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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章12 『神器の秘密』

「どこかであった事があるって、どういう事だ?」


「分からない。ただ、見た気が……」


 アリシアは額を押さえつつも目の前に映る少女を見た。

 見た気がすると言ってもそれは最低でも三百年前の物のはず。人間がそんな時間を生きているだなんて絶対的にあり得ない事だ。だから似た人かと思ったけどそうでもない様子。


「どこで見た……? 何で、覚えて……」


 思い出そうと必死に考え込む。

 でも彼女は人間。せめて精霊とかじゃない限りそんな長い時間は生きられないはずだ。アリシアだってそう分かっていても考えるのをやめない。

 そうしていると話しかけて来て。


「神器の事を探ってるっていうのはあなたね?」


「は、はいっ」


 白と青を基調とした服に腰まで伸びた長い銀髪と透き通った碧眼。緑髪の少女同様に凛とした顔立ちで大人びている様に見えた。そして特徴なのが三日月の髪飾りで。

 彼女はアリシアを見ると少しだけ驚愕した。


「あなた……」


「??」


 でもどうして彼女がアリシアの事を見て驚くのだろう。本当に認識があるのか……? しかし彼女の耳を見ても精霊特有の耳でもないし、どこをどう見ても普通の人間だ。ただ少し不思議なオーラを放っているだけで。

 やがて翡翠色の瞳と蒼色の瞳が見つめ合うと小さく呟いて。


「そう言う事ね。なるほど」


「えっ? 何がどういう……?」


「いいのいいの。今はそれほど重要な事じゃないから」


「……今は?」


「そう、今は。大事な事は追々話すわ」


 冷徹そうな雰囲気とは真逆に明るい雰囲気で喋った。――それも何故か少し嬉しそうな表情をしながら。だからアリシアは顔をしかめるのだけどすぐに普通の表情へ戻した。

 まぁ、後々話してくれるのなら今はいいか。そう言い聞かせる。

 すると彼女は二人で肩を並べると名乗り始めた。


「自己紹介がまだだったわね。私はアリス・シンセイザー」


「で、私はノエル・ツーク。よろしく」


「ああ……。俺はアルフォード。アルって呼んでくれると嬉しい。こっちはアリシア。で、右から順にライゼ、フィゼリア、ウルクス」


「何か俺達だけ雑くない?」


 アルが一人で全員分を説明するとライゼからそんな事を言われる。

 銀髪の――――アリスは一人ずつに視線を向けるとそれぞれの瞳を見つめて何かを確かめていた。凄い人は眼を見ただけで敵意があるかないかを確認出来るみたいだけど、同じ事をやってるのだろうか。

 やがて全員分を確認し終るとアリスは移動し始める。


「おーけー。じゃあこっちに来て」


「っ!」


 でもその言葉がアルの脳裏どころか心臓すらも貫く勢いで突き刺さって。

 今「おーけー」って言ったのか。その言葉自体はこの世界に浸透していないはずだ。実際にアリシアとかに言っても質問で返されたし。だからこそ「OK」と言われた時にびっくりした。

 名前としては複数の単語は存在してる。けどOKとかの言葉はこの世界には浸透していないみたいで、過去に試した物じゃ同じ様に不思議そうな顔をされた。まあ、単に一部しか知れ渡っていない言葉なのかも知れないけど。


 みんなは初めて聞いたと思われる「OK」という言葉に顔をしかめながらもアリスの後を追った。アルも深く考えこみながらも移動し始める。

 するとアリシアは何よりも気になるはずの事を質問して。


「どうして、会ったばかりの私達にここまでしてくれるの?」


「それは……」


 アリスは手を顎に当てて少し考えた末に答える。

 それはこっちも気になっていた事だ。アル達とアリス達は初めて会ったばかり。そしてつい昨日大罪教徒の襲撃があったばかりのなのにここまでしてくれるだなんて、理由もなしじゃ少し不審に思ってしまう。

 けど、それはアリシアにとって真実へ近づくような答えでもあって、それを聞いた瞬間にアルの鼓動は高まった。


「あなたが普通の人間じゃないからね」


「「っ!!」」


 挑発的な表情を浮かべながらもそう言う。これでアリスがアリシアに付いて何かを知っているか、もしくは気づいたのには確定したのだけど、それでもまだ分からない事はあまりにも多い。

 でも謎について追及しようとすると意図的に逸らされてしまう。


「もしかしてアリシアに付いて何か――――」


「少なくともあなたの知ってる通りだと思うわよ。アリシアは神器から生まれた存在。それだけは何があっても変わらない」


「あれ、まだ私の事は何も話してないのに……」


「精霊だもん。それくらいは分かるわ」


 振り向いてそう言うとアル達に笑顔を見せてくれる。最初は結構厳しい人かと思ったけど、表面は優しいのだろうか。

 それに精霊だって言葉にびっくりしつつも考える。彼女がどれだけの時間を生きていたのかは分からない。でも、精霊なら本当に三百年前にアリシアと対面した事があるのか……? それに何も言われなくてもアリシアが神器から生まれた存在と見抜いた事にも何か裏があると思える。

