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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章30 『防衛戦』

 翌日。

 体を寄せ合い二人で毛布に包まって寝ていた中、突然銃声が鳴り響いた事でまたまたアル達は慌てて起き上がった。

 驚愕して飛び起きると同じ様にしてびっくりした鳥が飛ぶのが見えて、その内容でまたジルスが発砲したことに気づく。


「なんだ!?」


「またジルスが発砲したんだ。行くぞ!」


 みんなは即行で入れ替えて現地に向かう訳だけど、まだうとうとしていたアルはアリシアに連れられて剣だけを持ちながら強制連行される。

 そして目がパッチリと覚める頃には先行して現地に到着して、投げる様にアルを地上へと下ろすと何度か回転しつつも着地して目の前の光景を見入った。今度は狼族じゃなくて騎士団の連中が死んでいる光景を。

 だからすかさず腰に手を持っていくとクリフが鋭く叫んで。


「――来るぜ!」


 そうして出入り口の所を見ると騎士団が凄い形相でこっちへ走って来ているのを見て、アルはすぐに抜刀して目の前の地面を割る。

 それと同時にアリシアも魔術を出して前方の騎士団を一掃した。


「遂に来たか。この森での防衛戦はちょっと不安だけど、やるぞ!」


「ったりめーよ! こっちはずっと待ちわびてたっつーの!!」


 勢いよくそう言うとクリフも元気に返し、久々に体を動かせる事を心から喜んでいるみたいだった。その証として槍を高速で振り回しては早く戦いたいと意思表示している。

 彼らはこの前よりも遥かに多い数で走ると各々の武器を振りかざしてはアル達を本気で殺そうと雄たけびを上げた。だからこそアルは習ったばかりの型を発動させると目の前の敵をまたもや一掃する。


「――ッ!!!」


 腰を限界まで捻っては一気に放出する。すると神器の威力もあって、生まれた衝撃波は前方へと撃ち出されては目の前の敵を切り裂いていく。そうして全員の腹を深く切り裂いては足を止めさせ、その隙を突いて飛び上がっては槍を思いっきり振り下ろした。

 そうして敵を蹴散らしてもまだまだ終わらない。数がどんどん増える奴らは圧倒的数でアル達を押しつぶそうとする。

 けれど少し経てば背後からみんなが接近して来ていて。


「ナナちゃんお願いしますね!」


「えっ!? お、おう!!」


 フィゼリアはナナをジルスに向かって投げつけるとそのまま回転しながら抜刀し、遠心力を利用してさっきのアルみたいに衝撃波で前方の敵を切り裂いた。

 ウルクスも滑らかな剣筋で敵を斬り、ライゼはどこの流派でもない独特な動きで順調に戦っていく。


「アリスとノエルは!?」


「周囲を警戒するって言ってた!」


「多分目視で敵の探索でもするんでしょうね!」


 そう喋り合いながらも互いの背中を守りつつ敵を蹴散らす。

 二人が周囲の警戒をするのなら背後からの奇襲はなさそうだ。

 クリフは前線で相変わらずの人間離れした動きで戦っていて、むやみやたらに突っ込んで来る敵を切り裂いていた。だがさすがにそんな光景が続けば全員が違和感を感じる訳で。


「やっぱりおかしいな」


「ああ。数が多すぎる上に弱すぎる。これじゃあ命を投げ捨ててるのと一緒だ。奴らはこの森に攻め入ろうとしたんじゃないのか……?」


 装備や武器のクラスで言えばアル達が来たみたいな辺境の街にある騎士団の装備レベルだ。でも数が明らかに多すぎるし、それに騎士団にしては動きがあまりにも単調過ぎる。操られてるのは間違いないのだろうけど、これじゃあ本当に文字通りの無駄死にじゃないのか。

 試しにウルクスが倒れた人の鎧を蹴って剥すととんでもない光景が目に入って。


「は……!?」


「嘘だろ、何だコレ……」


 彼らは騎士なんかじゃない。ましてや辺境の街にいる衛兵ですらない。……普通の村人だ。彼らは普通の村人で在りながらも騎士の装備を着せられて走らされてるんだ。

 あまりの弱さから斬撃から打撃に切り替えていたクリフだけど、その事を伝えると実際に目で確認しては驚愕して。


「そいつらは騎士なんかじゃない! 鎧を着せられただけの村人だ!!」


「何っ!?」


 そうして突っ込んで来たうちの一人を気絶させて鎧を破壊すると、本当にその下が民用の服である事を知って深く驚愕していた。

 って事は彼らを操ってる張本人はそれっぽく見せる為に鎧を着させ、戦闘の能力なんて微塵もないのに突撃させ、返り討ちに合わせて無駄死にさせているのだ。そんな現状を確認すると怒りどころか殺意が湧き上がって仕方なくなる。

