ある意味ゴブ郎の知人らしいよね
読者の方から意見があったため、一部話の修正を行いました!
大幅にストーリーを修正したため混乱するかもしれませんが、もう一度159話から読み直してくれると有り難いです!
ベリアル達に課せられていた一週間ダンジョンで寝泊まりする罰が終了した。
結局、一週間の間毎日色んな魔物達がお泊りしてきたよ。
途中でマサムネとサバトラがジャスパーとお酒片手に押し寄せようとした時は流石に追い出したよ。
流石に酔っ払いの男性と同じ寝室で寝る精神力はない。あと既に酒臭かった。
そして罰が終わった日の翌朝、ゴブ郎とフクさん達がゴブ郎の知人である魔物達を連れてダンジョンに帰ってきた。
「ゴブ郎、おかえりなさい」
「ぎゃうーっ♪」
「フクさんとテナーさんとファインさんもおかえりなさい。問題はなかったですか?」
「ハイ、モンダイ、ナカッタ」
「ヨユ~、ヨユ~!」
ゴブ郎と再会のハイタッチを交わし、私はフクさん達に挨拶をして4人の帰還を出迎える。
4人が怪我や病気を負っている様子はない。
外出中に危険な輩と遭遇したり感染病が感染ったりなんて事はなかったようだ。
4人に出迎えの挨拶をした後、私は彼らの後ろにいる魔物達に目を向けた。
ある程度広くしていた転移魔法陣の部屋が満員状態になるほどの大きな体躯を持つ彼らは低い天井に頭をぶつけないようにしながら私の方を見ている。
そんな彼らを見ながら、私はポツリと言葉を零した。
「想像以上にデカイですね」
「エエ、ナニセアノ、“ミノタウロス”、ダカラ」
ミノタウロス。
漢字にすれば牛頭鬼となる、牛の頭を人の身体を持つ魔物。
主に石斧などを武器にして、見える物を全て薙ぎ倒さんばかりに大暴れする獰猛で攻撃性の高い魔物。
冒険者達の中でもかなり脅威に見られる魔物の一種族。
そう、タンザから教わったはずなんだけれど……
「************アイネ“ス****?」
「****、******」
「見た感じ、めちゃくちゃ穏やかですね。それに、写真でも思いましたが半数以上が私の知るミノタウロスってよりも獣人に近い感じです」
ゴブ郎達が連れてきたミノタウロスは、半数がゲームで見るようなほぼ牛の厳つい姿ではなく、牛3割、人7割といった魔物っていうよりは獣人に近いタイプだった。
頭に牛の角と耳、足は牛の足で尻には牛の尻尾、男性の方は腕や顎がかなり毛深い。
だけどそれ以外は筋肉ムキムキの人間そのものだ。顔も牛の顔じゃなくて人間の顔だし、別に胸が4つあるという感じではない。胸は爆乳だけど。
一応数人は私がイメージしたようなゲーム等に出てくる牛8割、人間2割のミノタウロスもいるけど、その人達も穏やかでのどかな雰囲気だ。
某超人気終焉ファンタジーRPGより、某牧場でのんびり過ごすゲームに出てきそうな感じだ。
村に到着したという報告と共にテナーが送ってくれた写真に獣人に近い女性ミノタウロスと男性ミノタウロスの姿が写っているのを見たタンザは、その写真のミノタウロスを亜種と言っていた。
