第三章22 『洞窟の中の洞窟』
「――危ない!」
「うわっ!?」
アリシアが飛び込んで自分ごとアルを突き飛ばすと、左右から出現した蜘蛛みたいな魔物は互いの腕に付いた鎌で互いを突き刺し悲鳴を上げた。
その瞬間にアリスとクロードが素早く対処して魔物を消滅させる。しかしそれだけで自体が収まる訳じゃなくて。
「魔獣が来る! 走れ走れ!!」
「あ、ああ!」
走って来る魔獣を見つつもジルスの声でもう一度走り始めた。今は洞窟の入り口。こんなところで立ち止まっている訳は到底いかないのだ。
けれど駆け抜けながらも異変は次々と起って行く。
「なんか洞窟に入ってから急に騒がしくなったな」
「そりゃここが第二層の山場と言ってもいい。騒がしいのは当たり前だ」
「にしても結構壁とかぶち破って来るんだな……」
いくら分かれ道が多いとはいえ、魔物は壁をぶち破ってはアル達を襲っていた。左右からは当然として時に真上からも。その度にアリス達が一撃で消飛ばしつつも洞窟を走っているのが現状だ。
強い人が多いからこそ強い魔物が惹かれる。その原理で言うのならこんなにも危険な攻略はないだろう。いつ襲って来るかも分からない上に襲って来る時は壁をぶち抜いて来るし、その魔物が普通に見たら強いのだから。
「次どっち!?」
「え~っとここは右だ右!」
先頭を走るアリスがそう問いかけるといつの間にかジルスの担がれていたアルは本を見てルートを開設する。それも首元に魔鉱石のランタンをぶら下げながら。
状況が状況だから立ち止まる事は許されないだろう。立ち止まった瞬間に四方八方から魔物が襲って来るだろうし。
「次を左! それで突き当りがあるから更に左だ!!」
「分かった!」
だからこそ案内役と言うのは凄い重要になって来る。一歩も止まらずに走り続けているこの中じゃルートを一個でも間違ってしまえば半永久的に迷う事となるのだから。故に物凄い集中力を必要とする。
走っているから首元にかけた魔鉱石のランタンは揺れまくり、洞窟には基本的に真っ暗だから時々地図が見にくくなってしまう。
「なぁ、これどれだけ走ればいいんだ?」
「知らん! そんなの計算できるか!」
「投げやり!?」
ライゼの愚痴に半切れで返しつつも地図を凝視する。
正規のルートが赤い線で引かれていて本当に良かった。引かれていなかったら今頃とっくのとうに迷子になっていただろう。まぁ、どうであれランタンが荒ぶるから見にくい事には変わりないのだけど。
「次を左、三つ目の曲がり角を右!」
「了解!」
そうしている最中にも魔物たちはA級映画さながらの登場の仕方を続ける。どうやらこの洞窟の中には幾つもの部屋があるみたいで、他の攻略者がその部屋へ行かない分その部屋で大きな魔物達が沸いている様だ。
つまり今現在で沸きまくっては溢れ返っているはずだ。その大量の群れがアリスたちの強さに反応して接近してきている。
ハッキリ言おう。地獄だ。
「しっかししつこいわね。この洞窟全体に炎を撒き散らせたらいいんだけど」
「仕方ないだろ、アリス並の強い人はほとんど来ないんだから」
「どうして定期的に強い人が来ないのよ……!」
アリスもその数に愚痴を漏らし始めた。まぁ、当然の反応だろう。
洞窟に入ってからどれくらい進んだだろうか。残りの距離を計算してる余裕なんてないから後どれくらいなのかは全然わからない。だからこそ焦りの味は口の中に広がっていった。
――あとどれくらいだ。どれだけ経てば第三層に到達できる……?
