第三章20 『苦戦を強いられる洞窟』
「氷!?」
「――構えろ!!」
巨大な鳶が氷を生成しては撃ちだした後、咄嗟にアリシアが炎で撃退しては水煙を周囲にまき散らした。その直後にクリフが大きく飛び出しては切り裂くとまでは行かずとも半ば叩くように槍を扱っては巨大な鳶を叩き飛ばした。
けれどそれだけじゃ終わらない。続いて他の個体が連続で降下してくるのだから。
「あいつらって空を飛ばない限り敵対しないんじゃなかったのか! それに完全に氷撃って来たよな!?」
「そのはずだ! 氷に付いては生態が明かされてないらしいから何とも言えないけど……とにかく今は撃退するしかない!!」
本の情報によると奴らは近づかない限り――――つまり飛行しない限り敵対はしないはずだ。この原生生物が攻撃する理由は捕食じゃなくて縄張りから追い返すだけらしいから。
でも今回に限っては全く条件に当てはまっていない。それどこか飛行すらもしてないのに襲って来るってなると何かが起っていると思ってもいいはずだ。
遠距離攻撃を持つジルス、アリス、ノエル、アリシアの四人が主になって飛んでくる原生生物を撃退する。けれど如何せん素早い上に回転しながら突っ込んで来るから攻撃が当たりにくいみたいだった。まぁ、それも『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』戦法でやればイチコロなのだけど。
次々と巨大な鳶が墜落していく中でアル達はその光景を見つめていた。
しかし次々と波乱は起きていく訳で。
「――アル! 全方位から来ます!!」
「えっ!?」
雷や氷が放たれる中、アリシアは咄嗟にそう叫んではアル達に戦闘の準備をさせた。そしてその声を聞いた瞬間に残ったメンバーはそれぞれで武器を構える。
話を聞いた感じだと魔獣が突っ込んで来る条件は相手を倒せると思った時だけらしい。つまり、今この瞬間こそが――――。
アルも神器を鞘から引き抜くと周囲から魔獣が突っ込んで来る。
「来るぞ、迎撃!!」
ライゼの掛け声を合図に神器を振り上げては魔獣を一掃する。近接戦を得意とするみんなも各々の武器を振り回しては魔獣を振り払って一掃していた。でも魔獣は斬れば斬る程増え続ける。その感覚に既視感を覚えるのは当然の事で。
ふとクリフと背中合わせになれば彼女は呟いた。
「何か大罪教徒を相手にしてるみたいな感覚に陥るな」
「確かにな。斬っても斬っても増える所とか、ゴキブリみたいな所とか」
「ゴキブリて……。まぁ何も間違ってないけど!」
クリフも大罪教徒がゴキブリみたいと思っていた様子。まぁ、一人いたら三十人いると思えの精神で行けば囲まれた時にショックは小さいし、奴らは基本的に集団で行動する為当然の認識だろうか。
一瞬だけでも周囲を確認すればさっき以上の眼がこっちを見つめていた。確かにこんな数いればアリシアが七十匹はくだらないと言う訳だ。
「でも動きが単調で魔法を使わないだけまだマシだと思えよ! あいつらはまだ不規則に攻撃してくるんだから!」
「言われてみりゃそうだな。今思い返してみれば俺達どれだけ危険な奴らを相手にしてたんだか……」
クロードの言う通りだろう。魔獣も普通の冒険者にとっては十分苦戦するに値する相手でもある。けれど何度も相手をして来たアル達にとっては何ともない相手となるのだ。
だからこそ魔獣を撃退するのに苦戦は強いられなかった。まぁ、その分数で押されそうになる事はあるけど。倒す事は簡単でもいたる所から遠吠えが聞こえては連鎖的に遠くからも聞こえて来る。恐らく仲間を呼んで他の仲間が遠吠えで返しているんだろう。つまりもうじき増援が来る――――。
「遠吠えだ! 増援が来るぞ!!」
「増援……。要するに第二層中の魔獣が来る可能性があるって事だな」
「そう言う事!」
原生生物を相手にする四人はまだ敵を倒しきっていない。だからこっちに手を回す余裕なんて到底ないだろう。六人だけで第二層中の魔獣を相手出来るだろうか。
クリフとクロードがいるんだから大丈夫な様に思える。けれどどれだけいるかも分からない魔獣を相手に出来るのか。全員でナナを守りながらも抑えきれるのか。そんな疑問がよぎる。
やがて呻き声が周囲から反響しまくると赤い眼も増えていった。
「なぁクロード。これ全部相手にするってなったらどうなる?」
「ざっくり言うと厳しいかもな。正直こんな状況は苦手だ」
「だろうな」
少しの間だけ魔獣の動きが止まるからこっちもそれぞれが背中合わせで魔獣に刃を向ける。クロードも苦手と言う程の状況。第一層で十分痛い目に会ったけど、まさか第二層でもこんな目に会うだなんて思わなかった。
「にしても何でこんなに集まって来るんだ。正規のルートにはそんなに出現しないんじゃないのか?」
この現状にうんざりしつつもそう呟いた。
本で読んだ情報によると正規のルートにはあまり出て来ない。だから無尽蔵に沸いては奇襲を仕掛けて来る第一層よりも簡単な時があるって書いてあったのだけど、これは全くの真逆。むしろ一層よりも苦戦している状況だ。
すると原生生物を相手にしていたジルスが答えてくれる。
