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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章23 『第三層』

「これ、第三層だよな……?」


「そのはずだけど……ここまで来たご褒美って事かな」


「すっげぇ構造」


 振り返ると三層への入口には魔物が入って来れない様に結界石なる物が置かれていて、そこから出る薄緑色の光も相まって虹色の光が作り出されているみたいだった。

 水中トンネルって奴だろうか。それが自然で作られただなんてどう考えても無理があるけど、それでも目が奪われてしまう程の光景が作られていたのは確かだった。

 やがてアリスが魔鉱石に触れるとあり得ない事を言いだす。


「……人工物じゃないわね」


「え!? って事はこれが自然に作られたって事か!?」


「正確に言うなら魔鉱石自体は人工じゃない。このトンネルは掘られた物だろうけど、ここから向こう側は全くの手つかずみたい」


「じゃあ、掘っただけでこの光景が作り出されたと」


「多分ね」


 ジルスの問いにそう答えて見せる。

 でも、どう見たって掘っただけでこうなるとは思えない。だって水は上から流れてきているみたいだし、左右には見えなくなるくらい空間が広がっていて、そこに滝の様に水が落ちて行ってる。いくら《深淵の洞窟》とは言えそこまでは……。

 そう考えていると最も手っ取り早い方法をクリフが言う。


「とりあえず進んでみようぜ。キャンプにつけばここの謎も分かるだろ」


「そ、そうだな」


 一同は不思議に思いながらもそのトンネルを進む。ナナにとっては初めての光景なのだろう。食いつくように見つめては目を輝かせていた。

 しかし、ここだけでも十分なくらいに不思議な世界なのだけど、そのトンネルを抜けた先に待っていたのは更に不思議な世界だった。だからそんな光景が待っているだなんて思わず唖然とする。


「……もう何でもありだな」


「ああ。いっその事《深淵の洞窟》だしって言葉で捉えた方がよさそうだ」


 だってその先には一つの街が作られていたのだから――――。

 まず卵みたいな形状をした壁があり、その内側で壁に沿って建物が作られているイメージだ。下に行けば行くほど建物は密集していて、一番下には更に下へと続く穴が存在している様子。《深淵の洞窟》内でそんな光景があるだなんて誰が予想しただろう。


 天井には既にお馴染みと化している魔鉱石がぎっしり生成されていて、そこから発生される光を太陽光代わりにしているらしい。昼と夜の区別ってどうしているのだろうか。

 そう考えていると横から一人の男が歩いて来る。


「初めまして。攻略者の方でしょうか?」


「まぁ、そうだけど……」


「おお、お疲れさまでした。ぜひこちらへ。少しでも休めになってください」


「ありがとう」


 ジルスが話すと彼はキャンプへ案内してくれる。だから彼に付いていくと、壁の外周に付いている長い下り坂を下り坂を歩いて行った。入口のすぐそばに小さな役所みたいな所がある辺り、いつでも攻略者が来ても言い様に構えているのだろう。

 やがてアルは案内をしてくれる男に問いかけた。


「あの、ここって第三層……なんですよね?」


「はい。まぁ、正確に言えば第三層はこの下になるのですが。ここは《深淵の洞窟》で二つ目の街です。第一層に作られている街よりも強い亜人達が暮らしているんですよ」


 そう言われて街中を行き交う人々を見た。確かに頭にはケモ耳が生えているし、中には完全に犬の顔をしたような亜人まで見て取れる。

 全員、こんな洞窟の中だと言うのに誰一人暗い顔をしていなかった。


「ここの亜人達は、何をして……?」


「一層同様に色んな物を生産して暮らしています。迫害対象である彼らにとって、ここだけが唯一の天国ですから」


 唯一の天国と言う言葉に少しだけ反応する。

 迫害されて、追い出されて、辿り着いた逃げ場がいつ死んでもおかしくないこの洞窟。人間にとっては恐怖の対処でも、亜人にとっては天国同然の場所なんだ。

 普通の人なら価値観の相違で亜人の事を更に差別化するだろう。でも基本的に異世界人との常識のズレを起こしているアルからしてみれば彼らの気持ちが痛いほど理解出来た。

 やがてクリフは壁の構造に付いて問いかける。


「えっと、この壁ってどういう構造なんだ?」


「この空間は巨大な卵の殻みたいな形で作られています。殻の内側に街を作り、外側にはちょっとした隙間の間に水が流れてるんです」


「人工……じゃないんだよな」


「情報によると初めて到達した時には既にこの形だったいみたいです。水が流れて来るのも卵の殻の様な形になっているのも全て不明ですが」


 やはり何度聞いても理解し難かった。だってこんな空間が自然で作られる訳がない。卵の殻みたいな構造ならずっと流れて来る水の重みに耐えきれず殻が壊れたっておかしくないはずだ。よく見てみると壁の一部を破って外から水を街に引いているみたいだけど、そこから殻が壊れる可能性だってあるのにどうして――――。

