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中の掃除はちゃんとしよう

 ミノタウロス達との<契約(コントラクト)>はかなりスムーズに完了した。

 皆ダンジョンへのお引越しにはかなり好反応で、念の為<契約(コントラクト)>前に仕事の見学をさせて説明したみた所『面白そうだべ~』『戦闘より此方の方が楽そかぁ』と言っていた。

 仕事の様子を見ても特に反論を述べる人がいなかったので、そのまま<契約(コントラクト)>を結んだ。

 因みにミノタウロスの代表として面接に行った男女のミノタウロスにはそれぞれ男性ミノタウロスには『セダム』、女性ミノタウロスには『オリーブ』という名前を付けた。

 どっちも自分の名前を気に入った様子だった。

 また新しい魔物を召喚するつもりなので本格的な研修は新しい仲間を呼んだ後。

 ひとまずとして、ミノタウロス達には数日間雑用系の仕事と此処での生活の仕方、あと詐欺対策のレクチャーを受けてもらう事になった。

 彼らの気のいい性格は美徳でもあるけど、同時に卑怯で狡賢い人間や魔物に付け狙われる原因となり得るからね。

 因みに私は<契約(コントラクト)>を済ませた後、ミルフィーさんとディオーソスさんに詐欺契約とミノタウロス達の持っていた契約書に記されていたダンジョンマスターについて手紙を出して尋ねてみた。

 そしてその30分後には二人の返答の手紙が届いた。

 内容は多少違えど、要点はどちらも同じ。


『丁度暇を持て余していた所だったしその話に興味がある。調べがついたらそちらのダンジョンに向かう』


 である。

 一つの種族が危うくピンチになっていたのにそれの解決を暇つぶしとは、二人の他人事って様子と余裕綽々感が感じられる。

 まあ、別にそのダンジョンマスターの被害に遭った訳でもない二人からしたら新入りダンジョンマスターのダンジョン近くで起きた自分の配下でもない野生の魔物がどうなろうと彼らにとっては他人事だろうし、私がこうして相談に来なかったら何の興味もないだろうね。

 だけど二人は興味を示してくれたらしく、ちゃんと協力もしてもらえるらしい。

 これで万が一の時の後ろ盾が出来た。

 もしも契約書を書いたダンジョンマスターが絡んできたとしても調停役になってくれるだろう。

 ミルフィーさん達が来るのにも、ミノタウロス達がこの生活に慣れるのにも、少々時間が必要だ。

 その間に私は、一つ小さな雑務をこなそうと思う。


「……」

「……アイネズゥ」

「あ、セダムさん。休憩ですか?」


 運動場の片隅でバリトンとジャスパーとともにその作業に励んでいると、休憩に入ったらしいセダムが此方にやって来た。

 セダムは私達のしている事を見て、きょとんと目を丸くしている。


「**(何)*****?」

「釣りですね。<アイテムボックス>の中身釣り」

「***」

「セダム****?」

「*、***……」


 私の持つスキル、<アイテムボックス LV1.1>には他の<アイテムボックス>と違う点がある。

 それはずばり、このプロトタイプ<アイテムボックス>には更新前に他の人が入れた物も入っているということ。

 なので下手に<アイテムボックス>から物を取り出すと、時々他の物まで一緒に出てきてしまうのだ。

 しかもその中には、誰かが入れた生き物も生きた状態のまま入っていたりもする。

 頑丈な袋や箱で仕舞っておけば大丈夫だけど、食べ物系を<アイテムボックス>に入れると中の生物たちに食い荒らされてたりもする。

 ワンコパスの口に突っ込んだ残りの菓子パンも先程確認したら無残な状態で食い荒らされていた。

 中に生肉とかも入っているはずなのに真っ先に狙われたよ。

 こういう事もあるので、時折<アイテムボックス>の中から更新前の<アイテムボックス>所有者が入れた物を取り出して整理する必要がある。


 ただ取り出すにしても、<アイテムボックス>に直接手を入れて取り出すのは少々恐ろしい。

 最初の試用した時に一緒に出てきたのは害のない昆虫だったけど、もしかすると中には猛獣なんかも入っているかもしれない。

 そういった安全面を考慮して考え出したのがこの<アイテムボックス>の中身釣りだ。

 一見すると何もない空間に浮かんだ穴に釣り竿の糸を垂らしているという少し間抜けな状態だけど、これが一番効率良くて安全なのだ。


「どんなのが出てきた時も対処出来るよう、ジャスパーさんとバリトンさんについてもらっているってわけです」

「***(獲った)***********?」

「**(全部)ター****(パイセン)***(保管)***」

「更新前に入れられた物というとかなり前の時代の物もあるらしいですからね。今の時代には絶滅してしまった生物や採取出来なくなった鉱物なんかも出てくる事があって、それを見たタンザさんが「研究ついでに保管を任せて欲しい」って言ったんですよね」


