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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章15 『考えるべき事』

「おはよ~。よく眠れた……訳じゃないみたいだな」


「まぁ、枕が変わると寝れないタイプだから」


 翌日の朝。ライゼ達と顔を合わせた直後にそう言われて頷いた。

 あれからすぐに寝ようと思って目を閉じたのだけど、全く眠る事は出来ずにそのまま一夜を過ごした。アル達が地面で寝たのに対してライゼ達は小屋の中で寝たみたいで、目の下には何の異常もなくハッキリとした瞳でアルを見つめていた。


「みんなもよく眠れるな。俺なんか慣れなくて全然……」


「旅をしてると慣れる物なんだよ。基本的にどんな場所でも寝なきゃいけなくなるからね。まあ、馬車があればある程度変わる訳だけど」


「そうそう。時には木の上で寝たりもするから、基本的に旅をする冒険者はどこでも寝れるって特徴があるんだ」


「どういう特徴だよ……」


 小さくツッコみつつも目元を拭う。

 体感時間で寝れたと認識したのはせいぜい一時間程度だろうか。もしかしたらもっと短いかも知れない。いくら三日三晩剣を打ち続けた事があったとはいえ、色んな話を聞いて色んな事を考えた昨日の今日じゃ全然寝たりない。それどころか今なら立ったままでも寝れそうな気がする。

 やがてアルの眠そうな表情を見るとライゼは言った。


「ほら、ビシャっとしろよ。ビシャっと」


「ん~……。そこはビシャっとじゃなくてシャキっとだろ……」


「よしツッコミの調子上がって来たな」


 さりげなくアルで遊びつつも何とか起こそうとしてくれる。

 しかし直後にはフィゼリアが一人だけ足りない事に気づいてアルに質問した。


「あれ、アリシアはどうしたんです?」


「ああ。まだ寝てる」


「結構寝る体質なんだな……」


 だから熟睡しているアリシアへ指を指すとウルクスがそう呟いた。

 けれど本当によく寝る物だ。初めて会った日の夜なんか一睡もしなくてもクマ一つなかったというのに、今となってはこんなになるなんて。眠気のコントロールでも出来てるのだろうか。

 そうしているとアリスが喋りかけて来て。


「どう? 寝れた?」


「ああ。結構寝れたよ。まぁ、アルはぼちぼちみたいだけど」


 ライゼの言葉で流れる様にアルへ視線を変えると未だ眠そうな表情をしていたアルを見て軽く噴き出す。 やがてノエルがアリスに抱き着くと姉妹の様な絵面になった。そんな光景を見つめているとアリスはもう一度アルの方を見て言う。


「ねぇアル。ちょっと確認したい事があるんだけど、いい?」


「ああ、俺に出来る事ならだけど……」


「少し神器について調べたくてね」


「神器について?」


 するとアルは半ば自動的に腰にある神器を見た。調べると言っても神器にアリシアが宿ってる訳でもないし、構造と言ってもアリスに分かるのだろうか。

 疑問に思って首をかしげていると彼女は人差し指で円を書きながらも解説を始める。のだけど、それはあまりにも現実味がなくて。


「記憶を見て駄目なら神器の本質を見極めれば何とかなるかも知れない。まあ、それには凄い時間が掛かる訳なんだけど……」


「例えばどれくらいだ?」


「長くて十日辺りかな」


「とおっ!?」


 思ったほか長くてびっくりした。そこまで時間をかければみんなにも迷惑がかかるだろうし、本来旅をして人救いをするって目的を持っているみんなが――――。

 そう考えて振り向いた瞬間だった。ライゼが既にその行動を分かっていたかのようにグッドサインを押し付けて許可を出したのは。


「いいよ、別に。遠慮しなくたって大丈夫だ」


「でも、それじゃあギルドの目的が……」


「アル達は仲間だ。それに、仲間の頼みを受け入れて何ぼだからな」


「……ありがとう」


 そうして振り返るとアリスも頷いた。

 みんなには悪いけど、これでアリシアが他の神器とは違う真実が掴めるかもしれないのだ。アルとしてはやらない訳にはいかない。

 するとアリスは森の奥へ親指を向けると言った。


「じゃ、早速こっちに来て。調べるのは早い内の方が得だからね」


「わかった。じゃあ、行って来る」


「頑張ってな~」


 ライゼ達に手を振られながらもアリシアを置いて行った。……と言うよりかは忘れていた。アリスの後を付いていく最中には様々な動物がいて、木の上にはリスが、遠い所にはキツネが、そして二人の周囲には蝶も舞っていた。

 それを見てアリスは軽く手を振っていて。


「この森の動物、アリスの事を怖がらないんだな」


「もう何十年も一緒に暮らしてるからね。私が精霊って事もあってみんな馴染み深いのよ。それにまだ遠い方で、いつもじゃ隊列になって歩けるの」


「隊列になって!?」


「そうそう。みんなこう一列になってね」


 どれだけ懐かれてるのかに驚愕しながらも周囲を見渡した。すると気づかなかっただけで沢山の動物が二人の間を囲んでいて、見た事のないアルがいるからだろう、一定の距離を保っていた。

 ある程度まで進んだ所でアルは肝心な事を質問するとアリスは普通に答えてくれる。


「なぁ、神器の事を調べるって言っても何するんだ?」


「前に本質がカクカク云々って話はしたでしょ?」


「うん」


「それを引き出すの。基本的に戦闘で本質を引き出す事が多いから、まあ、特訓みたいなものね」


 神器の本質を引き出す。そう聞いてもう一度腰にある神器を見つめる。本質と言ってもアリシアの場合は例外なはずで、元々はアリシアがこの神器に宿っていたのだから“アリシア自身がこの剣の本質”という解釈になるはずだ。それをどうするつもりなのだろう。

