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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章13 『拒絶』

「神器って言うのは必ず契約があるの。神器を依代にする存在との決め事が。もちろん私にもそう言う事はあったんだけど、ソレが顕現しただなんて事は一度も無い」


「それってつまり……」


「アリシアは完全に異常って事」


 アリスが考察しながらも言うと、今一度異常だって言われたアリシアは少しだけ後ずさりをする。でも実際にその通りなのだ。アルの睨んだ通り、アリシアは他の神器の定義には当てはまらない存在。

 少しだけ考えるとアルは当時の事をアリスに伝えた。


「アル、契約した時ってどんな感じだった?」


「えっ? えっと、俺が英雄になりたいって心から叫んだらその願いが似てるって事で契約した……んだよな」


「そ、そうですけど」


 そう言ってアリスの反応を見ると少しだけ驚いた。だって、アリスが目を皿にしてアリシアの事を見つめていたんだから。どうしたんだろうと思って目の前で手を振っても反応がなくて。

 やがてハッと我に返ると小しだけ考えこみ、しばらくの間だけ黙り込むとまた口元に意味深な笑みを浮かべて見せた。


「なるほど。そう言う事ね」


「だからそう言う事ってどういう……」


 けえれどアリスは右手を押し付けて制止させると閉じていた瞳を開ける。きっとまた後回しにするんだ。そう決めつけていたのだけど、アリスはアリシアの頭を撫でるとハッキリとした声で言った。それもアリシアの過去に近づくような事を。


「やっぱり何も変わらないんだ」


「何も変わらない……?」


「いやね。私の知ってる人に英雄って呼ばれた人がいて、英雄に憧れた人って誰もが似たような性格になるからさ」


 そう言ってアルにも視線を向けた。

 英雄を知っている精霊――――。思ったよりも凄い人だったアリスに驚いていると、それはさておきとすぐに雰囲気を置き換えて話を進める。


「少なくとも私の知ってる神器で依代から離れる神器なんて見た事も聞いた事もない。十分世界を知ってるつもりでいたけど、やっぱり世界って広い物なのね」


 そこまで言うからには本当に世界中を巡ったのだろうか。っていうよりそこまでしたからこそ言えるんだろう。

 今はアリスの言葉だけが唯一の情報源だ。だからこそ彼女の言葉を信じるしか真実に近づく方法は無かった。


「神器から離れ顕現し続ける神霊……。可能性としては常に神器解放をしてるって言うのがあるけど、特に意識してないのよね」


「ああ。いつも自然体で神器解放とかを特別考えてる訳じゃ……」


「だよね」


 するとアリスはまた手を顎に持って行って考え始めた。次々と神器の事について露わになる中、アルとアリシアは彼女の言葉を待ち続ける。だってその一言づつが二人にとっては真実にも成り得るんだから。

 やがて彼女はついに結論を述べた。


「結論を言うと――――私じゃ何も分からないわ」


「えっ!?」


「ごめん。どうして顕現しているのかの理由がどうしても付かないの。普通の定義が当てはまらない以上、アリシアの正体を掴むのにはかなりの時間を要するはず」


「……そっか」


 遠回しにアリシアの正体を掴むのは不可能と言われながらも肩を落とす。

 考えてみればそりゃそうだ。アリスだって普通の神器の使い手であって、何もかもを知ってる訳じゃない。だからこそこんな答えをされたって当然だ。

 でも、突き止めなきゃいけない謎はまだまだあって。


「一つ、聞いてもいいか?」


「うん。答えられる範囲ならね」


「――アリスは過去にアリシアと会った事はあるのか? 当時はアリシアって名前はなくて、その当時っていうのも三百年も前の事だけど……」


 アリシアは彼女を見た瞬間に体を震わせどこかで見たことがあると言っていた。そういうのは仮に忘れていても魂が忘れない物のはずだ。

 あの時のアルみたいに、憧れを忘れていても魂だけは絶対に忘れない。だからこそアリスは三百年前にアリシアと会っているとにらんだ。実際アリスは精霊みたいだし、三百年間生きていたって何の不思議もない。

