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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章29 『もう一度積る話』

 作戦会議からさらに数日後。

 一先ず身の安全を確保する為にみんなは防衛の準備を整え、アルの狩りをする為の知識を元にいくつかの罠を設置した。

 更にエセ塹壕みたいな物も作り、相手にとっては視界が悪い環境を作り出す事にも成功する。……のだけど、何よりも驚いたのはその案を出したのがアリスという所だ。彼女もアリシアみたいに基本的にはこの世界にない知識を幾つか持っているらしい。


「しっかし、こんなんで本当に引っかかんのか?」


「ないよりかは遥かにマシだ。まぁ、外にはアリスが索敵の為に出てるから意味があるかないかと言われればない方に傾くけど……」


 罠を設置し終るとクリフはそう呟き、アルは自信がないまま彼女にそう返した。でもないよりかはマシなのは確かである。実際、村が焼かれた日に罠がなければアルは既に死んでいた訳だし。

 やがてライゼ達が駆けつけるとすぐに報告をしてくれる。


「向こうの罠はあらかた設置し終った。そっちは?」


「こっちも今終わった所だ。これでここからの侵入はあらかた防げると思うけど、背後からの侵入はどう対処するか……」


 そうして深く考えこんだ。

 迷いの森は道なんてないから気がびっしり敷き詰められていて、罠を設置するのには絶好の場所だ。そして神秘の森の入り口付近も全く同じ。

 でも神秘の森の内部はあまり木々の間が狭くなくて、罠を設置するには少しばかり距離が足りないのだ。威圧としての意味合いじゃいいだろうけどいつまでも罠の設置に人員を裂くわけにもいかない。


 迷いの森にはノエルかアリスが同行しなきゃいけない訳だし、片方が抜けただけでも防衛は十分疎かになると言ってもいい。だから今アル達に出来るのは襲撃された時の為に罠を備えておく程度。

 それにどこから襲って来るかも分からないからって全方向に罠を設置するのはもっと無理な話だ。そんな事をするのなら街の人全員に手伝ってもらわないと絶対的に不可能。


「騎士団にも大罪教徒にも他の様々な種族にも対応しなきゃいけない。それに襲って来るかも分からないって、辛い防衛戦だな」


「こんな少人数での防衛戦があってたまるかっての」


 呟くとライゼが呆れながらもそう返す。

 確かにこんな防衛戦なんてないだろう。今の所地の利はこっちに傾いている訳だけど、数で押されれば戦線は崩壊するはずだ。

 更にここ最近は大罪教徒も確認出来てないし、絶対に裏で何かをしているはずだ。だからこそ警戒や罠の設置は怠れない。


「とりあえずやれるだけやろう。素材の残りってどれくらいあったっけ」


「確か木材が数十個で縄が後数本しか……」


「数本か。それじゃあ後設置できるのは一個が限度かな。まあそれでもいいか」


 アルがそう問いかけるとウルクスが記憶を辿りながらも答えた。

 けど一つでもないよりかはマシ。そう言い聞かせて木材を運び出そうと小屋の方へと足を運ぶ。しかしいくら罠を設置したって必ずしも守り抜けるという訳ではない。罠なんて言うのは一時の気休めでしかなくて、敵を惑わす為の道具でしかないのだから。


 正直に言うとすぐに抜けられるだろう。特に大罪教徒なんかには効果が薄い。奴らは何も恐れずに突っ込むからこそ罠に掛からないだろうし、仮に掛かったとしても動じずに他の奴らは真っ直ぐに突き進むはず。

 罠と言うのは仲間が掛かり動揺するからこそかかりやすくなる。自分ももしかしてああなるのか。そう考えて下手に動くと次々と罠が作動して巻き込まれる。それが罠のスパイラルだ。しかしそれが常識であるからこそ奴らは掛からない。実際にあの森で罠が作動しても誰も止まらなかった訳だし。


 ――このままじゃ明らかに防衛準備が足りない。素材も、人員も、何もかも。どうにかして更に強く対策しなきゃ……。


 地の利と言っても、言い換えればアル達は鳥籠の中に囚われてる事にも成り得る。出入り口を塞がれればアル達はずっとこのまま森に居座るハメになるのだから。

 常に危機と隣り合わせの生活。それは思ったよりもアル達の精神をすり減らしては体力さえも消耗させていく。


 ――でも対策するといってもどうする? 罠はこれで全部だ。罠を増やすと言っても木材の加工は誰も出来ないし、調達できる縄だけじゃ何も出来ない。特訓すると言ってもそれはそれで無理な話だし……。


 完全なる八方塞がり。

 敵がいつ襲って来るか分からない以上、のびのびと訓練する訳にもいかない。何もかもが上手く行かない中でアルは必死に考え続けた。

 のだけど、そんな表情をライゼが肩に手を置くと言ってくれて。


「あまり深く考えこみ過ぎるな。みんなで一緒に考えよう」


「……そう、だな。ちょっと焦り過ぎてた」


 そう言われて冷静さを取り戻す。そうだ、今のアルには一緒に考えてくれる仲間がいる。だからこそみんなと一緒に考えて悩まなきゃ。

 気を取り直してみんなに対策の事を話すとまたこの前みたいに意見が飛び交っては新しい事についても意見が飛び交う。みんなで考えればアルの悩んでいた事も少しは気が楽になって、少しでも気を緩くする事が出来た。