 <オペレーター>の話を聞いた所、<アイテムボックス>が更新されたのは此方の世界で演算したところによるとはるか数千年……いや、数万年の事らしい。

 あのクズ女神の杜撰な管理能力でそこまで管理出来るのか謎だったけど、どうも住民達の住まう世界滅亡と創造神が創造した世界が完全に壊れるというのはイコールになっていないらしい。

 世界が滅亡したら創造した世界の設定をリセットしてまた一から作り直すだけ。

 ゲームに保存されたセーブデータが壊れようが、また新しいセーブデータを作って構成するだけということだ。

 住民の扱いが粗末過ぎる。

 あと、自分で尋ねておいて申し訳ないけど、それは聞いて良かった情報なのだろうか。

 そう思って、その話を聞いた後に<オペレーター>に尋ねてみたのだ。


「この情報、私みたいな異世界転移者に教えていい事なんですか? どう考えても創造神達の闇みたいですけど」

『回答。その質問に対する回答制限は存在しておりません』

「神様……」


 私は、何も聞いてない事にした。

 この質問した事自体なかったことにしてもらうよう、<オペレーター>にも頼んでおいた。

 取り敢えず言わせて欲しいのは「神様ちゃんと情報規制しておけよ」という言葉のみだ。

 まあそういう訳で、プロトタイプ<アイテムボックス>に入っている物の殆どが今の時代にはかなり貴重な物らしい。

 最初の試用で一緒に外に出てきてしまったフルーティーバタフライをどうしようか迷っていたらタンザがフルーティーバタフライを見て猛烈に頼み込んできたのだ。

 普段の大人っぽい様子からは考えられない程の熱烈な頼み込みに軽く引きつつも、取り敢えずタンザならきちんと保管してくれるだろうと考えたので<アイテムボックス>から出てきた生物や物の管理を頼んだ。

 余程丁寧に管理されているのか、最初に取り出したフルーティーバタフライも元気に生きているそうだ。

 というか、このメンツで通訳なしのままはかなりキツいな。

 <オペレーター>に通訳を頼んでおこう。


「網を使って漁業よろしく他の生物を取り出すこともあるんですけど、それだと小さくて細かい物とかは破損しそうなんですよね。だから基本釣りで物を回収していってます」

『試しにチャレンジしてみるとめっちゃハマるぞ。マジで色んな物が取れるんだわ』

『はえぇ、そんな細長い棒と紐でほんと“に物が取れんだべか?』

『マジだマジ! アイぴっぴの用意した道具と餌の凄さ舐めんなよ!』

「道具と餌って言ってもただ<ネットショッピング>で注文した釣り竿とパンの欠片なんですけどね」


 これは<鑑定>を使ってみた結果分かった事なのだけど、<ネットショッピング>で注文した釣り道具は中々のバグ効果持ちだった。

 その時の結果が以下の通り。


【名前】アブカルベア クロスワールド

【用途】釣り

【状態】新品。不壊属性。

【備考】どんな場所の獲物でも釣り上げ可能な汎用性の高い異世界の釣り竿。この釣り竿を使えば素人でも必ず何かを釣り上げられるようだよ!これで君も今日からフィッシングマスター!(๑•̀ㅂ•́)و✧


 普通釣り竿で取る獲物というと魚をイメージするけれど、この鑑定結果には“必ず何かを釣り上げられる”と記されているだけで、“必ず魚を釣り上げられる”とは記されていない。

