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もっと別の呼び名なかったですかね?

 新入り魔物の自己紹介も半分終わり、自己紹介を残す新入り魔物は後5人。

 残っている魔物達も全員キャラが濃そうだ。

 次は誰が自己紹介してくれるのだろうか、と思っていると、蛸足の女性魔物がベリアルに話しかけた。


『ちょっとよろしくて?』

『おや、なんでしょうか?』

『何か大きな入れ物はないかしら? 陸でも長時間活動出来るけれど、そろそろ水に浸けないと肌が乾燥しちゃうわ』

『ああ、これは申し訳ありません。すぐ用意致します』


 2人の会話を聞いていて、私はしまったと思った。

 タコ足の女性魔物さんは明らかに水棲魔物だ。

 色んな事がいくつもありすぎてそこまで配慮が回らなかった。

 今までその事を言わなかったのは此方がてんやわんやしているのを見て気を使ってくれていたんだろう。

 ベリアルは召喚部屋の壁際に畳んで置かれていたビニールプール――今日召喚する魔物の為に<ネットショッピング>で手に入れた空気入れ不要の大きめプールだ――を部屋の中心まで運んで新入り達の見える前で広げ、魔法で水を入れ始める。

 私も<ネットショッピング>で追加の人工海水の素を注文し、タンザにそれを渡してプールの中に入れて混ぜてもらう。

ベリアルとタンザの作業を見ていると、タコ足の魔物が首を傾げて私に尋ねてきた。


『ねぇ、あの2人は何をしているのかしら?』

「**(海水)、****(作ってる)」

『か、かかか、海水を作る?! そ、そ、そんな事が出来るもんなの!?』

「**(はい)、**(あれ)、**(海水)、*(素)」

『本当だぁ、あの粉から海水の匂いがする~』

『アンタ、大人しそうな見た目してるのにとんでもない物を持ってるわネ……』


 なんかほぼ初対面にも関わらず物凄い呆れられてる気がする。

 理由も気持ちも理解は出来るけど、私が満足に過ごせるだけの衣食住を手に入れるとなると<ネットショッピング>の品々は大切なんです。

 召喚部屋を出たら人工海水の素やビニールプール以上のオーバーテクノロジー品があるからこの自己紹介と<契約(コントラクト)>をする間に慣れてほしい。


『あの見たことない素材で出来た器もあなたが用意したものですの?』

「**(はい)。そうですよ。えっと……」

『スキュラよ。わたしの種族は深海の指揮者と呼ばれる人魚の上位種、スキュラ。魔法のポーションの作成と水魔法、それに海の生物の指揮に長けているわ。ただ魔法で出しただけの水を出してきたら文句を言ってたけれど、ちゃんとそこら辺は考えているようね』

「タコは淡水駄目ですからね。そこは考えてます」

『真水を海水へと変える粉といい先程付けてた兜といい、あなた色々面白そうな物を持っているのね。わたし、高度な技術を持った財宝持ちの頭の良い子は好きよ』

「はぁ、どうも」


 淡い紫色の天然パーマを翻しながら私を見る蛸足の女性魔物、スキュラはそう言って笑った。

 アクアマリンの瞳には邪悪で、だけどギラギラと輝く強欲が見えている。

 マリアのあざとさを無くして、代わりに高飛車さを付けたような感じの魔物だ。

 これぐらい欲が分かりきっていると此方もやりやすい。

 唯一心配する面は過去のマリアと同じように他の魔物に自分の仕事を押し付ける可能性だけ。

 まあ、その時は第二回女の魅力対決をすればいいか。

 前よりも魔物の数が増えてきたし、審査員も希望制で募集してみようかな。

 そんな事を考えている間に、プールの用意が出来たようだ。

 ベリアルがスキュラに話しかけた。


『プールの準備が出来ました』

『あら、ありがとう。じゃあ早速浸からせて貰うわね』

『おれも入る~♪』

 

