第二章34 『第三勢力』
「クソッ! どけテメェら!!」
突如白装束の奇襲を受けた後、クリフは槍で強引に薙ぎ払いながらもそんな怒号を上げた。その度に白装束は倒れていくけど次々と新しい白装束が追加される。
アルも全力になって切り裂いていくのだけど、奇襲の時に受けた傷が案外深くてどうしても軸がブレてしまっていた。
「アル、大丈夫か!?」
「俺の事はいい! 今は自分の身を――――」
「自分の身すらも守れねぇ奴がそれを言ってどうする!!」
すると背後まで接近して来ていた白装束の脳天を突き刺す。
斬られた額からは血が溢れ出し目に被っていた。だからこそ少しでも視界が悪く軸がブレてしまうのだろう。正直言って、既に全身が熱いからどこから血が噴き出しているかなんて分からない。
クリフと共に戦っては背中を預けつつ戦ってるのだけど、実際の所はアルが一方的に背中を預けクリフは自分自身もアルの背中も守ってくれているのが現状だ。
「アルの背中はオレが守る。だからアルは目の前の敵を殺す事だに集中しろ!」
「……分かった!!」
防御に集中して攻撃が疎かになるよりかはそっちの方が遥かにいいだろう。
だからこそアルは守りなんて気にせずに目の前の大罪教徒を殺す事だけに全ての集中力を使った。左腕が使えないから加速を付けた後の停止がしずらいし、だからこそ回転を使うもどうしても軸がズレるせいで完全に戦う事は出来ない。
それでも戦い続けた。
――攻撃が俺だけじゃ絶対に勝てない。俺が攻撃に全てを振りつつも致命傷以外の攻撃は全部回避しなきゃ。
本来の戦闘力を発揮するのなら攻撃に全てをかけるしかない。でもそれだけじゃ奴らには勝てないはずだ。
クリフはアルの安全を確保する為にこうして防御に回ってくれてるけど、やっぱりクリフも攻撃に回ってくれなきゃ絶対に数で押される。
――言うは簡単でも難しいぞ……。入り乱れる呼吸を聞き分けるのも無理に等しい。でも、やらなきゃ!
聞き逃す事も聞き間違える事も許されない。攻撃に全てを振りつつ、耳に集中し、回避にも気を配らなきゃいけない。そんな鬼畜とも言える作業を無理やりにでも成功させようと集中する。
攻撃する瞬間に聞こえる息。武器が風を切る音。相手がどこを狙うかという気。
それらを全て振り分けて――――。
「っ!!」
「アル、お前……」
「いつまでも守られる訳にはいかない! 俺だって、英雄に憧れたんだから!!」
攻撃を弾くとクリフが意外そうな表情をする。そりゃ自分を守る事すらも出来ないアルが急に相手の動きを先読みしたかのように攻撃を弾けばびっくりするだろう。
それにアルの言葉は本当の物だ。英雄に憧れたのに、いつまでも守られてちゃ英雄になって到底なれない。
「俺も一緒に戦う! 戦って、勝つんだ!!」
「……そうだな」
アルはクリフの過去と憧れを知っている。クリフはアルの願いと憧れを知っている。……まだ本当の過去は話せてない訳だけど、それでも少しであっても互いを知っているのだ。だからこそ、今互いが何をしたいのかが手に取るように分かる。
「悪い。余計な気遣いだったか」
「俺が一方的に反発してるだけだよ。……クリフの優しさに自分勝手な理由で跳ね除けてるだけ」
「それを余計な気遣いって言うんじゃねぇの?」
「そうかもな」
互いに背中を合わせるとそう軽口を叩く。
アルに攻撃だけしろって言ったのも彼女なりの優しさだ。もし仮にアルがライゼ並に強かったらきっと白装束を殲滅できただろう。でもアルは最弱。攻撃だけに専念しても守られる事しか出来ない。――自分でさえも自分を守る事が出来ない。
それは攻勢に出ると宣言した今も一緒だ。それどころか更に自分を窮地に追いやっている。
だけどアルは誰かを救い、守り、手を差し伸べる、そんな英雄に憧れた。だからこそ守ってもらう訳にはいかない。自分から行動してこの弱さすらも打ち破らなきゃいつ英雄になれるって言うんだ。
残った右腕だけで神器を振るうと己を鼓舞する。
「――俺は英雄になる。何者にも縛られない、自由奔走に人を助ける様な、そんな英雄になるんだ!! そう簡単に倒せると思うなよ!!」
怪我の度合いを誤魔化す気合いの雄たけび。こんな事をしたって精神的にしか効果はなく身体能力が上がる訳じゃない。
でも、そんなアルの背中を押す様にクリフも叫んで。
「オレ達を倒せる事を神様にでも祈ってな!!」
「――――っ!!!」
その声を合図に姿勢を低くして突撃しようとする。
――だけど、直後に森の奥から何かが飛んでくる事に気づいて咄嗟にそっちへ向く。しかし気づいた頃には激しく衝突していて。
「ぐっ!!」
――人!?
