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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章19 『和解と説明と提案と』

「アル、だいじょ―――って何その傷!?」


「アリシア……」


 みんなが駆けつけた後、アルの酷い打撲と傷にアリシアは驚愕してはすぐに近づいて治癒魔法をかけてくれる。傷が塞がれてく感覚が未だ慣れない中、アルは一つだけ気になる所を見てある人を見た。

 何気に混ざっていたグラサンをかけたおじ……さん? みたいな人を。

 その人は気絶した彼女を見るなり駆け寄って体を抱える。


「大丈夫かアル!?」


「ああ、ライゼ……。えっと、この人は?」


「あの人はだな、その、なんていうか……」


 駆け寄って来たライゼに問いかけるとおじさんに目を向けて解説を始めようとした。のだけど、一言目からつまづいてしまったので代わりにアリスが解説をはじめてくれる。


「あなた達と似たような感じよ。王都から派遣されたんだって」


「やっぱり……」


 予想通り彼女は王都から派遣された人なんだ。それにしては予想よりも荒い性格と見た目だけど、それでも実力は確かだった。だからこそ彼らがどれだけ国に認められている人達なのかをすぐに理解する。

 おじさんはアルに近づくと何よりも先に頭を下げた。


「クリフと戦ったのは君だよな。ほんっとうにすまない! こんな程度で許されるとは思っていないが、本当にすまなかった!!」


「いえ、今はもう和解みたいな事をしたので……。それより顔上げてください」


 恐らく彼は相棒的な立ち位置なのだと思うけど、彼女の行動次第では自分が謝らなくちゃいけないという事にその忙しさを察する。

 彼女――――クリフの方を向くと、アリスは続けて説明してくれた。


「彼は大罪教徒を倒すのを手伝ってくれたの。それに悪意とかそういうのはないらしいし、信用していいと思うわ」


「信用……。うん、わかった」


「ちょ、大丈夫なのか? 俺達は君に酷い事をしたばっかりだが……」


 そうしてアリスの言葉を聞いて頷くと彼は顔をしかめながらもアルを見た。そりゃ、いくら自分がやった訳じゃないとはいえ、これだけ傷ついていたら土下座の一つや二つしたくなるだろう。アルが向こうと同じ立場だったら絶対にやってる。

 でもアルは肩にポンと手を乗っけると言った。


「いいんです。まぁ確かに殺されるって本気で思ったけど……今はいんです。こうして生きてる訳だし、最後には一応彼女も敵意をなくしてくれましたから」


「……すまなかった」


 彼はもう一度頭を下げると立ち上がってはクリフを抱える。それからどうするのだろうと思った途端、彼は抱えたまま言った。


「だがこのままじゃ俺の気が済まない。何か、君達に罪滅ぼしをしたい。俺達に出来る事なら何でもいい、やらせてくれないか」


「罪滅ぼしって言っても……」


「特段?」


「何もないのが現状ね」


 アリスの放った容赦のない言葉はせめてもの罪滅ぼしをしたいと言い放った彼の胸を深く突き刺して肩を落とさせる。グラサンのせいでどんな目をしているのかは分からないけど、まあ、彼の反応だけでもどんな心境なのかは大体わかる。

 けれどこのまま何もさせないっていうのもそれはそれで可哀想だし、何かをしてくれるというのならそのお言葉に甘えたい。彼もそうなる事を望んでいるし。


 しかし王都から派遣されたのなら怪しむはずだ。普通なら迷いの森を突破できる事自体が異常だと言うのに、彼はその先にいるアル達を警戒どころか疑問にすら思わないだなんて。

 みんなが考えている内にその事を質問すると、彼はやっぱり王都から派遣される程の実力を持ってるんだって事を遠回しに教えてくれる。


「でも、どうして俺達を怪しまないです? 森に入れる事自体が異常なのに、俺達を怪しまないだなんて……」


「俺も最初こそはびっくりしたさ。だが君達が大罪教徒と戦っているのを見て確信した。この森で防衛戦になっているという事は君達はこの森を何かしらの理由で守ろうとしているという事だ。そこの精霊のお嬢さん二人と一緒にな」


「私の事精霊って気づいてたの?」


「気配だけで分かる。これでも数多の戦争と死線を潜り抜けて来たんでね。で、状況から見て君達は悪じゃないって事も分かった。だからこそ俺達は君達の味方に回った。まあ、相手が奴らならどっちみち奴らの敵に回ったんだけどな」


「凄い考察力……」


 状況を見ただけでそこまで察せる物なのか。そんな驚愕がアルを突く。

 確かにそれ程の感の良さと考察力があれば王都から派遣される訳だ。彼の様な人は大事な戦力になるだろうし、外す事は許されないはず。

 ……アルは彼らにとって確信へと踏み込む様な質問をする。


「でも、王都からって事はそれほど重大な事が起ったって事ですよね」


「――――」


「この森で何が起るんですか」


 そう言うとこの場にいる全員が黙り込んだ。そりゃ、王都から直々に来たとなればそれ程の事が起るんだって合図なんだから、みんなも気になっていたはずだ。

 最初は黙り込んだままだと思ってた。でも、彼は口を開くと正直に言って。


「……最近、大罪教徒の動きが大雑把になり姿を見せる事が多くなった。故に俺達は奴らの殲滅を命じられ、姿を多く表すここらにやって来たんだ。そうしたら迷いの森の結界が破られたって聞いて、急いで飛んで来たって訳」


「そういう事ね」


 彼の説明に対してアリスとノエルはすぐに納得した。ライゼ達も助けられた行動で納得したのだろう、みんなと顔を合わせては納得していた。

 王都は一番情報が多い国だと思って大丈夫なはず。そんな王都が彼らを派遣するって事は、それ相応の数がいるって事だ。きっとアル達が見てないだけで目撃例は他にも莫大に増えているんだろう。