 ベリアルの言葉を聞くと、スキュラとスキュラの横でのほほんとプールの水が満たされるのを眺めていたタトゥーの男がプールの中へと入り、足を広げて寛ぎ始めた。

 プールに入る前は足を収縮させてたのか、大人4人が入っても足を広げられるくらい大きなビニールプールの8割がスキュラの蛸足で占領されている。

 タトゥーの男は広さに関しては特に気にしてないのか、楽しげに水中で足をバタつかせている。


『アッハハ、気持ち良いね~♪』

『そういえば、貴方はまだアイネス様に種族の説明をしていませんでしたね。今から自己紹介して頂いても?』

『おれ? おれはシーサーペント・リヴァイアだよ~。泳ぐ事と闇魔法と光魔法、それにちょっと特殊な魔法が得意だよ~。よろしくね~、ニンゲンちゃん♪』

「ニンゲンちゃん……」


 海のような青色の髪の男……シーサーペントは大きな口から蛇のように長い舌をチロチロと出して笑いながら私に手を振る。

 なるほど、シー(海)サーペント(蛇)だから身体にウミヘビのタトゥーがあるのか。

 ちょっと安直すぎやしないだろうか?

 イグニやマリアと同じく、人間のような姿はこのダンジョンに合わせた仮の姿なようだ。

 ネットにある情報だとシーサーペントって船を沈没させるくらい大きな魔物らしいし、もしも本来の姿で召喚されてたら一瞬で潰されてしまいそうだ。

 そういう配慮もあって仮の姿なんてものがあるんだろう。

 というか、ニンゲンちゃんって……。

 呼ぶにしても、もっと良い呼び名があったんじゃないだろうか?


 召喚した最強クラスの新入りで水棲魔物はこの2人だけのようだ。

 私自身が水中で長時間いられないから、そこまで多くないのはラッキーだった。

 シュノーケルや酸素ボンベを使っても、限度があるからね。

 さて、2人が水棲魔物なら、確認しなくてはいけない質問がある。

 私はスキュラとシーサーペントに近づいてその質問をぶつけてみた。


「因みに確認したいんですが、お二人は魚とか食べるの大丈夫ですか? あと熱い食べ物とか」


 水棲魔物というと、下半身がまんま魚だからね。

 このダンジョンでは<ネットショッピング>に売ってた魚や<おでかけ>を使って作った異空間の魚屋で手に入れた魚を料理に使う時がある。

 見た目こそ違うけど、半分は魚要素があるのだからそこは確認した方が良い。

 あと、海の生物は熱さに弱いし、それも確認しなくてはならない。

 そのためのこの質問だ。

 ベリアルが私の言葉を訳し、2人に質問すると、スキュラ達は答えた。


『食べるわよ。むしろ船旅している人間たちと遭遇しなかったら基本海中の魚や貝を食べるわ。それで物足りなかったら、近くにいる他の水棲魔物や人魚を食べるぐらいよ。あと熱い食べ物は食べた事がないから分からないわ』

『おれはなんでも食べられるよ~。魚も鳥も人間もパンも肉も人魚も~。あ、でも美味しかったら良いかなぁ』

「おぅ……」


 スキュラとシーサーペントの回答を聞いた私は、思わず変な声を出してしまった。

 大体分かってはいたけど、やっぱりなんでも食べられる(意味怖)系の魔物だったか。

 魚って共食いするケースがあるとは聞いていたけど、やっぱり直で聞くと変な声が出てしまう。

 あと可能なら、私の目の前で正直に人間食べますってどストレートに言うのは止めてくれません?


「さて、残る魔物は3人か」


 キャラの濃い最強クラス魔物の種族紹介もあと3人。

 残っている魔物達は『マタンゴ』と『エンシェントポイズンドラゴン』、それに『ゼン』と呼ばれたオネェさんだ。

 ベリアルは3人に対し、希望者を募った。 


『どなたが自己紹介を希望しますか?』

『え、え、えと、ぼくは後の方で……』

『わ、ワタシも後の方で……』

『じゃあアタシからするワ』

『あ、いや、その……』

『それは……ちょっと……』

『なにヨ。先に自己紹介をするのか後に自己紹介をするのか早く言いなさいヨ』


 『ゼン』のオネェさんは種族紹介にすぐ名乗りを上げてきたけど、他の2人は他の魔物の視線も気にしてか、最初に種族紹介をするのも最後に種族紹介をするのも嫌なようだ。

 控えめながらに真ん中にしてくれと自己主張している。

 同じ性質の持ち主としてどうにかその主張を聞き入れてあげたいけど、残り3人だから必ずどっちかが最初か最後になってしまう。

 どうしようか、とこの場の解決策を考えているとエンシェントポイズンドラゴンとマタンゴの煮え切らない様子が煩わしくなったのか、ベリアルが2人に向かって爽やかな笑顔を向け、優しい口調で言った。


