変な所で細かいなこのスキル
早いのか遅いのか、ようやく10話目です!
とある洞窟の奥深く、まだ人に認知されていないはずのその場所で、洞窟らしからぬ物音が鳴り響く……。
そんな洞窟に人の視線から隠れるように存在する部屋では、3体の魔物が動き回っていた。
その魔物は骸骨の不死者、スケルトン。
肉が全て削ぎ落とされた白骨体の彼らは、その身をカタカタと鳴らしながら懸命に何かを運びこんでいく。
薄暗い部屋の中で不気味に笑いながら動くスケルトン達の姿はまるでなにかの儀式の準備をしているようだ。
そんなスケルトン達が待つ部屋に、1人の少女が入ってきた。黒髪の無愛想な少女が入ってきた音に少女の方を振り向くスケルトン達。
無愛想な少女はそんなスケルトン達を見るとその手に持った物を素早く取り出し、そして言った。
「家具運び、お疲れさまです。これ、差し入れです」
「「「カタカタカタカタ…♪」」」
LEDライト並に部屋を照らす事が出来る照明と、地球産の高品質ベッドと家具が設置された部屋で家具を運んでいたスケルトン3体に労いの言葉と差し入れを渡す無愛想な少女こと、小森瞳子。
渡された煮干しとカルシウム満点のウエハースに歯を鳴らして大喜びするスケルトン3体。
そう、このスケルトン3体は異世界転移者にしてダンジョンマスターである瞳子が召喚した魔物だ。
何故、人を襲う事が目的である魔物がこのような雑用ごとをしているのか。
その理由は今から一時間ほど前に遡る……
****** ******
<ガチャ>で見事SSR魔物である貴族悪魔ベリアルを召喚した私、小森瞳子は目の前に表示された画面を凝視していた。
それは、先程仲間になったばかりのベリアルのステータスだ。
私も知らなかったのだけれど、ダンジョンマスターの権限により<契約>した魔物のステータスを見ることが出来ると先程<オペレーター>に教えられたのだ
そして今、ベリアルのステータスを見させてもらっているのだけど……
【名前】ベリアル
【種族】アークデビルロード
【称号】悪魔伯爵、絶望の悪魔
レベル:120
HP: 12000/12000 MP:40000/40000
力:2200 防御:1650 素早さ:2780 魔法:5500 運:1580
【スキル】
魅了 LV9
魔術の叡智 LV―
悪魔召喚 LV10
威圧 LV8
回復魔法 LV6
聖光属性無効 LV―
火属性耐性 LV8
etc……
控えめに言ってチートすぎではないだろうか?
種族はまあ置いておくとして、称号が余りに物騒過ぎる。絶望の悪魔ってなんなんだ。
そして能力値が色々と桁がおかしい。私の数百倍以上もあるではないか。確か異世界転移者の本来の平均能力値が100から200じゃなかっただろうか? 平均どころか、かなりの逸材が持つとされる能力値も軽く凌駕してしまっている。
一番のツッコミどころはこのスキルの数の多さ! 耐性系スキルでも大体10もスキルが載っている。正直覚えられないくらいだ。
というか種族悪魔なのに<回復魔法>だとか<聖光属性無効>なんてスキルを持ってて良いのだろうか? 本来存在するべき弱点が消失してしまっている。
これはあれだ。スマホゲームとかで良くある、ルックスや能力の高さで人気投票では上位に躍り出るけど、強すぎて対戦で使われると嫌われるタイプのゲームキャラだ!