 のだけど、どうしても確証の無い不安がアルを襲っていた。



 ――――――――――



「……やっぱり寝れないんですね」


 夜。

 星を見つめながらも寝れないから体を持ち起こすと、背後からそう言われてピクリと動きを止めた。そうして振り返ると同じ様にして起き上がるアリシアがいて。


「そりゃ、こんな状況で寝れる程の図太い精神は持ち合わせてないから。いつだって不安だよ。いつだって怖い」


 今日も今日とて沢山動き、普段なら即行で寝れる程の疲労を体に溜め込んだ。だから今回は寝れると思ったのだけど、やっぱり駄目みたいだった。これも不安のせいだろうか。

 小さく呟くとアリシアも同調する。


「私も同じです。いつ襲って来るかも分からない中で寝るのは怖いですから」


「……以外。アリシアはどこでも寝れるのかと思ってた」


「みんなと同じにしないでください。私だって怖い物はあるんです」


 そりゃそうだろう。アリシアがあの戦いの始めに凄い怯えていたみたいに、いくら強くたって怯える事なんかまだまだある。アルにはまだ知りようのない事が沢山。

 一緒なんだ。神霊であろうと人間であろうと、恐れる物があれば拒む物もあるし、同じ意思を抱える事だってある。


「みんなを、失いたくない」


「…………」


 ふと脳裏で洞窟へ行った時に言われた言葉を思い出す。「独りにしないで」という、あまりにも切実過ぎる言葉を。

 アリシアの言葉にはたまに物凄い重い物がかけられていて、どうしてそんな事を言うのか、たまに物凄く考えさせられる時がある。どんな過去があってそんな事を言ったのかって。


 アルだってみんなを、もう誰も失いたくなんてない。……もうあんな思いはしたくない。きっと次に大切な人達を失った時、次こそアルは本格的に狂ってしまうだろうから。

 そもそも一度失っただけでも心が病みそうになってたのだ。絶対に次はない。

 アルもアリシアも既に大切な人を失ってる。だからこそ言えることだってある。互いに大切な人を失って、互いに同じ物に憧れて、互いに手を取り合っているからこそ。


「「もう誰も失わせない」」


「……ですよね」


「っ――――」


 アルの言葉に被せて全く同じな言葉を言い心の底から驚かせる。その現象に驚愕した表情を浮かべていると、アリシアはその反応に小さく吹き出して軽く笑った。


「アルの考えてる事は手に取るように分かります。それ程、私を救おうとしてるんだって事がマジマジと伝わってくるから」


「そ、そっか」


 個人的にはいつも通りにいる事の方が多かったけど、実際には無意識にでもアリシアの事を気にかけていたのだろうか。まあ当の本人からしての感覚でしかないけど。

 でも、アリシアがそこまで感じるくらい無意識で助けようとしてるんだ。無意識下だから特に実感できないけど、それでも彼女が着実に救われているのは確かなんだろう。だからこそもっと頑張らなきゃいけない。


 アリシアは浮き上がると移動してはアルの隣までやってきて、またあの時みたいにすぐ隣に座った。そうして二人で焚火の光に当たるとアリシアは同じ様に肩に頭を乗せて来て。

 全く同じ状況を作り出している事にデジャヴを感じつつもアリシアが呟いた言葉に小さく返す。


「……こうして話すの、久しぶりですね」


「そうだな。最近は色んな事で忙しかったし、話す機会すらもなかったから」


 確かにちょっとした会話ならちょいちょいあった。だけどこうしてしっかりと会話する機会なんてなかったし、そのちょっとした会話も何かを少し確認するくらいで他には何もない。

 せっかく生まれた会話の機会。何か喋ろうと思って言葉を探すのだけど、脳裏には特に何も浮かばなくてつい喉が詰まってしまう。

 するとタイミングを見計らったアリシアが話しかけてくれる。


「アル」


「うん?」


「どうしてアルは一緒にいてくれるんですか?」


「…………」


 アリシアの問いに考え込む。

 どうして一緒にいてくれるか。そんなの、理由はたった一つしかない……はずだ。元よりアルは英雄を目指しているのだし、アリシアの事だって本気で救いたいと思っている。

 でも、自分の中のどこかで別の理由を叫んでいる気がして止まない。


 確かに心の拠り所はアリシアだし、そばにいてくれると安心する。だけどそれは仲間として認識していたはずだ。一人だと心もとないから。常に一緒にいてくれたのが、アリシアだったから。だからのはずだ。

 家族を失う辛さ。友達を失う辛さ。その先に辿り着いたアルは微塵も笑えなくなった。だからこそアリシアを心の拠り所にしたんだろう。……なのにここ最近、それとはまた違った感情が生まれて来ている。


「そうだな……」


 アリシアを助けた時からだろうか。変な感情を抱いたのは。

 もしかしたらいきなり笑顔を見せられたからかもしれない。無意識の内に笑おうとしてこうなっているのだろうか。

 分からない事は多い。自分の事でさえも分からなくて、今抱えている感情が何なのかさえも理解出来ていないのだ。

 それでもアルは小さく言った。


「……きっと、救いたいとか関係なく、アリシアと一緒にいたいからだと思う」

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