異世界転移はお断り
出来るだけ楽しく愉快に書いていこうと思います!
人って案外、大事に巻き込まれると一周回って冷静になれるもんなんだなぁ
背景が全て真っ白という漫画だったら手抜きすぎる光景が広がる空間の中、私は腕を組んで考える。
目の前には同じクラスのリア充グループの男女が「異世界転移とかヤバい!」「勇者とか最強っしょ!」とキャッキャッと今の現状を喜んでいる。
その奥には神々しいオーラを放つ白いドレスを着た金髪の美女がいる。女性なら誰もが羨むナイスボディが特徴的だ。
確かに最近アニメやラノベで異世界転移ものが流行っているが、まさか自分がその異世界転生に本当に巻き込まれるとは思わなかった。
『勇者様、聖女様、賢者様方。どうか今から行く別の世界を救ってはくれないでしょうか?』
金髪美女の女神が神々しい微笑みを浮かべながらこれまた異世界転移じゃテンプレな問いを問いかけられる。
「ああ、やってやるぜ!」
「勿論よ!」
「オレが世界を救ってみせてやるよ!」
次々と承諾していくリア充グループの男女達。
まさに青春を謳歌している高校生のペースで、後ろでぼんやりと見ている私がなんか老けたように感じる。
リア充グループの声が大きく上がる中、私は右手を大きく上げて、女神に向けて女神の問いかけに返答した。
「すみませんが、私はお断りします」
「「「「『……え?』」」」」」
先程までの盛り上がり様が嘘のように静かになる。挙手した状態の私に全員の視線が集まって若干視線が痛く感じる気がする。
だがしかし、私はこの異世界転移を断らねばならない。
なぜならばこの異世界転移には、許容し難い重大な欠点があるのだ。
一体何がどうなって異世界転移を拒否する私がこんなラノベ的展開に巻き込まれているのか、時を少し遡ろう。
*** ***
高校2年の秋。紅に染まった葉が散る木々の並ぶ道中を私はスマホを片手に歩いていた。
スマホを持つ手とは別の腕には、今週発売された新作の単行本とラノベの入った袋と、近くの屋台で購入した石焼き芋2個が入った袋がある。
私こと小森瞳子、17歳は、重度の非リアだった。
外の運動よりも家の中での読書、皆で鬼ごっこよりも1人であやとり、文化祭や運動会よりもオンラインゲームでのイベント回収、そんな文化系女子ならぬ、超室内系女子である。
コミュ障、出不精、無愛想というやたらと語感の良い3重非リア要素を持ち合わせる私についたあだ名は、『引きこもり子』。実にシンプルかつ分かりやすいあだ名だ。『引き』と『こもり子』の間に若干の間を開けるのがポイントらしい。
因みに弁解するならば、確かに私は出不精ではあるが一応学校には無遅刻無欠席で毎日登校して真面目に授業に出ている。
テストの成績は上の中に入るし、運動面も平均的な方だ。
なにせ、日本でそこそこ有名な進学校でもあるこの学校で赤点を取ったり体育の授業でビリになったりでもすればすぐさま補習を命じられてしまい、長時間も先生に監視され続けながら勉強しなければならなくなる。
そうすれば私の出不精生活の時間が削られてしまうのだ。
そんなのまっぴら御免である。
ところで話は変わるが、そんな『引きこもり子』の私はあだ名で分かる通りリア充グループとは相容れない。
非リア充とリア充、陽キャと陰キャ…まさに光と闇と表現していいほど正反対な存在である。
といっても、私とリア充グループは真正面から突っかかってくる事は殆どない。精々リア充グループの女子が時折私を話題に出して茶化して、私が右から左へ聞き流してスルーする程度だ。
なぜ今そんな話をしたか?
私の歩く前方を、同じクラスのリア充グループが歩いているからだ。
歩道の真ん中を横に一列並んで幅を取り、なにやら流行の話やSNSの話をワイワイ騒ぎながら歩いているのだ。
お陰で後方を歩く私は彼らの歩くペースに合わせて歩くしかなく、普段のペースよりも遅く歩くしかないのだ
このまま彼らの徒歩ペースに合わせて帰ろうとすれば帰宅する時間がいつもの1.5倍は掛かってしまう。
だがしかし、ここで彼らの前を横切ろうならばリア充グループに絡まれて更に時間を掛ける事は確実だ。
おのれ、リア充グループ……。リア充グループは渋谷の有名カフェでイチャついていればよいものを……。
いくらリア充グループに負の念を送ろうとも、非リア充の私に彼らをどかす力などない。
仕方ない、多少時間は掛かるけれど彼らと行き先が分かれるまで徒歩ペースを彼らに合わせるしかない。
そう思いリア充グループに気取られないよう気を配りつつ、彼らの後方を私は歩いていた。
横断歩道の赤信号で止まるリア充グループの後ろで立ち止まり、ようやく分かれるだろうかと思っていたその瞬間――――
足元に、変な文字の羅列の成された魔法陣的なものが浮かび上がった。
驚愕するリア充グループ達を横目に、私は思った。
(ああ……家に帰りたい……)