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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章12 『不思議な遺跡』

 縦穴を落下している最中、アリシアはアルが怪我をしないように必死に抱きしめながらも落下していた。アルも彼女の体を抱きしめながら縦穴を抜けるのを待つ。

 やがて滝が作っていた大きな水溜りが目の前になるとアリシアは脚を下にして思いっきりブレーキをかけた。けれどそれでも完全に止まる事は出来ずにかなりの勢いで着水した。


 ――よかった。これでひとまず何とか……。


 鳶たちから逃げられた。それだけでかなりの安心感が沸くのだけど、ここはもう第二層の真っただ中。だからこそ水の中で目を開けた瞬間にサメみたいなのが突っ込んで来るのを見て思いっきり息を吐き出した。

 すると水の中から撃ち出す様に脱出し、それと同時にサメの原生生物もアル達を捕食しようと大きく口を開けながらも思いっきり飛び出した。


「びっ、びっくりした……」


「ここは既に第二層ですからね。油断はできないです」


 今度こそ大丈夫だろう。そう思ってアリシアに抱き着く。その瞬間に彼女の体が反応した様に小さく震えるのだけど、今度はまた一回り大きいサメがさっき以上の勢いで突っ込んできて。


「「はぁ!?」」


 咄嗟に更に上空へ逃げたものの、次第とその原生生物は飛ぶ高さを上げてはついにつま先にまで届く程飛距離を上げて来た。

 だからこそアルは必死にアリシアへ抱き着くと少しずつ上に浮上していった。


「アリシア、もっと上! 上!」


「分かってますよ!!」


 そう言い合いつつも何とか奴らが全力で飛んでも届かない距離まで移動する事に成功する。……のだけど、ここは《深淵の洞窟》。危険区域の中じゃどこにいったって安心出来る所なんてない。

 声がすると思って上を向いてみればさっきの鳶の内一匹がこっちに向かって急降下していて、アリシアはそれを見るなり後方へと思いっきり体を打ち出した。


「――マズイ、ここ奴らの縄張りなの!?」


「っ!!」


 撃ち出された衝撃に耐えつつも迫る地面を見つめた。この耐性じゃどの道ちゃんとした受身なんて取れるはずがない。だからアルは神器を振るうと思いっきり地面に叩きつけた。その瞬間からダメージを緩和しつつもアリシアと一緒に転がり木々に衝突する。


「ぐぁッ!! ……アリシア、大丈夫か?」


「何とか大丈夫です」


 そうして立ち上がると背中を摩りながらも落ちて来た縦穴を見た。どうやら一層の床から二層の天井までしかない様で、その範囲の中に巨大な鳶達は縄張りを作っている様だった。

 やがてアリシアは自ら唯一の希望を絶つ。


「落下中に思ってましたけど、戻れそうにはないですね」


「やっぱりか……」


「みんなも急いで第二層に行ってるはずなので、私達も二層のキャンプを目指しましょう」


「そうだな」


 何気なく絶望的な状況に目を背けたくなるも前向きに振り返った。けれどそこに映ったのは果てしなく広がる森と果てしなく広がった天井。それと所々で輝く魔鉱石のみ。だから本当に一層より小さいのかと疑問を抱いた。

 アルは簡単に攻略する方法として浮遊しながら進む事を提案したのだけど、そんな案は即座に斬り捨てられては否定される。


「なぁ、さっきみたいに浮かびながら移動って出来ないか? それなら危険もないしどこに何があるかも分かり易いし」


「無理ですね」


「えっ」


「あれ、見てください」


 そして指さしたを方角を視線で辿ってはどんな意味なのかを察した。だってその先にはさっきの鳶とまではいかなくとも凶暴そうな鳥が縄張りを張っていたのだから。

 確かにこれじゃあ飛行での進行は不可能だろう。誠に遺憾だが徒歩でキャンプに行くしかない様だ。……でも、それはそれで一つだけ大きな問題を抱える事となり。


「アリシア。キャンプの位置って特定できるか?」


「ごめんなさい。少なくとも索敵範囲に大勢の人はいないみたいです……」


「だよなぁ」


 第一層があそこまで進んでも半分なのだ。いくら小さいと言っても索敵範囲ないで全てを知れるなんて事は絶対にないだろう。

 となれば感を頼りに移動し続けるしかない。運が悪ければずっと見付けられない訳だけど。


「せめて壁沿いなら助かったんだけどな。一層の真ん中が第二層のどこに繋がってるかなんて分からないし、危険だから地図を書く時間も無かったみたいだし……」


 記憶の中でほんの情報を当たってみる。けれどどのページにも地図と呼べる物は書いてなくて、非常に大雑把な落書きみたいな物しか存在しなかった。その中には当然縦穴の事も書いていない。

 だからがっくしと肩を落としながらも軽く絶望した。

 こんな状況でさっきみたいに襲われたら本当に危ない。だからこそすぐにでもキャンプに向かわなきゃいけない訳なのだけど、その方角すらも分からなくて。


「あと、ここに留まってる時間もないみたいだし」


 咄嗟にアリシアがつららを飛ばした方角を見た。そこにはこっちに接近している魔獣が見えて、アルは無意識の内に手を柄に持って行きながらも周囲を見渡す。

 第二層に出現する敵対生物の大多数が魔獣だ。それも本によれば一層よりもかなりの数らしい。よく人が通る道は危険だって向こうも知っているらしいから対処できる数だけ現れるけど、森の奥がどれだけの数繁殖しているかなんてわからない。