 だけどアリスは困惑した様な表情を浮かべると言って。


「……ごめん。アリシアとは今日であったばっかりよ。それに知ってるって言ってもアリシア自身から放ってる神器特有の気配で判断しただけ。私の記憶に彼女の記憶はない」


「あ、ああ。そっか」


 これまた見当違いだったようで肩を落とす。

 その言葉を聞いたアリシアも深く考え込んでは顔をしかめていた。まあ、昔に似たような人を見たのだろうと言い聞かせて納得させる。

 するとアリスはソレとは別に惹かれる言葉を言って。


「三百年前はあの人と一緒に戦ってたからそんな余裕は……」


「あの人って?」


「ん? ああ、今は関係ない話。私の大切な人よ」


 妙に気になる事を言いつつもアリスは話を進め、しょんぼりしているアルに向かって提案を投げかけてくれる。

 だけどそれはあまりにも予想外のもので。


「それで、一つ提案があるんだけど……」


「提案?」


「最初は神器の事を追ってるってノエルが言うから気になって説明しようと思ったんだけど、気が変わったの。――アリシアさえよければ、真実が分かるかも知れない」


 その時に全員が反応する。何か空気みたいになってた三人だけど、アリスの言葉を気にハッと息を吹き返した。

 真実が分かるかも知れない。そう言われてアリスの提案に乗らずにはいられなかった。だからこそすぐに二つ返事で答えようとしたのだけど、最後に付け加えた言葉で喉から声が完全に出なくなる。


「それなら―――――」


「記憶を見せてほしいの」


 瞬間、アリシアさえも完全に制止した。

 今まで何度か過去の話を聞こうとした事はあった。でもアリシアはその全てにおいて話したく無さそうにしていたし、距離が縮まった今でも話してくれる事は無い。だからそれ程重い過去があるんだって思ってた。

 しかし記憶を見せるという事はその過去をアリスに見られる事でもあって――――。恐らく、アリシアが最も嫌ってる事のはずだ。


「自分で話さない限り思い当たる事はないんでしょう? なら、記憶を見る事で何かが見えて来るかもしれない。もちろん無理にとは言わない。あなたの選択次第よ」


「…………」


 するとアリシアは大いに戸惑った表情で助けを求めるかの様にアルを見つめた。でも、その求めに対してアルは何も言う事は出来なくて。

 どうしてそこまで過去の出来事を伝えたがらないのかは分からない。分かるはずがない。けれど大いに戸惑うという事は、“神器になった瞬間すらも話したくない過去の出来事”として伝えてるような物。だからこそアリシアにはまだ抱えている過去があると確信できた。


 過去を知っている訳じゃないからどうこたえるべきなのか分からない。強制はさせたくないし、だからと言って見せなきゃアルも、アリシアさえも知らない真実に辿り着く事は出来ないのだ。

 どうして自分が顕現しているのか。それはアリシア自身も自覚してないのが現状。故に第三者が神器になった瞬間の記憶を見る事で真実を導き出そうとしてる。なのにそれを否定しているだなんて……。


「私は……」


 迷えば迷うほど過去にどんな事をしたのか、完全にではないけどソレが伝わってしまう。だからこそアリシアの表情には微塵も余裕がなった。

 どうするべきか。今回に限っては彼女自身が選択するしかない。

 過去の事を伝え真実を知るのか。それとも拒絶して誤解が生まれるかも知れない危険性を選ぶのか。


 アリシアは前者の方を選んだ。


「……よろしく、お願いします」



 ――――――――――



「本当にいいんだな。アリシア」


「ええ。いつか話そうとは思ってましたから」


 夜。三人でランタンを囲いながらもアリシアはそう言う。

 あれからライゼ達は一度街へ戻って報告をし、アル達は少しの間だけアリスとノエルの住む神秘の森にお世話になる事になった。それも真実が分かれば明日までの関係なのかも知れないけど。