『10秒以内に種族の説明をしなかった方はこのダンジョンの魔物達全員の見ている前で種族の紹介を――――』

『え、え、エンシェントポイズンドラゴン!! 得意なことは毒を放出すること! 毒は自在に特性を変えられるよ!』

『ま、マタンゴです! 相手を状態異常にさせる胞子を出す事が出来ます! あと、あと……基本何でも食べられます!!』

『よろしい』


 流石は悪魔公爵という肩書を持つベリアル。

 新入り達の性格を瞬時に理解して精神的に崖っぷちまで追い込んだ。

 この場で10数名の魔物達の前で自己紹介するのと、100人以上いる魔物達の前で自己紹介するのじゃ心に掛かるプレッシャーが違うからね。

 私が同じ立場だったとしても、後者を選ぶくらいなら我先に自己紹介する。

 ベリアル、容赦ないなぁ。


 さっさと自己紹介を終えてしまったエンシェントポイズンドラゴンとマタンゴに『ゼン』のオネェさんは頬に手を付けてため息をついた。


『結局アタシが最後なのネ』

『すみません、あれが手っ取り早いと思いまして』

『まあ、良いワ。確かにあの子達はそうでもしないと立ち止まったままだったデショウし』


 『ゼン』のオネェさんは悪びれる様子もないベリアルをジト目で見つめ、諦めたのか特に文句を言うことはなかった。

 半鳥半人のオネェさんは私の方に視線を向けると、赤橙色の口紅の付けられた艶やかな唇をふわりと弧を描いて見せた。


『ダンジョンマスター、アタシの種族はゼン。さっきそこのパペットマスターが呼んでたけど、毒妃鳥とも呼ばれているワ。体内に猛毒を持っていて、空を飛べば真下の作物は枯れ、口づけをすれば一晩で、爪先が身体に掠れば苦しみながらゆっくりと、羽根を1枚でも酒に漬ければどれだけ毒耐性がある奴でも死に至る。そしてその血はこの世に存在する毒を完璧に解毒する力を持つ……と人間たちの中では語られてるわネ。とは言っても、その噂に出てくるゼンは己の毒を抑えられないまだ幼鳥の事で、体内の毒を完璧にコントロール出来るアタシとは違うから安心しなさい』


