第二章9 『街中での戦闘』
「っ!?」
攻撃したと思ったのは束の間。アルが攻撃した相手は手持ちの武器を犠牲にノーダメージで神器の攻撃を受け切り、体を回転させるとアルを地面へと叩きつける。
残った数人の白装束は待ち構えている四人の元へ突っ込んだ。
「させねぇ!」
だからこそライゼが先陣を切って迎え撃とうとするのだけど、攻撃を回避したと思いきやその背後にいた敵が武器を振りかざす。上手く視界を遮っていたが故にライゼは反応出来ずにいて。
直後にライゼの背後からウルクスが刃を振りギリギリの距離で弾いて見せる。
すると攻撃を回避した白装束を狙ってフィゼリアが飛び上がり、その神速の剣筋を以ってして切り裂こうとした。
でも、
「――うそっ!?」
鞘から解き放とうとした刀の柄を押さえ、攻撃すらもさせずに反撃へ乗り出した。間一髪で体を捻って回避する事には成功するのだけど攻撃には失敗してしまう。
アリシアが魔法で隙を突きようやくまともに攻撃が通る程度。
アルは即座に起き上がって攻撃しようとするも急降下して来た敵の攻撃を受け切れず、左腕を浅く切り裂かれながらも咄嗟の判断で回し蹴りを食らわせる。
何とか距離を開けたってそれだけで安全になる訳じゃない。距離を開ければ投擲用のナイフで攻撃してくるし近接すれば錫杖でリーチの差を利用して攻撃されるのだから。
――こいつ、明らかに黒の奴らとは動きが違う! 白は黒よりも強いって事なのか!?
もし目の前にいるのが白装束じゃなくて黒装束だったなら既に斬り伏せているだろう。実際、猛特訓する前のアルでも何十人かは切れたのだ。だからこそ強くなった今でも倒せない事で確信が沸く。
更に使用する魔法もより一層強化されているみたいで、地面を叩くのと同時に一直線にアルの元へ地面から炎が噴き出して来る。
「っ!?」
回避したとしてもその先に待っていたのは高速で投げられた投擲用ナイフ。慌てて弾きバランスを崩せば距離を詰められ、何とか凌いでも高速の追撃で刃が肌を掠っていった。
四人も残った白装束を相手にしているから助けに入る余裕なんてなく、アルは圧倒的な早さと強さで畳み掛けて来る敵とギリギリで渡り合うしか方法がなかった。
そんな攻防を少しの間だけ繰り返す。
時間的には三分にも満たないだろう。でも、それだけでもアルは追い詰められたと表現してもいいくらい攻撃を受けていた。
「破壊行為もお構いなしか。ホント無茶苦茶だな!!」
奴らが爆発系の魔法を使う度に周囲には瓦礫などが飛び散り、駆けつけた冒険者などに当たって接近を許さなかった。それに五対五なのに瓦礫が常に吹き飛ぶほどの激戦区を作り出している。だからこそ普通の冒険者は立ち入る事さえ許されなかった。
アルと白装束が全力でぶつかっただけでも激しい風圧が生まれて周囲のものが吹き飛ばされる。それくらい激しい戦いが街中で起っていた。
――これだけ激しい戦いが起きてればすぐに騎士団が駆けつけてくるはず、それまでの間のあいつらを倒すか耐え切らないと……。
そもそも街中で戦闘が起きる時点で大間違いなのだ。戦闘を起こさせない訳に街には衛兵などが巡回している訳だけど、ここまで激しい戦闘が起きれば衛兵が入り込む余地はなく、騎士団などへの報告が最優先とされる。
だからあとどれくらいかは分からないけど耐え切ればこっちの勝ちとなる。
しかし戦う度に敵の動きは加速していきアル達は次々に追い詰められていった。
ここが街中じゃなくて森だったらアリシアが大型の魔法を使って何とかしてくれただろう。でも、そんな魔法を街中で放ったらどんな損害が出るかも分からない。だからこそその手を使う事は出来なかった。
その時だ。
「――フィゼリア!!」
アリシアを中心に大量の水が押し寄せて白装束だけをずぶ濡れにさせる。そして名前を呼ばれたフィゼリアは大きく飛び上がっていて、剣に雷を纏わせながらも水溜りである地面に落下していった。
瞬間にアルは怯んだ敵に突っ込んでは踏み台にして大きく飛び上がった。
するとフィゼリアの放った電気は水を伝って奴らを感電させる。みんながその隙を逃すはずがなく、電撃が終わった瞬間からそれぞれが敵に刃を通した。もちろんアルだって。
でもライゼが叫ぶ。
「後ろだフィゼリア!!」
生き残った二人の白装束が同時にフィゼリアに向かって襲いかかり刃を振りかざしていた。攻撃をした三人じゃ絶対に間に合わない。そしてもう一人も動いていた。だからこそアルは剣士なら絶対にしないような行動に出る。
フィゼリアは二人の攻撃を間一髪で受け止め、その衝撃だけで地面を少しだけ抉り込ませる。その瞬間にアリシアが二人の首を撥ね飛ばした。――――しかし、最後の白装束が今度はアリシアの後ろを取る。
アルは神器を投げつけるとその敵の武器を弾き飛ばし、アリシアが逆手に持ち替えて背後へ突き出した。そんな連携で敵を一掃する。
だけど奴らならとことんまでやるはず。そんな予想は見事に的中して今度は屋根の上から白装束が出現した。
「……やっぱりまだまだいるよな」
「そりゃ奴らの事なんだから街中で戦闘するならとことんまでやるさ」
すると全員が手元に炎を出現させて一斉にこっちへ投げる。
だからアリシアが前に出てバリアの様な物を張ると周囲の建物すらも破壊する大爆発が起こった。そうして奴らが爆煙の中に飛び込もうと足をかがめた瞬間だ。アル達が逆に爆煙の中から奇襲を仕掛けたのは。
四人で七人の白装束を斬り伏せると次の標的へと狙いを定める。一列に並んでいるからこそ戦いやすく、アルは神器の威力を利用して振り回しながらも奇襲に怯んだ白装束を切り裂いていく。
アリシアも飛行しながらみんなの援護をしてくれて、手の届かない所にいる白装束から順に倒してくれた。
「ぐっ!!」
けれどアル達の上った所しか敵がいない訳じゃない。反対側の屋根に立っていた白装束は何故かアリシアには攻撃せずにアル達を迎撃し、何の躊躇いもなく爆発させる。
――何でアリシアだけは攻撃しないんだ!?
