諸悪の根源はやっぱりお前か
「お二人が深刻そうだったから真面目に聞こうとしたのに、ただの食事問題ですか」
「ただのって何よ、ただのって!」
「これでも意外と大変な問題なんだよ!」
「転移前にも私が触れたじゃないですか。転移した世界の料理が美味しいとは限らないって」
私はそう言って、呆れ気味に彼らを見た。
食事問題。
確かに重大な問題ではある。
現代の日本に住む若者達にとって、生活というのは美味しい食べ物と心地よい住居、清潔な暮らしというのは基本になっている。
そんな彼らが突然どれか一つでも取り除かれたらどうなるか。
当然、ブーイングの嵐が起きる。
魔王討伐とか文明進行とか、そんなものどうでも良くなる。
そもそも私達の年なんて大抵はその場所にある事が当たり前で、なくなったらどうかなんて考えない。
いつもどおりの日常があっての非日常のスリルと楽しみなのだ。
最初は非日常にワクワクするだろうが、一週間、一ヶ月、一年と時間が掛かれば掛かる程、その異世界転移者はその異世界転移という辛い現実を突きつけられることになる。
幸いにもギャル子達はアスペル王国で風呂も寝床も用意されていたから不満も少なかったのだろう。
問題は、食事。
この世界の食事というのはハッキリ言ってあまり美味しくない。
それはタケル青年のせいで味が超絶濃い料理が流行ってしまったというのもあるだろうし、そもそも使える調味料が少ないというのも原因の一つだろう。
しかし、異世界転移直前に一人がその話題に触れてた訳だし覚悟とか出来たんじゃないだろうか?
てっきり第一王女がベタベタ執着してくるとか、王宮の貴族たちの陰謀が面倒くさいとか、そういう問題だと思っていたのに、まさかの基本で躓いていたとは……。
「この世界、甘い物なんて全然ないし、味付けも塩と胡椒と砂糖しかないのよ?! しかも総じて何故か味が濃い!」
「城下町の食堂も、皆味が素材そのものの料理か適当な物を混ぜた料理ばかりしかなかったんだ。この2ヶ月はそれでも我慢してたんだけど、そろそろ限界でね……」
どうやら彼らの食事問題はかなり深刻なまでのラインに到達しているらしい。
しかし、以前にも異世界転移者がいるなら誰か一人くらい地球の調味料を再現した物の製造を試みそうな気もするけれど、それはなかったのだろうか?
「醤油とか、マヨネーズとかなかったんですか?」
「なかったわよ! 似たような名前の物はあったけどどれも油ギトギトの謎の物体だったりただ黒くて腐っただけの野菜の液だったりでしかなかったわ!」
「他の人頑張れなかった感じですかー……」
どうやら、以前の異世界転移者も調味料作りに挑戦したようだが、全員失敗で終わったようだ。
そりゃあ、普段スーパーで購入できる調味料の作り方なんて物好きでなかったら調べないだろうし、調べていたとしてもそれを覚えているとは限らない。
しかもこの世界とあちらでは原材料自体の名前が違うのだ。
調味料作りに失敗していてもおかしくはない。
「それでも、塩と胡椒と砂糖があるなら多少なりとも作れるでしょう? お肉に塩コショウひとつまみ振って焼くだけでも食べれますし、その気になれば鶏ガラスープや出汁も作れるでしょうし。というかそんなに文句があるなら自分で自分のご飯ぐらい作れば良いじゃないですか。一応学校の調理実習は受けている訳ですし」
「アンタ……ウチの家庭科の成績、知らない訳じゃないでしょ?」
「あ、失礼しました」
机に肘をついて顔を俯かせた彼女の言葉を聞いて、私はすぐに謝罪した。
そういえば、ギャル子の家庭科の成績は万年1だった。
決して成績1位ではない。通信簿に表記される1だ。
調理実習の時も野菜の皮むきをすれば野菜の皮がメインになってしまうという壊滅的な料理センスの持ち主なのだ。
彼女に料理が出来るわけもない。
よく考えれば、3人とも経済的にかなり充実した家の娘息子達。
料理なんて全て家政婦や母親が作ってくれただろうし、きっと料理知識も経験も皆無に近い。
彼らに料理を作らせること自体無理なことなのだ。
うーん、この金持ちどもめ。
料理上手だった黒子がいればもっとマシだったのかもしれないが、彼女は聖教国に行っているというらしいし、もう頼むことは出来ないだろう。
意外と追い詰められてるな、この3人。
「じゃあ、チャラ男さんに頼むのはどうです? あの人センスだけで適当に味の整った物は作れるでしょう?」
「そう思って奏多に頼んでみた事があったんだけど……、調理場に入って3日で出入り禁止されていたよ」
「え、何故?」
「調理場にいた料理人達と関係持って、調理場の空気を最悪にしたからよ」
「あ、なるほど」
チャラ男、相変わらず手が早いな。
というか、料理人“達”ってことは複数人と関係を持ったということか。
何人? 何人と関係を持ったんだ?
