表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
93/167

第三章18 『状況報告?』

「大丈夫だったのか!? こっちは物凄く心配したんだぞ!?」


「まぁ、何とか大丈夫だったけど……」


 キャンプへ戻った後、みんなから質問攻めにあってアルには休憩時間なんて存在しなかった。そりゃそうだろう。普通なら正規のルートから外れた時点で死んだも同然の認識なのだから。そのせいもあってみんなの表情からは凄く安堵している事が分かった。


 アル達が落ちてからあの後、全員は全力で第一層を攻略しものの数分で第二層に到達したそうだ。それからはずっとアル達が戻って来るのを待っていたらしい。ライゼなんか神にまで祈っていたのだとかなんとか。

 アリスとノエルは何度も探しに行こうとしてはジルスに止められていた。二人なら戦力的にも安全だけどとりあえず引き留められたらしい。


 みんな、相当心配していた。アルが返ってくれば涙目になる程。

 クリフなんかアリシアが戻って来た頃には飛んで喜んでいたのだ。それ程なまでに心配されていたんだって思うと、逆にそれの程なまでに仲間だと思ってたんだって気づくから意外と嬉しい。

 やがてアリスは二人の服装の汚れ具合を見ると問いかけた。


「……二人共どこにいたの? 到底野宿した様には見えないんだけど」


「ああ、それには少しだけ事情があってさ。それがみんなに話したい事でもあるんだ」


 するとアリシアが軽く反応する。けれどアイコンタクトで深くは話さないと返しながらも口を開いた。アルが経験した事の一部始終を。

 けれどその話を聞けば首をかしげるのは当然で。


「あの後少し進んだ所に遺跡があったんだ。それも意外と大きいやつ。そこには魔獣が容易には近寄れない結界があって、俺達はそこで一夜を過ごしたんだよ。だから服は汚れてないしほとんど戦ってもない」


「洞窟の中に遺跡……? 建てられないだろ、そんなの」


「まぁ俺もそう思ったよ。でも答えは得られなかった」


 一応大罪の事も伏せて話す。

 普通の人が物事と大罪を絡める事なんて絶対にありえない。だからみんなは疑問に首をかしげていた。当然の反応である。みんな“大罪の作った所に立ってる”なんて考えは根本からしないのだから。

 改めてこの世界の人々が一種の洗脳状態に陥っている事に違和感を抱いた。


「それに状況から見てその遺跡が建ってたのって森の中だろ?」


「うん」


「なら尚更あり得ないし結界まで……。遺跡って呼ぶからには何百年もたってるのに結界が残ってるとも思えない。アリスはどう思う?」


 そうしてライゼはアリスの方に視線を持っていくのだけど、この世界の住人であるはずのアリスは既にその正体に気づいているみたいだった。長年の勘って奴だろうか。

 だからこそ返答に迷いながらもたどたどしい口調で答える。


「えっ? え~っと、確かにその現象は不自然ね。いくら結界と言っても手入れが必要だもの」


 ――アリスは気づいてるみたいだな。それにノエルも。クリフは気づいてない、か。


 その後ろにいたノエルもハッと驚いた表情を浮かべては顔を左右に振ってはうっかり喋らない様に口を閉ざした。

 アリスの言った事はさて置きクリフを見てみる。彼女も彼女で大罪には特に抵抗がないみたいだったから。……なのだけど、いくら大罪に抵抗がないと言ってもそんな発想には至っていない様子。そりゃアルの発想はこの世界の住人にとっては狂気に満ちてる様な認識なのだから仕方ないか。


 二人には後々話すとして、今は現状報告に努めようと話に集中力を向けた。

 みんなが知りたいのはアル達がどうしていたか。そしてアル達が知りたいのはみんながどうしていたか。だから今すぐその場で情報交換が始まった。


「アル達はその他に何かあったのか?」


「後は何もないかな。目覚めた瞬間から遺跡を出たから何か特別な物を見付けた訳じゃないし……。だよな」


「ええ」


 わざとらしくアリシアへ視線を向けると同調してくれる。もっとも、それはアリシアに見抜かれている様だけど。彼女から伝わる視線がそれを伝えている。

 やがてボロが出る前に今度はこっちから質問した。


「みんなもキャンプに下りてから他に何かあった?」


「こっちも特にないかな。ライゼが神様に懇願したくらいしか……」


「俺が何かの宗教に入ってるみたいな言い方やめてね!?」


 するとウルクスが額に人差し指を当てながら答えた。ジルスの方角を向くと彼もウルクスの言葉に頷いていて、本当に何もなかったんだと安堵のため息をつく。まぁ、安堵のため息をつきたいのはアルじゃなくてみんなの方だと思うけど。

 そうしてしばらくすると次はクリフが喋り出した。


「あ、でも何か変な事は起ったよな」


「変な事?」


「そうそう。気にする程度でもないんだけど、何かこう、デカい地震があっただろ?」


「ああ、そう言えば……」


 地震は遺跡の方でも確認したっけ。それもしっかりとした構造の遺跡が崩れるかもと思う程の地震が。確かに普通なら「大きかったね~」くらいの感覚で済むだろう。でも、そこに何か違和感を感じたのは事実。

