表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/231

幸い、知識と結託力ならそこそこ自信がある。

「第一回、ダンジョンリフォーム会議~」

「ぎゃうー!」

「***」

「「「カタカタ……♪」」」


 異世界転移してから三日目の早朝、朝食の後でも低血圧でテンションの低い私の宣言に対してゴブ郎、ベリアル、スケルトントリオは各々の反応を見せながらテンション高めに拍手をした。

 そう、これはダンジョンの今後を決める重大な会議なのである。クソ女神に捨てられた私にとって、このダンジョンはマイホームの次に重要な砦である。効率的にDPを集め、ダンジョンをより良いものにしなくてはいけないのだ。早朝でテンションがちぐはぐで申し訳ないのだけど、これでも真剣なのだ。


 会議とは言ったけれど、実は既にダンジョンの方針は私の頭の中で大体練ってある。言葉も通じないのにも関わらず会議を行う理由は、私とベリアル達の考えの擦り合せのためだ。

 私はこの世界に来てすぐダンジョンの中の生活を始めてしまった為、此方の世界の常識というものが分からない。だからベリアル達とはかなり違った考え方をしている。私が1人で無理にダンジョン経営を進めていけば、私と共に働くベリアル達にかなりの負担を強いる事になる。

 勿論<契約(コントラクト)>で私に逆らう事が出来ない魔物達は不満を言うことはあまりないだろう。けれど、どうせ一緒にやっていくなら不満を最小限に抑えておきたいのだ。

 ……不満が溜まった状態でもし万が一<契約(コントラクト)>が外れたら、私の貧弱さではベリアルは勿論、ゴブ郎にだって負けるかもしれないからね……。


 そんな不満をなくすためにも、出来るだけベリアル達の意見は聞いておきたいのだ。言葉が通じなくても意思疎通が取れるよう、事前に<ネットショッピング>で大型ホワイトボードと人数分のモバイルホワイトボード、それに人型の駒など必要な物を注文したし、<カスタム>で見られる地図を模写した物も用意した。

 問題は私の絵心だけど、中学の時に一時期漫画を描きまくっていた時期がある。当時物凄いハマっていたアニメの二次創作でノート10冊にも渡る超大作だ。

 パソコンでプロのイラストレーターが載せているコツ動画や専門書を読み漁ってた為それなりのクオリティはあった。

 中学2年の冬に私の部屋から漫画を勝手に借りに来た父(40代、仕事はITエンジニア兼黒魔道士)に発見されて見られた為に打ち切りになり、今では私の黒歴史とも言える過去だ。因みに問題のノートは全てその日に焼却処分、勝手に部屋に入った父とは三日間口を利かなかった。

 あ、やばい……黒歴史を掘り起こして精神ダメージが……。


 ま、まあともかくとして、そういう経験があるからそこそこ絵心はあるはずだ。多分。実際この3日間ゴブ郎くんとはホワイトボードで絵を描いて意思疎通を測っていたけれど、問題なく通じていた。

 この会議で全員の美術センスが見えてしまうわけだけれど、そこは気にしないでおこう。早速会議を始めて行くこととなった。


「まずダンジョンの方針なんですけど、うちは『9割ノーキル』をモットーにしようと思ってます」


 9:1の比率を書き、1人の死亡者と9人の生存者を大型ホワイトボードに描いていると、ベリアルから挙手が上がった。因みに魔物の中で唯一喋る事が出来るベリアルには前日の内に「これは何?」と「何故?」は教えた。その2つさえ教えておけば今後通じなかった部分があった時にベリアルが私に質問出来るからだ。


「***アイネス」

「はい、なんでしょうベリアルさん」

「コレハ、ナニ?」

「いやこっち数字表記も違うのかーい」


 ベリアルに指を指された9に目を向け、改めて常識の壁を実感した。この世界、アラビア数字を使わないのか。そりゃあそうだよね、名称にアラビアって書いてあるもの。

 私はベリアル達にアラビア数字を10分ほど説明して、会議途中も確認出来るようにホワイトボードの端にアラビア数字と説明書きを書き残しておいた。会議が出鼻から挫かれたけれど、これは事前に説明出来ていなかった私が悪い。