恐る恐るベリアルの方を見てみると、姿勢正しく直立しているベリアルと目が合い、にっこりと爽やかかつ大人な悩殺スマイルが返された。その微笑みから放たれるリア充の光に目を潰されかける。
なるほど、これが魅了スキルなるものか。相手を目眩まし状態にさせるとは実に強力なスキルだ。
ベリアルのチート級ステータスは一先ず置いておこう。ダンジョンマスターには攻撃できないらしいし、ダンジョンの経営していくのだったら配下になる魔物は強い方がいい。
問題は、ベリアルが寝泊まりする場所を何処にするかだ。
ゴブ郎くんは小柄だから寝る場所を確保出来たけれど、ゴブ郎に加えて身長が180cm以上はあるベリアルがマイホームで寝るにはマイホームが狭すぎる。
かといって異性であるベリアルと同じベッドに寝るのは駄目だ。色んな意味で。
そうなると残る選択は<ネットショッピング>で大人用布団を注文して、ゴブ郎と私は布団を使い、ベリアルにはベッドで寝てもらうしかないだろう。
そうと決まれば早めに準備をした方が良い。
私は<ホーム帰還>を使って マイホームに繋がる扉を出した。
扉を開いて私が中に入るよう促すと、昨日寝泊まりして中がどうなっているかを知っているゴブ郎は先に中へと入っていった。
様子を窺っていたベリアルもゴブ郎の後をついていくように扉の中に入ろうとした。
ところが、ベリアルは中にはいる事が出来なかった。
マイホームと此方の境目に存在する透明の壁によってベリアルが中に入るのを妨げたのだ。
<契約>する前のゴブ郎のようにも関わらず、だ。
「あれ、<契約>したのになんで?」
『回答。ユニークスキル<ホーム帰還>のスキルレベル不足により、一定以上の知性を持つ人型種族は侵入出来ないと推測されます』
「細かいなこのスキル……」
なんてことだ。今現段階ではベリアルはマイホームに入ることすら出来ないようだ。
これはあれだろうか、私が非リア女子で人間相手にコミュ障を拗らせているからそれに合わせてスキルもそうなっているのだろうか?それにしてもゴブ郎くんは良くてベリアルは駄目だなんて変な所で細かい縛りがあるなこのスキル……。
ともかくベリアルがマイホームに入れないのであればマイホームで寝ることも出来ない。そうなると、ベリアルにはこのダンジョンで暮らしていかなければならない。
幸い<ネットショッピング>で必要な家具は注文出来るし、ダンジョンもリフォームすればベリアルが過ごせるだけの空間を作ることは出来る。
丁度ダンジョンコアの位置も変えようと思っていた所だ。大魔王級の強さを持つベリアルの傍に置いておけば余程のことがない限りダンジョンコアは安全だろう。
私は<カスタム>で300DPを支払ってダンジョンの最深部の空間の隣に人数人が住めるくらいの部屋を作った。居住するのに良さそうな部屋を選択して決定ボタンを押せば、ガタッ、という物音が聞こえた。
音の鳴った方向を見てみれば、私が作りたかった場所に先程はなかった石造りの扉が出来た。中を確かめてみると、私が選んだシンプルな間取りだけど綺麗な部屋が確かにあった。
大工要らずの手早い仕事だ。
更に私は150DPを使用してベリアルが住むのに必要な家具を置いてくれる雑用要員としてスケルトン3体を召喚した。本当に自慢ではないけれど、私は力が強くないのだ。ベッドや棚なんて重い物はとても持てない。
スケルトン達にそれぞれ『スケ』『ケルト』『ルートン』という分かりやすい名前をつけて<契約>を結んだ。因みに私が選んだスケルトン達は復活型だ。使い捨て型のスケルトンは復活型スケルトンの5分の1の値段である30DPを支払えば召喚出来たのだけど、今後も雑用を頼むことを考慮して復活型を選ばせてもらった。初期ボーナスしかない私にはそこそこ痛いけれど、長期的に見ればいい買い物だ。
スケルトントリオ達は声帯がないからか、はたまた会話できるほどの知性がないからか歯をカタカタ鳴らすだけで喋ることはなかったけれど、ホワイトボードとジェスチャーで命令すれば上手く意図を汲み取って<ネットショッピング>で注文した家具を部屋の中に運んで置いてってくれた。
そして話は冒頭へと戻る。
スケルトントリオがせっせと家具を運んでくれている間に私とベリアルはゴブ郎くんの案内のもと、ダンジョン内を見て回っていた。
<カスタム>でダンジョンの間取りを見ることは出来るけど、初期のダンジョンがどんな物か直接見ておきたかったからだ。
初期のダンジョンは階層や迷路なんてものはなく、一度だけ分かれ道がある程度の浅い洞窟だった。ダンジョンだと言うのに冒険者らしき人間が見えないとは思っていたけれど、納得した。これは一見すればただの洞窟に見えても仕方ない。
ダンジョンの入り口から外の様子も見えたけど、周囲にあるのは森ばかりで町や村なんて物は見えなかった。
