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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第三章37 『召喚された竜』

 斬り伏せて行った大罪教徒の血肉が消滅した直後だ。黒い霧が渦を巻いて“ソレ”が現れたのは。そんなのが現れるだなんて思いもしなかったからアリシアは心の底から驚愕する。

 みんなも目の前の光景を見ては目を皿にして戦慄していた。


「嘘、だろ……」


「何でこんなところに現れるんだよ」


 ――竜。

 黒い霧の渦から出現したのは真っ黒な竜だった。それは地面に足を付けると途轍もない轟音と地鳴りを引き起こしてみんなに尻餅を着かせる。

 あまりにも予想外――――というか放心する程の現象にアリシアでさえも腰を抜かしそうになった。


「竜って、マジかよ」


「これはヤバイですね……」


 竜と言うのは絶滅危惧種みたいなものだ。数千年だか数百年も前に街へ被害を及ぼす可能性があるからという理由で討伐され、今となっては遥か彼方の何処かに鎮座しているか温厚と見なされ討伐されない竜しかいないはずだ。

 それなのに、どうしてそんな竜が渦の中から現れる。まぁ、その理由も既に知っている訳なのだけど。


「……なるほど。これも全部黒魔術のせいって事ね」


「は!? 黒魔術で竜を召喚できるのか!?」


「通常の魔法は物理法則に従っているから次元などには干渉できません。けど、“本物の魔法”である黒魔術なら次元に干渉して召喚を行えても異常じゃないんです」


 マナは原子の代用品。そして魔法のクセにその構造は物理法則に従っている。だから物理法則に従っている以上、転移や召喚などと言った次元を超越する事は行えないのだ。本当の魔法である黒魔術でない限り。

 それでも召喚となれば媒体が必要となる。つまり黒魔術を操る張本人は死んでいった大罪教徒の血肉を媒体に黒魔術を発動したのだ。


「要するにこいつらは捨て駒って事か……」


「どういう事だ?」


 そう呟くとまだ驚愕の抜けていないライゼが問いかけて来る。竜はまだ攻撃する姿勢にはなってないから手を背後に回してレールガンの準備を整えながらも答えた。


「今まで斬った大罪教徒は死なせる為に突っ込ませたんです。死ぬのならついでに襲わせて私達の体力を減らそうって魂胆でしょうね……。そして私達の殺した奴らから出る血肉を媒体にこの竜を召喚した。そう言う訳です」


「聞けば聞く程ムカつく奴だな。はらわたが煮えくり返る」


 するとライゼはいくら大罪教徒とはいえ、命を雑に扱う張本人が許せない様だった。みんなもその言葉を聞いて驚愕を怒りに変えて立ち上がる。もちろんアリシアだって今までにない以上に怒りが湧き上がっていた。今ならクリフの気持ちがよく分かる。

 でも、だからって現状がどうにかなる訳がない。この竜をどうにかしない限りどうにもならないのだから。

 だからアリシアは賭けに出る。


「……私が竜の相手をします。みんなはその間、やってくる大罪教徒を!」


「ちょっ、アリシア!?」


 そう言って思いっきり飛び上がると幾つもの氷を操っては竜の鱗を叩いて気を引いた。すると竜はアリシアを見るなり咆哮して同じ様に飛び上がる。

 結界のせいで魔術の威力が弱まっている中、一人だけで竜を相手出来るかなんて分からない。でも、やらなきゃみんなは死ぬだけだ。なら何が何でもやるしかない。例えこの身がボロボロになったって。


「そう。あなたの相手は私だ!!」


 圧縮した小さな鉄を右手で保持しながらも左手で巨大な氷を生成し、アリシアを食おうと大きな口を開けながらも突っ込んで来る竜を真正面から激突させる。それから斜めにして地面の方へ押し付けると高度を上げて右手で照準を定める。


 レールガンは途轍もない速度と貫通力を持ち合わせるけど、きっと竜の胴体を完全に貫くなんて事にはならないはずだ。一番やわらかい部位に狙いを定めて撃ち出し、そして爆発させないと。

 今攻撃できる中で一番やわらかい部位。それは――――。

 周囲を焼き尽くす程の雷を腕だけに集中させ、極限まで磁力を高めると弾は神速で撃ち出される。……いや、音速をも超える程の“超絶神速”で。


「――食らえ!!」


 狙ったのは大きく開けた口の中。そこへ弾を撃ち込んだ瞬間に体の内部では超巨大な爆発が引き起こる。あわよくばこれで行動不能辺りにまで陥ってくれれば幸運と言えるだろうか。

 胴体が大きく膨らんでは何枚かの鱗が剥がれて地面へ落下する。その後に口や耳から煙が出て来るのだけど、竜はそんなの気にしないと言うかのように突っ込んできて。


「まぁ、竜なら耐えて当然か……」


 次に両手を掲げるとマナを操作して巨大な鉄の塊を作り出した。

 竜の鱗を貫くのなら火力も速度も何もかもが足りない。だからそれを補う為には爆発とかいう曖昧な物じゃ駄目なはずだ。もっと確定的な一撃を加えなければ奴は倒せない。


 ――この魔術なら!!