「話を戻すけど、うちのダンジョンでは『9割ノーキル』……つまり、9割のダンジョン侵入者は絶対に殺さないように心掛けます」

『質問。その方針の意図を問います』

「うっわ、突然質問吹っ掛けてきましたね<オペレーター>。というか<オペレーター>も質問することがあるんだ」

『回答。本スキルは常に新しい情報の更新を欲しています。なお、システムの一部を活用しダンジョン内の魔物達にもボイスがリアル共有されておりますので、同時進行での説明で構いません』

「有能さを凄い披露しますね…。まあ二度手間にならないので良いですけど」


 <オペレーター>の有能さを再確認しつつ、私はホワイトボードに向き、絵を描きながら説明をしていく。


「まず何故この方針なのかって理由なんですけど、簡単に言ってしまいますと私が殺人を見たくないっていうのが6割、このダンジョンの危険性を下げるためっていうのが4割なんですよね」

『私情が主な理由なのですね』

「だって私、元々人殺しだとかリアルスプラッタな事とは縁遠い世界で過ごしてきたんですもの。映画とかドラマとか映像でならそういうのも見たことありますけど、リアルタイムでマジなスプラッタを見るっていうのは流石にちょっと無理ありますって。特に、自分の仕掛けたトラップだとか魔物とかが人を殺すって、直接ではないにしろ地球の常識じゃあ完全アウトですし」


 そもそも、何故異世界転移しただけで人や魔物をバンバン殺せるようになると思えるのだろうか? 人は勿論のこと、魔物は地球で言ったら鹿や猪みたいな害獣…つまりは動物だ。もしも異世界転移した地球人が動物愛好家だったら魔物を討伐しろと言われたら逆にその人間を討伐しかけるだろう。

 特に私は世界的に見て治安がかなり良くて安全性も高い日本生まれ日本育ちである。スキルのお陰で食事も住む所にも困ってないのにも関わらず、突然「貴方ダンジョンマスターだから人を殺してくださいね♡」なんて言われてもそう簡単にはいそうですかと殺せるわけがない。無理にやらされそうになったらそれこそマイホームに引きこもる。


 そんな訳でダンジョンでの殺しは出来るだけ勘弁していただきたいのだけど、かといって殺しを全面的になしにするのも駄目だ。

 人の感情を引き出すにはある程度の命の危機というのは必要だ。命の危機を脅かす中、人を絶対殺さないというのは侵入者を全員皆殺しにするよりも難しい。下手に甘く設定すれば効率的にDPポイントを稼ぎづらいし、最深部まで突破されてしまう可能性がある。

 それに、私の私情だけでダンジョンの形を180度変貌させてしまうのはそれについていかなければならない魔物達に負担がかかる。

 ある程度制限は緩めておいた方が、魔物達の不満も少ないだろうという考えだった。


『質問。ダンジョンの危険性を下げる意図についてはどう説明致しますか?』

「それは実にシンプルですよ。危険性が低いダンジョンの方が侵入者が寄って来やすいからです」


 RPGゲームにはよく初期スタート村のすぐ近くにダンジョンがある事が殆どだけど、大抵のプレイヤーはそのダンジョンでレベリングをする事が多い。

 より死ぬリスクが低い方がデスペナルティの心配をせずにレベリングしやすいし、お金も溜まりやすいからだ。

 ゲームだったらそのダンジョンに合わせてドロップするアイテムが変わってくるようなものだけど、この世界では相当違う地域に行かない限り手に入れられるアイテムや出てくる魔物は似たりよったりのはずだ。