 そこからもう少し進むと大きな広場があって、アリスは広場の中心に立つとちょいちょいと手招きする。


「昨日話した様に、神器には必ず依代としている何かが存在するの。私の神器だったら精霊が。かの神器なら邪竜が。そしてアルの神器ならアリシアが。その存在を解放して攻撃するのが《神器解放》なの」


「って事は昨日やって見せたのは全部精霊の力だけって事か……?」


「そう言う事。あれでもまだ全力じゃないんだよ」


「えっ!?」


 あれでも全力じゃないってなると、全力を出した時には本当に街一つ消し去る事なんて容易なんじゃないのか。そんな憶測が飛び交って背筋を凍らせた。

 つまりアルの持っている神器も本気を出せばそれ程の威力が出せる可能性があって――――。今までただ切れ味の物凄い剣ってイメージで使っていたけど、予想以上の爆弾を抱えて戦っていたのかもしれない。


「ちょっと持たせてくれる?」


 やがてアリスは剣を抜くようにジェスチャーするから指示通りに剣を抜き、手を差し伸べるからアリスに神器を持たせてみた。

 瞬間、物凄く重い物を持ったかのような反応をして。


「いいけど、これに何の意味が――――」


「重ッ!」


「え!?」


 アリスは剣先を地面に叩きつけると必死になって持ち上げようと力を振り絞り、全力を出してようやく持ち上げる事が出来たみたいだった。

 でもそんなはずはない。だってその神器はアルでさえ片手で持てる程なのに。いくら小さい頃から筋トレで筋肉が付いているとはいえ、そこまで重いのならアルだって片手じゃ振るえないはず。

 そう考えているとアリスが説明を初めて。


「こ、こういう神器って使用者以外は物凄く重く感じるの。そして基本的にその重さで神器の強さとかが関わって来る」


「なるほど……」


「試しに私の神器も握ってみて」


 するとアリスはそう言ってアルの神器を地面に突き刺して自分の神器を差し出して来る。その動作はとても重そうな物とは思えなくて、本当に重いのかと疑問に思いながら柄を握り締めた。

 ――瞬間、アルの腕に途轍もない重量が乗せられる。


「っ!?」


 小さい頃から筋トレは何十年も続けて来た。だから筋肉には自信があった方なのだけど、それでも力を振り絞らなきゃ持ち上げられない様な重さで、アルは両手で握り締めるとようやくまともに構えられた。

 あまりの重さに驚愕しながらも呟く。


「重っ! これどういう原理なんだ!?」


「それがよく分からない。ただ神器の認めた人には軽く、認めない人には途轍もなく重くなる。勝手に使われない様に対策してるんじゃないかって予想してるけど、今の所その確証も全くなし」


 アリスみたいに地面に突き立てると息を切らして神器を杖にする。

 まさかここまで思いだなんて知らなかった。って事は他の人が握るとこうなるくらいの武器をあんなに軽々と……。そりゃ、全力で振るったら地面を大きく抉る訳だ。

 彼女は互いに武器を戻すと今度は詳しく考察してくれる。


「話を戻して、アルの神器にはアリシアが依代として宿っていた。それなら普通の神器なんだけど、アリシアは契約した瞬間に神器から離れ“宿っていた神器を複製して自分も持ちながら神霊として戦っている”って事なの」


「ああ。空も浮くし魔法だって物凄い威力を使ってた」


「そこから導き出される可能性は大体二つ。昨日も言った様にアルが無意識下で契約した瞬間から神器解放を行っていた。それか――――アリシアが本当に神器に封印されていた存在だった」


 その憶測を聞いて黙り込んだ。

 神器解放の線っていうのは、要するに“アリシアを顕現させる事”が神器解放で、それを今まで無意識下で行って来たって事のはず。

 でも、残り一つは認める事は出来なくて。


「本当に封印って、どういう事だ」


「文字通りの意味よ。アリシアは何らかの形で封印され、アルが目覚めさせたって言う説。……まぁ、そうだとしたら何で剣なんだとか、そう言った疑問が立ちはだかる訳なんだけど」


 アルの視線にアリスも咳払いをしながらその説を打ち消した。そんなはずがない。だってアリシアはいつか現れる人の為に自ら剣になる事を選んだんだ。そんなアリシアが封印されるだなんて事――――。

 見られるのを拒絶したくなるくらいの過去。その事を思い出して思考が完全停止する。そんなはずはないって即座に考えた。だけど、アリシアが剣になっていたのと拒絶したくなる程の過去を紐づけようとすると……。


 ――そんなはずない。だって仮に何かをして封印されたんだとしても、自ら受け入れたんだ。ソレを施した英雄にも憧れてた。そんなアリシアが……。


 その先は考えたくなかった。考えなきゃいけないという事は知っている。でも、信じたくなくて、信じられなかったから。

 事態は思った以上に深刻になって行く。

 何か隠してる事は知っていた。でも、まさかここまで深刻な事になっていく者だったなんて。


「――それでアルにはこれから神器の本質を引き出してもらう」


「引き出すって言っても、どうやって……?」


 本質――――アリシアなら引き出すどころか自ら飛び出ている。なのにどうやって神器の本質を引き出すと言うのだろう。

 そんな疑問を抱えた瞬間だった。アリスがとんでもない事を言ったのは。


「神器の深層意識……底に潜り込むの。その世界から神器の本質を引きずり出して」

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