出入り禁止されるぐらいだというと、相当なものだぞ。
まさか全員と寝たわけじゃないでしょ?
「それに、第一王女も何かと邪魔してくんのよね。ウチらが外で食事とか取ろうとすると「ではあたくしも一緒に!」って来ようとするし、やたらと男子共にベタベタくっついてるから訓練の邪魔もするし、本当うざったらしいわ!」
「うわぁ……」
「しかも最近は、身体の方にも異常が出てきているみたいなんだ」
「身体に異常?」
「そうそう。妙にお腹が膨れても満足出来ないし、肌荒れはするしでたまったものじゃないわ!」
モデルであったギャル子にとって、肌荒れはもっとも忌むべき事なのだろう。
苛立たしげに机を叩いた。
私は二人の様子を見て、二日目の朝のイグニ達の様子を思い出した。
そうして、二人にある推測を伝えてみる。
「それってもしかして、栄養不足では?」
「栄養不足? どういう事だい?」
「正確に調べた訳ではないので分かりませんが、どうもあちらの世界の食材に比べてこちらの食材に含まれている栄養価が低いようなんですよ」
「栄養価が低い?!」
「恐らくですが、この世界の土や植物に栄養が不足しているのが原因でしょうね。私もこの王国に来てからそういった感覚はあったので、なんとなく分かりますよ」
「じゃあつまり、この世界の食べ物を食べ続けてると十分な栄養が取れないってこと?」
「そうですね」
一つ気がついてしまえばあとは大体分かる。
要は、二日目の朝にイグニ達が騒ぎだしたのと同じことなのだ。
私達のいた世界とこの世界が違うのは、魔物の有無や野菜の種類だけではない。
環境そのもの…というか、自然に含まれる栄養価も違うのだ。
この世界に比べて、私のいた世界は自然環境が良く、土や植物に栄養素が多く含まれていた。
そのおかげで作物は良く育つし、その作物に含まれる栄養価も高かった。
しかし、この世界の土地にはそういった成分が多く不足している。
その結果、作物が育ったとしてもその作物に含まれる栄養価が低い。
元からこの世界の住民である人達には特に違和感はないだろうが、私やギャル子さん達のような栄養豊富な作物が取れる世界からの転移者には大きな違和感でしかない。
当然前の世界と同じ量を食べても満たされないし、肌荒れなども引き起こす。
この世界の土、植物の成分自体が私達の世界よりも劣っているのだ。
二日目の朝の話がここに来てまた出てくるとは思わなかった。
一応そこそこの栄養は取れてるから栄養失調には劣らないんだろうけど、この世界に馴染むまでは身体が満たされない違和感は拭えないだろう。
全く、種族の数や常識は違っても同じ世界であるはずなのに、こんなに違うものなのか――――。
……あれ、待てよ?
「すみません、<オペレーター>さん。確認したい事があるんですがよろしいですか?」
「小森さん?」
『了。質問をどうぞ』
私は思わず、<オペレーター>に話しかける。
ギャル子達から見ればなにもない空間に向かって誰かと会話をしているという異常な光景でしかないが、彼女たちは無視して私は<オペレーター>に尋ねた。
「ダンジョンマスターのチュートリアルを受ける時に、大まかに霊脈回廊について教わったじゃないですか? あれって確か、世界の天候や地脈や生物サイクルにも影響を及ぼすんですよね?」
『肯定。その通りです』
「ちょ、ちょっと、アンタ誰と話してるの?」
「じゃあ、その中に土や植物に含まれる栄養の量とかもその霊脈回廊に影響されてる感じですか?」
『肯定。正確には土や植物、ではなく、その世界の土に含まれる栄養保有量に影響を及ぼします。霊脈回廊が停滞すればその世界の土地に含まれる栄養保有量は枯渇し、そこから生える植物にも影響を及ぼすこととなるでしょう』
「なるほど。つまり世界の管理が杜撰であればあるほど、この世界の土は枯渇して、そこで育てる植物や動物達も栄養価が低くなってしまうんですね」
「!!」
<オペレーター>の声が聞こえずとも、イケ男は私の一方的な会話から私と同じことを理解したらしい。
私は冷静を装いながら、<オペレーター>に質問した。
「では、最後に質問です。この世界に存在する食材の栄養価が低いのは、この世界の創造神である女神の管理が杜撰で、霊脈回廊が停滞しまくってるからですか?」
『肯定。端的に言えばその通りです』
「ほう、なるほどなるほど。つまりはそういう事ですか……。
あのクソ女神め……!!!!!」
「え? え? どういう事よ?! ウチにも分かるように説明しなさいよ!」
「……この件は彩夏にはまた後日説明するよ。今これを伝えたら、また暴れかねないから……」
頭に疑問符を浮かべるギャル子さんに対し、イケ男は優しくそう言った。
賢明な判断である。
なるほど、全てあの女神の管理不足だったという訳だ。
もう、あの女神を討伐した方がこの世界の為になるのではないだろうか?