 数ある極大魔法の中で、中級に位置するこの魔術なら行けるかも知れない。

 生成したのは巨大な鉄だけど、その内側は鏡の様な構造をさせている。そこへ光を大量に放ち鏡の空間へ閉じ込める事で無限に反射させ速度と火力を加速させているのだ。けれどあまり長く反射させ過ぎると鏡すらも溶けて暴発する可能性が高い。だからこの魔術は形状を保つだけでもあり得ない程の集中力を必要とする。

 そして、それを圧縮して小さくした。反射する回数を増やしつつも光すら圧縮して威力を高める。


 これだけでも本来なら街一つを半壊させる程の威力を持つのだけど、まだまだ終わらない。


 更にそこから幾つかの硝子を生成させてレンズの形へと変形させた。

 正直、鬼畜以上の集中力だ。さっきの弾を保持しつつも三つの物質を作り出し、それらを纏めて超高熱で熱し硝子を作り出し、更にそこから凸レンズへ加工しなければいけないのだから。


「くっ……!!」


 早くしなければ竜が反動から復帰して突っ込んで来る。だからそれまでにケリを付けなきゃ。

 下手をすれば光に呑まれて自分すらも消滅しかねないこの魔術だけど、ここまでしても竜の鱗は破れないかも知れないのだ。だからこそここまでやる価値は十分にある。

 やがてアリシアが攻撃するのを見越して口を大きく開くと同じ様に蒼色の炎を凝縮してはアリシアの攻撃を相殺する準備を整えて。


「これで、倒れろ―――――ッ!!!」


 そうして光を一直線に発射する為の鏡を筒状にすると、光速すらも超える勢いで前方へと撃ち出された。光は生成した十のレンズを通っては刹那の内に溶かし、針の細さにまで凝縮されてはブレスと衝突する。やがて光はブレスを打ち破って竜の体内へと直撃した。

 それだけじゃない。体内へ当たるどころか貫いてその巨体を全て貫いたのだ。

 すると背後ではあまりの超高熱故に巨大な爆発が引き起こされた。


 ――どう……!?


 ブレスの余波に当てられながらも竜の様子を見る。胴体は完全に風穴があいていて、あまりの熱さにまだ体内が溶けている様だった。これなら心臓も消飛ばせただろうか。そう思いながらも動くかどうかを確かめる。

 恐らく竜は魔物じゃない。だから心臓か脳をやれば絶命するはずだ。


 だけど、竜は急速な動きで加速すると大きな口でアリシアを呑み込もうとして―――――。


「なっ!?」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「――アリス!!」


 奴が手を翳して黒い霧を集めた瞬間、ノエルが風魔法でアリスの体を突き飛ばし射線上からおもっきり逸らした。その瞬間に霧の中から真っ白なビームが飛んで来て全てを溶かす。

 そんな事が起るだなんて予想すらもしてなかったから驚愕する。


「何だ今の!?」


「超高熱のビームだ。炎とかは熱くなり過ぎると真っ白になるんだよ」


「そ、そうなのか……」


 困惑するクリフに今の現象を説明しながらも二人の元へ駆け寄った。それから奴の元を見ると灰になった錫杖を捨てながらもゆっくりと立ち上がる。

 少量の霧だけでもあれだけの威力が出るって事は、きっとまだ全力じゃない。さっきの攻撃の方が黒い霧は多かったし。


「私を殺すのならまだまだ遠いですよ」


「クソッ。あいつは不死身なのか……!」


「多分黒魔術で何か仕掛けを施してるのよ。常に再生してるのか、それとも本当に死なないのかは知らないけど」


 アリスの神器解放が直撃した時、奴は特に何もしていなかった。ただ呆然と向かって来るビームを見つめていただけ。それなのに錫杖を代償にするだけで済むとは到底思えない。

 きっと何か裏があるはずだ。

 そう思っていると激しい閃光と共に轟音と地鳴りが届いて全員をびっくりさせた。


「何だ!?」


「あの閃光……どうやらアリシアが超ド級の奴と戦ってるみたいね」


「えっ、何でわかるの」


「だって私達を除いてあれだけの事を出来るのはアリシアだけじゃない。それにさっきの渦と言い、大型の魔物とかでも召喚されたんでしょう」


 アリスが物凄い推測力を発揮すると、それが辺りとでも言う様に奴は口元に笑みを浮かべて見せた。アリシアがそこまでする程の敵――――。となれば絶対にみんなから離れるはずだ。という事は今アリシアは単独でその超ド級の魔物と戦っている事になる。


「ここから調子を上げて行きましょうか。さぁ、踊れ!!」


 奴がそう言うと地中から紫色の鎖が何本も飛び出してアル達を襲った。

 咄嗟に飛び退いて回避する事には成功するのだけど、鎖は止まることなくまた地中から飛び出しては弾かれるまでアル達を狙う。

 でもそれだけじゃ止まらない。鎖は絶え間なく出現しては四人を襲い続けた。


「数が多い。分散しましょう」


「分かった。アル、オレと来い!」


「りょ、了解!」


 そう言って飛び込んで来た鎖を回避するとクリフの元に駆け寄って迎撃態勢に入る。彼女は刃が付いてる訳じゃないから弾くしか出来ないのだけど、その分アルは四方八方から襲って来る鎖を舞の動きで機敏に切り裂いて行った。

 斬っても斬っても数は減らない。その現象に白装束の姿が浮かんでくる。


 だけど、そんな中で奴は指を鳴らすと再び黒い霧を集めて何かをし出す。


「――テメェ!」


「言ったでしょう。踊れと」


 すると奴は黒い霧を回転させて大きな渦を生成させる。まさかまた巨人みたいなのが出て来るのか。鎖を弾きながらもその現象を見つめていると、最終的にとんでもない物が出現して。


「は……!?」


 霧の中から出現したのは、一匹の竜だった。

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