第二章17 『奇襲と強襲』
「襲って来てるって、奇襲!?」
「はい!」
そうして起き上がると遠くの方から爆煙が立ち上り、それだけ激しい戦闘が起きているんだと察する事が出来た。
止めなきゃ。そう思ったから剣を握って立ち上がろうとする。
でも、体には力が入らずすぐにこけてしまって。
「っ――――」
「アル!?」
だからアリシアが受け止めてくれる。何とか立て直しても結果は変わらず、動こうとしても体が言う事を聞かずに前へと倒れ込んでしまう。その度にアリシアが抱えてくれた。
何で今になって体が動かないのだろう。奇襲されてる大事な瞬間なのにどうして。そんな疑惑がひたすらに脳裏を突く。
「アル、どうしたんですか!?」
「体が上手く動かない。体感的に伝達指令が間に合ってないのか……?」
即座に動こうとしてもワンテンポ遅れて体が動き出すからままならないんだ。まさか今さっきまで神器の深層意識に入り込んでいたからなのだろうか。でも、そうなら尚更どうして――――。
なら体が動かないのなら動くまで待てばいいだけ。
「アリシア、先に行ってくれ」
「は!?」
「大丈夫、後で追いつく!」
けれどアリシアにとっては唯一頼れる人間なんだ。だからこそ簡単に置いて行けるはず何てなくて、アリシアは当然の如くその提案を否定する。アルの服を掴んでしがみ付くと子供の様に駄々をこねて言った。
「こんな状況で置いて行ける訳ないでしょう! それにそうしたらアルが――――」
「俺なら大丈夫! 行くんだ、早く!!」
「っ――――」
真剣な眼差しを受けるとアリシアは奥歯を噛みしめて戸惑い始める。でも最終的にその言葉を呑みこむと立ち上がり、戦ってるだろうみんなの元に駆けつけようと浮かび上がった。
そして心配そうな視線で未だ動けないアルを見つめながらも呟く。
「……気を付けて」
その言葉を最後に爆煙の立つ方向へと飛んで行った。
これでみんながピンチならどうにかなるだろう。アリシアの力は通常の騎士を五十人掻き集めても足りるかどうかの強さなんだから。――でも、裏を返せばそんなアリシアがいなくなったからこそアルがピンチになっているとも言える。
敵が現れれば、の話だけど。
――少なくとも近くに敵はいない。早く動かなきゃ……。
聴覚だけで周囲の敵を探知しながらも体を動かし続ける。しばらくして体が馴染んだのだろうか。次第と感覚を取り戻してはいう事を聞くようになってきた。だから足が動く時点で走り始める。
アリシアが行って魔術攻撃を沢山行うからだろう。向かう先からは数々の爆発音が響き渡ってはどれだけの戦闘が起っているのかが目に見えて分かる。そんな激戦の音は聞く度にアルを急かして行った。
足元に水溜りがあるのも気にせずに走っていると木々の間から真っ赤な光が届き、見えたと思った瞬間には熱を帯びた爆風が全身を襲って足元の水を吹き飛ばす。
だから必死に耐えていると何人かの人影が吹き飛ばされてきて。
「白って事はあいつらか……」
街中で奇襲を仕掛けて来たあの連中――――。黒装束よりも格段に強い連中が吹き飛ばされて来たって事は、恐らくアリシアは本気で戦ってる。これだけ簡単に白装束がやられるって事は街中での戦闘以上に力を使ってるって意味だ。
――でもこんな時に奇襲を仕掛けて来るだなんて……!
迷いの森の結界は一部が破壊されてるってノエルが言ってた。そこから侵入してここまで入り込んだんだろう。奴の執念には少しばかり驚かされる。でも、迎え撃たれると分かっていながらもどうしてそこまで必死になって……?
考えていると視線を感じ取ってその方角へと視線を向けた。その先には今にも奇襲を仕掛けていた白装束が目に入り、反射的に剣を振るっては武器ごと真っ二つに切り裂く。
「こんなに……」
すると周囲の影からはどんどん白装束が現れてアルを囲んだ。正直みんなの元まで辿り着いてからこうなって欲しかったけど、この際もう仕方ない。やらなきゃ死ぬだけ。ならやるしかない。
神器を両手で握り締めると思いっきり振り回した。腰を捻っては限界まで攻撃力を高めて一気に放出する。
「――らぁッ!!」
そうして生まれた斬撃は周囲の白装束を切り裂いて足元の水溜りに血を染み込ませた。でもそれだけじゃ終わらない。既に案の定と言ってもいいくらいに倒せば倒す程敵の数は増えていき、白装束は一斉に魔法を放ってはアルを集中攻撃した。
街中での戦闘時とはそんなに変わらない威力を見ると、やっぱり街の損害なんか奴らは微塵も気にしていない様子。
何とか凌いでも状況は変わらない。無傷でやり過ごした事を確認すれば近接部隊が一斉に襲いかかって来るのだから。
アルは特訓の成果を生かすべくあの時の動きを思い出して軽くステップを刻む。
「っ!!」
殺し合いの最中に舞を踊るだなんて普通じゃあり得ない事だけど、アリシアから教えて貰った剣術に関してはそれが決め手にも成り得る。舞の様に踊るからこそ次の攻撃を先読みさせにくくし、回転し続けるからこそ連撃が生まれ威力が上がって行く。
まあ、重攻撃などには弱いっていう弱点があるらしいけれど。
若干足を滑らせながらも舞いながら戦っていくと自然と体がイメージに追いつきどんどん敵を蹴散らして行った。
でも、次の一撃でそんな連撃は完全に遮断される。
「は!? ――ぐっ!?」
突如頬を掠めた神速の一撃。あと僅かでも反応が遅れていたら今頃アルの脳天は奴らの持つ錫杖に貫かれていただろう。
そのせいで動揺して足元のバランスを崩し転倒する。けれどそこも特訓のおかげで完全にカバーして即座に起き上がれた。
――やっぱり街中じゃないからって上手く行かないか……。
いくら建物の破壊を気にしなくていいとはいえ、いくら神器が強くとも数で押されちゃ意味がない。だからこそ奴らはそれを分かったうえで一人を相手に何十人もの数で攻めて来た。
となれば防戦一方になるのは当然の事で、アルは不格好ながらも限界まで死角をなくして反撃を続ける。
奇襲とはいえ少し数が多すぎる。直感でそう悟った。
確かに今回の戦闘は奇襲とも言えるけど、そもそも奇襲と言うのは相手に見つからずして倒そうとすることだ。なのにこんな大人数で動けばすぐに悟られて当然。アリス達も先に気づいたからああして戦っていたんだろう。
まぁ、そう考えても現状は変わらない訳で。
――こいつら、同じ方向ばかりに攻撃してバランスを崩しに来てる……!