 アリシアの覚悟を聞くとアリスはちょいちょいと手招きをした。


「じゃあ、こっちに来て横たわって」


「うん」


 表情はいつもの様に明るい物じゃなく、何故か後悔の色を映して暗い物を浮かべていた。やがて大きな葉っぱの上に寝転がるとアリスの指示通りにする。


「目を瞑って、力を抜いて。……そう。記憶を見てる間は一種の昏睡状態に陥って稀に記憶の世界に迷い込むけど、そうなっても大丈夫。私が必ず連れ戻すから安心して」


「…………」


「行くよ」


 アリシアの沈黙を了承と捉えたアリスは両手で掌を掴むと集中し始めた。いや、そこは頭に触れたりとかじゃないのか……。そう思いながらもじれったい時間が始まる。

 少しだけ時間が経つと蒼白い光が周囲に浮かび始め、蛍の光の様に小さく丸い光は自由に動いては周囲を仄かに照らしていく。

 やがて右手を離すとアルの方へと伸ばして。


「掴んで」


「あ、ああ」


 指示通りに掴むと脳裏に記憶が流れ込んで来る。アルの背中を追いかけたり、空中に浮いて魔獣を殲滅したり、洞窟の中で大罪教徒と戦ったり。次々と見えて来るアリシアの記憶にアルは困惑しながらも彼女の感情を受け取った。


 ――これが、アリシアの感情……。


 前にも神器を通してアリシアの感情は受け取った事はあった。でも、それとは全く別の感情も幾つか存在した。それはアルへの憧れやかつて憧れた英雄への憧れ。そしてアルと重ねた時の高揚感。それらが全て記憶と一緒に流れ込む。

 アリスが何らかの手段を使って受け取りアルにも受け渡しているって事なんだろう。


 次に流れ込んで来たのは剣に封印されていた頃の記憶。ずっとずっと、三百年の間、暗闇の世界で独りっきりでアルを待っていたんだ。文字通り独りっきりで。

 「寂しい」や「切ない」等の感情も流れ込んで来る。三百年間誰とも出会わずに孤独に過ごす真っ暗な世界。それは凄く辛い事だろう。アルだったらきっと投げ出したくなるはずだ。アリスもその感情や記憶を受け取って呟く。


「酷い……。彼女はこんな孤独に耐えきって来たのね」


「…………」


 孤独を過ごした時間なら誰よりも自身があった。この世界でも。――けど、アリシアはそれよりも遥かに長い時間を孤独でいたんだ。だからその孤独の痛さを比べて歯を食いしばった。

 英雄はどうしてこんな事をしたのだろう。何で、こんな永い時間アリシアを剣に封印なんて――――。


 でも、次に見えて来た記憶で異常に気付く。


「あれ……」


「どうした、アリス?」


「何かがおかしい。記憶が流れ込んでこないの。無意識の内に防いでるのかな」


 記憶を防ぐだなんてあるのだろうか。

 アリスは少しだけ強引ながらも記憶を見ようと集中力を高めた。すると真っ暗だった記憶の世界で霧が晴れて行き、神器に封印されるたと思われる記憶が流れ込んで来た。

 映ったのは何処かへ伸ばす掌と、それにべっとりとくっついた鮮血。家か何かに潰されているのだろうか。自分自身からも血が出ている様だった。


「これが――――」


 突如、脳裏に強烈な電撃が流れ込んで咄嗟に我に返る。

 その瞬間でアリスはアルを吹き飛ばして離れさせた。やがてアリスの握っていた掌からも電撃の様な物が放たれて大きく弾かれる。


「あっ!?」


「何だ!?」


 そうして、二人ともアリシアの拒絶で大きく吹き飛ばされた。

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