第三章7 『出発前の下準備?』
「……何やってんの、お前」
「え? 何って武器運んでんるけど」
「そう言う事じゃねぇから!!」
翌日。クロードと合流したかと思えば彼は箱に詰まっていた武器を持ち運んでいた。そしてそれを準備した馬車に乗せようとしていて、それを見たジルスに止められてムスーッと頬を膨らませる。
「いやぁな、報酬とかでいらない装備が多いから売りに出して金にしようかと……」
「それで馬車を使う気か?」
「ああ」
確かにそれ程の武器を売れば結構な金になるだろう。だけどそれだけの為に態々馬車を走らせるのは流石にマズイのはアルでも知っていた。
足が速いのは使いたくなる気持ちは分かる。でも街中じゃ街道を全速力で飛ばす事なんて許されないし、何よりそれなりの手間がかかる。まぁ、それが王都の場合なら状況は変わってくるのだろうけど。
もしかしたら徒歩で向かうよりも時間が掛かる可能性だってあるのだ。だからこそジルスは指を指すと徒歩で向かわせる。
「却下。自分の足で行け」
「ちぇー」
するとムスーッとしながらも荷台に乗せようとしていた箱を持ち上げて歩き始める。けれど流石にこんなドでかい王都の中をあんな持ち物で歩くのは大変なはず。故にアルはその半分を持とうと荷台に積んであったもう一個の箱を持って駆け付けた。
「クロード、俺も持つよ。一人じゃ思いだろ」
「おっ、気が利くねぇ。じゃあお願いしよっかな!」
その行動を見たジルスは少しだけびっくりして見せる。どうしてそんな反応をしたのか分からなかったけど、その謎は次の言葉で明かされた。
大きく呼びかけるととんでもない事を言う。
「気張ってついて行けよ~」
「どういう事!?」
――――――――――
あれから数十分後。一応いらなくなった武器を売る事は出来たのだけど、その直後からジルスの言った言葉の意味を思い知らされる事となる。
アリシアと並んで歩いていると彼は急にいなくなるのだから。
「……あれっ、クロード?」
周囲を見渡しても見当たらない。アルよりも明るい真紅の髪だから人混みに混じっていれば分かり易いはずなのだけど、それっぽい人も見つからなかった。だからアリシアに聞いてみるも返って来たのはノーで。
「アリシア、クロード知ってる?」
「いえ、私も気づいたらいなくなってました」
「ジルスが言ってたのはこういう事だったのか……」
今更あの言葉の重みを理解しながらも溜息を吐く。
つまりアレだ。クロードは目を離すとすぐにどこかへ行ってしまう人なんだ。よく今まで一匹狼でやって来たなと心底思いながらも彼を探し始める。
「クロード~! どこだ~?」
「ここにもいないですね」
近くの店を見渡して確かめるのだけど、目だった赤髪は発見できなかった。だから裏路地を覗き込んでみるも特に誰も居なくて。
最終的にはゴミ箱の中を覗いてまで確認していた。
離れたのは今さっきの事だからすぐ近くにいるはずなのだけど……一体どこへ行ったのだろうか。どこを探しても見つからないから最終的にアリシアに頼る事となる。
「アリシア。裏路地辺りに誰かいたりしないか?」
「少し待ってくださいね……」
するとアリシアは目を瞑って索敵魔法を展開させる。前に聞いた話だと一定周期でマナの波を出しては跳ね返る方角を特定して位置を掴んでいるらしい。要するに人力ソナーといった所だ。人力ソナーのパワーワード感が凄いけど気にしてはいけない。
やがて何かを掴んだみたいで小さく反応すると喋り出した。
「……裏路地自体は何人もいるみたいです」
「何人も? それってどういう……」
「多分スラムから来た人か裏路地に拠点を構える人達でしょうね。ですけど、その中に一つだけ大きな反応があります」
「ああ、多分それだ」
強さはマナの保有量に比例する。この世界じゃ当たり前と言ってもいいくらいの言葉だ。どうやら体力が増えるにあたってマナの限界保有量も増えていくらしい。
そしてクロードは無茶苦茶強いのだからそれがクロードなのはほぼ確定的。
アリシアは手首を掴んで裏路地に入ると案内してくれた。
「こっちです」
そうして裏路地に入ると複雑に入り組んだ道を何度か曲がって進んで行く。
何と言うか、妙に湿ってジミジミとした場所だ。
「でもクロードは何でこんなところに?」
「分かりません。ただ、近くに小さい反応を見るに……」
「見るに?」
やがてその場所へ辿り着くとどうしていなくなったのかを察する。鞘に仕舞ったままの剣を担いでいると、彼の眼の前には小さな女の子が立っていた。そしてその周囲にはいかにも悪そうな男達が再起不能になっていて。
「誘拐されそうになった子を助けようとしたんですね?」
「ああ。にしてもまさかいきなりいなくなった俺を見付けるとは二人とも感が良いんだな」