 それはクリフも同じみたいだった。


「何の罪もねぇ民を操り特攻させてるだ……? 親玉は相当イカレてるみてぇだな」


 槍を握り締める音で既に察する。彼女はアルと初めて交戦した時より――――家族を殺した大罪教徒を相手にする時よりも怒っているんだって。

 少しだけでも足に力を入れると地面が抉れ、襲いかかって来る村人を刃の付いていない方で吹き飛ばした。それも何十人もを同時に一振りで。

 やがてその怒りを威圧に変換すると今でに感じた事もない殺意で叫ぶ。


「――絶対にブッ殺す!!」


 するとさっきのアルみたいに地面を全力で叩いては前方の足場を広範囲に渡って崩し、突っ込んだと思えば一瞬で全員のうなじに攻撃を叩き込んで気絶させた。

 村人だと分かった以上、助けない訳にはいかない。そういう考えから生まれた行動だろう。

 前を見ると今度はこの前見た本物の騎士団が駆けつけていて、未だ正体を現さない操る張本人に向かって叫んだ。


「見てんだろこの戦いを! さっさと出てこいや臆病者ッ!!」


 既に前線はクリフ一人でも十分と呼べるくらいに保てていた。現状じゃ罠の発動も返って彼女の邪魔になるだけだろう。

 だからこそそんなクリフの戦闘を見守る訳なのだけど、敵は増えるばかりで張本人は全く出て来ない。


 突如始まった防衛戦。それは敵の正体を見抜いた途端に何だが流れ作業みたいな感じになる。流れ込んで来る村人をクリフが倒し、たまに抜けて来る奴らをアル達が抑える。それだけの単純なパターンが繰り返された。

 敵の行動は明らかに矛盾している。大前提の話としてこの場を奪いに来るのなら間違いなくこんな事はしないはずだ。先陣でも偵察でも、必ず防衛地点の偵察などを行ってからちゃんとした勢力をかき集めて突撃する。これが普通の防衛線なんだから。


 ――何か狙ってるのか? 村人を操り無意味に突撃させる事に、何の意味が……?


 時間稼ぎと捉えるのが普通だろう。こうしている間にも背後から奇襲する準備を整えていると言うのが普通の作戦。だけどアリスとノエルが周囲の警戒をしていると言っていたしその心配はないだろう。二人の力はそれ程なまでに強大な物だから。

 でも、敵の大将がそれを知らないだなんて思えない。前にあれだけの勢いで攻め込もうとしたのに誰も傷つかないで帰ってきたら、それをさせる程の事をさせる敵がいるって理解出来るはずだ。


 だからこそこんな行動をするのは無意味だって分かっている。それに防衛戦は基本的に相手は動く事がないのだから準備があるなら奇襲なんかしなくても整うだろうに。

 村人を突撃させるからこそ生まれる意味。それは何だろう。


「――大罪教徒だ!」


 でも、次の言葉でアルの思考は完全に斬り捨てられた。咄嗟に前を向くと今度は黒装束の大罪教徒が突撃して来ていて、それを見た瞬間にアルは気を取り直して剣の柄を握り締めた。

 ようやく表れた大罪教徒。どうして村人と同時に現れたのかは分からないけど、それでも奴らを倒せるのならそれでいいと決めつける。

 しかし奴らは思いもよらぬ行動を起こして。


「は!?」


「何で奴らが村人を……!?」


 こっちに向けて武器を振り上げたと思えば村人を無差別に攻撃しては血を流させる。村人は攻撃する素振りも、気にする様子もなかったのに、どうして急に襲い始めたのか。

 その疑問はすぐに解が出される。


 突撃してくる村人。クリフが死なない様に気絶させた村人。それらを全て串刺しにして血を撒き散らした後、まるで自滅するかのように村人と同じくこっちに突っ込んで来る。だから容赦なく斬り伏せるのだけど奴らの目的はそれ自体な用で。

 つまり、元から無駄死にさせるのを目的で特攻させていたのだ。

 少しの間だけ待てば血が消滅して行くのを見てアリシアが即座に理解した。


「物質変換!?」


「何だそれ」


「要するに錬金術です。血肉を色んな物に変換するって言う、正真正銘の黒魔術で……」


「黒っ!?」


 何でこんなところで黒魔術の現象が。そう思った直後だった。

 消滅しては霧になった血は一カ所に集まっては何か大きな物を模り始める。それが魔物的な物なんだって即座に理解し、全員はソレが動き出す前に先手を打とうと前に突っ込んだ。 

 アルも走って神器を振りかざしソレが動いた瞬間に刃を脳天に直撃させる。

 でも、


「――っ!?」


 まだ霧だけで振り払えるはず。そんなみんなの憶測は真正面から打ち捨てられた。腕らしき部位で刃を受け止めたかと思いきや確実に実体が存在し、ソレは叫びながらも回転して全員を纏めて吹き飛ばす。それも神器にさえ耐える程の硬度を持った腕で。

 みんなは木々にぶつかりながらもその衝撃に必死に耐え続けた。


「アル! ――こんのッ!!」


 するとアリシアは即座に魔術を生み出しては掌に握った炎を目の前の魔物に向かって撃ち出す。やがて巨大な爆発が起きるとクリフがその爆煙に紛れて背後から魔物を切り裂く。

 のだけど、そこから血が出る事は無くて。


「血が出ねぇだと!?」


「そいつは黒魔術から作られた存在! 正真正銘の化け物よ! 普通の定義は既に当てはまらない!!」


「なるほど。要するに文字通りの魔物って訳だな!!」


 こんな状況に便乗するかのように大罪教徒は接近してくる。だから奴らを根絶やしにしようと今みたいに炎を生成するのだけど、背後から複数の銃弾が放たれては全員の頭を綺麗に撃ち抜いた。

 そしてジルスは片腕でナナを抱えながらも叫ぶ。


「奴らは任せろ! みんなはそのデケェのをやれ!!」


「わかりました!!」


「応!」


 彼の言葉に答えるとその瞬間から各々の行動に移り出し、クリフとアリシアは目の前の魔物をいち早く倒そうと攻撃を始めた。もちろん吹き飛ばされてから戻って来たみんなだって。

 そうして今度は全方向からの攻撃を全員で叩き込もうと刃を振り上げる。


 でも、魔物は更にそこから正体を見せて――――。

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