくださいという意味ですが何か」
「こもり子ちゃんマジで言ってんの?(笑)つかアンタ、いたの?」
女神の次に我に返り嘲笑を浮かべながら私に声を掛けたのは、リア充グループの女子その1、ギャル子さんだ。
ギャル子さんというのは私が彼女につけたあだ名で、そのあだ名の通り見た目は典型的なギャルそのもので、性格は気が強くて我儘。更に男遊びが激しく、イケメンには目がないとのことだ。
どうやらギャル子以外のリア充グループのメンバーも全員今私の存在に気が付いたらしく、ヒソヒソと「アイツ、いたの?」やら「影薄すぎて全然気付かなかったわ(笑)」と喋っているのが聞こえる。
「別に冗談を言っているつもりはないですよ。あと最初からいましたよ、ギャル子さん」
「ギャル子って呼ぶなし! この陰キャ女!」
「まあまあ、落ち着きなよ彩夏。小森さんも、あまり彼女を挑発しないであげて、ね?」
そう言って私達の間に仲裁に入ったのは、学年で人気者のイケ男くんだった。
イケ男くんは成績優秀、運動神経抜群で、なおかつルックスも爽やかイケメンという非の打ち所がないイケメンだ。
まあ非リア充である私的には、ただギャル子達に振り回される優柔不断な優男にしかみえないのだけれど。
「小森さんはとっても落ち着いているんですね。こういう事は小森さん、好きそうだと思ったんですけど……」
「まあ引きこもり子の小森には聖女って柄じゃねーもんな」
イケ男の後ろでそう口を開いたのは、清楚系美少女の黒子さんと運動神経抜群の筋雄くんだ。
黒子さんは万年学年主席の優等生として有名な黒髪美少女で、筋雄くんはサッカー部のエースをしている根っからのアスリートだ。
輝かしい実績を持つ二人なのだが、黒子は裏ではパパ活をしているとか筋雄は三軍の男子を虐めているなど、中々黒い噂も目立つ。
因みに黒子の黒は黒髪の黒ではなく、腹黒の黒が由来である。
「ちゅーか、な~んでこもりんはイセカイテンイお断りなのさ? 今流行のイセカイテンイっしょ? 勇者とかなったら映える事間違いなしじゃん!」
そう言って馴れ馴れしく接近してくるのはリア充グループ随一の軟派男、チャラ男くんだ。
女遊びが激しいのは勿論、何をするにもチャラチャラしている文字通りのチャラ男には異世界転移というものをあまり理解していないらしく、ヘラヘラと笑いながら私に問いかけて来る
『そ、そうですね……。異世界転移に一体どのような不満がおありなのでしょうか?他の方は皆喜んで行ったのに……』
目を潤ませながら私に問いかけをする女神に対し、私は深い溜息をついて語る。
「……確かに黒子さんの言う通りラノベやアニメで見る分には好きですよ、異世界転移。俺TUEEEとか異世界での令嬢暮らし、ロマンがありますよね」
「えっと、私黒子じゃなくて夕梨花って名前なんだけど……」
「けれど元来より、異世界転移というのは重大な欠点があるんですよ……。それもとても耐え難い……ね」
「重大な欠点だぁ?」
「一体何なのよ、その欠点というのって?」
訝しげに此方に問いかける筋雄とギャル子の質問に答える為、私は息を大きく吸い込んだ後、高らかに言った。
「異世界には、インターネットがない!!!」
私の言葉に再び呆然とする面々。困惑気味に声を上げたのは、またもや女神だった
『い、インター……ネット……?』
そう、ラノベや漫画に出てくる異世界というのは殆どが地球より文明が遅れている。
現代の高校生には必須のインターネットは勿論、スマホもパソコンもないのだ。
最悪の時は家に帰ればすぐに潜り込めるふかふかのベッドや美味しい食事すらない時だってある。
根っからの現代っ子の出不精の私にはとても耐え難い。
そもそも異世界転移ものの主人公自体が色々おかしいのだ。
何故現代のぬるま湯に浸かりまくった高校生や新卒がインターネットもゲームも、漫画すらない娯楽不足の世界で、いつどんな危険が舞い降りるか分からないような劣悪な環境下に自ら突っ込もうと思えるのだろうか。
話の展開的にそうならないと話が続かないと言ってしまえばそこで話はおしまいだが、今ここに起きているのは自分が直面している現実だ。ここで拒絶しなければ流されるままに劣悪な環境下に押し込まれる。