ワンパターンの攻撃は非常に読みやすく対応がしやすい。でも奴らは同じ方向に何度も全力の攻撃を繋げ、反撃しようとしても次の攻撃が、立て直そうとしても次の攻撃がと、そうやってアルのバランスを無理やりにでも崩そうとしている。だからこそ攻撃を受ける度に追い詰められていった。
しかし、見切りさえ付けられれば抜け出す事自体は簡単だ。“抜け出す事自体”は。
「こんのッ!!」
攻撃を受けた勢いを殺さずに回転し、次に攻撃を仕掛けようとした敵を真っ二つに切り裂く。そこから一度も止まらずに回転して連撃を重ねて行った。
神器の威力に任せて振る度に周囲の白装束は吹き飛び肉片になる。
けれど回り続けると目は回るし狙いも定まらなくなるのは当然。だから微かにでも平衡感覚を失えば瞬時に反撃を食らって血を吹きだす。
――早くみんなの所に行きたいのに! こいつら邪魔過ぎるだろッ!
脳裏でそう愚痴りながらも戦い続ける。
けれどまさしくその通りだ。何かもう、例えるのなら増殖し続けるゴキブリみたいなイメージが沸いて来る。相手は白な訳だけど。
痺れを切らしたアルは神器を両手で握り締めて思いっきり地面へ叩きつける。
「っ!!」
その瞬間に周囲の地面には亀裂が入っては砕けて足元を崩れさせた。地面全体だからアルもそうなのだけど、何とか踏ん張りつつも今度は全方向に渡って神器を振り払う。
すると斬撃は円を描いて周囲の木々と共に白装束を一掃する。
ああ、これじゃあアリスに怒られるだろうな。そう思いながらもこれ以上敵が襲ってこない事を確認した。
「よし、今の内に……」
例え隠れているんだとしても襲ってこないのならみんなの所へ行った方が安全性は遥かに高い。それもアリシアだっている訳だし。だからこそアルはさっき白装束が吹っ飛んできた方角へと足を運ぼうとした。
瞬間、どこからか声が響く。
「みぃ~つけたっ!!」
「っ!?」
どこから聞こえたかを探ろうとして周囲を見渡す。けれど変に反響するせいで場所が掴めず警戒を強めた。
でも背後の木々から何かが飛び出す音を聞いて咄嗟に振り向く。
すると木の上から飛び出した人影は落下しながらも手に持った槍を全力で振り下ろしていて。
「その首貰ったァ―――――ッ!!!」
「っ!!!」
構えるまで十分な時間があったから大きく振りかぶって全力で前へと撃ち出す。けれど相手の槍を断ち切る事は出来ず、それどころか振り下ろされた槍は全力で振るった神器を押し返さんばかりの威力を秘めていた。
それだけで普通の相手じゃない事を見抜いて力を振り絞る。
結果、行き場を失くした衝撃はその場で解き放たれては二人とも背後に大きく吹き飛ばされる。
「ぐっ!?」
「おっと……」
アルは体制が整えられず転がって水浸しになり、相手はしっかりと踏ん張って着地して見せた。でも相手はそれだけで留まる事を知らず、力を振り絞っては爆速で前へと飛び出し、一瞬の内にアルの目の前まで接近してくる。
だからとっさに神器を前に出すもその威力に完全に押し負けて吹き飛ばされる。
「ぁッ!!」
木々に手足をぶつけながらも吹き飛び、最終的にはぶつかっただけでも木が倒れる程の威力で衝突し停止する。それだけでも吐血して足元の水に鮮血を染み込ませた。
これまた違う戦い方……。多分あの時に戦った奴みたいに他の奴らとは少し違うんだろう。喋ってたし。
やがて前を見るとアルはその姿に戦慄する。
「は――――」
目の前に映ったのは一人の少女。振袖の付いたコートの様な物を羽織り、黒のグラデーションの入った長い白髪を揺らしながらもこっちに近づいて来ていた。手に持つ妙にメカメカしい槍を振り金色の瞳でこっちを見つめる。
でも、それ以上にインパクトのある物がアルを戦慄させていた。
――鬼。
彼女のおでこからは鬼と言わんばかりの角が生えていたのだ。