ダンジョンの全体を見終わった後にスケルトントリオ達の元に来てみれば、スケルトントリオ達はすべての家具を綺麗に設置し終わっていた。
ベッドもタンスも、ベリアルとスケルトントリオが住むのに丁度いい位置に置いてあり、LEDライトの照明スタンドも問題なく洞窟の中を明るく照らしていた。
…………って、
「なんで電気が通ってないのに光ってるの!?」
余りに自然に灯りが付いていたため、思わずスルーしてしまいかけた。私が注文したのは地球産の照明スタンドで、電気は延長コードを駆使してマイホームから貰おうとしていたのに今いる部屋の照明スタンドは全て電気が存在していない状況にも関わらず明るく部屋の中を照らしている。ある意味ホラーである。
電気もコードもなく照明がついている照明スタンド達に慄いていると、有能サポートスキル<オペレーター>が説明してくれた。
『現在存在している世界とは異なる世界からアイテムを持ってきた場合、存在している世界に適応させるためにアイテムの力が変化します』
「なるほど、だから電気がないのに照明が付いているのか……」
どうやら今、この地球産照明スタンドはこの世界に持ち込まれた為に電気がなくても使えるように変化したそうだ。
空中に存在している微弱な魔力を電気スタンドが吸収して…と、具体的に説明しようとするとかなり難しい話になるそうなので、ひとまず電気がなくても使えるスタンドと思っておく事にした。実にご都合主義だなぁ、と感じるけれどその御蔭で物が勝手に使えるのだからあえてツッコミは入れない。
そこで私は気がついた。地球産の物が全て使えるように変化するのであれば、地球人には必須のスマホやパソコンなども普通に使えるのではないだろうか? もしそうなら時間が空いている時にでもパソコンを注文して使えるかどうかを確認したい。
ひとまずベリアル達が居住する為の準備は完了した。<オペレーター>に時間を確認すればもう午後6時を迎えていたので、私は一度マイホームに戻って夕食を用意する事にした。
骨しかないスケルトン達に食事が出来るのか不安だったけど、差し入れに持っていった煮干しとカルシウムたっぷりウエハースを喜んでいたから多分食べるのだろう。
私が夕飯に作った献立は豚肉の生姜焼き、味噌汁と白米、ほうれん草のおひたしで構成された豚の生姜焼き定食だ。箸が使えないであろうゴブ郎やベリアル達に合わせて、フォークやスプーンのみで食べられるものを用意した。
ゴブ郎に手伝ってもらい、ダンジョンの居住部屋に食事を運んで机に置いていく。スケルトントリオとベリアルは日本食を見たことないのか、大きな机の上に並ぶ定食をマジマジと眺めていた。
人数分の食事を並べ終えると私とゴブ郎、スケルトントリオは椅子に座ったのだけど、ベリアルは何故か立ったまま食卓の前に座ろうとしない。
「どうしたのですか? 全員座らないとご飯食べられないんですけど」
「*********」
ベリアルに座るよう促しても、ベリアルは首を横に振ってただ遠慮するばかりだ。何を言っているか分からないから理由は分からないけれど、ベリアルがさっさと座ってくれないと食事が冷めてしまう。
遠慮して全く座ろうとしないベリアルに苛立った私は椅子から立ち上がってベリアルの傍に行くと、背中を押して座らせようとする。ベリアルはようやく諦めたのか、すっと物音を立てずに椅子に座った。
これで夕食が食べられる。度の過ぎた謙虚さは逆に失礼なのだ。何事も程々が丁度いいのである。
「いただきます」
「ぎゃうぎゃう~」
「「「カタカタ……」」」
全員が椅子に座ったので私は手を合わせてそう言って食事を始めると、それを見ていたゴブ郎、ベリアル、スケルトントリオも同じように手を合わせ真似をした後、食事を始めた。
ベリアルは恐る恐るといった様子で豚の生姜焼きを口にすると、目を丸くしつつも、美味しそうに二口目、三口目を上品に口にしていく。
スケルトントリオもゴブ郎も、美味しそうに食事をガツガツと食べていく。
……スケルトンって食べた物は何処に行くんだ?
「***アイネス、******」
「ん。気に入ってくれたようで何よりです」
定食を楽しみつつ私に声を掛けたベリアルに適当に返し、私は味噌汁を飲む。
地球の食材を注文出来るスキルを持っていて本当に良かった。いくら聖剣があっても強力な戦闘スキルを持っていても、私のように日本食を食べ、地球産のベッドで眠ることなんてままならないのだ。
そうして私は異世界転移二日目にして新しくベリアルとスケルトントリオを仲間として出迎え、気ままな引きこもりライフを過ごしたのだった。
明日には本格的にダンジョンの改造を進めていこうじゃないか。
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