「ニンゲン、ト、マジワッタ、コト、ノ、アル、ミノタウロス、ニハ、アシュ、ガ、ウマレル、バアイ、ガ、アル。ミノタウロス、ノ、アシュ、ハ、ニンゲン、ニ、チカク、ナル、ト、キイタ」
亜種。
ゴブ郎みたいな平和的なゴブリンがいるから魔物にも亜種がいるだろうとは思ってたけど、まさかゴブ郎の知人がそうだったと分かった時は驚いたし、同時にゴブリンの亜種みたいな性格をしているゴブ郎の知人らしいとも思った。
だけど、そのミノタウロスの亜種が8割以上を占めていたとは思わなかった。
そこら辺も話を聞きたい所だ。
「というか話し方に癖ありすぎて私の聞き取り力じゃ何言っているのか全く聞き取れないです」
ミノタウロス達は至って温厚に話しかけてくるのだけど、彼らの喋り方はどうも田舎の方言のように発音に癖が強く、通訳なしでは普通に聞き取る事が出来ない。
幾つか覚えている言葉が聞こえたけど、瞬時にそれが覚えているワードだったと判断出来ない。
どうやら難しい顔をしていたようで、タンザが私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「ダロウ、ナ。カレラ、ノ、コトバ、ハ、チイキセイ、ガ、アル。コチラ、ノ、コトバ、ヲ、マナンデ、マモナイ、アイネス、ニハ、スコシ、ムズカシイ、ダロウ」
「地域性……。方言みたいな感じですか?」
「ソレ、ダナ」
「この世界にも方言なんてあったんですね……」
「ツウヤク、ツカウベキ、デハ?」
「そうですね。そうすることにします」
ベリアルに促されて<オペレーター>に彼らの言葉を通訳してもらうと、やっとミノタウロスの言葉が分かるようになった。
写真に写っていたミノタウロスがゴブ郎に話しかけている。
『ゴブすけ~! おんめ、いつんまにあんなめんこい人間の娘に会ったんだべか?』
『ぶあっそだけんどちっこくてめんこいでべなぁ。うらやましぃべ』
「ぎゃう~!」
「どうしよう、通訳を使っても半分以上何言ってるのかわからない」
予想以上にミノタウロスの方言の癖が強かった。
通訳なしよりは断然聞き取れるし意味もなんとなく分かるには分かるけれど、方言の癖の強さが気になってしまう。
異世界言語は兎も角、方言に関してはミノタウロス達が癖を直すか私が慣れるしかないだろう。
「えっと、ひとまずミノタウロスの代表に会議室へついてきてもらうよう頼んでくれませんか? <契約>を結ぶにあたっての話し合いがしたいので」
『畏まりました、アイネス様。ミノタウロスの皆さん、アイネス様が別室で話し合いをしたいそうなので代表者の方は私共と一緒に別室へ来てもらえますか?』
『代表者ならおいらとこの子がいくべ』
『そっちのゴブすけの友だちについてけばええべか?』
代表者に名乗り上げたのはゴブ郎と仲良く会話をしていた亜種のミノタウロスの男女二人だった。
彼らはのほほんとした表情で手を上げて私達の側までやって来た。
身長、イグニやマサムネに負けないくらいあるんじゃないだろうか?
あと、どっちも服が縄文時代の服装みたいな感じだから目のやりどころにこまる。
女性のミノタウロスの方、胸でっか!