 その話題が始まるとフィゼリアが言って。


「大きかったですよねー。階段を下ってる最中だったから転んじゃうかと思いましたよ。それに天井から石ころも落ちて来るし」


「分かる。ライゼなんか壁に剣突き刺そうとしてまでバランス保とうとしてたからな」


「かっ、階段でバランス崩すと危ないんだぞ!」


 それに続いてみんなも自分がどう思っていたのかを話し始めた。

 話の内容からしてやはりみんなは気にしていない様子。そりゃ地震なんて珍しい事でもないし、ただ洞窟の中だから危ないって認識だけのはずだ。

 なのだけど、確実にその中で何かが起っている事を予想している人はいる訳で。


「……ただの地震って訳でもなさそうよ」


「え? どゆこと?」


 アリスがそう言うと全員の視線を集めた。

 一応アルとアリシアも例の地震については違和感を感じているもののその正体は掴めていない。だからアリスの考えを聞こうとみんなと一緒に彼女を見た。

 するとアリスは床を指さすとアリシアに向かって言う。


「アリシア、階層をまたいで索敵って出来たりする?」


「階層をまたいで? どうしてそんな事を……」


「いいからいいから」


 疑問を抱きながらもアリシアはしゃがむと床に手を突いて軽く黒魔術を発動して見せる。普段使っている索敵魔法がソナーみたいな感じだから、いくら何でもそのままで階層をまたぐ索敵は不可能なのだろう。黒魔術を使っている事を不安がっていると一瞬だけ息を止めて力を入れた。

 まだ顔に黒い紋様が描かれてない辺り力をセーブしているのだろう。

 やがてアリシアは咄嗟に手を離すと焦った様な表情を浮かべながらも床を見つめる。


「どうした。何かあったのか?」


「そこまでの反応って事は、相当大きいのね」


 するとアリスは一人で納得しながらも頷いていた。それから洞窟攻略の発案者なアルに視線を向けるとハッキリと言った。それも、この状況じゃ攻略を断念せざるを得ない様な事を。


「この下……第三層か第四層に巨大な何かが出現してるみたい。それが地震の根源みたいね」


「巨大な何か? 何だそれ」


「私にも分からない。ただここからでも反応できるくらいの何かがこの先で待ち構えてるのよ。文字通り巨大な力を持ってね」


 その言葉に息を呑む。本当にその通りならかなりまずい事になるのではないか。実際に第二層でここまで苦戦したと言うのに、第三層か四層でそんな敵が出現したらどうなるかなんてわからない。最強とも呼べるメンツ揃いだけど、流石にそこまで行くと心配になると言うか何というか。

 少しの間考え込んでいるとふとした疑問が浮き上がってアリスに投げかける。


「どうして今それに気づけたんだ?」


「え?」


「だってアリシアが黒魔術を使ってようやく探知出来たくらいなのに、どうして黒魔術も使ってないアリスが気づけたのか気になってさ」


「そう言えば確かに……。精霊術ってそこまで出来るんですか?」


 アルがそう質問するとみんなも同調して同じ疑問をアリスに投げかけた。でも本当にその通りだ。精霊術の原理は知らないけど場合によっては黒魔術並の力を発揮する事もあるのだろうか。

 そう質問するとアリスは人差し指で円を描きながらもどういう原理なのかを説明してくれる。なのだけど、原理と言うのがアル達にとってはあまり理解出来る物ではなくて。


「精霊術は自身に宿ってる精霊の力を使って力を発動するの。そこらへんは普通の魔法と同じね。ただ、精霊は物理法則に従う必要がないのが最大の特徴。精霊が世界に接続して、本人がその力を制御する」


「要するに黒魔術の劣化版みたいな感じか?」


「そんな感じで在ってるかな。でもその代わり威力が通常魔法の何十倍も大きい。ロウソク程度の火でも触れれば溶け落ちるくらいにね。で、それを極めれば黒魔術とまではいかずともそれに近い事が可能になるの。私の神器解放が一つの例かな」


「あ~……」


 神器解放は本質を解き放つ。つまりあれは精霊だけの力で引き起こされた現象で、それが精霊術を極めた例なのだろう。つまりアリスは神器がなくとも触れれば全てを消失させるビームを放つことが可能と……。考えただけでも背筋が凍る。


「だから私も探知出来たって訳。まぁ流石に黒魔術と比べれば反応は少なくなっちゃうんだけどね」


「近づけるだけでも十分じゃ?」


 マナが物理法則に従っているせいで感覚が狂っていたけど、ここは剣と魔法の異世界なのだ。だからこそ精霊がいたって何らおかしくない。そしてその精霊を使役する人がいたって。

 やがて話題が逸れて行っている事に気づいたアリスが咳き込んで間を取ると話題を修正した。


「とにかく、この下で何かが起っている事は確実。それでアルはどうするの?」


「え、俺は……」


 突如向けられた問い。でもこの中でリーダー的な立ち位置にいるのはアルだし、アルが攻略を断念すると言えばみんなも諦めるだろう。多分悔しがると思うけど。

 ……それでも、今は気になる事が増えてしまった。最初は転生した理由を知りたかっただけなのに今となっては洞窟の真実まで知ろうとしているのだから。だから、諦める訳にはいかない。一度決めた事は曲げたくないから。


「――進もう。洞窟の奥へ。みんなで真実を確かめるんだ」


 そう言うと全員が嬉しそうな表情を浮かべ、クリフ達は意気揚々と拳を合わせていた。みんなもせっかくここまで来たんだから諦めたくないだろう。まぁ、せっかくと言ってもまだ第二層なんだけど。

 やがてアルもアリシアと顔を合わせて頷いた。

 この洞窟には、絶対に何かが眠っているはずだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