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女性が全員イケメンに魅了されると思うなよ

「チェンジ!!!」


 山羊の角と蝙蝠の羽を生やしたイケメンを目の前に、私は思わずそう言ってしまった。突然の私の奇行に目を丸くするイケメンと、ゴブ郎くん。

 初対面相手に失礼だとは思うけれど、こればかりは許して欲しい。


「なんでよりにもよって出てきたのがいかにも知性高そうな人型魔物!? 魔物ってゴブリンとかスケルトンとかスライムとかその他色々あるでしょ! 初回無料でSSR引くのは百歩譲って良いとして、異世界来て初めて会った人がイケメンってどんなラノベのご都合主義展開!? 誰もが顔の良い異性にドキッとときめいて心を開くと思うなー!!」


 私は何度も言うが、コミュ障・出不精・無愛想の三大非リア充の要素を持った引きこもり系非リア女子なのだ。

 タダでさえ人に対して耐性がないのに、リアルの…しかも世界級のイケメンが目の前に現れたら奇声の一つぐらい叫びたくなる。

 正直召喚前の魔法陣に放たれた光より、小悪魔系ならぬガチ悪魔なイケメンから放たれる顔面偏差値カンストの光の方が目にくる。


 そんな私の気持ちを露知らずか、ガチ悪魔なイケメンはきょとんとした顔からふっと色っぽい微笑みに戻り、眉を下げて此方を見る。

 きっとイケメンは声も良いんだろうな、もしかして私、今日死ぬのではないだろうか? 異世界転移二日目で死亡って、ラノベだったら即打ち切りになるだろうなぁ。あれ、なんか似たような事を数時間ほど前に言った気がする。

 なんて現実逃避をしていると、悪魔なイケメンが口を開いて、此方に話しかけてきた。


「*******?」

「…………ん?」

「****、*******? *******」

「…………んん??」

「******、********?」

「んんんん?????」


 私の聞き間違いだろうか? 目の前のイケメンの言っている事が全く聞き取れない。

 幻聴か? と思いなんども聞いたけど、幻聴ではなかったようだった。

 今現在進行形で、目の前のイケメンは私の知らない言語で私に話しかけているのだ。

 私は思わず目の前のイケメンに手のひらで待ったを掛ける。


「あ、待ってください。その、何を仰ってるのかさっぱり分からないんですが……」

「*? *****、*******?」

「え、ごめんなさい、なんて?」

「**?」

「……これ、もしかして」


 私の言葉に首を傾げ全く分からない言語で喋るイケメンを見て、私は最悪の推測が思いついてしまった。

 私はイケメンにそこで待っててもらうよう手のひらで待ったを掛けつつ、<ホーム帰還>を使ってマイホームからゴブ郎くん用に使ってたホワイトボードとマーカーを持ってイケメンの元に戻った。

 そして私は出来るだけ分かりやすい図を書いた後、その絵をイケメンに見えるように見せて私自身を指差して、イケメンに尋ねた。


「……もしかして、私の言ってる事分からない感じですかね?」

「……**」


 大きくバッテンがついた吹き出しと、困り顔で肩を竦める二人の人間が描かれた図と私を交互に見た後、首を縦に振ったイケメンを見た私は全てを悟り、落胆の余りにその場で膝から崩れ落ちた。




あのクソ女神、絶対フルボッコにする!!!!!





*****  *****


 思えば、最初にステータスを見た時から違和感に気がつくべきだった。

 <アイテムボックス>に<鑑定>という異世界転移者にとって定番のスキル2つがステータスに表示されているのに対し、異世界言語が分かるようになる効果を持ったスキルが何処にも表示されていない事に。

 人の承諾を聞かずに異世界特典スキルを使えないまま勝手に異世界転移させたあの女神のことだから、まだ他にも何かやらかしているだろうとは思っていた。

 けどまさか、異世界での生活に絶対欠かせないであろう言語スキルを渡さないまま異世界転移させるほどクソ女神だとは思わなかった!!!!


 ゴブ郎くんと<オペレーター>とは普通に話が通じていたから大丈夫だろうと安易に思ってしまっていたけど、後から考えればそれも当たり前だ。

 元々喋れないゴブ郎くんとはジェスチャーと言葉なき絆で意思の疎通が取れていたのだし、<オペレーター>は創造神共通のシステムにある超有能なサポートスキルなのだ。私の世界の言語どころか、他の世界の言語まで全て理解できた上で相手に合わせて言語を変えれるに決まっている。

 異世界言語スキル持ってなかったのなら、<オペレーター>に言って今からスキル獲得すれば良いんじゃないかって? 私も最初はそう思って聞いてみたよ。


「<オペレーター>、こっちの世界の言語が分かるようになるスキルって今からインストール出来る?」

『回答。出来ません』

「えっ!? なんで!?」


 有能サポートスキル<オペレーター>にそんな言葉が出てくるなんて思いもしなかった為、私は思わず<オペレーター>に聞き返してしまった。すると、<オペレーター>からとんでもない事実を聞かされた。


