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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章48 『終幕』

 突如上空で起った大爆発。それは激しい風圧を発生させてはアル達の元へ届き凄まじい風を全身で受けた。クリフが必死に体を支えてくれる中でアルはずっとアリシアの方角を見続ける。これがアリシアの本気で、全力――――。

 風を肌で感じただけでも分かる。絶対に太刀打ちできないんだって事を。


「あれだけやってもまだ倒せねぇのか……」


「そりゃルシエラは伝説の大罪を倒せる算段がある訳だからね」


 直撃すればひとたまりもないだろう。そう思っていたのだけれど、それでもルシエラは爆煙の中から飛び出すとアリシアの眼を目掛けて攻撃を放つ。しかし即行で振り払われては黒い雷が体を貫いて大きな風穴を開けさせた。

 でも、それすらも即時再生をして立て直した。


「アリシア……」


 もうアル達に出来る事は何もない。こうしてアリシアが全力を出せている以上、これよりアリシアを援護する事は出来ないだろう。魔法をぶつけてもすぐに消飛ぶだろうし。だからこそ四人は座ったままアリシアの戦闘を見ている事しか出来なかった。

 歯がゆい気持ちを抑えながらも必死に戦うアリシアを見つめながらも祈る。勝ってくれますようにと。


 ――大丈夫だよな。負けたり、しないよな。


 恐らくルシエラは大将だ。だから奴を倒してしまえばこの戦いは終わるはずだ。あの時に複製体を倒した瞬間に大罪教徒がいなくなったように、倒せさえすればきっと敵は退いてくれるはず――――。

 しかしそんな憶測を否定するかのようにアリシアの横腹に大きな氷が突き刺さった。


「アリシア!!」


「全力を出しても強さは互角……。あいつ本当に生き物なのか。だって、相手にしてるのは《嫉妬の邪竜》なんだぞ……?」


「何百年も封印されて力が弱まってるってのなら分けるけどね。ただ純粋にあいつが強いのだとしたら厳しいかも知れない」


 その光景を見てクリフが呟きノエルが返答する。

 確かに、アリシアは経緯がどうであれ三百年もの間ずっと身動きが出来ずにいたのだ。だからこそ力が弱くなって仕方ない。……だけど、攻撃を連続して食らうから嫌な予感が付いてしまって仕方ない。

 大丈夫だって信じたい。けれどルシエラの攻撃がその考えを肯定させてくれなかった。


 ――何か出来る事はないのか。手助けをするも手が届かないし、多分声だって届かない。何か他に出来る事は……!


 ルシエラは反応速度を上げるとアリシアを容赦なく攻撃して地面に叩き落とそうとする。それを必死に堪えるのだけど、いくら黒魔術を使ってもルシエラには一回も攻撃が当たらない。

 何か理由があるはずだ。体の大きさだけじゃない。きっと、何か決定的な差が――――。

 その時、違和感に気づいた。


「何だあれ」


「どうした?」


「あいつの体から何かが出てるような……」


 薄っすらとしか見えないから分からなかったけど、ルシエラが動く度にアリシアの周囲で何かが動いていたのだ。それはルシエラの体から出ては量を増していく。

 その正体を看破するのにそう時間は掛からなかった。

 アリスは指で丸を作ってはガラスを作ると簡易望遠鏡みたいなのを作ってアリシアを見つめる。だからその結果を待ったのだけど、その結果が驚愕する物で。


「……血よ。血が動いてる」


「血ぃ!? どうやったら血が動くんだ!?」


「原理は分からない。だけどルシエラは黒魔術の他にも何かで血を操ってる。それも色んな形状に変形させてね」


 血を操る。そんなの黒魔術じゃなくたって出来るはずだ。原理はどうであれマナを上手く使えばそんな事は出来るだろう。……でも、もしマナを使ってない状態だとしたら。

 何か嫌な予感がする。その正体を確かめようと全ての記憶を確かめるのだけど、残念ながら該当する物は無くて更に不穏な予感を誘った。ならもっと記憶を辿ればいいだけ。今まで読んだ本の全てを思い出せば、きっとどこかに答えがあるはずだ。