『他のミノタウロスの方々はフクの案内に従い食堂の方へどうぞ。調理場の者達がお飲み物をお持ちします』
『はれまぁ、飲むもをくれるんだっぺか』
『こりゃありがてぇべ』
『ベルっさん、オレらは? オレらはこのまんま休憩っすか?』
『20分程休んだ後、モニタールームに向かって仕事をしにいきなさい』
『鬼!!!』
『悪魔ですよ』
上司ベリアルによるスパルタな命令にテナーがオーバーに崩れ落ちた。
流石にほぼ一週間の出張をこなしてきた後に仕事を頼むのも可哀想なので「外出で疲れたと思いますし、今日は仕事しなくて大丈夫ですよ」と伝えたら『アイぴっぴめっちゃ優しいっすわ……』ってテナーが呟いていた。
優しくないよ。普通だよ。
代表者のミノタウロスの二人以外はフクさんの案内によって食堂へと向かっていく。
私とゴブ郎、ベリアルとタンザはミノタウロスの代表者2名と共に会議室へと向かった。
ミノタウロス達が座った拍子に会議室の椅子が壊れないか不安だったけれど、軋んだ音を出すだけで壊れる事はなかった。
私達はニコニコのんびりと笑っている二人に対面になるように椅子に座る。
『それでは、面接を行う前に一つ確認をさせてください。貴方方はミノタウロスの亜種でよろしいですか?』
『ん~。一応、そうらしいべなぁ』
『そうらしい?』
男性ミノタウロスの曖昧な回答に私達は思わず首を傾げた。
男性ミノタウロスはうーんと間延びした声を出しながら、私達に説明を始める。
『さっき他の村んもん見たら分かるだろうけんど、オラたちってどっつかてゆうと亜種って呼ばれるもんの方が多いべ?』
『ええ、確かにそうでした』
「普通のミノタウロスよりも、亜種のミノタウロスの方が多かったですね」
『あれ、別におやごが全員人間と交わったからああなんじゃねぇんだべ。というか、此処何代かは同じ村んもんや外からやって来たミノタウロスと交わって出来たもんが殆どだべさぁ』
『なんだと?』
男性ミノタウロスの言葉にタンザが驚愕の反応を見せる。
タンザの話だと人間とミノタウロスが交わると亜種が生まれるらしいと聞いたけれど、
『おんら達の村はこのダンジョンがある森のもっともーっと深けぇとこにあるんべさ。オイラ達の曾祖父ちゃんの曾祖父ちゃんのまた曾祖父ちゃんの世代はどうも戦いだとか興味がねぇ、ミノタウロスらしからぬ性格のもんが数匹いたんだっぺさぁ。』
『それでとあるだんじょんますたぁさんに「そんなミノタウロスは出てっちまえ」って言われて出てったんけど、そん時に別のだんじょんますたぁにミノタウロスの亜種だからってダンジョンから追い出すったミノタウロスの群れと遭遇したそうなんだべ』
方言をどうにか普通の言葉に変換し、二人のミノタウロスの話の内容を要約すると、どうやら彼らの村は普通のミノタウロスじゃないからと追い出された2つのミノタウロスの群れが築いた村らしい。
一方は気性の穏やかな、戦闘より野菜や花を育てるのが好きな性格が亜種のミノタウロスの群れ。
もう一方は働き者で仕事好きだけれど、見た目が人間寄りの身体的亜種のミノタウロスの群れ。
そんな2つの群れが同じ時期にダンジョンから追い出され、互いの群れと遭遇。
普通なら縄張り争いなどを理由に同種族間で大争いをする所だったけれど、前者の群れの性格からか両者和解し、自分達で村を築く事となった。
幸いにも彼らの村は果物のなる木や綺麗な水の流れる水源が近く、森の奥深い所にあるから冒険者達も殆ど来る事がない。
その村に住むのが全員ミノタウロスというのもあって、他の種族がその村を襲いに向かう事もない。
そうして特に大きな争いに巻き込まれることもなく、病気や災害によって絶滅することもなく、同じ村のミノタウロス同士や、外からやって来た亜種ミノタウロス達と交配を交わして子孫を作ってその村を存続させていた。
そうした繁殖方法をしている内に徐々に2つの群れの亜種の部分を両方引き継いで生まれるミノタウロスが増えてきたらしい。
