これは応援するしかない
ミノタウロス達に悪質な契約を持ちかけ、ミチュさんを筆頭とした他のダンジョンマスター達に詐欺紛いの商売をしていたダンジョンマスターとの直接対決を決意した日から三日後。
私は問題のダンジョンマスターと問題のダンジョンマスターのいるダンジョンで対面することとなった。
問題のダンジョンマスターと面会の約束を結ぶのは実に簡単だった。
ミルフィーさん達の調査に協力した被害者ダンジョンマスターの一人に、私達を「最近出来たダンジョンで、ビギナーズラックでDPを稼いで調子に乗ってるダンジョンマスターとその配下」という説明付きで“客”として紹介してもらっただけ。
ダンジョンマスターのパーティーでの件があるので、私がそのまま行っても彼は本性を現さないだろう。
だから私は、代わりのダンジョンマスター役を用意する事にした。
『アイぴっぴ、マジでやっちゃうのこの作戦? 僕これやり切れる気しないんだけど……』
『仕方ないだろう? これはアイネスちゃんの指名なんだから』
『お二人共、似合ってますよ……ブヒッ』
『いや、でもこれならベルッさんやまりりんがやった方が良かったんじゃ……』
「ベリアルさん達は配下役の種族としてあまりに格が高すぎます。かといってあまりにノーマル魔物過ぎるのも駄目です。そこそこ格が高く、演技が出来て、尚且必要条件を満たすのが3人なんです。頑張ってください」
『え~……。いやでも、僕もアイぴっぴのとこに来る前にパーリーでライブしてたから、そのダンジョンマスターが僕のことを覚えてたらバレるんじゃ……』
『そこは大丈夫。マリアちゃんとアーシラちゃんの力を信じてくれ』
不安そうな表情を浮かべながらモノクルをカチャカチャと動かすアマービレに対し、銀座のキャバクラにいそうな色っぽい格好をしたライアンが腕を組みながら安心させる言葉を掛けた。
アマービレとライアンは今、マリアを筆頭とした変化……もといメイクアップ班によって普段とは全く違う姿になっている。
男装の似合う凛々しい麗人だったライアンは猫被りサキュバス系美人へと変身し、カッコ可愛いチャラ狼だったアマービレは可愛い5割、知性的5割の執事狼へと変身している。
テレビだったら足先から徐々にカメラ視線が上がっていって、「なんていうことでしょう」とかナレーターの声が聞こえてきそうだ。
トン吉も、きっちりとした燕尾服が良く似合っている。
因みに私は今、エルフ耳風の付け耳と金髪ウィッグとメイド服を着てエルフメイドに変装している。
ダンジョンマスターでのパーティーでは猫型獣人を装っていた為、問題のダンジョンマスターが私の姿を見ていたとしてもこの姿だったら他人の空似程度で誤魔化す事が出来る。
その上、マリア達の手によって詐欺メイクも施されているので、バレる可能性は限りなく0と言っていいだろう。
実際、この姿をディオーソスさんに見せたら『幻惑魔法レベルの変身、アメイジング!!』って言われたよ。
そして私と対になるように立っているのは、同じくメイド服を着たアルファだ。
アルファはダンジョンマスターに召喚された初回激レア魔物として振る舞ってもらっている。
私と横に並ぶと、アルファのスタイルの良さが目に見えてハッキリと分かる。
くそぅ。
現在、私を含め5人の者達が使用人風の格好をしている。
私達5人は証拠集め担当だ。
ダンジョンマスター役の後ろに立ち、一緒の席で話を聞き、そして矛盾点と詐欺だと確実に分かる点を探す役割だ。
この割り振りは、案外簡単に決める事が出来た。
そして、私の代わりにダンジョンマスターを装ってくれる魔物、つまりは「詐欺の被害者候補役」になってもらったのは……。
『中級魔物共、油断するなよ。この先からは敵の陣地だ。我の足を引っ張るような真似をするのは許さんぞ』
『分かってるよ、バイフーさん』
『バイぴも、見事なダンジョンマスター役頼むからね!』
『バイぴと呼ぶな!』
王様系イケメンの姿へと変身し、親指を立てて変なあだ名で呼んだアマービレにピシャリと厳しい声を上げた雷虎、バイフーだ。
バイフーは実力的にも性格的にも、ダンジョンマスターを装うには十分な種族だ。
