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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章2  『もう一つの世界の話』

「おはよ~……って、目覚めてたのか」


「あ、ああ。おはよう」


 みんなと合流した後、ライゼはアリシアが目覚めていた事をして大きく安堵の息を突いた。そりゃみんなは大罪の事なんて知らないから安心して当然だろう。

 あれからアリシアが大罪だという事を知ったのはアル、アリス、ノエル、クリフの四人だけだ。その他はみんな竜が合計三、四体召喚されたと思っていたようだ。まぁ、物凄くびっくりしていたみたいだけど。


 アルは昨日の叫び声とか鳴き声とかが聞こえているのか気になっていたのだけど、みんなは特に気にする様子もなく普通に接してくれた。

 だから安心してアルも話す事が出来る。


「アリシアの体調はどうだ?」


「全然平気。よくなってるよ」


「そっか。よかった」


 みんなも一週間が経つ内に全回復したようで、まだ所々包帯が巻かれているものの動きに支障はない様だった。

 そんな風に話していると小屋の方からフィゼリアとナナが飛び出してこっちに駆け寄って来る。どうしたのだろうと思っているとナナを持ち上げては自慢そうに見せびらかす。


「あっ! アルアル~! 見てくださいこれ!」


「どうしたんだ? ……って、何これ」


 フィゼリアが見せてくれた掌には少しだけ掠り傷の跡があって、それが何なのかと少しだけ考える。だけど結論が出るのよりも早くフィゼリアがこれが何なのかを答えてくれて。


「ナナちゃん実は回復魔法使えるんですよ! 体の構造を理解してるんです!」


「えっ!?」


 そう言われるとナナの方を見る。すると驚愕したアルの表情が面白いと言う様に軽く噴き出した。同時にフィゼリアも微笑む。

 けれど魔族が回復魔法が使えるだなんて思えない。いや、正確に言うのなら体の構造を理解していれば誰でも使える訳だからおかしくはないのだけど、何と言うか、魔族って回復系の魔法が使えないイメージがあるからびっくりする。

 そうしてびっくりしているとナナも誇らしげに胸を張った。


「凄くないですか? 凄くないですか!?」


「あ、ああ。確かにその年で回復魔法を使えるのは凄いな……」


「そっちじゃなくて学習能力の差ですよ!」


「そっち!? てかそれそんな誇らしげにいう事でもないからな!?」


 さりげなく自分達との学習能力の差を言いながらも誇らしげに言う。そんな自虐とも言える事に突っ込んでいると、アリスがちょんちょんと肩をつついて来るからそっちに振り返る。

 するとアリスは真剣な表情で言って。


「アル、アリシア。ちょっとお話があるから付いて来て」


「あ、ああ」


「分かりました」


 いつもと雰囲気が違うアリスにアリシアも困惑しているみたいだった。大事な話しそうだったからすぐに後を付いていくとアリスは森の奥へ入って行き、やがて辿り着いたのは少し開けた所だった。そこにはノエルとクリフがいるので察する。大罪の話なんだって。

 アリスはくるりと振り向けばアルの瞳を捉える。


「大罪の件について話があってね。せっかくだからこの五人で話し合おうって訳」


「大罪……」


 脳裏で決別という言葉を思い浮かべて拳を握りしめる。

 そりゃ、みんなにとっては裏切ったも同然の真実。この話がされる前にアルだって覚悟は出来ている。だからこそ冷や汗を浮かべながら話を聞こうとした。

 ……のだけど、アリスは表情を緩ませると軽く喋って。


「決別なんてしないわよ。ただこれからの方針について話そうってだけ。そんな緊張しなくたっていいわ」


「あ、ああ……。ごめん。ついてっきり」


 表情が綻ぶアリスを見てこっちも肩の力を抜いた。でも本当に良かった。普通なら決別が普通の判断――――もっと言えばその場で処刑するのも普通の判断の内なのだから。大罪が仲間と言うのはそれくらいの効力がある。

 アリスとノエルは三百年以上も生きてるから耐性があるのだろう。でも、気になったのはクリフの方で、彼女に視線を向けるとへっちゃらな顔で手を左右に振った。


「でもクリフは……?」


「んぁ、オレも決別がどうこう言うつもりはねぇぜ。一方的に迫害される気持ちは比べ物にゃならなくても理解してるし、それにアルが信用できるんだろ? なら大丈夫だろ」


 自分なりの見解を伝えると背後の木に背中を預けた。

 微笑みが浮かんでいる辺り、本当にそう思っているのだろう。もっとも、彼女の場合は《暴食の鬼神》と関連付けられていたって事もあるのだろうけど。

 やがてアリスはアル達に向けて喋り始める。


「で、アリシアの過去は判明した。そこから推測するに神器の真実にも辿り着ける。けれど一番大事なのはその先よ。これから二人はどうするつもりなの?」


「…………」


 そう言われて黙り込む。アリシアにはとっくに話した事だけど、これはアリス達に言っていい事なのか否か。そんな選択に戸惑っては深く考えこんだ。

 《中枢回廊》という場所を目指すのだけど、いくらアリスとはいえそこまでの情報を知っているとは思えない。だから少しだけ悩んだ。……のだけど、アリシアは何も躊躇わずに言って。


「異世界からの転生理由を探る為に《中枢回廊》へ向かいます」


「アリシア!?」


 異世界転生なんて言葉を使えばこの世界に住んでいる人達は困惑する訳で、それを聞いた三人はポカーンとした表情を浮かべた。そりゃいきなりそんな事を言われればそうなるだろう。