 同じようなアイテムをドロップするダンジョンだったら、人はリスクが低いダンジョンを選ぶだろう。人間皆自分の命が最優先なのだ。


「それに危険性が高すぎると、より強い侵入者が来ちゃうかもしれないですしね……。強い侵入者の方がDPが稼げるでしょうけど、そんな強い人はそんな数がいないですし、それだけこっちに危険も及びますからね。それだったら弱くても数の多い侵入者達が来てくれた方がDPが稼ぎやすいです」


 これがただのゲームだったら本当に死ぬ訳じゃないのでより強い侵入者が来るようにダンジョンをリフォームするだろうけど、これはゲームではないのだ。実際に私やベリアル達の命も掛かってくるとなるなら、やって来る侵入者は弱い方がいい。まあ、実質魔王級の強さを持つベリアルに勝てる者がどれだけいるのか、とも思うわけだけれど。

 要は薄利多売。リターンの低い弱い侵入者達に沢山喧嘩を売っていく精神でこのダンジョンを経営するのだ。


「一通り動機は説明したけど、此処までで異議を上げる人はいますか?」


 絵を描き終えて振り返って確認してみると、ベリアル達は今の説明で納得してくれたのか誰も挙手する様子がなく、うんうんと相槌を打って賛成している様子だった。

 <オペレーター>も質問が来る様子はない。


「異議がないようなので次の議題に進めますね。次はダンジョンに設置する宝箱の中身について決めるつもりなんですけど…他のダンジョンってどんな物を入れてるんですか?」

『回答。主に設定されているのは特殊効果のついた武器や換金出来る装飾品、または此方の世界の住人には作成できない魔道具が宝箱の中身として設置されています』

「武器に装飾品に魔道具か……どれも<カスタム>で手に入れられるようですけど、DPの消費量がなぁ……」


 <カスタム>を確認すると、確かに宝箱の中身用に綺麗なアクセサリーや強力そうな武器が一覧に載っていたけれど、侵入者が欲しがりそうなアクセや武器は軽く100DPするものばかりだった。宝箱の中身は取られてしまったらまた補充が必要なので、今の段階では宝箱の中身へのDPは出来るだけ抑えたい。

 どうするべきか……と悩んでいると、ゴブ郎くんが大きく手を挙げたのが見えた。


「ぎゃ!」

「おっ、ゴブ郎くん、何か良い案がありますか?」

「ぎゃうー!」


 ゴブ郎くんが見せたホワイトボードには、焼き芋や肉まんなど、ゴブ郎くんが食べた事のある地球の食べ物や私やゴブ郎らしき人物が食べ物を食べている絵がボードいっぱいに描かれていた。幼稚園児が家族の絵を描いてくれたような絵に、ちょっと癒やされる。


「食べ物系かぁ。確かに地球の食べ物は此方では人気出そうだけど、宝箱に食べ物が入ってる時ってあるんですか?」

『回答。あまり主流とは言えません。此方の世界の食べ物は長期保存に向いていないため宝箱に設置している間に腐敗してしまう場合が多く、また侵入者達も毒を警戒して口にする事も少ないです』

「此処には冷蔵庫とか保冷剤とかないですもんね。長期保存出来る地球産の食べ物だと…これとかどうですかね?」


 私は<ネットショッピング>を使い、缶詰やパックに入ったビーフカレーやコッペパンといった保存食(水不要)を注文して机の上に並べていく。

 ベリアル達は変わった容器に興味津々だ。


「これを宝箱に入れたらどうですかね?地球の保存食は5年以上保管出来る物が多いし、ビーフカレーとかだったら香りが良いからお腹へった時に食べそうだけど……。皆食べてみる?」