するとクロードは剣を腰に仕舞って少女の手を掴み優しく笑いかけた。不安そうにしていた少女だったけど、笑いかけられた事である程度の安心を取り戻したのか、少女も口元を緩ませては警戒心を解いて行った様だった。
「でも、どうしてこんな女の子を誘拐なんか……」
「服装を見てみな」
「服装?」
そう言われて服装を見る。と言っても、服装と言うにはあまりにもボロボロで、幾つもの布を継ぎ接いで作った服ともいえない布だった。だからそれを見ただけで察する。この子はスラムから来たんだって。
「スラムは完全なる無法地帯だ。衛兵も近寄れないくらいの凶暴な奴が多いから日々犯罪が後を絶たないんだよ。今はこうして俺がいたからこの子は助かったが、その他にも誘拐事件は飽きる程起ってる」
「そんな……」
王都は全員が裕福な暮らしをしてるのだと思っていた。でも、実際にはその真逆。王都は巨大な都市だからこそ裕福の反対側には貧乏な人々も存在するんだ。この少女も貧乏側の一人。
やがてクロードはどこからか取り出した縄で男達を縛り上げると片腕でひょいと持ち上げた。そして少女をアルに預けるから腕に抱えると歩き始める。
「一先ず衛兵に受け渡そう。ここからは衛兵の仕事だ」
「えっ、アジトを聞き出せるかも知れないのに聞かないのか!?」
アルなら絶対男達から情報を聞き出してアジトに乗り込むだろう。彼の話ならアジトには誘拐された子供達がいるはずだし、助けを求めているはずだから。
でもクロードは真剣な瞳でアルを見ると別人の様な声で言った。
「確かにそっちの方が解決するのは速いさ。でも俺達は冒険者だ。冒険者は依頼がない限り勝手に騒ぎを解決する訳にはいかない」
「何で!?」
「周囲の目があるからだよ。出しゃばり過ぎると「冒険者のクセに衛兵よりも騒ぎを解決してる」って見られるからな」
「っ……!」
そう言われて思い返す。アルは今まで街の戦力不足故に騎士団長から直々の依頼を受けて来たけど、普通ならそれが異常な事なのだ。
そりゃ、衛兵が冒険者に騒ぎを解決した数で負ければ市民からの信頼にも影響してくるだそうし、何より街の平和を守るっていう衛兵の存在意義自体も取られてしまう。……そう考えるとあまり冒険者ってリスキーな物なのかも知れない。
「迷子の依頼を受けたのならそれは素晴らしい事だって評価される。でも衛兵は街中で巡回してるんだ。だからこそ勝手に迷子を解決する訳にはいかない。それに、俺達が今立ってるスラム以外の区域で平和が保たれてるのも衛兵のおかげだしな」
「……分かった」
クロードの言う事に納得して付いていく。大抵の事なら自由だと思っていた冒険者だけど、その実、結構ルールに縛られていた様だ。これに関してはルールと言うよりかは常識みたいな感じだろうけど。
それでも困ってる人がいるかも知れないのに助けられないのはそれなりに辛かった。周囲の目を気にしないのなら何だって出来るだろう。でも例え善意で行ったとしても悪い方向に転がる事だってある。比較的刻まれたばかりの記憶を見つめながらもそう言い聞かせて納得した。
「それに、何か大切な物が懸ってるんだろ?」
「えっ」
「普通の冒険者が《深淵の洞窟》に行くだなんてどんな馬鹿でもする事じゃない。だからこそ君達はそこまでやる程の価値を見出したんだろ?」
偶然その結論に辿り着いたのか、はたまた勘が鋭いだけか。どっちにせよ何も話してないのに見抜かれていた事にびっくりする。
もう彼も仲間みたいな物なんだ。だからこそアルは頷いた。
「ああ。まぁ、そうかな」
「ならこんな所で止まってる訳にはいかない。大体的な目標を持つのなら、それにひたすら突っ走らなきゃ」
そうだとしてもやっぱり困っている人がいるのなら助けたい。でも、《深淵の洞窟》にも行きたい訳で、自分でもどうすればいいのか分からない物が渦巻く中で必死に考え続けた。自分は何をしたいのかって。
やがて突っ走る事を選ぶ。
何をすれば正解なのかなんて分かるはずがない。だからこそ、今は自分が望んでいるかも知れない方向を選んだ。
「そう、だな」
その喋り方にアリシアは少しだけ反応する。何か気になる事でもあったのだろうか。……はたまた、内心の戸惑いに気づいたのか。けれど何も言わないからそのまま話は進行する。
街道に出ればすぐ近くの交番的な所に少女を預けてその場を去った。
それからアルは気になることがあってクロードに質問してみる。
「なぁ、クロード」
「ん?」
「……クロードは、本当に冒険者なのか?」
少女の誘拐なんて人目の多い所でやるはずがない。だから誰にも気づかれないはずなのに、クロードはアリシアよりも早くそれに気づいて見せた。そしてアル達が目指している物を読み取る程の感。それらがすべて合わさって違和感の様な物を発していたのだ。
そう問いかけるとクロードは爽やかな笑顔を見せながらも返す。
何か意味ありげな言葉で。
「なぁに、冒険者にも成り損ねた冒険者のまがい物さ」