あの人神様に向いてないよ。うん。
「分かりました。ダンジョンに一緒に住むことはお断りしますけど、いくつかの条件を飲んでくれるのであれば数ヶ月分の調味料と調理道具と地球産の食材とカセットコンロ、あと野宿用のテントや寝袋と、通信手段にスマホを充電器とセットでお渡ししますよ。それで暫くは大丈夫でしょう。レシピとかは自分たちでどうにかしてください。あ、<アイテムボックス>があるから、大量に渡しても大丈夫ですよね?」
「た、確かに大丈夫だけど……」
「なんでこもり子ちゃんがそんなに元の世界の物を持ってるわけ!? アンタ転移してきた時殆ど手ぶらだったわよね?!」
「あー……、先程私がダンジョンマスターになった経緯と私と桃住さん達と違った点については説明しましたよね?」
「ああ、聞いたよ。あの女神には怒りと殺意を抱きかねないよ」
「そうよね。あの女神は取り敢えず処してオッケー」
「なんで私以上に怒り狂ってるんです?」
何故か私よりも怒りを見せている彼らには引いてしまう。
ひとまず私はチャラ男を呼ぶことにした。
「チャラ男さん、ちょっと来てもらってもいいですか?」
「ん? せーざはもうしなくて良い系?」
「ひとまずは良いですよ。それより話があるんであっちの席に来てください」
「おけまる~☆」
チャラ男をギャル子たちのいる席に座らせ、私は周囲を伺う。
魔法道具のお陰で周囲に声が漏れてないにしても、読唇術を使われたりなんてしたら厄介だからね。
そして私は3人に私のスキルの一つである<ネットショッピング>についてを明かした。
他のスキルに関しては明かしてない。
まだ彼らを完全に信用した訳じゃないからだ。
3人は私のスキルの説明を真面目に聞いていたのだが、説明が終わる頃にはギャル子は不満げな顔、イケ男は苦笑、チャラ男は嬉しそうな顔と、それぞれ別々の表情を浮かべた。
そして、ギャル子が一言尋ねた。
「アンタのスキルだけ、なんかチートじゃない?」
「スペックチートの桃住さんに言われましても。気持ちは幾分か分かりますけれども」
「戦闘面にはあまり使えないけど、生活面を整えるのに関しては本当に最高のスキルだね。なんであの女神はこのスキルに気が付かなかったんだろう?」
「使えるスキルだと思っていなかったのでは? 実際に使ってみないと、本当の効果も分かりませんから」
女神が<ネットショッピング>に気が付かなかったのは単純に<ネットショッピング>が付属スキルだったからだろうけど、敢えてそれは言わない。
付属スキルであることを明かせば、<ホーム帰還>も説明しなければいけないからだ。
すると、黙って話を聞いていたチャラ男くんが口を開いた。
「ねー、こもりん。そのスキルでお菓子とかも買える?」
「買えますけど、それがどうかしました?」
「じゃあオレ、キャンディー欲しいわ!プッカバブス!」
「お菓子を強請らないでください。子供ですか」
「お口の中が寂しいからさー、頼むよ~!ヤる頻度少し減らすからさ~!」
「それは取引でするものではないでしょう。欲しければ私のダンジョンに挑戦してください。宝箱に入れておくんで」
「なるほど、そうやって小森さんのダンジョンは人を増やしたんだね」
「私がこのスキルを持ってることは内緒にしててくださいよ? バレたら金の卵を生むガチョウのような扱いされかねませんので」
「勿論だよ。流石にそのスキルがこの世界にどれだけ影響力を持っているかは分かるからね」