 その説明が気になり、試しに<アイテムボックス>の中に釣り針の先を入れて数分立ってから引き上げてみた。

 そしたら、釣り針の先にはどうやって引っ掛かっているのか分からない虹色の鉱石があった。

 その後何度か試し釣りしてみて分かったけど、この釣り竿は何かあれば本当になんでも釣り上げられる。

 生きた魚は勿論、解体済みのお肉や宝石、服や絵画までなんでも釣り上げられるのだ。

 流石に釣り上げようとしている人の持つ腕力より力のある動物や重い物は持ち上げられないようだけど、それ以外ならなんでも釣り上げられる。

 まるで四角いワールドで掘ったり作成したりするゲームにある釣り竿のようだ。

 あれも魚以外の物が色々釣り上げられるよね。


 そういう訳で、力持ちのバリトンと戦闘能力のあるジャスパーに声を掛けて定期的に<アイテムボックス>内の掃除……もとい釣りを行っている。

 此処での生活が慣れてきたらミノタウロス達の誰かに頼もうと思ったけど、まさか此処で誘う事になるとは。


「生き物を釣りたい場合、餌は此方にあるパンや菓子などをちぎって針どうぞ」

『アイぴっぴが、生き物釣りたいなら此方の食べもん千切って針に刺して入れろって言ってんよ!』

『ん~、だども、オイラが使って壊れねぇだがねぇ?』

「不壊属性らしいので、セダムさん達の腕力でも壊れないはずですよ」

『この道具、メッチャ頑丈だからノープロだってよ!』

『のぉぷろ?』

『……使っても問題ないそうだ』

『おお、んじゃオイラもいっけぇやってみたいべ!』


 釣り上げた生肉をパックに仕舞っているバリトンの若者言葉に首を傾げるセダムに、ジャスパーが渋々追加の説明を行う。

 ジャスパーって周囲にツンケンしているように見えて、案外新入りや子供には面倒見良いよね。

 口にしたら眉間の皺が深くなるから言わないけど。


 そうして、セダムを追加しての<アイテムボックス>釣りは再開された。

 怪力二人がいるお陰で私じゃ釣り上げられない大きな生肉や骨董品や家具なんかも釣り上げられるから、<アイテムボックス>の中身の片付けがどんどん行われていく。

 回収力が変わらない、ただ二人の魔物………なんかどっかで聞いたことがあるな?


『こら、面白いべさぁ。オイラたち、こんな便利なもん初めて使っただぁ』

『お、セダムん釣り歴ゼロだったん?』

『オイラ達はこんな頭は良ぐねぇからなぁ。基本魚を獲る時は手づかみか、こう魚のいる水面をバッシャーンってやって獲るべさぁ』

「それ熊が魚獲る時の動きじゃないですか」

『フォレストベアか何かか?』

『オイラはミノタウロスだべ』

『いや知ってる』


 ミノタウロス達の魚の取り方がワイルドだった。

 朗らかそうに笑ってるけど、片手で再現した時物凄い風が反対側にいる私まで届いていた。

 ミノタウロスの腕力半端ない。


 釣りを再開して数十分が経過すると、わたし達の周りにはかなりの量の収穫品が山のように並んでいた。

 今回の釣りは此処までにした方が良いかな。

 セダムとバリトンがいるとはいえ、あまり大荷物を運ばせるのはかなりの苦労だろう。

 私は釣りを行っている3人に声を掛けた。


「結構な量の物が回収出来ましたし、釣りはこのくらいにしましょうか。流石に一遍に物を持ち込まれてもタンザさんも対応しきれないでしょうし」

『お、もう終わりにする系?』

『あっという間だったべ~』

『おい、この家具や壺などはどうするんだ?』

「家具や壺は<鑑定>で価値を確認した後、倉庫の方に持っていってしまいましょう。それでテオドールさんの方にでも交渉しようと思います。生き物系や鉱物系は全部タンザさんの方に渡します。肉とかは、まあ<鑑定>してから調理班と応相談ですね」


 更新前の<アイテムボックス>所有者は私と同じ異世界転移者か転生者。

 もしかすると生肉の中にオークの肉とかドラゴンの肉とか混ざっている可能性がある。

 それを食卓に出してしまえばイグニとトン吉がどんな表情を浮かべるか自明の理だ。

 そんな事は流石に出来ないので、<鑑定>で調べて、そういった物がないか確認してからの方が良い。

 

