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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章31 『化け物』

「は……!?」


「何だコレ!?」


 霧の中から魔物が実態を露わにした瞬間、全員はその異様な光景に背筋を凍らせた。遠くから見ていたジルスでさえも。

 ――口が体中にくっついているのだ。どこにでも剥き出しになった牙がある口がくっついていて、それらは常に血を垂らしながらもパクパクと何かを噛もうとしている。そんな光景を見て全員は一瞬でも動きを鈍らせた。

 だからこそその隙を突かれて反撃される。


「――――っ!!!」


 腕を振りかざしたかと思えば全身に付いている牙からギザギザの衝撃波が飛んで来て全員を切り裂いた。武器でギリギリ防御も出来る訳なのだけど、その細長い武器だけじゃ完璧に防ぐだなんて出来る訳がなくて。

 それぞれが体から血を流す光景を見てアリシアは即座に攻撃をした。


「止めろ―――――――ッッ!!!!」


 咄嗟に放った爆発魔法。それは魔物とみんなを遠ざけるのと共に視覚妨害の効果をももたらす。全員を魔物から遠ざけると握っていた神器を地面に突き刺しては両手を叩き、電気を周囲に解き放つと磁力で大量の砂鉄を操り始める。

 やがてその砂鉄で鋭く巨大な作り出すと真っ向から真っ二つに叩き切ろうと砂鉄の刃を叩き込んだ。


「ぐっ……! ぁぁぁぁぁぁああああああああああッ!!!!!」


 それから全力で砂鉄を操り何が何でも切り裂こうと周囲が焼けるくらいに電撃を体から迸らせる。――でも、その攻撃さえも受け止めた魔物は血に染まった瞳でアリシアを見つめて。

 左腕で砂鉄を操作しながらも右手を振りかざして真っ黒な炎を出現させて真正面から投げつける。それと同時に炎が敵に近づいた瞬間から砂鉄で円形のバリアを作り、爆破の衝撃を最小限に抑えつつも高威力の爆発を全て奴にぶつけた。


 やがてその爆発は周囲のものを吹き飛ばし、立っていたアリシアでさえも吹き飛ばされそうな程の爆風を生んだ。

 これが全力と言う訳じゃないけど、これで少しでも傷ついてくれるのならまだマシな方だろうか。凄い魔物なんか何やっても傷つかない時もあるらしいし。

 と考えていたのだけど、皮膚が酷く焼け溶け口が潰されても奴は止まる事なんて無かった。


「ならこれで!!」


 炎と水を使って水蒸気を発生させ、自身の体を透明化させるのと同時に蜃気楼で偽物の自分まで作り出す。そうして偽物にまんまと引っ掛かった魔物の背後を取ったアリシアはその首へ刃を叩き込む。何度も回転させては遠心力で威力を増すこの技なら――――。

 五の型:八重桜。


「やあああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


 そうして刃を叩き込んでも完全に切り裂く事には失敗する。それどころか半分まで到着するのがやっとで、神器を全力で振るう威力にすらも耐える硬度に驚愕した。

 次の攻撃が来る。分かっていても深くまで切り込んでしまった神器を抜く事も振り払う事も容易ではなくて、アリシアはせめてダメージを凌ごうとバリアを展開させようとする。でも、アルが飛び上がっては回転を付けてアリシアの神器を押した事で首を斬り飛ばす事に成功して。


「アル、大丈夫なんですか!?」


「何とか! ギリギリ傷が浅かった……」


 全力で心配すると斬られた脇腹を見せて傷の度合いを確認させる。そこには深くもなければ浅くもない傷口があったのだけど、血が絶え間なく出ているという事だけは確かで、つい心配になって治癒魔法をかけようとしてしまう。

 しかしアルの言葉で戦闘に集中させる。


「気を抜くな! まだまだ来るぞ!!」


「はっ、はい!」


 大型の魔物を倒せたってまだ大罪教徒が残っている。どうせ奴らの事なんだからこれが切り札という訳でもないだろう。

 ……切り札でも切り札じゃなくても、一撃で死ぬような魔物をわざわざ出すだろうか。

 振り返るとそこには魔物の振り下ろしていた拳が目の前にあって、戦慄するのと同時に深く驚愕する。すると突っ込んで来たクリフによって間一髪で回避された。


「気ィ抜いてんのはアルもだろが! しっかりしろ!!」


「あれ、今動いて……!?」


 クリフに言われるとアルも首を斬り落としたはずの魔物が動いている事に驚愕していて、今も頭を持っては切断された部分に持っていく光景を見つめていた。

 でも普通の魔物なら首を斬れば死ぬはず。大体の体の構造が人間と同じなのだから、首を斬られても死なないなんて事はありえない――――。そんな疑問をクリフが解説してくれる。


「あいつは普通の魔物じゃねぇ。場合によりゃ侵食現象をも起こしかねねぇ上級の奴だ」


「上級……って事は本来なら王国騎士団と互角の強さって事か!?」


「そう言う事だ」


 アルの言葉に驚愕してクリフの方を見た。

 もし奴が王国騎士団と互角の強さだったのならヤバい事になる。だって辺境の街の騎士団長が王国騎士団の下っ端レベルと言われていて、あの街の騎士団長は一人で同時に何十人もの大罪教徒を相手出来る程なのだ。そこから見るに王国騎士団の強さは計り知れない。

 ……だからこそ奴の強さも未知数だ。


「よく聞け。あいつの相手はオレがやる」


「はぁ!?」


「じゃあオレよりも遥かに弱いお前があいつと戦うか? それともみんなで力を合わせて大罪教徒を無視して戦うか?」


「それは……っ!」


「戦況を見ろ。何をすれば最善かを常に考えるんだ」


「……分かった」


 戸惑うアルに向けられたあまりにも辛辣で残酷な言葉。確かにアルが立ち向かえばすぐ死ぬだろうし、クリフと一緒に戦っても足手まといになるだけだろう。なら奴の相手をクリフに任せてアル達は突っ込んで来る大罪教徒を相手するのが合理的。