イケ男達がうなずいたのを見て、私はひとまず安堵する。
それが食品類などを渡す取引に対する一番重要な条件だ。
これが守れないようでは渡せるものも渡せない。
「それで、条件ってなんなの?」
「条件その1。貴方達にマリアさん達討伐を依頼した人が誰かを教えて下さい。流石にマリアさん達の命が狙われてるのを放置する訳にはいきませんからね」
「それに関しては構わないよ。僕達も、嘘の話を言われていた訳だからね。何かする気なら証言するつもりだよ」
「条件その2。自身の土地を購入する、またはアスペル王国の土地を借りるなりして産業革命を起こしてください」
「さんぎょー革命?」
「食品と一緒に肥料とか種とかを渡すので、それで此方の世界の野菜や畜産を育てて、各国に売っちゃってください。スマホでそういった情報は簡単に手に入るはずでしょう? それでそのまま土壌を良くする方法とかをいろんな場所に流行らせるんです。そうすればこの世界の食材の栄養価も上がるでしょうし、私が食材を譲渡しなくても問題なくなるでしょう?」
「こもり子ちゃんが広めようとは考えないの?」
「私は農業をするだけの土地は外に作れません。それに、こういった事は早乙女さん達に任せたら心強いですからね」
生産に関する問題はラノベでも良くある、主人公に解決を持ちかけられる問題のテンプレ中のテンプレだ。
今は大丈夫でも、将来私の方に相談が舞い降りてくる可能性がある。
そうなる前にイケ男さん達にその問題解決を押し付けてしまおうという算段だ。
普段ダンジョンに引きこもってる私とは違って彼らは社交性が高いし、こういった知識や物を流行させる事に関しては天下一品だ。
餅は餅屋へ。流行は流行のプロへ。
これぞ適材適所というものである。
ただ問題は、農業や畜産なんて泥臭いことを流行らせることを彼らが引き受けてくれるか、だ。
食品とスマホとキャンプ用品を上げてみたけど、これを引き受けてくれるかどうか……。
そんなことを思っていると、イケ男とギャル子が顔を俯かせ、プルプルと震え始めた。
私が首を傾げていると、チャラ男が席を立ち上がり、私の耳をそっと塞いだ。
イケ男達は私に背を向けて、何かを話し始める。
(今!ウチらのことを心強いって言ってくれたー!こもり子ちゃんが!こもり子ちゃんが!!)
(この場にICレコーダーがなかったことが本当に悔やまれるよ……! 転移した時にスマホを持ってこれていれば! ああでも、そうすると小森さんからスマホをもらえなくなるし……)
(というか、連絡手段にスマホくれるってことは合法的にこもり子ちゃんの連絡先交換出来るっつーこと? え、こもり子ちゃんと連絡出来るようになるってメッチャ滾るし)
(依頼主の情報を売ってスマホで得た情報をいろんな国に流すだけで小森さんの連絡先と食品とテントを手に入れられるなんて……。他のKHFの皆にもこの幸せを共有してあげたい!)
(久々のこもり子ちゃんも相変わらずキレキレ頭脳だし、マジマブい! こんなの推すしかない!)
「二人共久々にテンション上がってんじゃん、マジウケる~」
「どうでもいいんですが、何故耳を塞ぐんです? 二人の声が聞こえないんですが」
「いーのいーの。こもりんは気にしなくて」
いや、気になるわ。
なんか私のことを言われている気がする。
面倒な仕事を押し付けられて「この陰キャ引きこもり女、いい気になって…」とか思われてないだろうか?