「バリトンさん、セダムさん、重い物を倉庫に運ぶのを頼んでも良いですか? 運送用のカートも用意しますので」

「アイネ“ズはなんて言ってるんだべ?」

『倉庫に重いもんを持ってけってさ。持ってくのがマジ楽ちんになるカートもレディるってよ!』

『レディる?』

『用意する、だ。バリトン、変な言葉を使って混乱させるな』

『へへっ、サーセン!』


 首を傾げるセダムに追加の説明をし、ジャスパーは淡々と釣り竿を片付ける。

 なるほどこれがツンデレってやつか。

 そう思ったけど、口に出したら色々言われるので何も言わないでおこう。


 セダムもバリトンも釣り竿を引き上げて片付け始めている。

 私も釣り竿を片付けて<鑑定>と荷物運びを手伝った方が良いだろう。

 そう思い、私は自分の手に持っている釣り竿を上に引き上げ、針を回収しようとした。



 その瞬間、釣り竿の先が物凄い力で引っ張られた。

 持っていた釣り竿が勢いよく引っ張られた事で、私の身体はアイテムボックスの穴近くに引き寄せられる。


「うおっ!?!」

『っ!!』

『だべ!?』

『アイぴっぴ!?』


 私は突然のことに反応が出来なかったけれど、一番近くにいたジャスパーが真っ先に反応して、私の脇の下に両手を通して私の身体を抑えようとする。

 しかし私を引きずり込もうとする力の方が強く、ジャスパーごと<アイテムボックス>の中に続く穴へと引き込まれる。

 それを見てバリトンがジャスパーの胴体を抱え、バリトンの胴体をセダムが抱える。

 そこでなんとか均衡状態にはなったけれど、セダムがどんどん<アイテムボックス>の穴の方へと引き摺られている音が聞こえた。


『な、なんて力だべ!』

『おいおいおいおい! ドゥーなってるよこれ! こんな事初めて起きたんだけど!?』

『おい、アイネス! 早く釣り竿を離せ!』

「さっきからやっているんですが、離れないんですよ!」


 私は慌てて釣り竿を離そうとしたけど、何かに抑えられて手を開けて釣り竿を離す事が出来ない。

 <アイテムボックス>も閉じる事が出来ない。

 何かの状態異常か?

 私は自分の目を凝らして、自分の手元と<アイテムボックス>を見る。

 そうして、ようやく確認する事が出来た。


 それは、触手だった。

 だけどタコの触手でもイカの触手でもない。

 黒より黒く、あまりにも淀んだ邪悪な色。

 ヌメッとした感触をしていて、だけど何処かザラッとしている。

 微かに海の潮の香りと、生肉が腐ったような匂いが漂う。

 そんな名状しがたい触手のような物が<アイテムボックス>の穴の中から何本も出てきて、釣り竿ごと私の手に絡んでいたのだ。

 その時、<オペレーター>が警告音を鳴らして告げる。

 

『警告。別次元の何者かが干渉を行っています。<アイテムボックス>の中にいた生物による物ではありません』

「<オペレーター>さん、それは魔物ですか?! 人間ですか?!どっち寄りですか!?」

『回答。どちらでもありません。しかし分類は魔物に寄っています』


 見て分かってはいたけど、どうやら人間の物じゃないらしい。

 だけど魔物寄りなら話は早い。

 私は後ろを向いてバリトン達に話しかける。


「セダムさん、バリトンさん、頑張って後数歩後ろへ下がれますか?!」

『う、後ろ!? でも、これ以上力入れたらジャスジャスとアイぴっぴの腕が千切れるんじゃ……』

「良いから早く!!」

『オレは良い! さっさとやれ!』

『くっそ……! セダムん、マジで力込めて後ろ下がれ!! 俺も本気を出す!』

『わ、分かったべ!』


 一瞬躊躇を見せたけれども、バリトンはセダムにも私の命令を伝えた。

 そして二人は後ろ方向へ向けて腕と足に力を込める。

 そのまま、ゆっくりと後退を始める。

 