「それに奴らには借りがある。何が何でも潰さなきゃならねぇ」


 彼は拳を合わせると悔しそうな表情と共に絞り出すように言った。きっと大切な人を殺されたんだろう。アルだって奴らには借りがある。だからこそ奴らを殺す事には何のためらいも無かった。

 するとアリスが質問して。


「じゃあ、あなた達はしばらくこの辺をうろつくって事でいいの?」


「そう言う事になるな。まあ、ここに限らずもっと他の所に行って奴らを潰しに行くが」


「…………」


 そう答えられると少しの間だけ考えた。

 彼らの目的は大罪教徒の殲滅。という事は目撃情報があればすぐにそっちの方へと飛んで行くだろう。彼らには彼らの仕事があるし、アルは特に止めるとかそう言う気は起こさなかった。

 のだけど、アリスは彼らをここへ引き留める様な発言をして。


「さっきの罪滅ぼしの件なんだけど」


「おう。出来る事なら何でも言ってくれ」


「じゃあ、この森を守るのを手伝ってもらおうかな」


「なっ」


 すると彼は予想外の言葉で間抜けな表情を見せた。そりゃ、こういうのは何かの手伝い――――まあ、森を守るのも手伝いではあるのだけど、大体はちょっとした事を頼むのがセオリーだ。だけどいつまで続くかも分からない事を頼まれたら彼らだって引き受けずらいはず。だって彼らの目標は大罪教徒の殲滅な訳だし。

 でもアリスはニヤニヤと微笑むと重ねて言った。


「恐らくこの森にはまだまだ大罪教徒が来る。その撃退をお願いしたいの」


「どうして奴らが来るって分かるんだ?」


「狙いは私の持つこの神器と――――彼女よ」


「えっ、私?」


 そうしてアシリアへ視線を向けると当の本人は困惑した様な表情を見せる。

 アリスの神器を狙ってるって話は聞いたけど、どうしてアリシアも狙ってるってわかるのだろうか。いくら精霊とは言え心を読める訳でもないみたいだし、アリシアの事に関してはまだ話してない事も多い。しかし、アリスは並ならぬ考察力で何が起こっているかを的確に捉えていて。


「奴らはアリシアにだけ攻撃をほとんどしなかった。その意味はたった一つよ。奴らはアリシアを生け捕りにしたいって考えてるはず」


「生け捕り……。っ!!」


 アリシアは少しだけ考えると体を震わせた。だから何か心当たりでもあるのかと思ったのだけど、顔を左右に振ると何度か頬を叩く。

 明らかに気になる動作だけど今はアリスの話を聞こう。そう思って耳を澄ませた。


「嬢ちゃんを生け捕りに? 何故?」


「理由は全くの不明。だけどアリシアを狙っている事だけは確かよ。それにみんなが奴らとの戦闘に慣れている所を見ると何度か戦闘した事があるみたいだし、これからも持続的に奴らは襲いに来るはず。だから、その反撃を手伝ってほしい」


「…………」


「それに向こうから来てくれるのなら願ってもない話でしょ?」


 まさか何度か戦った事も見抜かれていたとは……。驚愕しながらもアリスを見ると自慢げにドヤ顔を浮かべてこっちを見返す。

 彼はしばらくの間迷いながらも考え続け、やがて一つの結論を出すと頷いた。それからクリフの肩をポンポン叩くと意気揚々とその提案を呑み込んでくれて。


「……分かった。その提案を呑もう。元より長期間の遠征だったんだ。居場所が確保されるだけでも十分にありがたい」


「決まりね」


 するとアリスは指を鳴らしながらもノエルを見た。それだけで彼女の意志が伝わったのだろうか、ノエルは一言も会話せずに頷くと森の奥まで走っていってしまう。確かに協力してくれるのならありがたいばかりだ。戦力的にも余裕があった方がいざと言う時に凄い頼りになるだろうし。

 でもその他の心配事がアルの胸を突き刺していて、ちょいちょいと手招きしてアリス引き寄せると小さく耳打ちした。


「大丈夫なのか? 神器の件とか普通に話しちゃって」


「あー、その件ね」


 協力してくれる以上彼らもそれ相応の理由を聞かなきゃ納得してくれないはずだ。そしてそれ相応の理由と言うのがアリシアの正体であって、いくら協力関係にあるとはいえ他人に話される事をアリシアは嫌うだろう。だからそのことについて心配だったのだ。

 しかしアリスは余裕そうな表情を見せると正々堂々と言う。


「大丈夫よ。彼らも王都から派遣される程の人間。それくらいの理由は完全には知れなくともあらかた把握してるでしょう。実際何も聞かない所を見ると既に納得してくれてるみたいだし」


「まぁそうだけど……」


 不安そうな視線で彼を見る。するとそんな視線に気づいてちょっとした微笑みを浮かべてくれた。アルも悪意とかそう言うのは感じないし、本当に信用しても大丈夫なのだろう。

 やがて彼は立ち上がるとアルに手を差し伸べて自己紹介した。


「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はジルス。よろしくな」


「あ、ああ。アルフォード、です」


 そうして彼の手を握ると力強くも頼もしい掌に握られて自然と安心感が浮かび上がった。何年も時間をかけて鍛え上げた筋肉……。それを握手しただけで感じ取る。

 きっと、そこまでする程の覚悟があったのだろう。アルみたいに何年も続けられる様な覚悟が。

 だからこそアルは信じようと決めた。大丈夫だって、そう感じ取る事が出来たから。

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