 やがてアリスは当然の質問を投げかけて来る。


「えっと、異世界からの転生理由ってどういう事?」


「あ~、えっと……」


 何とか言い逃れをしようと必死に言葉を考える。しかし相手は精霊と聖竜と鬼。嘘がまかり通るとは到底思えない。それに既にアリシアが《嫉妬の邪竜》という真実を受け入れているんだ。もう、話したっていいだろう。

 そんな暴論染みた結論に至って渋々話し出す。


「……これは本当の事だ。俺は、ここじゃない異世界から名前を代償に転生した」


「「…………」」


 至極当然の反応。

 時空を超えるのならまだ分からなくもないだろう。黒魔術を使えば不可能な事でもないだろうし。でも次元を超えるとなれば一気に信憑性は欠けていく。

 だってこの世界に伝わる次元超越は《憤怒の魔女》と《世界衝突》でしか伝わっていないのだから当たり前だろう。


「えっと、流石にアルでもそこまでの話は信じられないと言うか……」


「だよなぁ」


 直後にノエルからそう言われて肩をがっくし落とした。アリシアは本当の邪竜の姿があったという物理的な証拠も残っているけど、アルに至っては証拠なんて何もなく、アルの口から語られる言葉でしか情報がない。だからこそみんな信用できないんだろう。

 けれどアルの真実を伝えるにはそれしか手段がなくて。


「でもこれは本当の事なんだ。俺は前世の記憶を今も持ってるし、死んだ感覚だって残ってる。……だから俺達はその真実を確かめる為に《中枢回廊》に向かう」


 真剣な眼差しでそう言うとみんなは少しだけ反応して考え込んだ。

 普通なら信じられない事のはずだ。けれど誰よりも一番最初にその話を信じたのはまさかのクリフで、口元から手を離すと言った。


「……転生した前の世界って、どんな世界なんだ?」


「どんなせかいって、そう言われると表現に困るけど……う~ん……」


 地球の事をどう表現しよう。その為に必死に頭を回す。AIや電化製品なんて言ってもこの世界の住人には伝わらないだろうし、アルは絵が描けるわけでもない。だからこそありのままを口にした。それもこの世界じゃあり得ない事であの世界じゃ普通の事を。

 アルが指を空に向けるとハッキリした声で言う。


「――人が、月に降り立てる世界だ」


 そう言われた瞬間にみんなは目を皿にする。何度も言う様だけど、この世界じゃあり得ない事なんだから当たり前の反応だ。

 やがてノエルから質問が投げられる。


「そんなのあり得ない。いくら黒魔術があったとしてもそこまでは――――」


「俺のいた世界に黒魔術なんてないよ。マナも、黒魔術も、真意も」


「え!?」


 突如話される別世界の話。普通なら絶対に聞ける話ではない。だからこそアリスは語られる言葉を聞いては脳にインプットしている。

 そしてその話に驚愕する二人を見つめてアルは続きを話した。


「何もない所から水や炎は生まれない。俺のいた世界には何かを起こす為には必ず『源』が必要なんだ。火を起こす為には木を擦ったり、着火剤を用意してそこに火花を当てたり」


「そっ、そんな世界で月に行く事なんて無理に決まってる! だって月に行く為にはまず距離とか諸々……」


「でも行けたんだ。絶対に諦めない様な人がいたから、そんな世界でも人は月に向かう事が出来た。飛行魔術を使わなくても大勢で空を飛んだり、月の更にその奥、別の星を観測する事だって出来た」


 人類史は数えられてから二千年しかない。この世界と比べればまだ半分しか進んでいないという事になる。まぁ、この世界は七度終焉を繰り返しているから総体的に見れば一緒だろうけど。

 アルはアリスを見ると今度はこっちから問いかける。


「どうかな。信じてくれた?」


「……到底信じられる様な話じゃない。でも、納得はできる」


「アリス?」


「信じられないけど、そんな世界があった事は認めるわ」


 するとそんな答えが返って来てアルは反射的に安堵のため息をついた。

 アリスが信用するのなら流れでノエルも信用するだろう。これでひとまずは信じてくれたと安心するのだけど、話はまだ終わっていない。


「――つまりアルはそんな世界から転生したって訳なのね?」


「ああ。今まではアリシアの事で精一杯だったけど、これを機にその真実も探ってみようって話になって」


 そう言って彼女と目を合わせた。神器の事とか、まだやらなきゃいけない事……というよりかはやってみたい事はまだまだ残ってる。けれど大々的な目標を達成したのだから次の目標を設定したって大丈夫だろう。そんな考えだ。

 やがてアリスもアリシアを見つめるとその考えに納得する。


「……確かに、アリシアなら《中枢回廊》に行けるかもね」


 でもその言葉に反応してアルは振り返る。もしかしたらアリスは《中枢回廊》への行き方を知ってるんじゃないかって期待したから。

 けれど返って来た言葉は現実を叩きつける物で。


「もしかして行き方を知って――――」


「残念ながら行き方は知らない。ただその存在を知ってるだけよ。前に聞いた噂じゃ《中枢回廊》に行けるかもって場所は聞いた事があるけど、それも《世界衝突》のせいで書き換えられちゃったみたい」


「っ!?」


 手を前に出して制止させるとそう言う。

 そうか。《世界衝突》は世界の五割を書き換えた。ならその場所を書き替えたって無理もないだろう。実際アル達が立っているこの森も書き換えられた土地みたいだし。

 せっかく掴めそうになった《中枢回廊》への行き方。それを失って思いっきりがっかりするのだけど、そんな最中でクリフは何かを閃く様な表情をすると呟いた。それも笑顔を浮かべながら。


「……いや、そうじゃないかもしれねぇぜ?」

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