勿論性格亜種の特徴、もしくは両方の亜種の特徴を引き継がないミノタウロスもいたけれど、そういったミノタウロスは皆その村ののほほんとした暮らしに嫌気が差して成人したらすぐに村から出ていってしまう。
そして最終的に、今私達の目の前にいる彼らのような穏やかで、のどかで、姿が獣人のような亜種のミノタウロスしかいない村が出来上がったのだとか。
その話を聞いた私は、ある一つの用語が思い浮かんだ。
「それって、品種改良ってやつと似てないですか?」
『「ひんすかいりょー」?』
『なんだべ、それ?』
『ああ……なるほど、そういう事か。確かにそれなら説明もつく』
タンザも本でその知識を得ていたんだろう。
私の言葉に納得した様子を見せていた。
タンザにハンドサインを送って私の代わりに説明を促すと、タンザはベリアル達にも分かるように説明を始めた。
『アイネス殿の持つ書物に植物や家畜の交配を操作することで人間にとって有用な、新しい品種を生み出す技術について記された物があった。その技術を『ひんしゅかいりょう』と呼ぶのだ』
『その技術とミノタウロスの亜種が集まる村にどのような関係があるのでしょうか?』
「恐らくミノタウロスの村にいるミノタウロスさん達は、ほとんど品種改良に近い状態の環境下で、誰かに操作されることなく自然に進化したミノタウロスなんですよ」
食べ物と水には困らない、災害を恐れる必要もない安全な秘境。
天敵となる魔物や人間が殆ど来る事はなく、普通のミノタウロスは自然にその村を出ていく。
偶に外から訪れるミノタウロスも大体が彼らの先祖と同じく群れからハブられた亜種のミノタウロス。
結果的にその村に残るのは片方の亜種の特徴を持つミノタウロスか両方の亜種の特徴を引き継いだミノタウロスだけ。
その環境下で村のミノタウロスが自身の血統を何代にも渡って繋げていたのだ。
魔物達の中の突然変異で生まれた亜種達が、自然に選別されて交配し、繁殖する。
授業で習った『品種改良』の例えにそっくりだ。
『たまげたべなぁ。オイラたち、「ひんすかいりょー」なんて知らなかったべさぁ』
『人間の娘はやっぱ頭がええべなぁ』
「私の場合は少しこの世界の人とは違うんですけど……まあ良いか」
素直にうんうんと相槌を打つミノタウロス達の姿はあまりにのどか過ぎて此方の毒気が抜かれてしまいそうだ。
言うなら、春の日向の日差しのような暖かいけど眩しすぎない光。
彼らのような魔物がどうやって今まで存続出来ていたのか気になってしまう。
その時、ふと隣にいるタンザが私に声を掛けてきた。
『アイネス殿、ベリアル殿、これは……』
「分かってますよ。この話は外には絶対に隠した方が良いでしょう」
『そうですね。人間たちに恩を売る必要性もないですから』
『分かっているなら良い』
「ぎゃう?」
『だべ?』
温厚さと人間に近い見た目になるよう、自然に品種改良されて誕生した”労働力を求める者達”にとって都合が良い亜種のミノタウロス。
いや、彼らはもう新種のミノタウロスと言っても良いと思う。
だけど敢えて言わない。
だって新種の魔物の発見なんて外に知られたら絶対今まで以上に目立つことになる。
最悪、狡賢い人がミノタウロスの能力を持ちながらも温厚な性格を持つ彼らを狙って家畜や奴隷にしようとするかもしれない。
この話は外に知られないように黙秘した方が彼らの為だ。
彼らにも後でその事を話しておいた方が良いだろう。
『では、早速面接の方に入りましょうか。幾つか質問しますが、よろしいですか?』
『構わねぇべさぁ』
『オイラたちに答えられることならなんでも答えるべ~』
ベリアルの言葉に、ミノタウロス二人が了承の言葉を返す。
……このミノタウロス達、自分たちの存在がどれだけ凄いのか気づいていないのだろうか?
これだけ素直だと、詐欺師の良いカモになっていそう。
世界が世界なら、セールスマンにホイホイ引っかかって高いツボや神の水だとか書かれたペットボトル水を買ってしまいそうだなぁ。
彼らを仲間に引き込むなら、そういった事に引っかからないように色々教えた方が良いかもしれない。
そんな事を考えながら、私はミノタウロス達の言葉に耳を傾けるのだった。