 そして、見つける。


「――吸血鬼」


「え?」


「吸血鬼なら、どうだ」


 するとアリスは目を皿にするのだけど、その直後に思い直す事があって即座に深く考えこんだ。そして帰って来たのは予想外の言葉で。


「無理よ。確かに吸血鬼なら血を自由に操れて特殊能力もあるって聞いた。でも吸血鬼は既に絶滅した種族よ。私も長い間生きて来たけど吸血鬼は見たことがない」


「そ、そうか……」


 本じゃ絶滅したとは書いてなかったし、“何処かに生息しているかも知れない”程度にしか書いてなかったから曖昧であった。だからアリスの返答を聞いて肩を落とした。

 ――でも、クリフが鋭く行って。


「じゃあ吸血鬼が大罪教徒に隠れていたんだとしたらどうだ」


「吸血鬼が、大罪教徒に?」


「実際あいつは大罪教徒のトップだって言った。なら大将が下手に出ないのは当たり前だろ。もしあいつが吸血鬼でずっと隠れていたのだとしたら」


「……可能性はある。けど、やっぱり考えずらいわね。吸血鬼は数千年も前に絶滅してるはず。その時代から大罪教徒は出て来てないはずよ」


 すると何千年も生きているノエルが答えた。

 確かにその時系列で言うのなら絶滅したと言っても過言じゃない。実際目撃例がないからこそ本には色んな姿の吸血鬼が書かれていた訳だし。

 けれど実際にルシエラは血を操っている訳で。


「……アル、何やってんだ?」


「少し静かにしてて。神器を通してアリシアに伝える」


 まだ神器での会話の原理は分からない。でも、強く願う事で神器を介し会話を出来るのだとしたら。アルは神器の柄を上にして握ると強く念じた。


 ――アリシア、聞こえるか。


 ――アル!? どうしたんですか急に!


 すると彼女の声を聞いて確信する。やっぱりこの神器は一種の通信機みたいな役割を果たすんだ。実際前にアリシアからSOSを貰った時には既に察していたけど、これがあるなら大分戦況が変わるかも知れない。アリシアにしか伝えられないって言うのが残念だけど。

 そのままアルは彼女の身に何が起っているのかを伝える。


 ――いいか、ルシエラは吸血鬼だ! 血を流し続けてはアリシアにまとわせて戦ってる!!


 ――吸血鬼? な、なるほど。どうりで再生が速い訳ですね……。


 一応伝えるべき事は伝えきった。これで後はアリシアがどうするかで全てが決まる。情報の少ない吸血鬼に対してどう立ち回る気なのだろうか。

 そう思っているとアリシアは体を回転させては周囲の血を振り払って回転させた勢いをそのままに螺旋状の炎をルシエラの胴体に叩きつけた。すると一撃も当てられていなかったのに、炎はルシエラの体を貫いて内臓を溶かしていった。そして鉤爪でひっかくと両腕を斬り飛ばし胴体を引き裂く。


 しかしそれすらも数秒の内に回復させてはレールガンの様な一撃をアリシアの脇腹を叩き込んだ。最早血で血を洗う空中戦。激しい戦闘で空中爆発が幾度も起きては離れているアル達を吹き飛ばそうとする。

 だからそんな現状に焦りを覚えてしまって。


 ――大丈夫だよな。アリシア……。


 信じてると言いつつもこの心配様。もちろんアリシアが負けるだなんて思わないし、勝つと信じている。でもここまで長く続くと流石に不安になると言うか何というか。

 互いに血を流しながらもその血を利用して黒魔術を使っているし、それを見るに多分どちらかの血がなくならないと倒せない。そしてアリシアは体が大きい分攻撃が当たりやすく血も多く流れていた。


「そう言えば、防衛地点はどうなった?」


「ああ。言われてみれば全く気にしてなかった……」


「恐らく大丈夫でしょう。三人は手練れの冒険者だしジルスも付いてる。白装束には負けないはずよ」


 三人は何とかなりそうなのを見越してそんな事を話しだす。だけどアルは未だに手に汗握る激戦を見て冷や汗を流し続けていた。

 だって、《嫉妬の邪竜》が本気を出しても倒せないような相手なのに、このまま行って勝てるかどうか――――。その心配は無意識の内に行動にも反映され胸の前で拳を握っていた。