しかも、素で詐欺に引っ掛かりやすい性格の条件を満たしているから、問題のダンジョンマスター達もカモ判定にしやすいだろう。
本当はイグニに頼もうと思ったんだけど、イグニは本音が顔に出やすいということでアウトだった。
因みにバイフーは、自分が騙され役になるってことを知らない。
ただ、「今から悪質な商売をしていると噂のダンジョンマスターの所に行ってどんな商売か確認に行くのだけど、私じゃ多分舐められそうだから代わりにダンジョンマスターの振りをしてくれ」と説明しただけだ。
決して間違っている事を言ってないから、嘘は言っていない。
バイフーはきっと私の言った通り、その噂のダンジョンマスターが実際どんな商売をしているのかを知るために、真剣に彼らの話を聞くだろう。
ちゃんと追加報酬は出すつもりなので許して欲しい。
「じゃあ、そろそろ問題のダンジョンマスターのところに行きますよ。それぞれの役割は事前に伝えた通りにお願いします」
『おけおけ!』
『任せてくれ』
『御意』
『ふん、我に任せておけ』
私は昨日届いた手紙をバイフーと共に掴み、念を込めた。
これで転移した後に私が手を離して後ろへ下がればバイフーがダンジョンマスターのように装う事が出来る。
そういえば、ミルフィーさん達からダンジョンマスターの人物像がどんな物か聞いてなかったな。
前の話し合いで聞いた時は「見ればすぐ分かる」って言われて終わりだった。
見ればすぐに分かる……という事は第一印象から良く分かる人柄という事なんだろうか?
出来れば、面倒くさい性格のダンジョンマスターじゃないと良いんだけど……。
***** *****
「……」
『『『『『……』』』』』
オークジェネラル。ファンタジー物で良くあるオークの上位種。
上位種と言っても、周りが考えるそのイメージは殆ど日本で知られているオークのイメージと変わりない。
性欲と食欲が強く、嫌そうな顔や涙を流す女騎士やお姫様とかを侍らせていそうな女好きの魔物。
トン吉だって他のオークと同じく他一倍に女性好きの面がある。
ただ、それ以上に真面目な性格の持ち主で、そういった面は人前で見せないだけというだけだ。
実際トン吉のベッド下には、結構な量のグラビア雑誌があったりする。
敢えてそれを直接口にすることはないけれど。
まあ、私がこんな事を語り口調で話し始めたのには理由があった。
それは、今目の前に広がっている光景が理由だ。
『いやぁ、良くおいでになられた、新人ダンジョンマスター殿!』
『『いらっしゃいませ~♡』』
丸々としたでっぷりお腹にトン吉よりも二回り大きい体格、そしてトン吉とは違う赤い体色で頭に王冠を付けたオークと、その横に立っている黒い翼を持った意地の悪そうな痩せぎすの男性堕天使。
王冠を付けてる当たり、彼がオークジェネラルなんだろう。
ミルフィーさんが言ってた亜種というのは、その赤い体色の身体のことを指すんだろう。
しかし、それよりも私達が目を向けたのはその両サイドに侍らせている女性魔物の方だ。
種族はラミアとエルフだろうか?
どっちも、オークジェネラルの腕に胸をくっつけてべったりと侍っている。
それも、心底嫌そうな顔じゃなくて何処かうっとりとした表情で。
『新たなダンジョンマスターを、心から歓迎しようじゃあないか!』
『『『『『歓迎致します、新たなダンジョンマスター様!』』』』』
いや、両隣だけじゃない。
ラミアとエルフ以外の女性魔物達も、目をハートにさせてオークジェネラルの周囲で侍っている。
私はこれを見た時、思わず小声で思ってた事を漏らしてしまいました。
「……まんま、ですね。イメージしてたのとはちょっと違いますけど」
『「マンマ」だね』
『「ソノママ」だな』
『はぁ……』
私の言葉にアマービレとライアンが苦笑気味に同意し、トン吉はそっと天を仰いだ。
なるほど確かにミルフィーさんの言う通りだった。
一目見ただけですぐ分かる程のモテ男っぷりだ。
これは確かに説明するより見た方がはっきり分かる。
説明されるだけじゃ、多分信じられなかったと思う。
というか、なんであんなにモテてるんだ?
正直見た目はあまり……というかトン吉よりでっぷりしてて良いとは言えないよね?
一体どんな恋愛ゲームを攻略すれば、あんな女性魔物を侍らせているんだろうか?
