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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章28 『対策』

 あれから数日が過ぎた。

 神器の事は完全に行き詰まり、修行も度々くる狼族やオークなどで上手く行かず、アル達は完全なる八方塞がりとなっていた。

 型は一通り習っても時間が少ないから練習する事が出来ずにいる。そしてナナの件も上手く行っていないみたいで、フィゼリアは日々続けて彼女に接するが記憶が戻る予兆は一切ないらしい。


 他の種族などは襲って来るけど大罪教徒と騎士団はあれ以降全く出現せず、アル達は他の種族を撃退する度に荒くなって行く入り口を見ているしかなかった。

 アリスも結界の整備とか修復とかを始めていて、会える時間は格段と減った上に神器の件についても話し合えなくなってしまう。だから相対的にアリシアと一緒にいる時間も増えるのだけど、話すネタがなかったり、話題の性質上気軽に質問できない為話す事は少なかった。


 ジルスとクリフも攻め入る度に撃退するのだけど、急に他の種族が増え始めたため違和感を感じているらしい。それについてはクリフも「何かが起こるかもしんねぇ」と事件が起きる事を示唆する様な事を言っていた。

 だからこそ気は抜けないし一層警戒しなきゃいけない。


 という事で会議が開かれていた。


「さて。奴らの事だからまた来るとにらんだ。のでこれから対策会議を始めたいと思います!」


「「おー!」」


「元気いいな……」


 ライゼの声にフィゼリアとクリフが反応しつつも自主練とかで疲れ切ったアルがそう返す。みんなで地図を囲むとライゼは早速結界の破られたカ所に丸を付けて小さな石を置いた。

 そこから細長い石を入口の所へ置くと真っ直ぐ小さな石の所へ移動させる。


「奴らはここからしかやって来れない。だから基本的にここを防衛地点にするんだが、それには少しだけ問題がある」


「抜けられることがある、だろ?」


「ああ。俺達が来てから最初に襲撃された時、数人が抜けて遅れて来たアルの所へ流れ着いた。だからどこかにこの防衛地点を抜ける為の通路があるんだ」


 すると防衛地点の周囲に丸を書いて他のルートがあるかを検索した。

 みんなもそのルートについて調べる。……のだけど、そのルートはみんなで探しても見つからない訳で、早速みんなで考えても行き詰ってしまう。


「……どこからだ?」


「入口は防衛地点で塞いでるから抜け道はないと思うんだけど。それにここまで奥に行ったら結界の効果がかかるし……」


「となると侵入できるルートはどこだ? えっと、空?」


「もっとないだろ」


 アルも必死にルートを検索するも引っ掛かる所はない。だから残る可能性としては空とかそこらへんになるのだけど、あの時に飛竜がいたとも聞いてない。だからその可能性はとっくに消え果る。

 となれば残る可能性としては何だろう。他の所で結界が壊れてるのならアリスが教えるはずだし、そこから他の大罪教徒が攻め入ってくるはずだ。となると奴らはどこから……?


「俺らに気づいてない抜け道でもあるのか? 俺達がここしか出入り口がないって捉えてるからこそ何か見落としが?」


「可能性としては何が――――」


 でも気づいた事があって黙り込む。そうすると黙り込むアルを気にして全員の視線が一気に集まった。

 そうだ。どうして気づけなかった。出入り口が一つしかないのは確かだけど、それよりも飛行や抜け道よりも遥かにあり得る可能性がもう一つあったじゃないか。


「精霊術師。大罪教徒に精霊術を使える奴がいたとしたなら!?」


「そうかそれがあったか。盲点だった……。迷いの森の結界は精霊術なら難なく突破出来る。少人数精鋭でそいつをトップにすれば難なく見つからずに行く事が出来て――――」


 次にウルクスがアルの考えをまとめたのだけど、そうしていると今度は全員がその危険性に気が付いてまた黙り込んだ。言ってしまえば、これはアル達が出入り口は一つしかないと思い込んでしまったから起きた見落としである。

 本当にそれが出来る人がいたとして、その力を利用して森の背後まで回っていたのだとしたら。


 けどそうなった場合はアリシアが気づいてくれるはずだ。暇さえあれば索敵魔法を展開していると言っていたし、結界が魔術を妨げるなんて事もないはずだ。だから背後に回られたとしても絶対に気づけるはず。

 ……と、思っていた。


「アリシア、魔法とかは!?」


「展開してましたけど、一度も引っ掛かった事はなくて……」


「でしょうね」


「でしょうねって、どういう?」


 けれど話を聞いていたノエルは冷静な表情で言った。

 どういう事だろう。その意味を考えるのだけど、帰って来た言葉はこの現状じゃ更に手詰まりに差せるような言葉で。


「――精霊術と魔術は妙な因果関係にあるの。だから魔術の効果は全て精霊術に当たった瞬間に消えちゃうのよ」


「そんな!?」


 その言葉に全員が驚愕した。だってそれじゃあ探索のしようがないし、敵はいつでも奇襲のチャンスをうかがえるという事になってしまう。それに精霊術は魔術を相殺するだなんて話は初めて聞いて――――。でも、だからこそ納得できることもあった。


 ――初めにこの森へ入った時、アリシアは何も反応はないって言ってた。それはノエルが結界の中に入っていたからで、アリシアの索敵魔法が相殺されてたからなのか……?


