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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章19 『選択と出発』

「となると今すぐにでも出発するか?」


「う~ん……」


 これからの方針は決まった物の、クリフにそう問いかけられて黙り込んだ。

 何せこういうリーダーみたいな状況に陥ったのは初めての事だし、アルはまだその辺の見切りがあまりにも曖昧すぎる。だから反射的にジルスへ視線を向けると彼は少しだけため息をつきつつもすぐさま軽く幾つかの候補を上げた。


「アルとアリシアが大丈夫なら今すぐにでもいいんじゃないか。俺達はいつ戻って来ても言い様に備えてたし、時間は沢山あったからな。自分のペースで構わない」


 そう言われてからアリシアに視線を向ける。するとその行動を読んでいたかのように素早く頷いてはいつでも行けると表した。

 となればやる事は既に決まっている。


「じゃあ今すぐにでも出発しよう。本当に巨大な何かが出現したのなら俺達だけじゃなくてこの洞窟全体の問題にもなりかねないからな。確か、第二層には三つくらいキャンプがあるんだっけ?」


「みたいだな。まぁどこも休憩できるだけで道具が補充出来る訳じゃないみたいだが」


 さり気なく本を持っていたクロードに問いかけるとそう返される。大体のキャンプなんてそんなものだろう。というより休憩できるだけまだマシな方ともいえるかも知れない。こんな洞窟の中で安全な場所があるのは滅多にない事だから。

 いくら周囲に強い人がいるからって油断は大敵。アルは真剣に考えながらも言う。


「ジルス。大体の攻略ペースって計算できるか?」


「この洞窟で平均的な戦力……つまりアル達だけの戦力なら精一杯やって第二キャンプまでだろうな」


「って事はこのメンツで本気を出せば一日で第三層まで下りれるかも知れないって事か……」


 普通の戦力で一日かけて半分。まぁアリシアがいる分平均の感覚が狂っているはずだけど。そこに王国が信頼する程の冒険者が三人。大精霊が一人。そして聖竜族が一人……いや、一匹? その戦力なら一日で第三層まで進めるだろうか。

 急ぐのならアリシアを含めた六人が前衛でアル達が後衛の陣形で進めばすぐに辿り着くだろう。それが最も合理的な手段。


 ……でも、後ろに下がったままでいいのかって疑問が胸を突いていた。英雄に憧れたのに仲間を守ろうとしないで、守られたままでいいのかって。

 その選択が不合理的なのは百も承知。アルが意気込んだ所で六人と肩を並べて戦えるわけじゃないんだから。

 けれど憧れはやっぱり捨て切れなくて。


「アル、どうしたんですか?」


「あっいや、なんでもない。ちょっと考え事してただけ」


 頭の中では自分が前衛に立って魔獣を蹴散らす様が容易に想像できてしまう。しかしその想像を現実にするには最も合理的な手段を捨てなければいけない。どっちも斬り捨てたくない現状で、どっちを選べば最終的にアルの為になるのだろうか。

 問いかけて来たアリシアにもこの事は話さず他の事に集中させた。


「アル、編成はどうするつもりなんだ?」


「え? あ~……」


 いくら六人が強くともアルは“形上”でのリーダー。許容できる範囲でならみんなも従ってくれるだろう。逆にみんなが拒絶する様な事は自分でもやりたくないけど。

 でしゃばるのならここが絶好のチャンス。攻略スピードを捨てるか憧れを捨てるか。どっちも捨てがたい物だったけど、やがてアルは後者を捨てて守られる事に徹した。


「……前衛はクリフ、クロード、アリス、ライゼ、フィゼリア、ウルクス。後衛は俺、アリシア、ジルス、ノエル、それとナナってのはどうかな」


 そうしてアルは自ら後衛に回る事を決める。その判断をジルスに向けると彼は少しの間だけ考えこんだ。

 多分ジルスならアルが何をしたいのかを察しているはず。だからこそ表情は少し悲し気な物を浮かべていた。しかしジルスは包み隠さずありのままの感想を言って。


「良い配役じゃないか? バランスも取れてるし、近距離と遠距離の事もちゃんとうまい具合に分けられてる。最短効率で行くのならこの構成がいいはずだ」


「……そっか」


 本当は「アルも前に」とかを言って貰いたかった。でもジルスはそれを知ってもアルの意志も知ってるからこそそんな事は簡単にいえない。

 ……何と言うか、自分のせいで随分とみんなに気を遣わせては振り回してるような気がする。みんなアルが心の底から英雄になりたいという事を知っている訳だし。まぁ、それもこれもアルが強ければ解決した話なのだけど。

 それでもアルは前向きに見て顔を左右に振ると雑念を振り払った。


「ならその構成で行こう。いつまでもここに留まる訳にはいかないし、巨大な何かって言うのも気になるしっ」


 背伸びをしながらもそう言う。

 そうだ。ただの攻略や力試しでここにいるのならいつまでも留まったって問題はない。でもアル達の目的は誰も到達できなかった最深部まで到達する事。だからこそこんな序盤で立ち止まる訳にはいかないのだ。

