第三章11 『洞窟の牙』
「何だ!?」
ウルクスがそう声を上げた直後、真上に飛んで行った巨大な鳶は旋回しながらもこっちを見つめていた。やがて百八十度回転すると全力で落下しながらも大きく口を開ける。
だから神器を構えるのだけど、その瞬間にクリフが前に出ては槍でそのくちばしを叩き巨大な鳶を一時的に縦穴の中へ突き落した。
「い、今のも魔物……?」
「違う。今のは原生生物ってやつだ」
「えっ、あれが!?」
何か比べる方法でもあるのだろうか。クリフはそう言うと軽く縦穴の中を覗いた。すると巨大な鳶は今さっきと同じ様に飛び上がっては高らかに声を上げてはもう一度こっちに突っ込んで来る。それも今度は叩き落とされない様に左右へ体を振りながら。
「――飛べ!!」
それを見ただけで知能が高い事を見抜いたクロードは大きく叫んだ。そしてその声が聞こえた瞬間から全員が左右に思いっきり飛んでいて。
その場所に向かって巨大な鳶は容赦なくくちばしを叩きつけた。
「躊躇なしか!?」
「そりゃ向こうは殺す気で来てるからな! 全く以って厄介な原生生物だ!!」
出発前に読んだ本によると《深淵の洞窟》はいろんな場所で変な力場が働いているからこそ色んな現象を引き起こすらしく、独特の地形も多いからそこに適応した原生生物が多いのだそう。って事はこの巨大な鳶もその内の一匹って訳だ。
流石にこのデカさはマズイ。誰もがそう察する。だから逃げようとするのだけど、さっきの声で仲間が集まってはアル達の周囲を囲んで逃げ道を失くしてしまった。
だからライゼ達の表情には焦りを色が浮かぶ。もちろんアルにだって。
すると即座にクリフ、ジルス、クロード、アリス、ノエル、アリシアの六人が動き出しては囲んだ十匹の鳶を攻撃した。
「第一層でこんなデカイのが出て来るんですか!?」
「下は第二層に繋がってるみてぇだし不可能って程の話でもねぇはずだ! それに第一層でこんな奴が出て来るって事はまだまだ出て来るはずだぞ!!」
そう言うと言葉通り縦穴の中からは巨大な鳶以外にも壁を這って登って来た兎みたいな原生生物も出て来る。更に運悪く森の奥からは魔物もぞろぞろと集って来ていて。
アルはそんな四面楚歌に舌打ちしつつも神器を握り締めた。
「これが本当の《深淵の洞窟》って訳か……」
安全区域との差が目に見える。
まだ中半辺りなのにここまでピンチな状況に陥るだなんて流石に思わなかった。それに第一層でここまでなるって事は、第二層じゃこれ以上の脅威が待ってるって事だ。そう思うと絶望しそうになるも勢いでそんなものは吹き飛ばす。
するとクリフが全員に指示を出した。
「アル達はちっこい原生生物と魔物を頼む! デケェ鳶共はオレ達で片付ける!!」
「わ、分かった!」
普通の攻略者ならここで死ぬだろう。そう、普通なら。
勢いよく返すと六人はそれぞれで巨大な鳶を攻撃して撃退を始める。だからこそナナを残したアル達四人は軽く陣形を組むと四方八方から来る原生生物と魔物を迎え撃った。
のだけど、フィゼリアが相手していた兎は接近するなり涎を撒き散らしながらも超凶暴な形相をして突っ込んで来る。
「……えっ?」
だから口元を引きつらせてその光景を見た。けれどウルクスが即座にカバーへ入る事によって驚愕から抜け出して互いに剣を振るう。
「気を抜かない! 死ぬぞ!!」
「はっ、はい!」
すると互いの背中を守りつつも向かって来る原生生物を撃退した。だからこそ残ったアルとライゼは魔物を一掃していた。
知能がないから倒すのが簡単な分攻撃力が洒落にならない威力。恐らくまともに食らったらしばらくの間血が止まらないだろう。そんな相手と真正面から撃ち合っていた。
アリシア達は順調に巨大な鳶を撃退出来ている様で、アリシア、アリス、ノエルの三人は浮かびながらも鳶を撃退し続け、クリフ、ジルス、クロードは接近してくる鳶を振り払っていた。
原生生物は斬れば終わりだけど、魔物はいくら切っても数は増え続けては数で襲うとして来る。だからアルとライゼは迎え撃ち続けるも体力は次第と減って行く。どうすれば完全に撃退するのか。それを脳裏の中で必死に考えた。
けれど気を抜けば鋭い一撃が顔面狙いに飛んでくるし、考える隙なんて微塵もない。
「くそっ! 斬っても斬っても増え続けて来やがる!!」
「魔物だから仕方ないさ! もとよりこいつらって斬れば斬る程増えるんだしッ!!」
原理はよく分からない。でも斬れば斬る程増え続けるのが奴らの特徴だ。元から大量に一気に襲って来るはずだし、第一陣第二陣を構える知能なんてないはずだ。だからこそ斬れば斬る程増えていくんだ。
やがて足元に小さな石が転がる中で魔物を斬り払い続ける。
けど、そんな防衛線が長く続く訳もなくて。
「あ、しまっ!?」
「ライゼ!!」
攻撃を振り払った後に足を滑らせて転んでしまう。そこにカマキリの様な魔物が襲いかかっては鎌を思いっきり突き立てた。だから助けに入るのだけど、受け流した瞬間にライゼは腕に掠める程の距離で回避した。
その瞬間から余裕を持てたウルクスがカバーに入って来てくれて、何とかその魔物も倒す事に成功する。ただ問題なのはその数で。
「なぁ、俺の記憶が正しければ第一層って低級の魔物が出現するんじゃなかったか」
「その通りだ。まぁ、要するに低級の上って事なんだろ」
「って事は今までは本当の低級って訳だな……」
ライゼの言葉に短く答えた。
いくら低級とは言え中には強い魔物もいる。それを改めて認識しつつも突っ込んで来る身の丈以上もある魔物を睨んだ。
大丈夫。神器を最大限に使えば何とかなるはずだ。
「第一層でこれとなると先が思いやられるな」
「それでもこうなる事覚悟で来てるんだ。やらなきゃ死ぬだけ」
「……そうだな。そうだった」
二人で軽口を叩きあうとついに目の前まで迫った魔物へ刃を撃ち込んだ。すると斬れるのと同時に大きく吹き飛ぶのだけど、その背後からは次々と同じ種類の魔物が攻め寄って来る。正直、一人だったら絶対に死ぬ程だ。
けれど今は一人じゃない。だからこそアルは背中を預けつつも前に出て魔物を倒し続けた。
――第五層に到達する為にはこいつら以上の奴を何十も何百も倒さなきゃいけないんだ。なのに、こんなところで止まってられるか!