 そして、二人のいる今この場所こそがその森の奥な訳で。


「なぁアリシア。この森焼き払っちゃダメかな」


「第二層の大半が森で構成されてるんですよね。そんな事したら第一層にいる人達が二酸化炭素中毒になっちゃいますよ」


「くっそ物理法則め……!」


 今更ながらこの世界が物理法則に従っている事に腹を立たせる。まぁ本気を出せば黒魔術も使えるのだけど、それは本当の本当に自分が死にそうだと思った時だけ。だから今使う訳にはいかなかった。

 とにかく移動しなきゃ危ない。そう思い至ったから二人で同時に走り始めた。


「とりあえず移動しますよ!」


「ああ!!」


 索敵魔法で魔獣がいる所といない所を見極めているのだろう。アリシアは手を繋いで先行しつつも右左へ体を振りながら魔獣の少ない場所を走っていた。

 走っていながらもどれだけの数なのかが目に見えて分かる。見えないだけで周囲から聞こえて来る呻き声や獣臭もすさまじいし、嗅いでいるだけで頭痛がしそうなくらいだ。

 やがてアリシアは走り続けていると何かに気づく。


「これって……?」


「どうしたんだ!?」


「魔獣が一匹もいない所がある……。そこに向かいましょう!」


 すると急に方向転換してはその方角へ走り出した。魔獣が一匹もいないって、そんなの安全区域のキャンプ以外にあるのだろうか。キャンプには結界石とやらが置いてあるから大丈夫らしいけど、危険区域の中でそんな安全そうな所なんて……。

 走るどころか既に浮いている中、アルは彼女の体に必死にしがみつきながらも振り飛ばされないように掴み続けた。

 そして森から抜けるとある光景を目にする。


「……!!」


 目の前に現れたのは遺跡――――だろうか。遺跡と呼ぶにはえらく荒れ果てて苔の蔓延った所だったけど、それでも身を隠すには十分そうな所だった。だからこそ遺跡に突っ込むと入り口っぽい所の扉を閉めては鍵までかける。

 そうして周囲を見渡すとその光景に見入った。


「遺跡……でいいのかな」


「みたいですね。どうしてこんなところに遺跡があるのかなんて不思議でならないですけど」


 アリシアは壁を触って感覚を確かめる。アルには触れても分からない事だけど、相当古い遺跡だったようだ。アリシアの顔がそう物語っている。

 でも考えれば考える程不思議な話である。こんな深い洞窟の中で、光も普通の半分しか差し込まなくて、周囲は物凄く危険なのに、いかにもな遺跡が建っているだなんて。


「本に遺跡の情報とかは……」


「全然。それっぽい物も無かったはずだ」


「だとしたら一度も発見されなかった……? それはそれで不可解と思いますけどね」


 アルも同じ感想を抱く。同じ様にして落ちて来た人なら百%サメの様な原生生物に食われるだろうけど、どこまで第四層まで広がっているかを確認する為壁まで調査していたはずだ。それなのに一度も遺跡に辿り着けないだなんて事は思えないのだけど……。

 それでも今は安全な場所がある事に安堵していた。やがて扉に背中を預けてずるずると座り込むとアリシアは他の所も調べ始める。


「もしかして、何か分かるのか?」


 期待を込めた言葉を投げかける。もしかしたら謎だらけの《深淵の洞窟》が何なのか分かるかも知れないし、これは流石に妄想だけどお金ももらえるかも知れない。

 けれど返って来たのは曖昧な言葉。


「私に理解出来るのはどれくらい前のものかだけです。まぁ、その憶測自体もあまり信頼できる物でもないですけど」


「どれくらい前、か」


 そう呟きながら壁をなぞった。苔が蔓延っている辺りかなり古い物と見ていいはずだ。軽い憶測だけど数百年前のものとか。

 アリシアは奥へ進もうとするから立ち上がって一緒に奥へ進む。ここまで古いのなら流石に罠とかは作動しないだろうけど、アリシアは炎で光を作りつつも遺跡の中を進んだ。


「外見だと結構ボロボロだったけど、中は意外としっかりしてるんだな」


「恐らく何かと争った形跡でしょう。この遺跡、構造自体はしっかりしてるみたいですし」


「え、分かるの?」


「はい。まぁ感ですが」


 言われれば確かに外見の崩壊様は何かと争った様なものだった。でも洞窟の天井を飛んでいる原生生物がここまで出来る物なのだろうか。

 やがていくつかの通路を通り越して大きな扉の前に辿り着くと、同時に頷いては剣を抜いてその扉を開けた。中には何が待っているかなんて分からないのだから。


「――――」


「これって……」


 でもその先にあったのは大きな食堂。縦長のテーブルにはボロボロになった布がまだかけられていて、壁は吹き抜けで庭が丸見えとなっていた。食堂と呼ぶにはいささか不十分に見えるけどそんな認識で大丈夫だろう。

 何だか世界遺産を見に来てる気分になりつつも呟いた。


「ここ、本当に《深淵の洞窟》の中なんだよな。何か異世界みたいだ……」


 文字通りの異世界に転生しておいて何を言う。自分でそう言い返した。

 けれどアリシアは答える事もなく無言でその食堂を見つめる。どうしたのだろう。そう思っているとアリシアはふと歩き出して。


「アリシア?」


 話しかけても反応はない。

 やがて机を撫でては軽く動かすだけで布は千切れてしまう。――――その瞬間、アルは大きな衝撃を受けた。


 だって、アリシアの頬に大きな涙が伝っていたのだから。

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