 そうしているとクリフが言ってくれる。


「アリシアの事、信じてるんだろ。なら大丈夫だ」


「え……?」


 でもクリフがアリシアに大丈夫だと言ってくれた事に少しだけびっくりした。今のアリシアはみんなから恨まれて当然の存在。それなのにクリフは遠回しに自分も信じると言って来たのだからびっくりする。


「んなびっくりすんなって。……アルの信頼出来る奴ならオレも信頼できるだけだ」


「俺、そこまで信頼勝ち取ってたっけ」


「勝ち取るも何も、オレが一方的にアルを信頼してるだけだ。前に似た境遇だって言ってくれただろ。……共感してくれるだけでもオレにとっちゃ嬉しいんだ」


 自分なりの見解を話すと一緒にアリシアの戦闘を見つめる。

 すると最後の一撃と言わんばかりに超巨大な爆発が引き起こり、アリスがバリア的な物を張るくらいの風圧がアル達を襲った。


「ぐっ……! ただの風圧でこの威力って、これが《嫉妬の邪竜》の力なのね……!」


「それもほんの一部っぽいけどな!」


 アリスでさえも風圧だけで歯を食いしばる様な衝撃。そんな攻撃を直に受けているのだから普通なら既に溶けていたっておかしくない。

 なのにルシエラは爆煙から飛び出すともう一度レーザーを撃ち込んだ。


「……?」


 けれどアリシアが一向に出て来ない。どうしたのだろうかと心配になるのだけど、大きな爆煙の中から人間の姿に戻ったアリシアが飛び出すと真っ先に神器をルシエラの体に叩き込んだ。そのまま振り切ると真っ二つに切り裂いて血を大量に流させる。

 ――次の瞬間に運命は決まった。


 その大量の血を一気に黒い霧へ変換させると自身の周囲にまとわせて手を振りかざした。そこから出たのは放射線状に出た幾つもの光。それらはルシエラを追尾しては花火みたいに巨大な爆発を引き起こした。それも今さっきとは比べ物にならない威力で。

 だからアリスがもう一度バリアを展開するのだけどそこまで効果はなく、簡単に亀裂が走っては硝子の様に砕け散った。だからこそ今度はノエルが二重にバリアを張って風を防ぐ。


 やがて爆煙の中から力なくルシエラが落下すると、晴れていく爆煙の中からはこっちに背を向けて浮くアリシアが目に見えた。

 その瞬間から安堵して膝を崩そうとするのだけど、アリシアはこっちを向いた瞬間から擦れた眼でアルを見つつも体の重心を崩して。


「――アリシア!!」


 それを見た瞬間から体は半ば勝手に動く。走り出しては今までに鍛え上げた筋肉をフル活用して森の中を駆け抜ける。もちろん道中で白装束がいる可能性もあったのだけど、そんな事は気にも留めず一心不乱に駆け抜けた。

 そして、落下してくるアリシアをギリギリで受け止めると何度か転がりながらもその身体を抱きしめる。


「アリシア、大丈夫か!? アリシア! ――アリシア!!」


 だけどボロボロになったアリシアは目を覚まさずに力なく横たわってしまう。その度に力の入らない腕で抱きしめるのだけど、何度呼びかけても目を覚ます事は無くて。

 そうしている内にみんなも駆けつける。でも、その瞬間に向けられたのは複雑な感情を向けた視線の数々。


「アリシア! アリシアッ!!」


 ……いきなり始まった森での防衛戦は、アリシアの正体が半ば強制的に判明するのと共に幕を閉じた。これからどうなるだろう。そんな事を脳裏で考える。

 裏切り者としてギルドや森から追放されるかも知れないし、もしかしたら《嫉妬の邪竜》を討伐しようと討伐隊を組まれる可能性だってある。その他にもアリシアはきっと塞ぎ込むだろう。


 まだまだ考える事は山ほどある中で一つだけ明確な事があった。



 例え彼女が大罪の一角であろうと、生きてくれるだけでも十分に嬉しいという事。今はそれだけがアルの胸を突いていた。


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