本に書いてあった情報だけど、第二層は前半が森で後半が迷宮の様な洞窟で構成されていて、大量の魔獣が潜んでいるのだそう。第三層では全体的に入り組んだ洞窟で構成されているらしく、上級の魔物が常に共食いをしているから死にきれなかった魔物の異臭が漂っている様だ。
王国騎士団の下っ端レベルで到達できるのが第三層までらしいから、最低でもそれくらいの強さがないととてもじゃないけど到達できない。
つまりそこまで強くなきゃ倒せない魔物が大量に出現してくるのだ。更に魔物だけじゃなく原生生物もいるらしいからこの上なく厄介である。
気が付けばアリシア達は鳶の撃退を終わらせたようで、特にピンチという訳でもないけどアル達の手伝いをしながらも魔物を掃討してくれる。
「アル、大丈夫ですか?」
「ああ。何とか」
これで何とか窮地は脱しただろうか。またこうなる前に移動しなきゃいけないのだけど、流石に疲れ切った体をすぐに動かす事は難しく、みんなは武器を杖にしながらも寄りかかっていた。
アリシアも全力で周囲を警戒しながらも言う。
「……今は周囲に何もいないみたいです。少し休憩しましょう」
「ありがとう。流石に、いきなりここまで来ると流石に疲れるからな……」
そう言って尻餅を着く。やっぱりこういう所で戦闘での差が出て来るのだろう。実際アル達は疲れて座り込んでいるのに対しクリフ達は微塵も疲れた様子はないし、それどころかまだ元気が有り余っているみたいだった。
だから実力の差を実感しながらも息が整うなり立ち上がる。
みんなもここがどこかを理解しているからこそすぐに立ち上がった。本にも書いてあったじゃないか。【長い間立ち止まってはいけない】と。
そうしてみんなで確認を取ると早く行こうと歩き出す。
「先へ急ごう。もう今みたいになるのは御免だから」
「ごもっともだな」
けれど一時的な安全が訪れたからって油断しちゃいけない。だって、ここは踏み入ればいつだって死と隣り合わせになる《深淵の洞窟》なのだから。
――だからこそすぐさま次の脅威がやって来る。
みんな、さっきよりも一回り大きい鳶が現れた事に呆然としていた。そりゃそうだろう。だって翼を広げればさっきまでの鳶より数倍も大きいのだから。
全員が咄嗟に反応して武器を握る。
でも鳶は近寄らずに一定の距離を保つと自身の翼を使って暴風を発生させた。それも地面に地面を突き刺さなきゃ飛ばされてしまう程の。
「ぐっ! 何だこの風圧!?」
「翼だけでこんな暴風出せんのかよ……!!」
みんなも突然の暴風に怯んだようだった。そしてライゼ達は地面に武器を刺して吹き飛ばされない様に堪えるのだけど、その中で比較的地面が脆い所に立っていたアルは神器を地面に突き刺した衝撃とかで地面が崩れてしまう。
「え――――?」
気づいた時には既に足元には亀裂が入っては風圧によって吹き飛ばされそうになってしまう。予想外の所に潜んでいた悪魔の手――――。アルはそれに足をすくわれてしまった。
足元の地面ごと浮き上がっては縦穴の方角へ飛ばされる。ヤバイと思ってもどうする事も出来なくて、投げ出された体を捻らせながらもみんなに向かって手を伸ばす。
「――アル!!」
その瞬間にアリシアが高速で飛んではアルを受け止めた。しかし、このまま戻るのは自殺行為。何故なら周囲にはアルとアリシアを捕食しようと何十匹の鳶が突っ込んで来るのだから。
常に高速で移動し続けなければ食われる。けれど戻る為には吹き飛ばされた威力を殺して数秒間そこに留まらなければならない。それを一瞬で判断したアリシアは重力に身を任せて落下し始めた。
「アリシア!?」
「皆さんは先に二層のキャンプへ!! 私達は後で絶対に追いつきます!!」
そうして二人は縦穴の底へ落下していった。恐らく、第二層へと続く穴に。