 体内に猛毒を持った鳥の魔物。

 なんか中国か何処かでそんな伝説を持った鳥がいたって話を本で見たことがある気がする。

 確かその鳥の名前は(ちん)という名前だった気がする。

 もしかすると、ゼンはその鴆と同じ種族なのかもしれない。

 取り敢えず、毒を抑える事が出来ないという事がなくて良かった。

 <契約(コントラクト)>を結んだら他の魔物達と一緒に食事や風呂も入る事になるだろうし、初日から魔物が大量毒殺、なんて事を心配したくはない。

 私はゼンに一礼した。


「よろしくおねがいします。……あの、因みに性別は」

『性別のことは聞かれても答えないわヨ』

「あ、はい」


 おかしいなぁ。

 私の言葉は通訳されてないはずなのに質問の内容を理解されている。 

 オネェさんの察し力って凄いなぁ。

 そういう事にしておこう。


 これで11人全員の種族の紹介を聞いた。

 なんとなく質問を投げかけたりして全員の言動を観察してみたけど、どれもこれという確信が持てない。

 いや、見た目がすっごい怪しい魔物とかいるけど、流石に見た目だけで判断するのはいけないだろう。

 11人の中の1人が異次元の魔物が用意した魔物。

 下手に<契約(コントラクト)>を結べば私やベリアル達の危機に繋がるかもしれない。

 私が今後の事を考えていると、タンザとゴブ郎が話しかけてきた。


『アイネス殿、これで全員の種族が分かっただろう。()()()()()()?』

「ぎゃーう!」

「そうですね……」


 ゴブ郎が何を言っているかは分からないけど、タンザの言葉の意味は分かる。

 これは、『誰が11体目なのだ?』という事だろう。

 異次元の魔物っていっても、最強クラスの魔物であるベリアルとタンザが力を合わせれば倒す事が出来るだろう。

 <隠蔽>で姿を隠せば私に危険は及ぶ事はない。

 それを踏まえ考えた後、私は11人の魔物達の方を向いた。


「……よし、決めました」


 私がそう呟けば、ベリアルとタンザが身を引き締めていた。

 それを見た11人の魔物達も、漸く<契約(コントラクト)>をするのかと私の様子を伺っている。

 私は静かにセラフィムを指差し、そして言った。


「『ラファエレ』」


 私が名前を付けた事で、最上位の天使との<契約(コントラクト)>が結ばれたのを感じた。

 セラフィム……ラファエレは何処か嬉しそうに笑みを浮かべた。

 そのまま、私は<契約(コントラクト)>を結んでいく。


「『アシュラ』」


 黒く勇ましい鬼人と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『バイフー』」


 白く、気高い意志を持つ聖獣と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『オメア』」


 深海の華のようなオクトピットの指揮者と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『ヨツキ』」


 状態異常を引き起こす胞子を蔓延させるキノコ少女と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『ルークス』」


 大海を自由気ままに泳ぐ海蛇と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『ゼノビア』」


 死の予言者たる騎士と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『カシャフ』」


 毒を司る古代竜の一種族と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『アルファ』」


 無情の機械人形と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『カザリ』」


 猛毒を抱く妃と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


「『テアトロ』」


 人形の器を持つ死霊と<契約(コントラクト)>が結ばれる。


 <契約(コントラクト)>が結ばれると、11人の魔物達もそれを感じ取ったようで満足げに頷いた。

 何か問いただしたそうにしているベリアルとタンザをチラッと見ながら、私は一つ柏手を打った。


「<契約(コントラクト)>も結び終えた事ですし、早速ダンジョン内がどうなっているかを見てもらいましょうか。タンザさん、お願いしても良いですか?」

『あ、ああ、分かった。スキュラ……いや、オメア殿に、暫く歩く事になるが大丈夫か? 必要なら人化の魔法を施した腕輪も渡すが……』

『ええ、構わないわよ。別に死ぬわけじゃないしね』


 タンザに問いかけられたオメアはそれに了承し、海水プールの中から出た。

 

「ベリアルさん、片付けを手伝ってもらっても良いですか?」

『はい、かしこまりました』

『ん? アイネスの嬢ちゃんは一緒に来ねぇのか?』

「私はこれから今日召喚した魔物さん達のステータスを確認したら、そのままシシリーさん達の料理の手伝いに向かおうと思ってますので。あ、アルファさん、タンザさんの、**(案内)、**(従う)」

『御意』


 オートマトンことアルファにタンザの案内についていくように伝え、召喚部屋から出ていく11人の魔物達を見送った。

 そして、残されたのは私とベリアルとゴブ郎だけとなった。

 ベリアルは私の様子を伺うように尋ねてきた。


『よろしかったのですか?』

「ぎゃう?」

「何に対する質問かの意味を聞いても良いですか?」

『11体目の魔物のことです。あの召喚方法で召喚されるべき本来の魔物の数は10体。11体ではありません。11体目の魔物が現れる可能性があるとするなら、アイネス様をこの世界へと転移させた女神か、先日アイネス様の持つ<アイテムボックス>に干渉し、攫おうとした存在が送った不届き者でしょう。全員と<契約(コントラクト)>を結ばず、この場でその魔物を滅した方がよろしかったのではないのでしょうか?』

「まあ、確かにそう思うでしょうね。実際私もそうしようかと悩んでいた所ですし」

『では、そうしなかった理由を聞いても?』


 ベリアルが私を射抜くように視線をぶつけてくる。

 確かにこの場における一番簡単な解決方法は11体目の魔物を見つけて排除する事。

 それが今後の展開を穏便に済ます最大の方法だと思う。

 だけど、それをしなかったのには理由があった。


「まず一つ目の理由。あの紹介だけでは『11体目』が誰か分かりませんでした。運試しで怪しい魔物を排除したり外に追放したりするのは余りにもリスキー過ぎます。11人中たった一人に疑いを掛けたり自分たちの目に見えない所に追いやるよりも、自分たちの目に届く場所でその動向を見ている方が安全でしょう」

『なるほど、他の理由は?』

「ベリアルさん達のプライドを傷つけるような事を言いますけど、それでも良いですか?」

『ええ、どうぞ』

「ベリアルさんとタンザさんだけでは、その『11人目』には勝てないと考えたからです。いえ、恐らく今このダンジョンの中にいる魔物全員が『11人目』と立ち向かっても、勝つ事は難しいでしょう」