 いくら考えたって埒は明かなかった。


「アリシア、どうだ?」


「例の説で行くのならあり得なくはないです。まぁ、無理はありますが……」


 耳元で質問するとそんな答えが返って来る。

 大罪の作った穴を誰かが手入れした。確かにその説なら休憩ポイント的なのを意図して作ったのだと理解出来る。なら何でこんな構造にしたんだって疑問が出て来る訳だけど。


 でもここに住む亜人にとっては天国同然なのだ。なら疑う余地何てないし、何よりここ以外で安全出来る場所なんてないん。だからこそ何も疑問に思っていないのだろう。

 やがてある程度まで進むと一目でキャンプと分かる所まで到達した。


「着きました。ここが第三層のキャンプでございます。必要な物があればこちらでお揃えください」


「ああ、ありがとう」


 そう言うと男はせっせと坂道を登って行った。

 キャンプには既に何人かの攻略者がとどまっている様で、何だか市場の様な光景になりつつも売り出される商品に目を付けていた。そんな光景を見てもう一度ここが第三層なのかと疑問に思ってしまう。


「……本当に第三層なんだよな」


「そうだ。本にもそう書いてある」


 今更ながらも第三層についてのページを開くとこの街の事を理解しつつライゼ達にも提示する。どうやらこの下が第三層となっている様で全面洞窟となっているらしい。ここからは急に難易度が高くなるから第三層で攻略を止める攻略者も多いのだとかなんとか。

 そんな情報を見ると【ゼインズリフト】の面々が面倒くさそうな顔をする。


「うっわ。二層程じゃなくても複雑なんだな……」


「マシな方だ。だって二層の地図これだもん」


「…………」


 だからアルが必死こいて読んでいた二層にある一段目の洞窟の地図を見せると一斉に黙り込んだ。まぁ、地図なんて見る余裕はないんだから当たり前だろう。

 クリフ達もその地図を見るなり黙り込む。


「何、アルこんな複雑な地図読んでたの。あんなぐわんぐわん揺れる中で」


「うん。更に首元にかけてたランタンも揺れるから暗かったんだぞ?」


「視力よ過ぎない? 羨ましいんだけど」


 するとウルクスからそんな言葉を貰った。でもアリスからも動体視力とか諸々良いって言われたし、何気に地図を読んでいたのがアルで正解だったのだろうか。

 さり気なく褒められつつも本のページをめくった。


「ちなみに第三層は上級の魔物が現れるらしい」


「上級の魔物か。それはそれで厄介そうだな……」


「「……あれっ?」」


 喋っている内に気づく。

 そして即座に魔物について詳しいジルスとアリスに視線を向けると二人は何の表情も変えずに行って見せた。


「ありゃ上級だよ。核あっただろ」


「その通り。あれが普通の上級。中にはもっと強い個体もいるはずよ」


 すると【ゼインズリフト】の面々はアリシアを除いて絶望した。だってそうなるとあれくらいの奴らが普通に出て来るという事になるのだから。

 今までアリス達がいてくれたおかげで精神的に余裕だったけど、今一度この洞窟がどれだけ難しいのかを思い知らされてその場に座り込む。


「って事はあれ級の奴が当たり前に出てくんのか……。あれだけ苦戦したのに……」


「私達どうなっちゃうんでしょうね」


「この先は地獄とかしてるんだろうなぁ」


「みんなの士気が一気に下がった……」


 まぁ無理もないだろう。近接戦闘員だけで襲いかかってもあれだけ苦戦したのだから。だれも怪我をしていない辺り完全勝利と呼べるのだけど、その過程では苦戦と呼べるくらいの戦闘が繰り広げられたのだ。みんなはあれで痛み目を見ているはず。

 やがてクリフはアルに問いかけた。


「アル、これからどうする?」


「えっ? う~ん」


 いきなりそう聞かれて黙り込んだ。

 本音を言えば今すぐにでも出発と行きたい所だ。でも第三層には来たばっかりだし、あまり体を酷使し過ぎるとどうなるかは知っている。だから今は休憩する事を選んだ。


「流石に休もう。いくら一日休んでるとは言え一層に続けて二層も連続で攻略したんだ。今日は日が明けるまで休憩しようか」


「りょーかい。じゃあどっかで宿を取らねぇとな」


 するとクリフは早速ジルスを連れてどこか安く泊まれる宿を探しに行った。要するにここで待っていろという事なんだろう。

 休む事を決めたら特にする事もなくなったので適当にそこら辺で売られている物でも見ようと売店に歩み寄った。みんなもそれぞれで買い足す物がないかと確認しては買い物を確認する。

 でも、その瞬間にまた異変が起きた。


「……地震?」


「デカいですね」


 昨日に続けて今日も起きた地震。それも昨日と同じくらいの。

 揺れた瞬間から見える範囲での街の人々は咄嗟にしゃがんでは何かものにしがみ付いた。アル達も一応売店の壁とかに掴りつつも揺れが収まるのを待つ。

 しかしあの時と同じ揺れ方だと言うのを二人は察していて。


「アリシア、今の」


「ええ。絶対に例の巨大な何かでしょう」


 同時に地面を睨んだ。第三層と、その先にいるはずの巨大な何かに向かって。

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