 今みたいないざと言う時の防衛戦を張る為にもアリシアは残らなきゃいけないし、未だに戻って来ないアリスとノエルの助力もあまり見込めない。でも状況を見ると彼女に頼むのが一番合理で気なのだ。


 アルも苦渋の決断なのだろう。その表情には常に苦しそうな物がこべりついていた。

 やがて奴を少し離れた所へ誘導する為にクリフは囮を担おうとする。――のだけど、それには全く引っ掛からずに魔物は真っ先にアルへ突っ込んで来て。


「なにっ!?」


「アル!!」


 咄嗟の判断でアルは間一髪で奴の攻撃を避ける事に成功する。けれどその時には既に次の攻撃が開始されていて、アリシアは全力で振り下ろされた拳に刃をぶつけて相殺させた。

 その瞬間にクリフがとんでもない威力で首を斬り付け攻撃する。


「何でアルを!?」


「多分弱ェ奴から殺そうとしてるんだ! そしてこの中で一番弱ェのはアルしかいねぇ!」


「地味に酷いなもう!!」


 アルはそう愚痴りながらも必死に攻撃を回避するけど、実際の所この中で最弱なのはアルだ。以前の特訓や稽古で技術や流派を身に着け確かに強くなっている。でも総体的に見ればまだまだ弱く、恐らくだけどギルドの中で何の流派も学んでないライゼよりも弱いはずだ。

 だからこそ奴はアルを殺そうとしている。ただの魔物にそれ程の知能があるとは到底思えないけれど……。


「でも強い弱いって分かる物なのか!?」


「大抵の奴は気で判断できる! 多分奴もそうなんだろ!!」


 三人で支え合いながらも奴の強烈な一撃を受け流す。

 固い上に早く強い。そして頭も回れば誰から一番最初に殺せば効率がいいかもわきまえてる。ここまで来れば本当の人間と同等なのではないか。


 ――アルを優先して殺すのなら裏取りして倒す? いや、でも弱点は首じゃないし……。


 アルの目の前に現れる以前の記憶は既に三百年前の事となってしまっている。――自分の事以外の事は、もうほとんど分からない事の方が多い。そもそも自分の名前さえも忘れてしまう程の時なのだ。そんな中で全ての記憶を保つだなんてそれこそ不可能な話。

 だからこそアリシアは問いかけた。


「こいつに何か弱点は!?」


「核だ! 核を狙え!! どこにあるかは分かんねぇけど、核を破壊すればそれで終わる!!!」


「核って言われても……!」


 表面上じゃどこにあるかだなんて分からない。だからこそ体の内部を知らなきゃいけないのだけど、残念ながら相手の皮膚を透視できるなんて言う魔法は存在しない。というかあったらあったで悪い意味で広がってそうだし。

 やがてクリフは奴の攻撃を受け流しながらも言った。


「ってか、こうなりゃアルにも手伝ってもらうぞ!」


「分かってる! 囮でも何でもやってやるよ!!」


 その受け流し地面へと直撃した腕を走りながらも目を切り裂いたアルは答える。

 現状じゃ逃げたって追いかけられるだけだし、下手に逃げればやられる可能性だって高い。となれば足手まといでも何でも一緒に戦い仕留めるしか道はないだろう。それを理解しているからこそアルは囮の役に徹しながらもクリフが攻撃しやすい所へ誘導する。


 その合間にもアリシアは魔法を駆使して動きを止めたりと色々な妨害を施して奴にとって不利な状況を作り出していく。

 クリフもその状況に応じて最適な行動をしてくれるし、アルも余裕が出来れば神器を叩き込んで隙を作っていた。


「核の探り方って分かるのか?」


「ひたすら攻撃! 以上!!」


「んな滅茶苦茶な!?」


 あまりにも雑な探り方にアルが軽くツッコみを入れる。でも実際にそれしか方法がないんだろう。弱点が内部に隠されていて、表面からじゃ見えないからこそ荒いやり方しかない。

 それをアルも即座に理解したのだろう。自分でも攻撃出来そうな隙が出来次第奴に攻撃を叩き込む。けれど如何せん皮膚が硬すぎて神器でさえも攻撃が完全には通らないのだ。だからこそアルは軽く舌うちをするとその硬さにうんざりする。


 でも、その硬さがあるからこそ次の瞬間に何が起こるのかを悟ってしまう。


「――避けて!!」


「しまっ!?」


 アルが飛んだ隙に奴は拳を握り締めては捉えていた氷から力尽くで脱出して見せる。そこから真っ先にアルへ拳を振った。

 一応神器で受ける事は成功する物の相殺する事は出来なくて、咄嗟にクリフが同じ方角から攻撃を重ねてようやく少しだけ耐える事が出来るくらいだった。

 しかし二人での全力攻撃でも完全に防ぐ事は叶わなくて。


「――――っ!?」


 攻撃を相殺する事が出来ずに二人同時に吹き飛ばされてしまう。木々を薙ぎ倒しながらも奥の方へと飛ばされていってしまい、目視じゃ確認出来ない所まで飛ばされてしまった。

 だから追いかけようとするのだけど、出入り口から追い詰めるかのように大罪教徒が攻め入って来て。


「くっ!」


 ――アル、無事でいて……!


 急な出来事に困惑しながらも防衛線を維持しようと刃を振りかざした。

 ただ、彼が無事なようにと祈りながら。

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