 怪力二人の本気は凄まじいもので、触手の力に負けぬ力で一歩ずつ後退する。

 両方向から掛かる力によって私の腕が引きちぎれそうなぐらい痛いけど、確かに<アイテムボックス>から後退していった。


「いっ……!」


 腕に掛かる痛みに耐えかね、私が声を上げると、触手の力が少し弱まったような気がした。

 なるほど、私の腕が引きちぎれるような事は避けたいようだ。

 しかし、これは好都合だ。

 私は<隠蔽>を使い、自分の耳だけを認識出来ないようにさせる。

 逆耳なし芳一だ。


「バリトンさん、ここで<咆哮>!!」

『ほ、<咆哮>!!!!』


 バリトンが<咆哮>を放った瞬間、その場にいる全員の動きが止まる。

 そして同時に触手が一瞬だけ怯んだのを感じた。

 その隙を狙い、私は触手を振り払うように釣り竿を離す。

 すると私はジャスパーさん達のいる方向へと吹っ飛び、釣り竿はそのまま触手に呑まれて<アイテムボックス>の中へと入っていった。

 私はすぐに<アイテムボックス>の穴を閉ざす。

 完全に<アイテムボックス>が閉まる直前、私は舌を出して<アイテムボックス>に向かって告げた。


「誘拐はもう懲り懲りなんですよ。来るならもっとフレンドリーにお越しください」


 そのまま<アイテムボックス>の穴は完全に塞がれた。

 それ以上の攻撃などは何もない。

 もう無事だ、と分かった所で私達は深く安堵の息をついた。

 <隠蔽>を解除し、私は言葉を零した。


「あ、危な、かったですね……」

『ひやひやしたべぇ~』

『アイぴっぴ、あれマジで何だったん!? <アイテムボックス>に棲まう魔物かなんか!?』

「いえ、<アイテムボックス>にいる魔物とは、全く別だと<オペレーター>さんが言ってました」

『アンタは、本当に、面倒事に巻き込まれるな……』

「認めたくないですけど、同意するしかないですね」


 あれだけ強い力で絡まれていたから、跡か何か残っていないだろうかと両手を確認してみると、触手に絡まれたような青あざはどこにもなかった。

 それどころか、マーキングの類なんかも見られない。

 あれは一体何だったんだろうか?

 嫌がらせ?

 とにかくこれは、他の魔物達にも共有した方が良いだろう。

 ああ、またベリアル達の過保護が加速することになる……。

 

 私は大きなため息をついた後、今の自分の状況を確認し、ジャスパーに話しかける。


「ジャスパーさん……」

『……なんだ』

「そろそろ、胸から手をどかしてくれないですか? さっきはありがたかったですけど」

『っっ!?!』


 私がそう言えば、ジャスパーは慌てて私の胸に置いていた手をどかした。

 私が後方に吹っ飛ばされた瞬間、私が転がっていかないように抱え方を変えて受け止めてくれたんだろう。

 脇の下に通して羽交い締めのようになっていた両手は、私の胸下部に回されていた。

 その姿をちゃんと捉えていたバリトンとセダムがにまにまとジャスパーを見ている。


『ジャスジャス、むっつりじゃーん♪』

『むっつりだべな~』

『……殺す!!』


 二人の生温い視線とニマニマした笑み、そしてムッツリ呼ばわりされた事に腹立ったんだろう。

 ジャスパーが毛を逆立ててナイフを構えた。

 マジギレするジャスパーの姿に、バリトンはギョッと目を見張る。


『ヤッベ! セダムん、とりま逃げるぞ!』

『逃げるんだべか? 分かったべさ~』


 そうして、ジャスパーとバリトンとセダムの追いかけっこが始まった。

 ナイフを片手に追いかけるジャスパーと、それから笑いながら逃げるバリトンとセダムの様子を横目に見ながら、私は自分の両手を見た。


 先程の触手の正体は分からない。

 しかし、あれは別に本気を出した様子ではなかった事は分かった。

 あの触手の持ち主は、その気になれば私だけを切り離して引きずり込む事は可能だったはずだ。

 だけど、敢えて手加減をした。

 恐らく、私達の反応を楽しむ為に。

 

「これは、出来るだけ早く魔物の増員した方が良いかもしれませんね……」


 私の呟きは、バリトン達の騒ぎ声に掻き消された。



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― 新着の感想 ―
[一言] ちょwアブガルシアのクロスフィールドwww 確かに万能ロッドでお手頃で初心者向けのなんでも狙えるやつだけど 不壊能力現実にあったら折ることもなかったなぁ…
[一言] うっそだろ……無貌の触手じゃにぃか……(白目)
[一言] こんな邪神?に侵入されてるのに無反応なんてこの世界の創造神はやっぱり権限を取り上げられるべきだろうな。後、あんまり見なくなったけど件の創造神に邪神?出現の報告は行くのだろうか?
感想一覧
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