表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
76/167

第三章1  『真実を追う者』

第三章、開幕です。

ちなみにですが前作同様に今作も第三章が最終章となります。この物語がどんな結末を辿るのか、ぜひご覧ください!

多分長くなると思いますがよろしくお願いします。

 翌日。

 アルは窓から差し込む光に当てられて目を覚まし、いつも通りに起き上がって外を確認しようとした。でもアリシアが胸の中で気持ちよさそうに眠っている事に気づいて仕方なく体から力を抜く。

 そうだ。昨日はアリシアが服を離してくれなかった事から一緒のベッドで過ごす事になったんだっけ。途中で起きたら弾丸枕を食らうかとハラハラしたものだ。


 ……結局、アリシアを救う事は出来たのだろうか。救えたと信じたい所だけど、そこは本人じゃないからわかりっこない。

 でも、凄く安心した寝顔を見てアルも安心する。寝顔って言うのは無意識にでも心の内を反映してしまう物だから。

 やがてアリシアも目を覚ますと至近距離でアルの瞳を捉えた。


「んにゅ……」


「おはよ」


「おはようございます……」


 するとゆっくり起き上がって周囲を見渡してはアルを見る。それから寝ていたベッドとアルを何度か往復するとようやく状況を理解した。その瞬間から顔を耳まで真っ赤に染めると毛布で体を包んで滅茶苦茶噛みながらも喋る。


「もっ、もしかして私わらっ、アルとねっ、ねね、寝て!?」


「うん。ぐっすりと」


「――――っ!!」


 そう答えると顔から湯気を出すくらい真っ赤に染めて恥ずかしがる。それから毛布を全体的に被るとベッドに倒れ込んで足をジタバタさせた。そんな年相応の反応をするアリシアを見るのは初めてな気がして新鮮な気持ちを味わう。いや、年齢的には二千歳以上……。

 しばらくするとアリシアは顔だけ出して問いかける。


「まさか寝顔もバッチリ!?」


「凄く安心した寝顔だったよ」


 するとアリシアはまた毛布を被って悶えた。まぁ、気持ちは分からんでもない。アルも同じ立場だったら必ず何かしらの方法で恥ずかし悶えるはずだから。

 何か言おうと言葉を探すのだけど、それよりも早くアリシアは話しかけた。それも今さっきとは雰囲気もトーンも全く違う声で。


「……ありがとうございます。あと、ごめんさい」


「んっ?」


「昨日の事、です」


「あ~。あれね」


 散々感情をぶちまけた分、如何せんまた色んな感情が沸き出ているのだろう。さっきから毛布の間からチラチラと覗いて来る瞳には文字通りの色んな表情が含まれている。

 でも気にするなって言っても無理だろうし、ここは彼女のしたい様にしてみる。


「アルがあそこまで私の事を救おうとしてくれたのに、私、凄い惨めな事を言い続けてしまって……。それに喋り方だって凄い雑で……」


「いいよ別に。アリシアが救われたのならそれでいいし、俺も文句なんて何もないから」


「…………」


 すると俯いて黙り込む。

 互いの事を十分に理解した分、何から話しだせばいいのか分からずに困惑してるんだ。もちろんアルだって何を話せばいいのか困惑してる。

 やがてアリシアは小さな静寂を打ち破って。


「もう、多くは語りません。だから短く語ります」


「う、うん」


「……あの時、アルは私の事を大好きって、俺だけは味方だって言ってくれましたよね。それが凄く嬉しかった。それだけで、凄く嬉しかった、です」


「……そっか」


 無意識の内に微笑みを浮かべる。前まで微笑み何て大層な物、微塵も浮かべる事なんて出来なかったのに。そしてアリシアがその微笑みを見ると小さく言った。


「アル、笑ってる……」


「えっ? そう?」


 言われてから窓を見ると薄く映った自分の顔が見えて、その口元には確かに微笑みがあって少しだけ驚愕する。

 笑えた。今まで微塵も笑えなかったのに、今になってようやく心からの笑みを浮かべる事が出来たんだ。そう自覚すると心に昇って来る物があって必死に抑え込む。


「っ……!」


「アル、どうしたんですか?」


 すると突然胸元で拳を握ったアルを心配してそう問いかけてくれる。これだけでも心配そうな表情をするって事は、本当にアルは彼女にとって大切な人になれたって事なのだろうか。


「いや、今まで笑えた事なんて家族を失ってから一度もなかったからさ。その、急に笑えて、嬉しいと言うか何というか」


「笑う……」


 素直に答えるとアリシアは同じ言葉を繰り返し復唱する。

 それから手を頬に持っていくからどうしたのだろうと思ったのだけど、人差し指で頬を持ち上げると笑顔で言ってくれて。


「アルの笑顔は、こうじゃないと!」


「…………」


 その表情に浮かんだのは純粋無垢な笑顔。それを見てアルは少しだけ反応する。いきなりそう言われるから困惑してしまうけど、同じ様に人差し指で頬を持ち上げるとアリシアの真似をして笑顔を見せる。

 でも、心からの笑顔だったはずなのだけど、その笑顔は妙にぎこちない物であって、アリシアはアルの頬を掴んで動かすと呟く。


「ん~……もう少し明るい表情の方が似合いますよ?」


「そ、そうかな。いきなりだからちょっと緊張しちゃって……」


「無理もないですよ。私だって、前までは微塵も浮かべる事なんて出来なかったんだから」


 互いに笑顔を浮かべる事が出来なくて、互いに影響されたからこそ笑顔を浮かべられるようになった。それって互いに互いを救ったって事じゃないだろうか。

 アリシアは前々から笑顔を浮かべる事が出来たけど、アルにはとてもじゃないけど出来なかったのだ。今はその変化を自覚出来るだけでも十分救われた様な気分になる。だって、心の底から笑うのは長年の夢みたいな感じだったのだから。

