第三章17 『合流』
結局あれから遺跡で一夜を過ごす事となった。アリシアが念入りに調べた結果この遺跡には何かしらの結界みたいなのが張っている事が分かり、それが魔物たちが嫌う物なのも判明した。
だからここが安全と分かった瞬間にアルはここで野宿しようと決める。まぁ、魔物が入って来れないだけで原生生物は入って来れるらしいのだけど。
今までこんな遺跡で野宿なんてしたことがなかったからこそ自然とテンションは上がって行った。いつ死んでもおかしくない所なのに。
遺跡の二階で異変にも気づきやすい窓のある廊下を寝床にしつつもアルは呟いた。
「何かゴメンな。俺のせいでこんな事になっちゃって」
「アルのせい?」
「だって本来ならキャンプに戻るのが合理的なのにここにいたいって押し切って、最終的にここで野宿するハメになって……」
あの時のアリシアの選択は正しかった。そしてアルの選択は間違っていた。それを自覚していながらもアルは好奇心でアリシアを押してこの遺跡に留まる事を選んだ。普通ならそれはタブーも同然。いくらここが安全と言っても動かなきゃ何も始まらないんだから。
アリシアは薪を置きながらもこっちを見つめていると軽く噴き出して。
「でも、そのおかげでいい事もありました」
「良い事?」
「例の話は前々から話そうと思っていましたから。ただ勇気がないだけで」
「そ、そっか……」
果たしてあの話は良い事の内に入るのだろうか。だって話し終わった後に凄い悔しそうな表情で拳を握りしめていたし。
……けれど、ここで話すきっかけになったのはアリシアにとって良かった事なのだろう。ずっと話せないままモヤモヤした感情を抱えていただろうし、洞窟の中に入れば常にみんなが傍にいるだろうから。
やがてアリシアは続けて言う。
「それに私の知らなかった事も謎だらけですが知れましたし」
そう言って足元の地面を軽く撫でた。
あれからしばらくの時間が経つもアリシアに記憶は戻っていない。まだ不明瞭な記憶のままだ。ここを調べるのなら残らなきゃいけないけれど、流石に二日もここに留まる訳にはいかない訳で。
「でも、戻る時間を考えるのなら昼になるまでに謎を解かなきゃいけない。無責任な言い方になるけど、何か方法はあるのか?」
「……ないです」
するとアリシアはそう言う。それに少しだけ反応する訳なのだけど、彼女はようやく火のついた焚火を見つめると静かに呟いた。
でもそれは根拠も何もない曖昧な言葉で。
「ですけど、多分大丈夫だと思います。きっと」
「多分って、曖昧なんだな……」
「アルにだけは言われたくないです」
「あはは~……」
そう言うと少しだけ睨まれて苦笑いを浮かべた。まぁ、アルもよく曖昧な言葉を使っては皆を困らせているのだから当たり前か。
しばらくの時間が経つと肌寒い風が流れて肌を撫でた。昼間は温かいクセに洞窟の中なのも相まって中々に寒いのが何気に腹立つ。
「そろそろ寝るか」
「はい」
そう言うと二人で簡易型のベッドに寝転んだ。何と言うか、今回に限ってはようやく異世界人の知識を発揮できた気がする。まぁ、それもそれで普通に知識があればこの世界じゃ当たり前の事なはずだ。キャンプに詳しい人からすれば当たり前だろう。
しかし問題が一つだけあった。
「……かった」
――――――――――
翌日。
早朝になるなりアル達は起き上がってすぐに身支度を整えた。寝る前に話し合いはした。故に行動に迷う事はない。
素早く神器を腰に下げると頷いて一斉に遺跡を飛び出した。
「にしても本当に良いんだな、遺跡から離れて!!」
「既に記憶に入っていれば十分です! それに気になるのなら戻ってくればいいだけ!!」
「まぁ正規のルート以外じゃ戻って来れない可能性が大きいんだけどな!」
そう喋りながらも森の中を走る。ここまでで大体十分くらいだろう。これで早い方か否か……。
やる事は遺跡に向かうまでと全く変わらない。索敵魔法で魔獣の位置を探知しながらも人がいる所を探す。ぶっちゃけ言えば運頼みである。
キャンプには遺跡と同じく人為的な結界が張ってあるらしいから魔獣は“ある程度なら”近づかないらしいけど、近づかないからってキャンプの周囲に魔獣が集まっていればそれはそれで問題だ。
「なぁアリシア。キャンプの周囲に魔獣が集まってたらどうするつもりなんだ?」
だから気になってそう質問するのだけど、アリシアの返答は予想より斜め上の回答で。その返答にびっくりした。
「その時は全部ぶっ飛ばします!」
「わぉ大胆……」
でもアリシアなら普通にできるだろう。実際に本気を出せば国一つ滅ぼせる訳だし。
そしてある程度進むとアリシアは急に立ち止まってしまう。こんな現状で立ち止まるなんて普通じゃあり得ない。――つまり、何か異常な事が起っているという事になる。
察した瞬間に問いかけるとこれに限っては予想通りの事が返って来て。
「……何が起こる?」
「簡潔に言うと囲まれました。それも大量に」
「ですよね~。森の中で止まるってそれしかないし……」
