第二章43 『強さの代償』
「なっ!?」
――空間転移!?
空に繋がったゲートから落下する中即座にそう察する。
アルだけをゲートで転移させた後、ルシエラは右手に巨大なゲートを出現させるなりその中から身の丈より数十倍も大きな剣を取り出して見せた。
それから全てを出しきらず柄の部分をゲートに挟む形で固定し、力を使わずにその巨大な剣を振り回すと容赦なくアルに向って投げつける。
――避けきれない……っ!!
体を捻るだけじゃ駄目だ。そう判断したからこそ神器を強く握り締めて思いっきり振りかざした。黒い雷も共に纏わせ体を垂直にし、落下の速度を速めると持てる最大限の力を持ってしてその巨大な剣を真正面から撃ち合った。
とんでもない威力に自分すらも吹き飛ばされそうになるけど必死に耐え続ける。
「ぐっ! ――らあああああああああああああああッッ!!!!」
激しい火花がアルの顔を照らす。
分かってはいたけど、剣の威力が凄まじくてとてもじゃないけど弾けそうにはない。それどころかこうして耐える事だけで精一杯だ。
このままじゃ押し負ける。そうはいってももう力を上げる手段は残されていない訳で。
「――――っ!!」
その場の一時しのぎにしかならないだろう。でも、それでも何かを変えられるのならとアルはその巨大な剣を受け流した。
瞬間、重力に従って落ちていく体とは相対的に上へと上がって行く剣に引き込まれそうになる。神器は火花を散らしながら落下しているから触れている分摩擦が生じて持ち上げられそうになってるんだ。
――このままいけば……!
けれど最終的にはその巨大な剣を足場にして地上へと突っ込む。そうして視線の先にいたルシエラは霧を出現させて何かをしようとするのだけど、その左腕をアルが黒い雷で焼き落とした。
右手は巨大な剣を操っているから手を離す事は不可能。だから残るは首だけ。そこを斬れば少しくらいは時間が稼げるはずだ。
……でも、そんな憶測を嘲笑うかの様に焼き落とされた左腕すらも復活させたルシエラは強気に笑って見せた。
それから剣を手放して左腕を向けると大量の鎖を放ってくる。
「これはどうですか!!」
「はぁ!?」
突如地中から出現した大量の鎖。それらを払う事は簡単なのだけど、問題なのは空中に出現した幾つものゲートで。
四方八方に出現しては全てのゲートから鎖が飛んでくる。だからそれを回避しようと体を動かしてもその内の何本かが脚に絡まる訳で。
「つ~かまえたっ!!」
そう言うとルシエラは鎖を引っ張ってアルを空中で振り回した。
即座に鎖を断ち切って地面に着地するのだけど、その時には既に奴は目と鼻の先まで接近していて、大きく振りかぶっていた拳を思いっきり振り下ろす。
「――――っ!!」
でもソレを間一髪で回避すると蹴りを入れて容赦なく蹴り飛ばした。……正直、今のは当たるかと思った。顔に黒い紋様が刻まれてから急に身体能力が向上したし、何だかもうよく分からないことだらけだ。
やがてルシエラは起き上がるとまた霧を集中させるからすぐに突進する。
しかし目の前にゲートが出現しては立て続けに周囲にも展開され、そこからは鎖じゃなく真っ白なビームが放たれた。その瞬間に大きく爆発しては巨大な土埃を立てる。
――しかし、それを諸共しないアルは左腕から血を流しつつも突っ込み続けた。
「なにっ!?」
「この程度で止まると思ったか!!!」
更に走る速度を極限まで加速させる。黒魔術が何とかだからじゃない。単純な筋力だけで身体強化の魔法に匹敵する程の力で地面を抉れるくらいに蹴り飛ばす。
ルシエラは回避行動を取ろうとするけどもう遅い。その頃には既に間合いの内へはいっていて、アルは神速で刃を振るいながらもすれ違い様に大きく振り抜いた。すると急停止したせいで周囲の地面が前方へと盛り上がる。
けれど、ルシエラは内臓が飛び散る中でも口元を引きつらせると言って。
「いいえ、思ってませんよ!!」
「――――ッ!!」
そうして振り向きざまの一撃を受け止めて地面に亀裂を走らせる。
やっぱり、ただ切れ味が凄いだけじゃ決め手に欠ける。そもそも複製体で胴体と首が離れても生きているんだから、本体はそれよりも強いって事になるはずだ。
それからの連撃を全て受けては反撃して激しい攻防戦を繰り広げる。
隙をこの戦いで集めなきゃいけない。弱点やその他もろもろも。
――真意……。
アリスが見抜いた弱点。彼女は剣から花弁が出現して舞い散る現象を真意と言っていたけど、それはアルも一度なら引き起こした現象だ。なら、もしかしたら可能性が――――。
けれどどうやってその現象を引き起こすのかまでは分からない。あの時はただがむしゃらに戦っていただけで特に意識していなかったのだから。
――もし名前の通りなのだとしたら、もしかして。
神器を握り締める。これに関しては本当の本当の憶測でしかないし、成功するかも分からない。けれどそれでアリシアを助けられるのなら憶測でも何でもいい。
やがてアルは距離を開けると己を鼓舞した。
「アリシアは奪わせない。一緒にいるって約束したから! ずっと一緒にいるって、誓ったんだ!!」
真なる意志。それが真意と言うのなら、アルにももう一度出来るかも知れない。原理なんか知らないし何をすればいいのかも全く分からない。けれど、仮に真な意志を抱えた瞬間に起る現象なのだとしたら。
そんなアルを後押しするかのようにルシエラは問いかけて来る。
「なれると思ってるんですか。そんな、そんな心象で!」
「なれるかじゃない。なるんだ!!」
そうだ。なれるかなれないかじゃない。憧れは絶対に諦めきれないって意志で抱くからこそ憧れって呼ばれるんだ。――アルだって絶対に諦めたくない。諦めきれない。
「何者にも縛られず全ての人を救う英雄に――――。誰かの英雄になるんだッ!!!」
その時、真紅の瞳が薄く輝いた。
すると神器からはあの時の様に赤いペチュニアの花が舞い出て来て、悪魔の様な格好とは裏腹に神秘的な光景を彩って行く。
そしてそれを見た瞬間にオルニクスは目を細め、相対的にアリスは目を皿にした。
「真意!? 何でアルに!?」
一歩強く踏み出す。それだけでも地面を大きく割る程の威力があり、驚愕して反応が遅くなったオルニクスの胴体へと何の躊躇いもなく撃ち出した。
やがてアルの刃が腹に直撃すると硬い胴体は綺麗に切り裂かれて前方へと吹き飛ばされる。
その衝撃はとんでもなく、ただ吹っ飛ぶだけでも風圧を発生させ最終的には何十本も木々をへし折って停止した。
――このまま追撃を……!