戦況を考えるのなら唯一遠距離攻撃を行えるアリシアから攻撃するべき。なのに白装束はアリシアにだけは攻撃を当てずにスルーし続ける。
……アリシアが狙い。その攻撃だけで奴らの思想が読めた。
「アリシア気を付けろ! そいつらの狙いはアリシア自身だ!!」
「私!?」
すると驚きながらも攻撃されない事を分かった瞬間から攻勢に出る。光線みたいなので白装束を一掃し、ついでに何も言わずに飛び出したアルを向こう側の屋根まで飛ばしてくれた。
やがて予想通り裏路地で待機していた残り数人の白装束に刃を振り下ろす。
「――おらァッ!!」
その瞬間に裏路地には大きな土埃が舞った。
だからこそ視界が遮られる中で残った敵を倒しきる。そして倒し損ねた白装束が撤退するのを見て跡を追おうとするのだけど、アリシアが氷で道を塞ぐ形で阻止する。
「潮時です。あまり追い詰め過ぎると噛まれますよ」
「……分かった」
彼女の言う通りに従って血に濡れた神器を軽く払う。それからアリシアに連れられて屋根の上まで戻ると、戦いが終わったと確認した衛兵達がぞろぞろと駆け込んでは三人を囲んでいた。
これは事情聴取で長くなりそうだ。そう思いながらアルも地面に降りる。
やがてリーダー格と思われる人がアルの前に立ちはだかると思いっきり睨み付けながらも質問した。それも微塵も敵意を隠さない視線で。だからアリシアが動きそうになるのを止めて素直に答える。
「これはどういう事だ」
「見ての通りです。急に大罪教徒が襲撃して来た。だから俺達は迎え撃っただけです。……街に損害を及ぼしたのは確かですけど」
「大罪教徒が街中に現れる訳ないだろう! 正直に白状しろ!」
――まぁ、当然そんな反応になるよなぁ……。
そんな事を言っても信じる人なんてほとんどいない。だからこそ彼の眼にはアルが何処かのギャングみたいな組織の一員と見えているはずだ。そしてこれは敵対組織との抗争だと考えているだろう。
街での衛兵は市民の味方。つまりこの状況じゃアル達が悪で、見苦しい言い訳をしていると見えているのだ。その証拠としてライゼ達の必死な説得に衛兵はほとんど聞き入ってくれていない。
「ここまでの損害! 貴様らには相応の責任を取ってもらうぞ!」
「あんた――――」
「いいんだアリシア」
けれど何を言ってもこっちを悪だと決めつける彼に怒りでも沸いたのだろう。アリシアは前へと踏み出すけどアルの制止で立ち止まる。
これが免罪か。そう思いながらも“彼”を待つ。
「何度言おうと俺達はそんな事やってない。奴らは大罪教徒で、俺達は急に襲われたんだ。だから反撃したまでで……」
「どこに白装束の大罪教徒がいる!」
「やっぱりそうなるか」
今一度みんなとの常識のズレを実感する。アルは一度黒装束と一緒にいる姿を確認しているから分かるけど、向こうから見れば白装束は偽物でしかない。だからこうして会話が成り立たないのだ。
でも彼さえ来ればこの免罪は解かれる。だから早く来てと願い続けた。
そして来る。
「一体何事だ」
「来た! 見た! 勝った!」
やって来たのは武装した騎士団長。そりゃ、辺境の街であそこまでの戦闘が起きれば騎士団長が駆けつけても当然だ。言い方は悪いけど王国の下っ端騎士が彼と同等の強さらしいのだから。
そして彼はアルを見付けるなり表情の色を変えて衛兵の男に言う。
「……そう言う事か。彼らは敵ではない。解放してやれ」
「し、しかしこんな状況は奴らが作り出したと見て間違い――――」
「先の戦いで誰よりも戦えると吠え士気を保ったのが彼だ。そんな者がこんな街中で意味もなく戦う訳がなかろう」
「……ただちに」
するとライゼ達は衛兵から解放されてアルの元へ駆け寄った。一時とはいえ理不尽な免罪を持ちかけられたのだから当然か。
アルも誤解が解けた事にほっとしていると問いかけられる。
「しかし、どうしてこんな事になったのだ?」
「大罪教徒が奇襲を仕掛けてきました。信じられないけど、街の中で。そして抵抗していたらこんな事に……」
「なるほど。どういう事か」
彼の場合は普通に納得してくれて、倒れていた白装束を見て確信へと至ったみたいだった。だからこそ衛兵達に指示してくれる。
「ただちに大罪教徒に付いて調査しろ」
「しっ、しかし……」
「ただちにだ!」
「はい!」
衛兵達は騎士団長の声でそれぞれで動き出す。
やがて衛兵達がいなくなると騎士団長はこっちを向いて言った。
「ちょうどいい。君達を探そうと思っていたんだ」
「……えっ?」