 だから質問しようとした。


「えっと、神器ついて聞きたい事が――――」


「大事な事は追々、ね」


 でもその言葉の一点張りで質問に答えようとはしてくれない。

 やがてある程度まで進んだ所で立ち止まると小屋があって、古い雰囲気を醸し出しながらもきちんと作られている小屋に見入っていた。

 するとアリスは振り返って選択肢を投げかける。


「さて。ここで選択があるわ」


「選択?」


「あなた達が望むのならここに留まってもいいし、今すぐ帰るのならそれでも構わない。どうする?」


 突如投げかけられた選択。それに戸惑った全員は顔を合わせて考え始めた。ここに留まってもいいのならアルはここにいる事を選択したい。しかし遠征とは言えこの距離は日帰りで行き来できる距離。報告しない限りあんまり長くとどまる事は出来ないだろう。

 しかしアリシアの真実を知っているかも知れない人が目の前にいる。そうとなれば諦める訳にはいかなくて、みんなも何も言わなくてもアルの意志を汲み取ってくれた。


「いいんじゃないか? アリシアの正体が知れるのなら。それに報告なら俺達が行って来るし」


「ライゼ……」


「それに二人も敵意はないみたいだし、乗っかっておこうよ」


 ウルクスもそうして背中を押してくれる。

 正直、二人の提案はどうしても罠みたいな物を感じてしまって乗りずらかった。こっちから見れば訳も分からず善意を押し付けられているのだから。アリシアだって警戒は抜けていない。でもアルは頷いて見せた。


「……わかった。じゃあ、お言葉に甘えようかな」


「決まりね」


 そうして彼女は手を合わせる。ノエルもアル達がここに留まる事を喜んでいるみたいで、アホ毛が尻尾の様にフリフリしていた。

 でも、それでもアルは気になった事を質問する。


「一つだけ聞いていいかな。どうして、俺達に親切にしてくれるんだ。――ちゃんと答えてくれなきゃ、信頼しようにもそう簡単には出来ない」


「……いいよ。答えてあげる」


 するとアリスは右手を振り上げた。そこに何かがあると思ったのだけど、魔法を展開した訳でもなく、ただ右手を振り上げただけ。

 どうしたのだろう。そう思った瞬間だった。

 何かが急接近してくるのに気づいてアリシアは咄嗟に姿勢を低くし、それに釣られてアルもすぐに手を腰にある柄に持っていく。しかしそれはアリスの右手に吸い込まれていって。


「あなた達の持つ神器の事について話したくてね」


 全員の間を縫うように飛んで来た黄金色の剣を受け止める。そうして地面に突き立てるとその美しい剣をアル達に見せてくれる。

 全体的にはアリシアの神器と一緒なのだけど、細かい所がたまに違う。アリスの剣は少し細いけどその代わり凄まじい美しさがあった。


「これが私の持つ神器。そして大罪教徒が狙う神器でもあるわ」


「……!!」


「あなた達の持つ神器も基本的には同じ何だけど、私の持つ神器とは何かが違う。……それが知りたいんでしょう?」


 何だかもうこっちの思考が全て読まれている気がしてならない。

 アリスは神器を手に持ってくるくる振り回すと説明を始めた。


「神器って言うのは基本的に予想も出来ない威力を秘めた武器の事よ。全力を出せば一振りで街を破壊できるくらいのね。それで神器には様々な性質があるの」


「ああ。確かある神器は邪竜を宿して、ある神器は精霊が何千年もかけて磨いたとか何とかって……」


「その通り。私の神器も例外じゃなくそれらは全てオーラとして現れるわ。もちろんあなた達の神器からもね。――でも、神器はアリシアが依代にしていた物なんでしょう? そして契約を交わしたからこそこうして顕現している」


「そこまで知って……!?」


「そこで一つ問題があるの」


 するとアリスは神器を握って腹の部分を指で撫でる。

 もう、何で何も言わなくてもアリシアが神霊だって気づけるんだろう。そんな彼女の感の良さに寒気さえも覚えていると続けて言った。


「あなた達《神器解放》って知ってる?」


「何その厨二めいた名称……」


「知らないのね」


 急に飛び出た《神器解放》という単語にワクワクしながらもそう返す。けれど言葉の響きだけでもどういう物かは分かった。きっとその神器の本質を限界まで解放する~とかそういう物なのだろう。

 そんなアルの考えはドストレートに命中する。


「神器解放はその神器に宿る本質を限界まで解放させて攻撃力を拡張する事よ。邪竜が宿る神器なら邪竜の力が。精霊の磨いた神器なら途轍もない精霊術が解放される。こんな風にね」


 そうしてアリスは剣先を空の方に向けると少しだけ集中した。――瞬間、神器から幾つもの光が溢れ出しては幻想的な虹色の魔方陣を描いて行く。それから剣先にまで魔方陣が描かれると全てが一つに重なって大空へと巨大なビームが放たれた。

 その威力は凄まじく、脚を踏ん張っていないと吹き飛ばされそうなくらいの風圧がアル達を襲う。


「っ! これが神器の力なのか!?」


「すっご……!!」


 こんな威力が出るだなんてライゼ達も想像していなかったのだろう。吹き飛ばされない様に踏ん張りながらも驚愕していた。

 やがてビームを撃ち終えると剣を軽く振ってまた地面へと突き刺した。


「とまあ、これが神器本来の威力なんだけど、二人はこんな威力なんて出した事ないわよね」


「……うん。ない」


 そんな威力の攻撃を出せていたのならきっとあの戦いでは誰も死ななかったはずだ。だから未だ驚愕が抜けない中で頷く。

 するとアリスは少しだけ考えた後に答えを捻り出す。

 だけど、その答えと言うのがアル達と考えていた事と全く同じで。


「じゃあ、やっぱり普通の神器じゃないんだ……」


「えっ。えっ!?」

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