吹き飛ばされて来た物の影でそう判断する。足が浮く程ではなかったのだけど、それでも木に衝突するくらいまで後ずさりした。
そして飛ばされて来た人を見て驚愕する。
「……なっ、ノエル!?」
すると今度は木々の上から人影が吹き飛ばされているのを見てクリフが受け止めた。そこには額から血を流すアリスがいて、彼女自身もアリスがここまでされている事に驚愕する。
「アリス!? どうしたんだ!?」
けれどアリスは答えずに前の方を見つめる。
この二人がこんなになるまで追い詰められるだなんて絶対におかしい。って事は、視線の先には二人係でも倒せない様な奴が――――。
やがてそいつが姿を現した途端に戦慄する。
「おや、こんなところにも人がいたとは。何人かいる事は知ってましたが、あなたか」
「――――っ!?」
この前の戦いで首を刎ね殺したはずの男が目の前にいた。いや、でもアルの記憶じゃ確実に首を刎ねて殺したはずだし、アリシアも奴が死んだ事は確認していた。なのにどうして目の前に現れる。
幻覚なんかじゃない。だからって奴は特訓する前のアルでも倒せる様な相手だった。それなのに二人が押し負けるだなんて事は更にありえない。
「そんな、何で……」
「魔法って言うのは不思議な物なんです。――黒は特にね」
その言葉だけで確信する。こいつは大罪教徒の中でも特別中の特別なんだって事を。まだ指揮官クラスとまでは行かなくとも大罪教徒で他とは違い喋れる。それだけでも十分情報を取れるって物だ。
奴は黒魔術を知っている。という事は使用できるとまでは行かなくとも核に迫る様な人物なはず。生け捕りにでも出来れば吐いてくれるだろうか。
「何だ、コイツの事知ってるのか?」
「知ってるも何も、こいつの首は以前に俺が刎ねた」
「なにっ!?」
問いかけて来たクリフに対してそう言うと素直に聞き入れて驚いた。こうして普通に聞き入れてくれる辺り信用されてるのだろうか。
驚くと同時に強敵である事を判断するとクリフは闘気を解き放って思いっきり威嚇する。しかしそれをもろともしない彼は普通の表情で呟いて。
「なるほど、鬼ですか。こんなところで絶滅危惧種の種族に出会えるとは思いませんでしたね」
「テメェ何者だ。大罪教徒の何なんだ」
「至って普通の大罪教徒ですよ? ほら、来てる服も黒だし」
「そう言う事を聞いてるんじゃねぇ! 大罪教徒の何なんだって聞いてんだ!!」
真面目に答えない彼に対してクリフは次第と苛立ちの色を見せた。そりゃクリフにとってははぐらかされているのだし、そもそも憎むべき相手だ。そんな相手が話せるのだからその事実は知らなきゃいけない。
だからこそ奴の事について情報を引き出そうとするのだけど、アリスはクリフの服を強く掴むと離れる様に伝える。
「奴から離れて!」
「は……?」
「早く! 死ぬわよ!!」
「っ!?」
あまりにも真剣な表情を見て体は半ば勝手に動く二人で同時に後方へと飛ぶと、奴の周りには真っ黒な霧みたいな物が出現して旋回し始めた。そう思ったのも束の間。ソレは全てが四人の方角へ飛ばされると途轍もない速度で接近する。
やがてそれはノエルの力によって制止するのだけど、ノエルは威力に押し負けてアルと共に大きく後ろへと吹き飛ばされた。
「アル!?」
「――――っ!!」
何とか転ぶ事だけは回避しつつもダメージを減らす事には失敗する。
案の定木にぶつかる事で停止すると抱えていたノエルを下して軽く背中をさすった。
「い、今のは……?」
「あいつの魔法よ。まぁ、魔法と呼べるかは怪しいけどね」
確かに読んだ魔道書にはあんなものは書いてなかったし、あり得るのなら本当に黒魔術を使った物なのか、それとも奴が独自に発見した魔法なのか。まあ多分前者だろう。
それでも放って置くわけにはいかない。そう思ったから前へと走り出して問答無用で攻撃を叩き込もうと思ったのだけど、その先で見た光景は驚愕するには十分すぎる程の物で。
「は!?」
あのクリフが腹を串刺しにされてるのを見て一瞬でも足を止めてしまう。けれど助ける為に更に足へ力を入れ、思いっきり飛び出しては隙だらけの首にまた刃を通そうとする。
どういう原理でここに立っているのかは分からないけど、首を刎ねればまた殺せると思い至ったから。しかし奴はアルが全力で振るった刃をいともたやすく受け止める。――それも武器すらも使わず指先だけで。
「――っ!?」
「甘いですよ」
誰が神器での全力攻撃を指先だけで受け止めると思うだろう。
あまりの重さに地面が盛り上がる程の衝撃だと言うのに、奴は微塵も苦しそうな表情はせずにそこで立ちアルを見つめている。だからこそ悟った。奴とアルは絶望的なまでの差があるって。
「アル、逃げて!!」
「止めろテメェ!!」
アリスは自分の神器を構えてアルを救出しようとしてくれる。クリフも槍を構えて奴の顔面目掛けて思いっきり刃を突こうとした。そして、ノエルは遠くから高速の魔法を既に放っている。アルも抵抗しているのだけど、奴は神器を離さずにとんでもない力で掴んでいて。
その指先にまた黒い霧が集まるのが見える。多分、直撃したら死ぬだろう。
でも、この零距離じゃ回避どころかみんなの攻撃が間に合う事すらもままならなくて――――。