「恐らくアリシアやアリスの嬢ちゃんのせいだろ。俺にゃよく分かんねぇけどオーラ的な物に反応して寄って来るんじゃないのか」
「つまりあの三人が強すぎると?」
「そう言うこった」
「実際にありそうで困るな……」
だって邪竜と聖竜と大精霊だ。そんなメンツを見れば誰も挑まないし挑みたくもないし勝てる気もしないだろう。だからこそ逆に魔獣を引き寄せたのだろうか。あまりにも強すぎるオーラを放っていたから……。
そんな事を考えていると魔獣が一斉に飛び出して来る。
「来るぞ!」
「だぁ~もうどうにでもなれーッ!!」
するとライゼが面倒くさそうに頭を掻きながらもそう叫んだ。まぁ、こんな状況になったのならそう言う考えの方が良いのかもしれない。プラシーボ効果ってやつである。
こうなれば技術なんて関係ない。力任せの一撃でどれだけ同時に魔獣を倒せるかで全てが決まって来る。文字通り全てが。
クロードさえも引く程の数を相手にするのにはそれしか手段がないのだ。
「力技なら絶対に負けない……ッ!!」
そう呟いてから前方に全力以上の力で神器を叩き込んだ。すると生み出した衝撃は前方にいた魔獣を全て巻き込んでは肉片にして消滅していく。これがゲームとかだったら一気にレベル上がるんだろうなぁ、なんて事を考えながらも一心不乱に振り続けた。
みんなも力技で押しきり乱暴に振るっては魔獣を倒し続けた。時々原生生物が離れる度にアリシア達四人が援護してくれる時もあるけど、それでもやっぱり数に圧されているみたいだった。
やがて周囲には魔獣の血が大量に残る事となり、そこらへんも考慮して吹き飛ばしていたはずなのに足元は滑りやすくなっていった。
だから足を取られる分腰に力を入れる事が難しくなり、魔獣の数も増える中で次第と力技での攻撃が困難になって行った。
「なぁ、こいつらってあとどれくらいいるんだ……」
「ぐずぐず言わない! 現れなくなるまで倒すんだ!」
ライゼが弱気な言葉を喋るからウルクスはそう叫んで無理やりにでも士気を上げた。この場をやり過ごすのならそれしか手はないだろう。
苦しくなりつつある状況でアリシア達を見るけど、四人はまだ襲い来る原生生物を撃退している様子。それどころかジルス以外の三人は空に飛んでまで撃退を続けていた。だから増援は無理だと悟って軽く舌うちをする。
――長期戦になればなるほど不利だ。なら第三層まで突っ走るか? でも後半の洞窟は分かれ道も多くて迷いやすいって本に書いてあった。集団で迷えばそれこそ絶体絶命……。
恐らく洞窟の中にも魔獣は出現するだろう。それだけじゃなくきっと原生生物も数多く存在してるはず。その中で迷ってしまえば道も分からない中で常に襲われる事となる。現状でここまで苦戦しているのに大丈夫なのか――――。
その時、遠くから大きな土埃が巻き上がった。
「何だ!?」
「魔獣とは違った奴が来ます! 構えて!!」
全員がその方角に気を取られるとアリシアが鋭く叫ぶ。
だから即座に全員は構えるのだけど、迫って来る物の大きさを見て戦慄した。だってそれは木々よりも大きい巨大なゴリラの様な魔物だったのだから。
白い体毛に灰色の肌。そして真っ赤な眼。尻尾には蛇みたいな生物もくっつき威嚇していた。そしてそんな魔物はアル達目掛けて真っ先に拳を振り下ろす。
「――させねぇッ!!」
すると飛び出したクリフが刃に光を纏わせながらも槍を拳に叩き込む。神秘の森じゃそれで硬い魔物が斬れたというのに今回は互角の硬度。だからそれに表情を歪めながらも力でその拳を押し返した。
それからアルも大きく飛び上がって幾重にも回転すると全力で遠心力の乗っかった神器を頭に叩き込む。これで普通なら脳もパッカーンとなってるはずなのだけど……残念ながら完全には切り裂けずにグロテスクな見た目になる。
「うぇっ、気持ち悪……」
「脳に刃が届いても死なねぇのか。これは相当厄介だぞ」
その姿の気持ち悪さに吐き気を感じつつも神器を向ける。クリフはそんな姿になっても死なない事に驚いている様で、明らかに普通の魔物じゃないと即座に悟った。
やがて魔物は斬られた所を再生させると大きく咆哮してはもう一度拳を振り上げた。だから間一髪で避けるのだけど、その瞬間にクリフは何かを悟ったように表情を変える。
「……そう言う事か」
「そう言う事って、どういう?」
少しだけ距離を取るとクリフは即座にこの洞窟がどういう難易度なのかを見抜いた。それも現状と重なる様な説明も加えて。
「この洞窟は強い奴が多いからって簡単にはならない様に出来てるんだ。強い奴が来ればその分強い敵が現れる。逆に弱い奴が来れば強い奴は来ない。現状、オレ達がいるからこんなデケェのが現れてるって事だ」
「なるほど。確かにその説明なら理解出来るかもな……」
強い故のオーラってやつに反応するのだろうか。
って事は第三層もこれ以上の脅威が待っているという事になる。そう思うと気が遠くなりそうだけど、それでも根気強く攻略するしかないと言い聞かせた。
やがて魔物はもう一回拳を撃ちだす。
でも、その瞬間に全員を巻き込む程の衝撃が襲って――――。