けれどルシエラはこんな程度じゃ倒れない。やるのなら徹底的にやらないときっと死んでくれないだろう。だから姿勢を低くして足に力を入れるのだけど、その瞬間に体内で異常が起きる。
何かが逆流してくるから口元を押さえて吐き出すも、手にくっついていたのは、真っ赤な鮮血で。
「血……?」
突如口から吐き出た血。そんな事が起るだなんて予想してなかったから驚愕したけど、次は吐血以上に体が異常に晒され続けた。
このままじゃヤバイのは分かった。でも、それが何なのかまでは分からない。
「――――がっ、ぐ!? 何だ、急に体が……っ」
「アル!!」
するとクリフが駆け寄ってきてくれる。アリスも急いで駆け寄っては治癒魔法をかけてくれるのだけど、正確には傷じゃない。もっと別の何かがアルの体の中で激痛を引き起こしているんだ。
そうして苦しんでいるとせっかく発動した真意も消え去ってしまう。……なるほど。真意を維持するにはイメージし続ける必要があるんだ。
「大丈夫か!? おい!」
「大丈夫じゃないかな……っ。体の内側が、何かに侵食されてるみたいな……っ」
「侵食? どういう事なの……?」
知識に詳しいと思っていたアリスも分からない様だった。クリフはそんな現象に悩んでは何をすればいいのかに慌てふためく。
のだけど、その謎は傷を完全に修復せずに戻って来たオルニクスによって暴かれて。
「黒魔術を使用した代償ですよ。黒魔術そのものが禁忌みたいな物なんで、使用者には必ず代償を支払わされるんです」
「代償って……」
「アル、今すぐ黒魔術を解除しろ! 死ぬぞ!!」
その説明を聞いた時からアリスは深く考え、クリフは黒魔術を解除するように呼びかけてくれた。けれどアルはそう言われても一向に解除しなくてクリフは次第と焦りの色を表情に浮かべる。
だけど、そこにはとんでもない問題があって。
「……分からない」
「は!?」
「止め方が、分からない……!」
予想よりも斜め上の返答にクリフは唖然とする。
そりゃそうだ。代償が来ている限り黒魔術を使っているのはアルなのに、その本人が止め方が分からないと言うのだから。
「分からないって、んな事言ってないで早くしろ!!」
「だから分からないんだって! 何も意識してないのに、ずっと発動したままで……。――――ぐっ!」
そうして話しているとまた吐血する。それどころか今度は鼻からも血が出てその量に驚愕した。
苦しんでいるアルにクリフは必死に呼びかけてくれるのだけど、特に何も効果はない。それどころか意味はなくて更に吐き出す血の量が増えていった。
「おいアル、しっかりしろ! ――アリス、治癒を頼む!!」
「……いえ、無理よ」
「は!?」
「黒魔術は世界に接続して行ってる。つまりその代償って事は、物理的にじゃなくて何か特別な力が働いてる。――それが本物の魔法なの」
冷静な解説を聞きながらも意識を朦朧とさせる。
どれだけ止まれって念じても黒魔術を停止させることは出来なくて、やがて全身に冷たさが訪れた。死ぬ前兆ってやつなのだろうか。
するとその現象に気づいたアリシアはルシエラに複製体をぶつけた上にレーザーを放つと複製体を完全に消滅させた。それからアルの傍らに来ると体を抱き起して必死に呼びかける。
「アル、しっかりしてください! ――アル!!」
「あり、し、ぁ……」
擦れる視線でアリシアを見つめる。その先には涙ぐんでは必死に呼びかけ続ける顔があって、水の中にいるみたいな感覚に襲われながらも彼女の言葉を聞いた。
「聞いてください、アル。――今すぐ神器を拒絶して」
「拒絶……?」
「いいから早く!! やって!!!」
強い言葉でそう言われるから反射的に神器その物を拒絶する。といっても心の中で「大っ嫌いだバーカ!」みたいな事を叫んだだけなのだけど。それでも、死にたくなかったから全力で叫んだ。
――拒絶……!
すると体にまた何か異常が訪れる感覚が残った。
その瞬間に反動か何かで意識は暗い底に突き落とされる。何が起っているかも分からない中で、深く暗い世界へと。
ただ、どこからか伝わって来る凄い悲しみと共に。