もどかしい時間は続く。それも歯を食いしばってしまう程に。
一度地図から目を離してしまえば現在どこにいるかの特定が難しくなる。だから絶対に目は話せない。しかし体と同時に地図も激しく揺れるから常に自分の位置を特定するのが困難で、常に混乱しながらも案内していた。
そしてついに希望が見える。
「――真っ直ぐだ! 真っ直ぐ行けば下り坂があるはず!」
「わかった!!」
ついに案内が終わる。そう思って気を抜きかけるのだけど、困難はまだまだ続いていた。だって通路を塞ぐように今までとは違う魔物が現れるのだから。
さっきまでと同じ様にアリシアとアリスが同時に攻撃を仕掛けるのだけど、ビクともしなかった魔物は真っ赤な眼でこっちを睨んだ。だから仕方なく立ち止まってしまう。
「ちっ。もう少しだってのに……!」
「魔法が駄目なら刃で行くぞ!」
その瞬間からクリフが先陣を切ってカマキリ型の魔物に突っ込んだ。けれど光と音を含めた刃にも関わらず鎌に当たった瞬間に弾かれる。しかも刃の命中した所にはほんの少ししか亀裂が走っていなくて、それだけでも打ち破るのは容易じゃないのだと悟らせる。
そして立ち止まっていれば背後から無視していた魔獣が走って来る訳で。
「アリシア、炎!!」
「はい!」
クロードの指示でアリシアは背後に大量の炎を放出した。それに当てられた魔獣たちは一瞬にして灰と化していく。
今だけは一秒でも立ち止まっている時間なんて無い。それを全員が理解しているからこそ一斉攻撃が始まった。
「そこどきやがれ!」
「絶対に押しきるんだ!!」
そんな風にして全員の刃が魔物に向かって叩き込まれる。一カ所に向かって全員で攻撃すれば流石に鎌も破壊される訳で、魔物はその衝撃に耐えられず顔をのけぞらせながらも大きく怯んだ。
けれど同時に周囲から一斉に壁をぶち破って他の魔物が侵入してくる。だからライゼ、フィゼリア、クロードが左右からの魔物を抑え、クリフが天井からの魔物を蹴り上げた。そして最後に残ったアルとウルクスが同時に魔物の体を貫くと消滅しては道が開かれる。
「開いた!」
「行くぞ走れ!」
こんな所とはもうおさらばしたい物だ。だからこそ道が開いた瞬間に全員で坂道へ向かって駆け込むのだけど、第二層の牙はまだアル達に向けられていた。
さっきの魔物が破って来た壁から腕の様な物が伸びて来るのだから。
「なっ、手ェ!?」
「クソッ!!」
すると最後尾にいたクリフが火の弾を投げつける訳なのだけど、大きな爆発を引き起こしてもその手が泊まる事はない。それどころか皮膚が溶けながらも迫って来るから逆に背筋がより凍る事となる。
やがて半ば飛び込むように下り坂を降りると溶けた手はピタリと止まっては追って来なくなった。坂道で飛び込んだのだから当然雪崩れ込む様に全員が転がりながら次の広場へと突入した。
「だ、大丈夫かみんな……」
「オレは大丈夫だ」
「俺も何とか」
少しの間だけそれぞれの点呼が取られる。
起き上がってみるとそこはさっきよりも広い空間となっていて、周囲には魔鉱石も埋められているからランタンがいらない程度には明るかった。さっきとは桁違いに明るく広くなった空間に驚きつつも周囲を見渡す。
「……ここ、第三層って事でいいのか?」
「手が追って来なかったって事はそう言う事でいいんだろうけど、入ったらすぐキャンプがあるはずだぞ。そうだよな」
「ああ。そのはず」
死にそうだった事は一先ず放って置いて本を開いた。確かに地図によれば第三層には坂道を下ってすぐにキャンプがあったはずなのだけど……。
やがてもう一度地図を開いて唖然とする事になる。
「どうしたんだ?」
「いや、それが……」
何度確かめてもその事実は揺らがない。いや、むしろ揺らいでほしかった。やがてライゼ達が背後からその地図を覗き込むと同じ様に唖然とした。
だからその説明の為に何が起こっているかを伝える。
「第二層は二段構造。二段目こそ距離も短く通路も大きく迷いづらいが、凶悪な原生生物たちが多数出現する可能性がある……。つまり、ここは原生生物たちの庭って事だ」
そう言った瞬間にさっきと同じように壁がぶち抜かれては様々な原生生物が飛び出して来た。アリみたいな物や蜘蛛のような物まで、昆虫を基本としたような原生生物が大量に表れる。
だから全員でその数に背筋を凍らせながらもアリシアがアルの手を掴むと一気に駆け抜けた。
「だから走って逃げ――――むがっ!?」
「逃げるぞォォォォォォッ!!」
「「お~っ!!」」
好戦的であるクリフと恐れ知らず(?)のアリスとノエル以外は即座に逃げる事を決めてそれぞれの手を引きつつも全力で走り始めた。
そりゃ全方向から同時に現れればそんな反応にもなるだろう。
「もしかしてあの時に魔物が追ってこなくなった理由ってこいつらなのか!?」
「みたいだな。こいつらがいなきゃ今頃あの手も追いかけて来ただろうし」
「こんな数いるなら当然な気もするけどね……」
二段目はさっきの洞窟ほど広くはないし道も一本道。だからこそ全員は一心不乱にブレーキをかけずに走り続けた。
これはアルの情報不足故に起きた事態と言ってもいいだろう。アルがもっと本を念入りに呼んでいればこんな事にはならなかったはず。まぁ、そう思っても既に起っている訳だから仕方ないのだけど。
やがて全速力で駆け抜けた先でようやく第三層への入り口が見える。
「あれが本物の入り口って事でいいんだよな!」
「そのはずだ! 突っ込め!!」
二段目の入り口は割と大きかったのに三層への入り口は意外と小さい様子。だからこそ三列くらいに並ぶとそれぞれが飛び込むように入口へ突っ込んだ。
そして追いかけていた魔物はと言うと、図体に比べて入口があまりにも小さいから壁に激突して轟音を立てては三層の入り口を完全にふさいでしまった。故に坂道は真っ暗になり全員はまた転がっては雪崩の様に第三層へと突入した。
アルは顔面から地面の土に突っ込むと即座に顔を上げて辺りを見回す。
「うわぁ……」
「すっげぇ」
みんなもその光景を見て唖然とする。だってそれは地上にいれば絶対に生で見られる様な光景ではないのだから。全面に生成された薄い魔鉱石。それは光っては松明もない洞窟の中を照らしてくれていた。でも、それ以上に物凄い光景が作り出されている。
魔鉱石が半透明のガラスの様になっていて、そこに上から水が流れて魔鉱石に反射され、綺麗な虹色が周囲に作られていたのだから。