すると周囲からは呻き声が聞こえ始める。それと同時に本能が危険信号を発した。これはヤバイって。いくら神秘の森みたく危険じゃないと言っても本能は危険信号を出し続けていた。
やがて魔獣は一斉に吠えるなり全方向から突撃してくる。だから咄嗟に神器を掴むのだけど、アリシアはアルを腕に抱えたかと思えばギリギリの距離で高く飛び、そして真下に集った魔獣に向かって思いっきり氷を投げつけて辺り一帯を氷漬けにした。
「ちょっ、飛んでいいのか!?」
「正直数が多すぎたので。でも、やっぱり予想通りになりそうですね……」
そう知って天井の方を見る。釣られてアルも見てみると天井に穴を掘って住んでいる原生生物達が一斉に向かって来ていて、大きなくちばしを開けては二人を丸のみにしようと甲高く鳴き叫んだ。
その瞬間にアリシアは同じく氷で凍らせつつも地面に落下させる。
こんな時ほどかなりの殲滅力と威力を持つ炎を出せればいいのだけど、この森が燃えないっていう不思議な力でも持っていない限り不可能だ。森全体が燃えれば第一層の人達が二酸化炭素中毒になってしまう可能性もあるのだから。
雷も燃え移る可能性があるから地上には放てない。水はそこまでの威力はないし、風の刃は感触に敏感な魔獣や原生生物に避けられる可能性が高いらしい。人間なら当たりやすいのだけど。
だからこそ簡単に出せて比較的高威力の氷に頼るしかなかった。
「俺、重くないのか?」
「一応私も神器な訳ですから重さは全く感じないんです」
「そうなんだ……」
空中で原生生物を迎え撃ちながらもそんな話をする。
やがてアリシアは上手くタイミングを見切っては原生生物の攻撃を回避して思いっきり飛び始めた。今まで危険があったから遠慮していた飛行でのキャンプ捜索を始めるのだろう。
……まぁ、危険なのは変わりなく、むしろこっちの方が危険な訳で。
「下から来るぞ!」
「下っ!?」
少しの時間が経てば原生生物は二人を囲んでから前後で攻撃を仕掛けて来る。やっぱり、予想は出来ていたけど魔獣じゃない分知識があるんだ。それも普通の動物以上に。
囲んで身動きを取れなくさせてから前後で襲いかかるなんて普通の動物なんてやらないはずだ。シャチとかそこらへんになれば話は変わると思うけど。……そもそもこの世界にシャチっているのだろうか。
そしてアリシアは横に回転すると周囲の原生生物とを雷で焼き払いつつも更に速度を加速させてその場を離れた。その最中でも地上を見れば数々の魔獣がこっちを見付けては吠えている所を見て、走りながらでのキャンプ捜索は難しい様だ。
「あれ、全力で飛んでる割には全然風が来ない……」
「風魔法で無理やり風を切って進んでるんです。これによって速度が上がるだけじゃなく真正面からぶつかった時に少しでもダメージが与えられますから」
「そ、そうなんだ」
アリシアがいるからだろう。何だか随分と心の余裕が生まれていた。前までは絶対に焦り散らかしていたはずなのに。
しばらくそんな事を繰り返して行く内にようやく狼煙を見つけ、その瞬間からアルは指を刺してその方角へアリシアを誘導した。
「――あっ、あそこに狼煙!」
「え!?」
こんなところで自然発火が起こるとは思えない。つまり、狼煙が上がっているという事は人がいる証拠。そして、この《深淵の洞窟》の中で人がいる場所と言えばキャンプしかいない。
そう理解した瞬間からアリシアは全速力でその方角に体を撃ちだした。アルは振り落とされないと分かっていても必死で彼女の体にしがみ付く。
「建物がある! キャンプだ!」
ようやく見えたキャンプ。その事に喜ぶのだけど、背後からは大量の原生生物が迫って来ているのを思い出して奥歯を噛みしめた。
このまま突っ込んだら間違いなく被害が出る。だからと言ってキャンプの周囲で戦うのも無理だ。となると残った可能性はたった一つで――――。アリシアはその考えとは大きく逸れた行動を取った。
「アル。構えて下さいね」
「あ、ああ! でも何やるん――――」
「飛ばしますよ!」
「えっ!?」
そう言うとアリシアはアルをキャンプの方角へ投げ飛ばした。そしてその瞬間に大きく叫びある人物を建物の中から呼び出した。
「クリフ―――――ッ!!!」
「ちょわあ!?」
するとその声に反応したクリフが建物の中から飛び出して来る。それからアルを見るなり受け止める為の態勢を整えて高速で吹き飛んでくるアルを真正面から受け止めてその場で回転した。
やがて目を開くと思いっきり心配したクリフの顔が目と鼻の先にあって。
「アル、大丈夫だったのか!」
「く、クリフ……」
けれど今はアリシアの方が気になって咄嗟に後ろを振り向いた。その瞬間には追いかけて来ていた原生生物は全部雷によって丸焼きとなっていて、煙を上げながらも落下していた。だからようやく安全だと分かって心から安堵の息をつく。
のだけど、まだまだ忙しくなりそうなのは変わら無さそうで。
「アル、帰って来てたのか!?」
「よかった。生きてたんだな!」
「みんな……」
建物の中から全員が出て来ては一斉に声を上げるのだから。