 更に色んなことがあってもまだ二層の最序盤。これからどんどん険しくなって行くのは必然。


 明るく振る舞っているとジルスやアリシアからの視線が刺さりまくる。残念がってる暇なんてない。いつも通りにしてる余裕もない。今のアルにとって、前世でもやっていた様に明るく取り繕う事しか出来ないのだ。

 それに取り繕う事なら大の得意なのだから特に抵抗はなかった。ただ周囲にしてみればそれは見苦しい物のはずだけど。


「みんな、今すぐにでも出発出来る?」


「大丈夫だぜ」


「むしろ駆け出したいくらいだ」


 確認を取ると全員が意気揚々と答えるからアルも頷いた。

 大丈夫。みんなとやればすぐにでも攻略できるはずだ。英雄を目指すのならその後でも十分間に合う。そう言い聞かせて納得させる。

 だからこそアルは拳を突き上げると大きな声で言った。


「よし。みんな、行こう!!」


「「おう!!!」」



 ――――――――――



 第二層の入り口付近にあるキャンプを飛び出した直後、全員で即座に陣形を組んでは森の中を早足で移動していた。

 前方の警戒はクリフ達に任せてアルは後方の警戒とナナの守備に努める。その他にもみんなそれぞれの役割を果たしていて、誰一人陣形を崩すことなく森の中を進めていた。

 そして敵が現れる時はアリシアが教えてくれて。


「右後ろ、来ます!」


「おうとも!!」


 そう言うと右後ろで構えていたジルスがしばらくしてから飛び出して来た魔獣の頭を銃で撃ち抜く。甲高い音がなると周囲にいたリスなどの小動物は怯えて逃げて行き、相対的に森の奥から真っ赤な瞳でこっちを見つめる魔獣があらわになった。


「しっかし、第一層と違って常に囲まれてるってのはちと厄介だな」


「どこから襲って来るからか分からないからか?」


「いや。それもあるが最も厄介なのは魔獣同士の連携だ」


「連携……?」


 ジルスの言葉にそう呟く。

 魔物は知能がないから相手を見つめるなり突撃してくる。しかし魔獣は少なくとも生き物が基板に作られているのだ。だから危険だと判断した所にはそこまで近づかないらしい。故に森の奥には大量に出現し、正規のルートでは対処できる程度の数が出現するようだ。

 でもいくら魔獣と言えどそこまでの知能があるとは思えないけれど――――。どうやらそうでもない様子。


「奴らは確かに魔獣だ。知能も通常の動物より低くい。だが腐っても狩りの本能は宿ってる。だから“狩り時”ってやつを知ってるんだ」


「つまり周囲にこれでもかってくらいの魔獣が集まって来ると一斉に襲って来るって訳か?」


「そう言う事だ。多勢でも相手が強けりゃ意味がない。だから奴らは勝てると思う量が来るまでその場で待機する傾向にある。恐らく、既に周囲には五十匹以上はいるだろうな」


「ごじゅっ!?」


 予想以上の数に驚愕する。見える範囲じゃそれ程には見えないけどそれくらいの数はいてもおかしくないって事何だろう。実際にアリシアに問いかけるとジルスと似たような返答が返って来て。


「アリシア、本当なのか!?」


「ええ。それどころか離れた所には七十はくだらないでしょう」


「これがギルド単体の攻略だと思うとゾッとするな……」


 ライゼの戦闘力でなら同時に相手を出来る数が七匹って所だろうか。つまりアリシアを除いた【ゼインズリフト】のみでの攻略となると最大でも四十匹くらいが一斉に襲って来るという事になる。それを四人だけで捌き切れるかどうか。

 最強クラスが六人もいる事に安堵しつつもみんなの後について行く。


「――前方から来ます!!」


 すると道の先に飛び出した複数の魔獣が突っ込んで来る。けれどクリフ達の手によって一瞬にして肉片と化して後方に飛んで行った。

 それから様々な方角から奇襲を仕掛けては全てアリシアに読まれ余裕を持って対応して見せる。だから気が付けば全員怪我一つもせずに第二層の中腹辺りにまで差し掛かっていた。


「このオブジェ、確か第二層の中腹辺りに設置されてるって書いてあったよな」


「確かに。って事はようやく半分か……」


「ようやくって言うよりかはもうって表現の方が正しいけどな」


 そう言うと話を聞いていたクロードからそう返される。

 確かに、アル達は普通の攻略者に比べて途轍もなく強い集団なのだから「もう」と言うべきか。そう捉えるとズルをしてるような気分になる。

 やがてもう一度進み始めるとアリシアは咄嗟に天井を見上げながらも叫んだ。


「――直上!!!」


「っ!?」


 誰も真上だなんて予想していなかった。だから虚を突かれて真上からの攻撃に備えた。けれどその先にいたのは魔獣なんかじゃない。空を飛ばない限り敵対する事はないはずの原生生物で――――。

 巨大な鳶の様な原生生物は大きくくちばしを開くと同時に鼓膜が破れそうなくらいに甲高く鳴き叫んだ。それから気が付くと氷を生成しては投げつける。魔法を使えないはずの原生生物が、これでもかってくらいの魔法を見せつけながら。

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