『本来異世界転移者にはその世界の全ての言語が分かるよう、言語スキル『異世界言語』が創造神から渡されます。しかし、このスキルの獲得にはその世界の創造神の許可が必要条件となっております。他の創造神へ報告して在住している世界の創造神に掛け合う事も可能ですが、スキル獲得までの手続きに最低でも半年以上掛かります。更にそれ以外の創造神の行いから、此方からの言語スキルの要請が来た場合、証拠隠滅が行われる可能性があります』

「当事者ごと証拠隠滅ってことですね!」


 神様の中でも人と同じような事考える神がいるのか…と肩を落とした。

 自分でステータスも見れない、一部の有能スキルも使えない、に加えて言葉も通じ合えないって無理ゲークソゲーを通り越してヤバゲーである。発売なんてしたら即炎上待ったなしだ。

 目の前のイケメンもいくらイケメンでも言葉が通じないのであればただの外国人だ。恋に恋する乙女も意気消沈するだろう。


 チラリとガチ悪魔なイケメンの方を見てみれば、彼も私と言葉が通じない事でどうしたら良いのか分からないのか、はたまた言葉の通じない目の前の女が奇行を繰り返しているので声を掛けづらいのか、困った様子で立ちすくんでいた。

 私もコミュ障なのが禍して、言葉が通じないイケメン相手にどう接すればいいか分からず、困り果てていた。


 そんな気まずい雰囲気が漂う中、1人の…いや一匹の救世主が立ち上がった。


「ぎゃうぎゃーう!」

「え、ゴブ郎くん?」


 救世主……もといゴブ郎くんはこの気まずい空気を察してか、鳴き声を上げて私の服の裾を引っ張った。

 私がゴブ郎くんの方を見ると、ゴブ郎くんは真剣な表情で必死に身体を動かして何かを訴えようとする。

 私とゴブ郎くんを指差し、何かを両手で持って咀嚼する動作、そして目の前に立つイケメンを指差し……


「……もしかして、私とゴブ郎くんが出会った時みたいに食べ物を一緒に食べたらどうだって伝えてる?」

「ぎゃう!!」


 私とイケメンを指で指して食べる動作をして尋ねてみると、どうやら合っていたらしくゴブ郎くんは胸を張って大きく縦に頷いた。

 確かに昨日美味しい食べ物は言語と種族の壁を越える事が証明されたが、それで本当に通じ合えるものなのだろうか?

 しかしそれ以外に良い方法は思いつかないし、この気まずい空気が続くよりかはマシだと思う。地球の食べ物が明らかに貴族っぽい彼に通用するのかは分からないけれど、一応歓迎している意は汲み取ってくれるだろう。

 私は<ネットショッピング>で買い物画面を表示すると、外国人(目の前のイケメンは国どころか種族も違うのだが)が好きそうな食べ物を探した。


 数十分の詮索の後、晴れて選ばれたのは、日本が誇る和菓子の代表、羊羹だった。

 だって仕方ないではないか。あんこ物はこし餡か粒餡かで好みが分かれるだろうしこの薄暗い洞窟でケーキ類はちょっと場違い過ぎる。煎餅や団子も考えたけど、それは味が色々あり過ぎて一つに絞る事が出来なかった。

 さほど甘すぎないから甘い物が苦手な人でも食べられるし、海外でも羊羹は好きな人が多い。

 要は、これが一番無難だったのである。


「ということで、お一つどうぞ……」

「***?」


 箱から取り出した一口サイズの羊羹を小皿に乗せ、爪楊枝と共にガチ悪魔なイケメンくんに差し出すと、彼はキョトンと目を丸くしつつも、それを受け取った。

 羊羹が食べられる物だと分からなかったようで目の前のイケメンはただじっと羊羹を見つめているだけで食べようとしなかったので、私はもう一つの皿に分けておいた羊羹を爪楊枝で刺して彼の目の前で食べてみせた。

 控えめな甘さが丁度良くて美味しい。出来るだけ高そうな羊羹を注文して正解だった。ゴブ郎くんも食べたそうに此方を見ていたので、一つ分けてあげた。ゴブ郎くんも気に入ったのか美味しそうにほっぺに手を当てて食べていた。

 私とゴブ郎くんが食べている様子を見て、羊羹を食べ物だと分かってくれたのか、イケメンくんは私がしたように爪楊枝で羊羹を刺して、それを口に入れた。

 その瞬間、イケメンくんの目は丸くなり、驚いた表情を浮かべた。


「ど、どうかな……?」


 言葉が分からないので彼の様子を伺っていると、イケメンくんは味を堪能するように咀嚼した後、2つ目を食べ始めた。その表情はとても明るいものだった。

 良かった。どうやらお気に召したようだ。


「羊羹、お気に召したようで何よりです」

「***?」

「羊羹。よ・う・か・ん」

「ヨーカン」

「うわっ喋った…って、見た所人型だし喋るか」


 羊羹を指差して教えてみれば、イケメンくんが復唱したのでちょっと驚いた。どうやら、ゴブ郎や私より遥かに頭が良いようだ。

 羊羹を食べ終えると、イケメンくんは膝をついて深々と頭を下げた。その行為に慌てて立ち上がらせた。

 身長180cm超えであろう高身長イケメンに跪かせるなんて真似をしたらこの世に存在する女性からフルボッコにあうだろう。


 甘味を食べたことで私は冷静さを取り戻してきた。そうだ、言葉が分からないから何なのだ。分からないならこの滞在中に勉強して覚えればいいのだ。逆に、イケメンくんに日本語を教えるのでも良い。