 やがてアリシアはまた呟いて。


「……アル。異世界人だって話、本当なんですよね」


「ああ。俺はここじゃない世界で一度死んだ。そこで名前を代償にこの世界に転生した。……理由も何も分からないままだけどな」


 彼女があそこまでなるくらいの真実を話してくれたのだ。なら、アルだってそれ相応の事を話さなければ“対等”とは言えないだろう。

 そう言うとアリシアは手を顎に持って行って少しの間だけ考える。どうしたのだろうかと思っていればアリシア途轍もない事を言いだして。


「以前。もう何百年も前の記憶ですけど、覚えてる事があります」


「そ、それは?」


「――異世界からの転移してくる現象の事です」


「っ!?」


 その言葉を聞いた瞬間に心臓が大きく跳ね上がる。

 ようやく分かるかも知れない転生理由。それと地球の文化が混じっている理由。それを前にすれば焦らないなんて無理な事で、アルは距離を詰めるとすぐさまアリシアへと問いかけた。


「それ本当なのか!?」


「は、はい。まぁ、あくまで噂程度の話なんですけど……」


「噂でもいい。話してくれないか」


 そう言うとアリシアは少しだけ距離を離すなり咳き込んではその噂について喋り始めた。

 もしかしたらこれで今までに抱いた謎とかが明かされるかも知れない。……そう思ったのだけど、アルが考えていたのとは少しだけ違うみたいで。


「以前、《憤怒の魔女》がいた時代の出来事です」


「えっ? 《憤怒の魔女》って今から大体三千年くらい前じゃ……」


「はい。彼女はその時代に次元を破ったみたいなんです。その次元って言うのが、正真正銘の次元超越魔法」


 別名《超越の魔女》とかも言われていたっけ。数々の次元を渡り歩く程の魔術を持ち、その力は世界を破滅させる程の力を持つとか何とか。

 それからアリシアは人差し指を立てると先端で円を書きながらも続ける。


「その次元超越魔法の影響で次元が歪んでいるらしく、度々異世界から流れて来る人がいるって噂があるんです」


「要するに時空の狭間に巻き込まれたとか、そういう系?」


「そういう系です」


「…………」


 深く考えこむ。明らかにアルが転生した時とは違うし、その説明の仕方なら死んだ直後に転生~とはならないはずだ。だからこそまた別の力が働いているんだと確信した。

 死んだ時に聞こえたあの言葉――――。

 『君の願い、受け取ったよ』とは誰が言った言葉のなのだろうか。


「俺が転生した時、声が響いたんだ」


「声?」


「何人もの意識が重なったような声。その声は死ぬ時にこう言った。『君の願い、受け取ったよ』って」


 するとアリシアも深く考えこんだ。

 一番現実味があるのが《憤怒の魔女》が引き起こした現象だけど、明らかに何かが違う。決定的な差を埋めようと二人で必死に考えるのだけどいくら考えても答えは出なくて。


「死んだ時に声が聞こえたんですよね」


「ああ」


「……ごめんなさい。それに関する記憶は全くありません」


「アリシアが悪い訳じゃないんだからいいよ。それに、俺が一方的に気にしてるだけだし」


 そう言って自分自身にも「知りようのない事だ」と言い聞かせようとする。これに限っては誰もその現象を知らないだろうし、干渉のしようもないからだ。

 けれど今後の目的を考えるのなら可能性はあるかも知れない。アリシアを救うと言う大々的な目的を達成した今、残るは小さめの目標ばかりだ。故に可能性は無きにしも非ず――――。そう考えているとアリシアが発案してくれる。


「――それ、探りましょう」


「えっ?」


「転生した理由、探りましょう!」


 距離を詰めて来たかと思えば輝きに満ちた瞳でそう言われる。アリシアでも分からないはずの事のはずなのにどうしてそこまで興味津々になるのだろう。そんな疑問を抱きながらもその提案に頷いた。まぁ、アルも気になってはいたし、追いかけるのもありだろう。

 結果がどっちに転ぶのかはどうであれ。


「でも探すって言っても方法とか分かるのか? 転生した理由なんてとてもじゃないけど探せるとは思えないけど……」


「一つだけ心当たりがあります」


「あるんだ」


 アリシアはそう言うと指先を額に当てて何かを思い出そうとしていた。やがて少しの時間が経てばハッと表情を明るくして勢いよく言う。


「もしですけど、まだこの世界に《中枢回廊》があれば可能性はあります」


「《中枢回廊》って何だ?」


「――《世界の中枢》に行くことが出来る回廊です。そこがまだ残っていれば、可能性はある」


「…………」


 《世界の中枢》。それは前にアリスが言っていた言葉だ。確か魂がどうのこうのって言ってた場所。そこに行くだなんて、とてもじゃないけど不可能なはずだ。

 言うだけじゃあまり実感が沸かないけど《世界の中枢》だなんて――――。

 それでもアリシアは自信を持って行った。


「私は《嫉妬の邪竜》です。そこに入れる程の力はあります」


「……!」


 そう言われて前を見る。

 忘れてた。アリシアはかの大罪である《嫉妬の邪竜》なんだ。偏見かもしれないけど、そこまでの力があれば《中枢回廊》に入る事も可能なのか。

 もし、望んでいいのなら。


「アル、選んでください。私を使うか、使わないか」


「使うって……。でも、もし本当にそれを知れるのなら……」


 今までずっと謎だと思っていた事。それを知れるのなら知りたい。そうする事によって他の謎も解き明かされるかも知れないんだから。

 だからアルは迷わずに言う。


「――俺は、俺の真実を知りたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