 私がそう言えば、ベリアルは目を丸くして何処かショックを受けた表情を浮かべた。

 まあ、そりゃあそうだろうな。

 ベリアルさんもタンザさんも、自分の力は魔物達の中でも強大だという自信があるだろうし、ダンジョンマスターとはいえ人間の娘にそんな偉そうな事を言われたらかなりムカつくだろう。


「勘違いしないでほしいですが、別にベリアルさん達が弱いって言ってる訳じゃないです。ただ、今の段階ではあまりに情報が無さすぎるし、恐らく相性が悪すぎます」

『相性が悪い、ですか』

「ベリアルさんも分かるでしょう? 勝てると思っている相手でもその場の状況や情報力、そして戦い方によっては最強の魔物でも負ける可能性があるってこと」

『……ええ、ゴブローさんにその事を身体で教えつけられましたから』

「女神の送った魔物はまあ置いておいて、<アイテムボックス>に干渉してきた存在は恐らく空間や時間とか、そういう時空間系を操作するスキルを持っているでしょう」

『はい、私もアイネス様達からその話を聞いてそうだと考えました』

「では、ここで<転移>スキル持ちのカランセくんを11体目と見立てて考えてみましょう。もしもカランセくんのスキルについて知らないベリアルさんがスキルや魔法を使う前にカランセくんに自分の首だけを転移させられて、そのまま解除されたとしたら……どっちが死ぬと思いますか?」

「ぎゃぎゃっ?!」

『……』

「もしくは、私を『11人目』として見立てても良いでしょうね。当たり判定すらも隠蔽出来て、その気になれば誰の首の根もナイフで掻き放題の私と、その事を知らないベリアルさん。どっちが有利だと思いますか?」

『……なるほど、確かに此方に相手の情報が殆どないあの状況下で戦うのは私やタンザであっても危険でしたね』

「そういう事です」


 空間に干渉出来るということは、私やベリアルさんのいる空間に干渉してそのまま身体をねじ切る事も可能である可能性があるということ。

 確かにベリアルさん達は強い。殆ど一撃で戦闘を終わらせてしまうことが出来るし、相性の悪い相手だろうと勝てるポテンシャルがある。

 だけど、それとこれとは話が別なのだ。

 私の<隠蔽>やカランセの<転移>、そして『11人目』の持つ空間やスキルに干渉出来る力は、使い方次第では一撃必中必殺のチート技になる。

 ただただ強いベリアルさん達と、チートのようなスキルを持つ私やカランセ達とは文字通り次元が違いすぎる。

 少なくとも、情報もなしにあの中の誰かに攻撃を仕掛けていたら、当たってようが外れてようが『11人目』に瞬時に殺されていただろう。

 だから私は、この場における犯人探しを止めた。

 最悪、ダンジョンにいる皆全滅も有り得たから。


「だから此処は無闇に行動して相手が動く切っ掛けを作ってしまうより、騙された振りをして全員と<契約(コントラクト)>を結んで、生活中の様子を見て犯人を探して交渉する方が安全策だと考えました。ベリアルさん達の意見も聞かず、すみません」

『いえ、あの場での話し合いは11体目の魔物に警戒を持たせる可能性があったでしょうし、私やタンザでしたら強者たる慢心から攻撃を試みていた可能性があります。なので独断で動いたアイネス様の選択は間違えていなかったかと』

「まあ、色々あっちが動きにくくなるように対策は立てるつもりですよ。ただこの問題を放置することはないですから安心してください」

『はい、分かっております』


 ベリアルにはどうにか納得してもらえたようで、様子見するという私の決定に従ってくれるようだ。

 正直、ベリアルに納得してもらうのが一番の難所だったから良かった。

 私は大きく息を吐くと、今回手に入れた魔物達のステータスを表示させる。


「じゃ、取り敢えずプールを片付けつつステータスの確認とか終わらせちゃいましょうか。もう少しで夕食の用意もありますし」

「ぎゃう!」

『かしこまりました』


 そうして、私とベリアルとゴブ郎は今回の召喚した後の処理を始めた。

 11人目の魔物に癖の強い魔物達。

 一体どうなることやら。



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[一言]  ウミヘビさんはリヴァイアサン、ではないんです? ちょっと強いけど、真(笑)リヴァイアサン程じゃない、感じのモンスターなんでしょうか?  ゴブ郎のスキルがあれば、ネタ系バトルならその謎の相…
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