 幸いイケメンくんは頭が良いようだから、<ネットショッピング>でひらがな表や幼児用のドリルを渡して一緒に勉強すればすぐ喋れるようになるだろう。それまではゴブ郎くんと同じくホワイトボードやボディーランゲージでなんとかやり取りをしよう

 いや、私のコミュ障を直さない限り対面の会話はかなりの難易度を要するけれども。


「あ、<オペレーター>、確か魔物は全員名前を付けて<契約(コントラクト)>しなきゃいけないんですよね? ということは、ゴブ郎みたいにこの人にも名前を付ける必要ですか?」

『肯定。魔物の情報をダンジョンコアに記録するため、全ての魔物に<契約(コントラクト)>が必要です』

「あー、そうなのか……」


 私はイケメンくんの方を見て、彼に合う名前を考える。髪こそ私と同じ黒髪だけど、外人的を通り越して人外的な美貌を持つ彼に日本人の名前は似合わない。

 見た所、彼は悪魔のようだし、地球に存在していた神話の悪魔の名前を引用するのも良いかもしれない。

 私が知っている悪魔の名前で彼に似合いそうなのは……


「ベリアル」


 ベリアル。貴公子の悪魔と言われ、悪魔72柱の一体にして強大で強力な魔王…だった気がする。とあるスマホゲームでこの悪魔をモデルにしたSSRキャラが出てきてガチャで手に入れるのに一苦労した事があり、かなり印象に残っていたのだ。

 名前を与えた事で<契約(コントラクト)>が結ばれ、ゴブ郎の時のように何かが繋がったような物を感じた。

 目の前のイケメン…もといベリアルも自分に名前が与えられた事が分かったのか、とても綺麗な笑みを浮かべて綺麗なお辞儀を見せた。


「***、ベリアル*******」

「ああ、名前気に入ってくれたようで良かったです」


 深々とお辞儀をして何かお礼を言っているらしきベリアルを見て、人との関わり合いが苦手な私は内心(気に入られて良かったー!)と安堵した。

 ベリアルはそっと頭を上げると、私の方に手のひらを上にして指し示し、短く何かを尋ねてきた。恐らく、私の名前を尋ねられたのだろう。


「私は、小森瞳子…って外国だと名字が後に来るんだっけ? ヒトミコ・コモリです」

「ひとぅーみく…?」

「ヒ・ト・ミ・コ」

「ヒトゥ…********」

「あーもー、そんな頭下げないでください。日本語の名前は他の言語の人には発音し辛いって分かるんで…」


 私の名前を正確に発音できずに申し訳無さそうに頭を下げるベリアルを宥めた後、顎に手を当てて考える。

 今後生活していく上で呼びにくい名前を使っていくのは合理的ではない。

 それに万が一ダンジョンを経営していく上で女神が私の存在に気づいた際、何かやらかしてくるかもしれない。神様が1人の人間相手にまさか…とは思うけど、有り得なくもないと感じてしまう以上気をつけておくべきだ。

 そうなるとこの世界では偽名を使った方が良いだろう。

 私は自分の胸に手を当てて、ベリアルが聞き取りやすいようにゆっくりと言った。


「アイネス、って呼んでください」

「アイネス?」

「そう、アイネス」


 アイネス。それは私がゲームで使うニックネームの一つだ。

 瞳子の瞳でアイ、子の別の読み方であるネとスを組み合わせて作った単純な名前だけど、瞳子よりかは呼びやすいだろう。

 ベリアルは何度か「アイネス」と復唱すると、また私の前に跪き始めた。

 慌てて立ち上がらせようとすると、その前にベリアルが王子のような笑顔を浮かべたまま口を開いた。


「****アイネス。**ベリアル、********」

「…うん、ごめん。何を言ってるのか分からない。まあ、これから宜しくお願いしますね」

「**」


 ベリアルの肩をポンポンと叩くとベリアルは更に笑みを深くし、一礼をした。

 見た目こそ悪魔ではあるけれど、根は礼儀正しい良い人……魔物? のようだ。

 イケメン相手にコミュニケーションを取るなんて気が引けるけれど、慣れていくしかないだろう。

 こうして、異世界転移二日目にして私のダンジョンにガチ悪魔系イケメン、ベリアルが仲間になったのだった。















あ、そういえばベリアルの寝る場所どうしよう。


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