 それなら納得できない事もない。むしろ辻褄が合ってしまう。魔法での索敵が出来なかったからこそフテラはあの時に怯えていた訳だし、実際にその先で敵意を向けるノエルがいたのだ。

 しかしそうなると問題は更に山積みとなる訳で。


「となると対策はどうする。結界の中じゃ索敵魔法には頼れないぞ」


「そうなると聴覚とか直感とかで判断するしかない。少なくとも奴らは攻撃するまで大きな行動はとらないはずだから、仮に裏を取られているとしたならその瞬間に気づかないと……」


 相手が奇襲して攻撃した瞬間に気づく。ハッキリ言うけど、そんなのはほぼ無理ゲーに近い。相手が近寄ったかさえも曖昧な状態なのに攻撃の瞬間に気づけるだなんて、そんな高度な技術は持ち合わせては――――。

 いや、正確に言うなら技術自体は知っているけど、まだ完璧なんかじゃない。

 アリシアと訓練して十回中一回命中させられる程度だし、アルなんかには到底出来ない事だろう。


「俺達はアリスかノエルがいなきゃ迷いの森には入れない。だから結局の所、防衛地点で全方向を警戒しながら戦うしか……」


「いや、正確にはもう一個あるぞ」


 ライゼが散らばっていた石を一カ所に集めると、今度はジルスが残っていた小石を取り出してある所に設置する。そこには今アル達が立っている小屋があって。


「ナナの嬢ちゃんを守る為には必ず誰かが残らなきゃならねぇ。となればここが狙われるのは必然の事だ。故にここにも守りを設置しなきゃいけない」


「そっか。ナナを前線に連れて行く訳にもいかないし、一人だけじゃ巻き込まれる可能性も高い。それに背後から来るはずだから誰かをここに残さないと……」


 予想外の所にあったもう一つの見落とし。

 そうだ、ナナは戦える訳じゃないから前線には連れて行けない。だからと言って一人だけでここに置いて行く訳にもいかない。そうなると誰かをここに残さなきゃいけなくなるけど、少人数精鋭である今、一人でも抜けたらどうなるか分かった物じゃない。

 だからこそみんなその事についてまた考え始める。


「ノエル、どこかに隠れる所とかってない? 洞窟みたいな……」


「残念だけどアルが望む様な所はない。強いて言うならこの小屋が唯一の隠れ場所」


「小屋か……。でもそうなると余計怪しまれるだろうし、小屋を囮に別の所とかに隠せたりとか……」


「無理だろうな」


「あっ、即答ですか」


 アルは自分なりの作戦を考えるのだけど、その考えはライゼによってすかさず却下される。まあ自分でもうすうす気づいていた訳だけど。

 しかし他に考えがあると言われればないと答えるしかない。


「確かに小屋を囮にするのは作戦的にはいい事だ。でも相手は大罪教徒。奴らに普通の作戦が通じるとは思えないだろ」


「そっか。街中で普通に爆発を起こすような奴らだからな……」


 元より大罪教徒に常識を求めるのが間違っていたか。常識が通じないんだから普通の作戦が通じるとは思えない……という理論らしい。でも常識を求める事が間違ってるのは本当の事だし、街中でも爆発を起こすような連中なのだから、そんな認識になっても仕方ない。

 やがてクリフは指先を動かすと防衛地点をトントンと叩いた。


「じゃあここで第一陣と第二陣で構えるってのはどうだ? 一陣にアリスとかノエルとかを配置して、第二陣は合図があるまで後方を警戒。ナナともう一人は一緒に警戒とか」


「だがその後はどうするんだ。第二陣が前線へ行っても二人はついて行けないぞ」


「その場合は遠距離攻撃を持った奴がナナと一緒に行動しつつも後方支援に動く。互いにカバー出来る距離を維持するんだ」


「その遠距離攻撃を持った奴ってのは?」


「お前だよジルス」


「俺かよ……」


 クリフはそう言って彼の肩をバシバシと叩く。そりゃ、確かにジルスは何故かこの世界にはないはずの銃を持ってるし、遠距離攻撃と後方支援の立ち位置としては最善だろう。実際に戦闘ではクリフを後方支援しているらしいし。

 その意見には賛成なのだけど、それを実行するのには大きな壁が存在する。それを看破したフィゼリアは手を上げて言った。


「でも、それには問題があります」


「問題? なんだそれ」


「ナナちゃんがジルスさんに馴染めるかどうか……」


 そう言うと全員は納得しながらもジルスを見た。彼は目元に傷の跡を残してる上に元からいかつい顔をしてるし、サングラスのせいでマフィアのボス感があって子供には近寄りがたい雰囲気を出している。

 だからみんなはその言葉に納得した。


「「あ~……」」


「納得すな! これでも優しい方だぞ!! ほら、飴も常備してるし!!」 


「何で飴常備してんの!?」


 さり気なく懐から飴を取り出しつつも怖い雰囲気を打ち消そうとする。のだけど、いくらそうやってもマフィアみたいな雰囲気は掻き消せない訳で。

 なんやかんやあったけど、最終的にはジルスがナナの護衛をする事になる。


「とにかくこの条件に合うのはお前だけなんだ。頼むぞジルス!」


「俺、子供とかと話した事ないんだけど……」


「そこら辺は飴でもあげときゃいいんじゃね?」


「そんなんで懐かれるんなら苦労しねーよ!」


 今まででも沢山子供に拒絶されたのだろう。そんな切実な言葉でクリフにツッコミを入れた。しかしそれはそれと綺麗にスルーしたクリフは引き続き作戦を練り続ける。


「それでここなんだが……」


「無視か」


 その後も作戦会議は続いた。

 言い方が悪いけど脳筋お花畑なイメージがあったクリフの作戦は実に念入りに組まれていて、アル達は今一度彼らが王都から来たのだと再認識する。

 様々な意見が飛び交って完成した防衛陣形も中々緻密に出来上がり後は準備を整えるだけとなった。


 でも、みんな分かっていても言わない事がある。

 「敵の目的が分からない以上完璧には守れない」と。

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