「**」

「ぎゃう!」


 試食役にゴブ郎とベリアルが名乗り出たので、私は二人の前でコッペパンの入った缶詰とビーフカレーの入ったパックを開けてみせた。

 開けた瞬間にビーフカレーの匂いが漂い、既にゴブ郎くんは目を輝かせている。

 コッペパンをベリアルが、ビーフカレーをゴブ郎くんが試食する事となったらしく、二人は同時に手に持った保存食を口にした。

 そして次の瞬間、ゴブ郎くんはぎゃうぎゃうと喜びの舞を踊り、ベリアルはうんうんと、頷いて此方に微笑んでみせた。どうやら彼ら的には合格だったようだ。

 スケルトントリオ達も羨ましそうにベリアル達の事を見ていた。後であげるから今は会議に集中しようか。


「じゃあこれらを宝箱に入れて、そうだな……。通路の途中で侵入者達が見える所でスケルトントリオかゴブ郎くんにこの保存食を食べてみせてもらいましょうか。それだったら食べ物だって分かるし開け方とかも覚えられるんじゃないですか?」


 私の命令にわぁっと喜びの雄叫びをあげるスケルトントリオとゴブ郎くん。美味しい物を食べるだけの仕事って最高だもんね。分かるよその気持ち。

 ワイワイと喜びの雄叫びを上げてるゴブ郎くん達の横で、ベリアルが挙手して見せた。


「ん、ベリアルさん。なんか他に良さげな物ってあります?」

「コレ、******」


 ベリアルは部屋に設置してある照明スタンドや私の着ている部屋着などを指差した後、ホワイトボードに描かれた宝箱を指差した。

 なるほど、地球産の服や照明器具なんかも宝物としては良いのか。確かに地球産の照明スタンドは此方の世界では電気いらずのどこでも照明器具となっている。魔道具として宝箱に詰めるのはもってこいだろう。しかも<ネットショッピング>で注文した物ならDPを消費しないし、物珍しいアイテム目的で侵入者がやって来るかもしれない。


「じゃあ、後でベリアルさんは私と<ネットショッピング>で注文できる物で宝箱に入れられる物を一緒に決めてもらえないですか?」

「**、***アイネス」


 私の頼み事に仰々しく片手を腹の前に添えてお辞儀をしてみせるベリアル。これで宝箱の中身はほぼ決まったようなものだ。

 最後に私はベリアル達に、ダンジョンをどうリフォームして、どのように侵入者達を相手していくかを説明した。


 ホワイトボードや地図を使って伝わりやすいように懸命に説明する。

 まるで、学校の集会でスピーチでもやっているかのような気分だった。

 ベリアル達は私の懸命な説明に理解すると、最初驚きで目を丸くさせ、その後何度かの質問を行い、最終的には納得した表情で頷いてくれた。


「特に異論がないならこういう風にダンジョンをリフォームしていくけど、最後に何か異論はありますかね?」


 私の皆の意見を確認するための質問に対し、皆はニッコリと笑顔を見せて、「大丈夫だ」と言わんばかりに大きく頷いて見せた。


「では、これで会議は終わりとします。各自、準備をしていきましょう」

「ギギー!」

「******、***アイネス」

「「「カタカタ……」」」


 ゴブリンにスケルトン、悪魔に異世界人。そんな種族のバラバラな私達だったけれど、皆文句なく声を上げてみせる。

 明日から新ダンジョンのオープンだ。最初に躓いてしまうと今後の経営に支障が出てしまうため、入念な準備が必要だ。幸い知識と結託力ならそこそこ自信がある。何かあってもベリアル(チート級の最強魔物)や<オペレーター>(有能サポートAIスキル)が付いているから、安心だ。




 見知らぬ侵入者達には悪いけれど、存分にDP稼ぎさせてもらおうじゃないか。か。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >そもそも、何故異世界転移しただけで人や魔物をバンバン殺せるようになると思えるのだろうか? 魔法が使えるようにしたり、精神状態異常無効又は耐性を付与できるような神様が、それくらいの精…
[良い点] 面白い展開ですが、地球産のアイテムなんてドロップさせたら、いずれ女神にバレるのでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