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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章10 『初の遠征』

「君達に――」


「依頼ですよね」


「あー、流石にここまで来ればやっぱり分かるか」


 案の定対談室へ行った後、予想通りの言葉だったらしくそう言うと彼は苦笑いを浮かべて見せた。まあ、流石にここまで来ればアルでも予想出来る。

 彼は申し訳なさそうな顔をしながらも頭を掻くと続けて言った。


「すまない。ここまで君達に頼り切るのは流石に気が引けるのだが……」


「いえいえ。頼れるのは英雄の証ですから」


 でもアルは彼にコブを作るポーズをして答えた。すると彼はアルの表情と言動に微笑んで見せる。頼られる事自体は凄く嬉しいし、実際に自分が英雄への道を歩めてるんだって認識する事が出来るから凄く楽しい。

 やがて彼は依頼の内容を話し出す。


「今から二時間くらい前に突如起こった爆発については知っているよな」


「はい。確か迷いの森の付近で起ったとか何とか」


「もうそこまで絞ったのか……。そこで折り入って君達に依頼を頼みたい。今度は二人にだけじゃなく、君の仲間も含めての依頼だ」


 彼から直々に依頼を頼まれるだなんてまだ片手で数えられる程度でしかない。それでも何かが慣れた気がしてアルとアリシアは同時に顔を縦に振った。それに騎士団長直々の使命依頼となるとみんなも喜ぶだろう。報酬もあるけど、なによりそれ程この街で強い人に信頼されてるって証になるから。

 だからこそ心の底から受け入れる事が出来る。


「――喜んで!」


「ありがたい。本当に助かるよ。現在騎士団は街の防衛で忙しくてね。この街にいる冒険者の中で最も強いと噂される君達に頼むしかなかったんだ」


「いえ、そんな事は」


 ――っていうかそこまで噂されてたんだ……。


 何度も言うけどここはソルジア王国の保有する領域の辺境の街。だからここに留まっている冒険者は大半が低級冒険者と言われる人達ばかり。だからこそアル達が話題に上がるのは仕方ない事なのだけどまさかそこまで噂になってただなんて。

 今一度どれだけ暴れたのかを再確認しつつも彼の言葉を聞いた。まあ、その内容は既に読めているのだけど。


「それで依頼内容なのだが、既に察している通り迷いの森への派遣調査をしてほしい。実行日は明日の早朝。君達が要求した馬車もその時に受け渡す予定だ」


「あ、ありがとうございます!」


「当然の事だ。むしろ礼を言うのはこっちの方だよ」


 ――うぉ~っしキタコレ!!


 そう想いながらも頭を深々と下げると彼の方も頭を下げる。

 しかし助かるのは本当の事だ。元々依頼があってもなくても明日には迷いの森に向かうつもりだったし、お金が浮くどころかもらえる様になっただけ。だから嬉しがりながらもその依頼を受け入れた。

 すると彼は続けてこう言って。


「それでついでに出来たらいい程度の物なのだが……」


「はい?」


「神秘の森の調査も行ってほしいんだ。もちろん絶対にとは言わない。ただ、その分の報酬は既に用意してある」


 アル達に舞い降りた本筋の依頼は迷いの森の調査。しかしついでに神秘の森の調査もしてくれと……。まあ、元からそうするつもりではいたし、更に報酬が増える事に机の陰でガッツポーズをしながらもその依頼も引き受けた。


「任せて下さい。元からそうするつもりでしたから」


「そうか! 本当にすまない、助かる!」


 彼はまた謝りながらも頭を下げる。

 こんなに騎士団長に頭を下げさせて大丈夫なのか、と思いながらも既に頭の中では明日の事を考え始めていた。

 迷いの森に誰かがいるのは確実。じゃあそれは誰なのか。大罪教徒だと睨んではいるのだけど、流石に奴らがあそこまでの精霊術を使えるとは到底思えない。


「それじゃあよろしく頼む。期待しているよ」


「了解です」


 考え込んでいるアルの代わりにアリシアがそう答える。そして肘で突かれるのでハッと我に返り、その光景を見ていた彼は軽く微笑んだ。

 やがてあらかた話し終わると彼は立ち上がって対談室を出ようとする。

 その時にこう言い残した。


「君は、この街じゃもう立派な英雄だ」



 ――――――――――



「うっし。準備はいいか?」


 翌日。早朝。

 ライゼの問いかけにみんなが頷いた。それぞれの手には昨日のうちに集めた戦闘で役立つ(と思われる)道具を持ち、既に準備は完全に整っていた。

 備えあれば憂いなし。となればいいなって思いつつ隣にいたフテラの頬を撫でる。

 彼もようやくみんなを運べる事になって嬉しいのだろう。楽しそうに翼を広げては待ちきれないみたいだった。そんな様子を見てライゼは意気揚々と歩き出す。


「じゃ、行こうか」


「うん」


 でも、あんな爆発が起きた場所に行くのだ。もしかしたら爆発を引き起こした張本人がいてもおかしくないし、むしろ危険度で言えば今までのどれよりも圧倒的に高い。それに遠征みたいになっているから増援も望めないし、もしピンチになったら自分達の力だけでどうにかするしかない。

 そんな事を分かっているのか否か、ライゼの足取りは軽く楽しみにしている様子。


「出入り口の門で待ってるんだっけ?」


「ああ。そこで馬車と道具も用意してるらしい」


「馬車かぁ。それさえあればどこにだって行けるし、何か凄い得してるみたいだよな」


「実際得してるんだよ。他の冒険者と比べればね」


 ライゼの言葉にウルクスがそう返す。

 まさしくその通りだろう。だって普通の冒険者が続けて騎士団長から依頼を引き受ける事自体珍しいし、ここまでされたら特別扱いされてると言われてもおかしくない。というか多分されてる。