「インターネットだけじゃないですよ。異世界の文明が地球よりも遅れているのなら地球には当然あるはずのお風呂や美容品もないんですよね?」
『び、美容品はありませんが、お風呂はたしかに存在していますよ。貴族や王族しか持ってませんが……』
「金持ちしか使えないものはないも同然です。更に言うなら、漫画だとかゲームだとかいう娯楽もないですよね? チェスならワンチャン有り得そうだけど……」
『ご、娯楽はまあ……確かにないですね……。チェスというのも……』
「有り得ないですね。あと思いつくものは、美味しい食事とかですかね? 発展が遅れているなら塩とか香辛料とかの交易も遅れてそうですし、地球のように調味料がふんだんに使われた美味しい料理も、自分達でレシピを広めないと食べる事もままならないですよね?」
『それは……そうですね……』
「はい、話にならない。そんな劣悪な環境下に碌な説明もないままに突っ込まれて特に世界級に特出した才能も持たない高校生数名で文明を発展させるなんて到底無理です。ダンジョンとか行く前にストレスで死にます。というか、スキルとかあってもまともに実戦経験のない高校生がダンジョンなんて言ったら秒で殺されますよね?ゴブリンとかに会ったら囲まれて瞬殺されるか、所謂繁殖用の母体にされて生き殺し状態か……」
「ヒィッ!」
私の推測を聞いてゴブリンに襲われる自分を想像してしまったのか、短い悲鳴を上げるギャル子。他のリア充たちも、私と女神とのやり取りで最初の頃のやる気は大分削がれてしまっているようだ。
そりゃあ、現実を見れば誰だってそうなる。いくら青春真っ盛りで夢見たい年頃の高校生だって夢から醒める。そうなれば誰だって元の環境の方が良いと言うに決まっている。
「私は勇者だとか聖女だとか堅苦しい肩書は興味ないです。エアコンの効いた室内で美味しい食事を食べてゲームや漫画して、暖かいフカフカのベッドで寝ていたいんです。自ら危険な場所に出ようだなんて、とても思えません」
『そ、そんな事仰らないでください。確かに最初の環境こそ悪いかもしれませんが、文明を発展させれば貴方が望むものも手に入れることが出来ますよ!』
「そもそもですが女神さん。先程あなた、『他の方は皆喜んで行ったのに』って言ってましたよね? それってつまり、私達以外にも異世界転移をした人がいて、なおかつそれでも文明を発展させられてないか、或いは別の理由でそれぞれ別の異世界に転移させてるんじゃ……」
『まあまあ!そう仰らずに! ほら、貴方だって強力なスキルが……』
そう言いながら女神の目の前に宙に浮かぶ謎の液晶画面が現れ、女神がそこにのっている項目を読んだ。
その時、女神の纏っている雰囲気が何か変わったような気がした。
神々しいオーラは変わらず纏っている。
けれど、液晶画面の項目を読んだ瞬間、先程までの人の良さそうな雰囲気が一瞬消え、女神では絶対に有り得ないような醜い笑顔を歪ませたように見えたのだ。
背筋にゾクッとした感触を感じて、私は思わず目を凝らすと、女神は先程までと同じ人の良さそうな笑みを浮かべていた。
(気の所為、だったのかな?)
若干嫌な汗を掻きながら女神の事を見ていると、女神は残念そうな表情で再び口を開いた。
『分かりました。そこまで言うのであれば、もう私は止めません。貴方の望む通り、勇者や聖女といった肩書に縛られずにすむ、貴方に相応しい場所にお送りいたしましょう』
そう、女神が言った瞬間、私の足元に再び変な魔法陣が浮かび上がった。
待って、なんか嫌な予感がする。今ここで何処かに移動させられたら、なにかまずいことに巻き込まれるような、そんな予感がする。
女神が手の甲を上にして腕を上げるのを見て、私は思わず手を伸ばした。
「ちょっ、待ってくださ……!」
『それでは、御機嫌よう』
女神が掌を返した瞬間、私の足元の魔法陣が強く輝きを放った。
強い光の隙間から見えたのは、驚いた表情のイケ男達と、女神の下卑た笑い。
あ、これは絶対なんか仕組まれているわぁ……。
取り敢えず、即死する場所は逃れたいなぁ……、なんて現実逃避しながら、私の意識は再び遠のいた。