地味に傷つく。
「というか。まだ条件はあるんですけど」
「まだあんの? なにそれなにそれ?」
「冒険者界隈に私のダンジョンのことを広めてもらうことと、<ネットショッピング>の商品の性能のレビューを定期的に報告してもらうことです。一応便利だ、価値が高いとか聞いてますけど、実際に使ってみた人の感想とかも聞きたいです」
「んじゃ、プッカバブスも追加でくれんだったらそれ、オレやったげんよ。オレそういうのマジ得意よ?」
「あ、本当ですか? 東雲さんの拡散力は絶大なので頼みたかったんですよ」
「うんうん、要はこもりんのダンジョンの宣伝の拡散っしょ? イケるイケる、大体3日ぐらいで200人ぐらいに拡散とかマジ余裕~」
「そこまで拡散してもらわなくていいですけど、まあ程々にお願いします」
「オケオケ~」
よし、条件3,4の方は承諾してくれた。
インフルエンサーだったチャラ男がダンジョンの宣伝をしてくれればDPの獲得量が増えるし、レビューを貰えるのであればニーズに合わせて別の会社の商品とかも設置出来る。
私にはメリットしかない。
やがて内緒話が終わったのか、イケ男とギャル子が此方に振り向いた。
チャラ男は私の耳から手を離し、席に戻った。
イケ男は一つ咳払いをすると、口を開いた。
「分かった。条件その2も飲ませてもらうよ。というか任せて欲しい。此方の世界で栄養価の高い食事が食べられるようになれば、僕達にもメリットがあるからね」
「それを聞いて安心しました。もしかするとスマホの方でまた相談するかもしれませんが、よろしくおねがいします。荷物の方は、お茶会の後別室で渡させてください。誰か監視がつくかもしれないですけど、大丈夫ですか?」
「勿論、大丈夫だよ。彼らにとって、僕達は小森さんと友人という人物でしかないからね」
「まだ言うか」
この人本当鬱陶しいな。
どんだけ友人枠に収めたいんだ。
そういうのはもっと主人公らしい人にやってください、どうぞ。
そんな事を思っていると、チャラ男が思いついたような様子で元気よく挙手した。
「あ、そうだ~! こもりん、もう二つお願いしてもおけ?」
「二つですか……、まあ良いですよ。条件さえ飲んでくれるなら別に。で、条件とは?」
「1つ目は後で言うとしてー、もう一つの方だけ今言うわ。こもりん、オレのこと名前呼びして♡」
「は?」
突拍子もないお願いに私は思わず聞き返してしまった。
なんかイケ男さんとギャル子さんがガタガタッと立ち上がってるのが横目で見えた。
チャラ男はそのまま続ける。
「だって~、こもりんおな小の頃から一度もオレのこと名前呼びにしねーじゃん? だからこれを機におな小仲間っぽく名前呼びしてもらおうかな~ってカンジ☆いわゆる、幼馴染プレイってやつ?」
「それだといかがわしく聞こえるので止めてくれません? ていうか、それに何のメリットがあるんです?」
「んー……、オレが面白い」
「はぁ、貴方はそういう人ですよね……」
チャラ男は本当に考えが読めない。
いつもいつもノリと流れで動き、面白い方、面白い方へと動く。
こんな生き方で、将来この人生きていけるのだろうか?
私は大きなため息をついて、渋々といった様子を全面に出しながら言った。
「カナタさん。はい、これでいいですか?」
「ん~、まあそれでおっけ! ごーかく☆」
「何の試験を受けたんですか……」
ダブルピースをして嬉しそうに笑うチャラ男さんの姿に、私は呆れてしまう。
まあ、チャラ男――もといカナタにはこれからダンジョンの宣伝をしてもらうのだから、名前呼びぐらい別に良いだろう。
そんな事を思っていると、イケ男とギャル子が机を乗り上げ、ズイッと顔を近づけ、頬を赤らめて言った。
「僕達も、」
「名前で呼びなさい!!」
「はぁ?」
ちょっとちょっと、二人までカナタのノリに乗っかるつもりだろうか?
名前呼び程度に?
彼らの圧は凄く、名前呼びをしなければまた友人知人のリピート問答を続けそうだ。
名前呼びに1人も3人も変わらないだろう。
私はそっと名前呼んだ。
「……アヤカさん、ソーマさん? これでいいですか?」
「……!! 良いわよ、それくらいで許してあげる!」
「何を?」
「小森さん……じゃなくて瞳子さん、僕達頑張るよ!」
「名前……いえ、なんでもありません。まあ、無茶はしない程度に頑張ってください」
ギャル子とイケ男――もといアヤカとソーマの謎の返答に、私はつい首を傾げてしまう。
ケネーシア王国に来て3人と再会したのも驚きだったけど、その日に名前呼びをさせられることになるとは思わなかった。
エルミーヌさん達は此方の様子を伺いつつも、お茶会を始める雰囲気のようだ。
そろそろお茶会の方にも再参加しなければならない。
これ以上トラブルが起きないで欲しい所ではあるが……、まあ、無理か。
3人からの話を聞きながら、私はそっと諦めたのだった。