これは、タケル青年も近づきたがるだろうなぁ。
だってタケル青年の憧れの象徴みたいなものなんだもの。
『我らの歓迎、有り難く受け入れよう。オークジェネラル……殿』
『自分の事は気軽にロッソと呼んでくれ。君は確か、雷虎のバイフーくんだね?』
『うむ、その通りだ』
『いやぁ、流石は雷虎くんだ! 自分なんか比べ物にならないくらい存在感が凄い! 見るからに強そうだ!』
『本当、とてもお強そうですね~♡』
『毛並みが本当良さそうです~♡』
『ふん、当たり前のことよ』
オークジェネラルはロッソと名乗り、バイフーと握手を交わした。
オークジェネラルの両隣に立っていたラミアとエルフは自身の主の称賛に続くようにバイフーに対して称賛の言葉を並べる。
だけど、そこは流石バイフーといった所か。
甘い称賛で緩むことなく、かといって不自然にならない程度にあしらってみせた。
これがイグニだったらちょっとその気になってたかもしれない。
『そちらにいる方々はバイフーくんの配下達かね?』
『うむ、その通りだ』
『バイフー様の配下をしております。アマービレと申します』
『同じく、バイフー様の配下のライアンでぇ~す♡』
どうやらアマービレとライアンは、しっかりそれぞれの役を演じてくれているらしい。
まるで別人のような演技だ。
ライアンは某歌劇団のDVDを見まくって演技の勉強をしているみたいだし、アマービレは演技の才能があると思ってたから今回の役割に向いていると思ったんだ。
2人に続いて、私とトン吉も挨拶をする。
「**(名前)……、アイ……」
『ブヒッ、トン吉と言います』
『名前、アルファ。種族、オートマトン』
『この者達はどうも口数が少なくてな。会話も面倒だろうから、殆ど無視してもらって構わぬよ』
私が偽名を名乗って自己紹介をすれば、バイフーが私の言語の壁を隠す為にキツい言葉に見せかけたフォローの言葉を告げてくれる。
これで私が黙っていても、オークジェネラル達は何かしら疑問を持つことはないだろう。
オークジェネラルはバイフーの言葉を信じてくれたようで、大きな声で笑いながら頷いた。
『ハッハッハ、問題ありませんよ! 実は自分の娘も他の者との会話が苦手でしてね……。おい、バイフーくんに挨拶をしないか!』
『は、はい』
オークジェネラルの呼びかけに応じて現れたのは一匹の小柄なオークの少女だった。
厚めのレンズのメガネを付けたオークの少女は私達の目の前に現れると、ペコリと頭を下げた。
オークジェネラルはそんなオークの少女の肩を掴み、喋り始めた。
『自分の娘は率先してダンジョンの手伝いをしてくれる良い娘なんですが、どうも変わり者でして。ああでも、とても研究熱心な優秀な娘でもあるんですよ!』
『ほう、そうなのか』
『もしかすると自分の娘が君達に何か粗相をするかもしれませんが、何卒ご容赦ください。根は良い娘なんでね』
『……よろしくおねがいします』
オークジェネラルに頭を下げさせられたオークの少女は一言そう告げると、すぐに後ろへ控えてしまった。
オークジェネラルの言う通り、対面での対話はあまり得意じゃないんだろう。
そこでふとトン吉の方を見てみると、トン吉は何処かポーッとした表情でオークジェネラルとは全く別な方向を見ている事に気が付いた。
視線の先を伺って見てみると、そこにいるのは髪を整え、メガネの位置を直しているオークジェネラルの娘。
ライアンとアマービレも、オークジェネラルの娘に対するトン吉の視線に気が付いたようだ。
顔と声には出さず、後ろに立っている私とトン吉にだけ見えるように親指を立てた。
「……うちは恋愛禁止じゃないので、お好きにどうぞ」
『!?』
私が小声でそう囁やけば、トン吉が顔を真っ赤にさせてバッと此方の方を向いてた。
恋愛アレルギーだから恋愛ごとはそこまで得意じゃないけど、トン吉の恋路だったら全然応援する。
今回の事が穏便に済むようなら、2人の恋路をこっそり応援してあげよう。
『では、お客様方、奥の談話室までご案内致します』
堕天使の男性に案内され、私達はダンジョンの奥の方へと進んでいく。
この先に待っているのは一体何なんだろうか。
正直良い事ではないのは分かっている。
このダンジョンに隠された悪事。
果たして見つけられるものなのだろうか?