 けど彼も申し訳なさそうな顔をしていた辺り、いくら他の冒険者よりも強いからと言って何度も依頼するのは申し訳ないと思っているのだろう。

 やがて門の所まで辿り着くと彼はそこにいて。


「やあ、待っていたよ。……随分と意気込んでるんだな」


 するとライゼ達の荷物を見て軽く驚く。そりゃそうだ。だって必要な物はこっちで用意するって言っていたのにここまで大荷物で来るんだから。

 彼はアル達を案内すると用意してくれた馬車を見せてくれる。


「早速だがこれが用意した馬車だ。見た目は普通だが高級素材で作ってあるから耐久性も高いし、雨に濡れても逆に弾き返す」


「すっご!? これ本当にタダで貰っていいんですか!?」


「もちろんだとも。街を救ってもらったお礼だよ。むしろ礼をし足りないくらいだ」


 まあ、素材は高級だし中に詰まっている装備や道具は全て“この街での”最高級なのだ。そんな反応になったって無理はないだろう。テンションが上がったライゼとウルクスは早速馬車の中に乗り込むとその木質に驚愕し始める。


「やわらかっ! これ本当に木なのか!?」


「凄い、今までの馬車よりも遥かに座り心地がいいよ! それに詰まってる装備も最高級クラスだし、用意してある布もフカフカだ!!」


「……ありがとうございます。本当に助かりました」


「お相子さ。困ってる人がいたら助け手伝い合う。当たり前の事だよ」


 きっとこういう人が英雄たらしめる器を持つんだろうな、と思いながらアルも馬車の中に飛び込んだ。前の方でもフィゼリアは座り心地の良さに表情を緩ませている。

 フテラは何も言わずに馬車を引く為の準備をしてと行動で示し、フィゼリアは彼に紐を括り付けた。そうしているとフテラは待ちきれないと言う様な表情で軽く足踏みをする。


「そのフリューハ、随分と君達を気に入ってるんだな。自分から馬車を引こうとするだなんて……」


「はい。今じゃ自慢の仲間です!」


 最初は成り行きで仲間になったに過ぎなかった。けど、一緒に過ごす内に彼も信頼できる仲間の一員となり、今となっては自慢できる程の仲間になったのだ。彼にそう言うとフテラは高く声を上げる。

 やがて馬車を引く為の準備を終えると早速走りだし、アルはもう出発する事に戸惑いながらも最後に彼へこう言った。


「えっ、もう!? ――あ、ありがとうございました~っ!!!」


「武運を!!」



 ――――――――――



 馬車に揺られて三十分。やっぱり荷台を引くと速度が落ちるけど、それでも普通の馬よりも早く七分目まで到達していた。

 だから速度や快適さが圧倒的に上がった事にみんな驚いたままで。


「もうすぐ八分目ですかね~」


「えっ、もうそんな所まで来たのか?」


「フテラ君は早いですから。おかげで凄い楽出来ちゃいます」


 フィゼリアも今までよりずっと楽になった事に喜んでいるみたいだった。

 新しい脚の速度にみんなが驚いていると目的地は見えて来て、フィゼリアの声を合図に四人は身を乗り出して外を見つめる。


「あ、あれじゃないですか?」


「どれどれ……」


 進む方角にあったのは大きな森。いや森自体は周りにもあるのだけど、どこか異様な雰囲気を放っているというか、そこだけが普通の森じゃないと感じる事が出来た。

 アリシアも同じ感想を抱いた様でずっと迷いの森を睨み付けている。


「まだ異常はないか?」


「ないですね。まだ、ですけど」


 既に索敵魔法を展開していたアリシアに質問するとそう返って来る。今は街じゃなくて警備も何もない外。つまり、もし襲撃してくるのなら奴らにとってアル達はかっこうの的という訳だ。だからこそ警戒は微塵も怠れない。

 いつ襲撃されてもおかしくない。そんなリスクを背負いながらも敵陣に突っ込む気分になりつつも前を見た。


「迷いの森と、神秘の森……」


 仮に大罪教徒がやったのだとしたら確実に何かがあるという事だ。奴らにとって都合の良い物をゲットできると踏んでいいはず。となれば手遅れかも知れないけど、何かしらの跡は残る。だからその跡を辿って行けば何とか――――。

 そう思っていた時だ。馬車が急に止まったのは。


「どうしたんだ?」


「……怖がってます」


「怖がる?」


 けれどフィゼリアがそう言い、アルはその言葉を繰り返した。

 瞬間に察する。きっとこの先に何かが待ち受けているんだって。フィゼリアが頭を撫でても何の反応もない。その様子を見ると本当に怖がっているんだろう。


「聞いた事がある。フリューハとかの種族は危険な場所が本能で分かるんだって」


「本能で? 野生の感みたいな感じか……」


「つまり、この先に危険な何かがいるって感じ取ってるって事ね」


 ウルクスの言葉にライゼが答え周囲を見渡した。

 まだ森の入り口辺り。だけどその時点で立ち止まるって事は相当な脅威が待っているはずだ。だからこそアルはアリシアへ視線を向けると問いかける。


「どうだ、アリシア?」


 すると彼女は小さく答えた。

 それも耳を疑う程の事を。


「……何も感じない」


「えっ」


「私の魔法には、何も引っ掛かってない……です」

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