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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第二章 理想と選択の代価
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第二章4  『噂の人気者』

 あれからまたもや数日。二人は今も猛特訓を続けている。

 どうやら騎士団長が直々に話しに来たところを見た冒険者がアルとアリシアの実力を広めたらしく、冒険者ギルドでは軽く噂になっていたらしい。「新参の冒険者が凄い強いらしい」と。

 まぁ、猛特訓の為に冒険者ギルドに行かなかったからそこまで大きくはなっていないみたいだった。


 ……つい数十秒前までは。


「やぁ、アルフォード君」


「あ、ハイ……」


 突如冒険者ギルドへ現れた騎士団長。いくら辺境の街とは言え騎士団長が直々に来れば話題にもなり、彼がアルとアリシアに向かって話しかけた瞬間に周囲の視線が一斉に集まった。

 そんな視線を受けてビクビクしつつも彼の話を聞く。


「先の戦い、君のおかげで随分と助かった。そのお礼がしたくてね」


「はぁ」


「まあ、ここじゃあ人目もあるから部屋で話そうじゃないか」


「わかりました……」





 視線が痛い。そう感じたのは十七年ぶりだ。別に軽蔑されている訳じゃないのだけど、それでもあそこまで期待とか憧れの瞳を向けられると視線が刺さりまくって流石に痛い。

 そしてそんな視線なんて微塵も気にしていなかった彼は悠々と手を組んで話し出す。


「礼と言ったが、実を言えばもう一つある」


「そのもう一つというのは……?」


「提案だ」


 困惑するアルとアリシアを置いてけぼりにする。

 何を言われるのだろうと思いながら覚悟を固めていると彼は物凄い事を言い放ち、ソレを聞いたアルの思考を完全に停止させた。


「まずは提案の方から言おうか。――君達を正式な騎士としてスカウトしたい」


「……へっ?」


 自分の耳を疑う程の衝撃。そりゃ、普通の冒険者が騎士団長から直々にスカウトされるだなんてそれこそ異常な事だ。異常過ぎて思考回路が停止する程。

 だからえらく驚愕する。まさか直々にスカウトが来るだなんて思いもしなかったから。

 そんな中でアリシアは選択を委ねた。


「アル……」


 ふと脳裏で考える。英雄を目指すのであれば冒険者なんかより騎士団に入った方がよほど近道できるだろう。物凄く努力した果てに騎士団長になって、そこから王国騎士団長だの聖騎士だのになればすぐに英雄扱いされるはずだ。

 王国騎士団長や聖騎士はそれ程なまでに強いのだから。

 だから、“普通の英雄”を目指すのであればそっちの方が手っ取り早い。


 でも自分の憧れた英雄の背中はどんな背中だった。

 王国騎士団長でもない、聖騎士でもない、何にも縛られず全ての人を救い、自由奔走に世界を駆ける。そんな英雄の背中に憧れたんじゃなかったのか。

 それがどれだけ険しい道なのかは分かっている。普通の英雄を目指すよりも遥かに長い旅路なのだから。――でも、それがアルの憧れた英雄の背中なのだ。だからこそ言わなくちゃいけない。


「その提案は受けられません。俺には、俺の歩みたい道がありますから」


「……そうか。すまなかった」


 ハッキリとした瞳でそう返す。すると彼もアルの決意に触れて諦めた様だった。アルにはアルの目指したい道がある。それだけで彼の提案を断るには十分だ。

 一つ目の話を終えた後に彼は雰囲気を入れ替えると次の話題へと入る。


「それじゃあ二つ目……礼だな」


「礼……?」


 最初はお金でも渡してくれるのかと思ったけど、特にそれらしいものも持っていない。かと言って何か特別な物をくれるのも違うみたいだった。

 だから何だろうと思って聞くとこれまた驚く事を言われて。


「先の戦い、君達がいなければきっと駄目だっただろう。騎士団長としてじゃなく、君達に助けられた人間として凄く感謝している」


「あ、ありがとうございます」


「それであの戦いを終わらせた君達は物凄い成果を上げた。それも王都でも少し噂になるくらいに。だから礼をしたい。君達が望む物を、出来る限りで用意したいと思う」


「俺達が望む物、ですか?」


「ああ。資金ならそれでも構わないし、装備なら最高級の物を用意しよう」


 そんな事を言われるから真っ先にお金の事を思い浮かべる。けれどせっかくならみんなの役に立つものを考えようと方向性を捻じ曲げた。

 きっとみんなは努力もしないでゲットした物はいらないとかいうはず。っていうかライゼ辺りはお金以外は全部いらないと言うと思う。なら何がいいだろうか。


 ――今ライゼ達が欲しがりそうな物……。


 貰えるのなら最大限の物を貰いたい。でもそれを貰った所で使い切れるかどうか――――。

 最高級の装備にしてもライゼ辺りが「切り札だ!」とか言って保管したままにするだろうし、お金と言ってもフィゼリア辺りが「一気に使っちゃダメです!」とか言って懐に仕舞ったままにするだろうし、どの道どれを選んでも使われなさそうで大いに戸惑う。


「みんななら何が欲しがると思う?」


「私ですか? えっと……馬車の荷台?」


 その言葉で思いつく。

 馬車ならずっと借りていたみたいだし、今なら高い馬車もただで手に入るかも知れない。それにフテラもいるから馬を買う必要もない。そうすると毎回借りるお金も浮くし、その分色んな事に回せる可能性もある。


「その考え良いかも。それだと常に使えるし、旅のお供には十分だし」


「そ、そうですか? えへへ……」


 アリシアの言葉に肯定すると嬉しそうに微笑んだ。

 けれど彼は荷台なんて想像もしていなかったはず。だからこそアルが馬車の荷台が欲しいと決めた時には少しだけ驚いた様な表情を浮かべていた。


「え、いいのか? 高級な装備も手に入るんだぞ?」


「お気持ちだけで十分です。俺達に必要なのは脚ですから」


「……そうか。なら、せめてもの礼として旅に必要な荷物くらいは乗せさせてくれ。そうじゃないと気持ちがおさまらん」


「じゃあ、お願いします!」


 思いっきり頭を下げた勢いで机に顔面をぶつけながらも感謝する。でも本当に感謝をしたいのは彼の方なのだろう。アルがそんなに欲しがらなかった事に不満そうだったけど、それでもその要件に納得してくれた。

 そうして、アル達は長旅にも耐えられる脚を手に入れたのだった。





「っていう事で、騎士団長さんには馬車の荷台をお願いしておいた。ついでに度に必要な荷物も取り繕ってくれるみたい」


「ほんとか!? これで毎回馬車を借りずに済む……っ!!」


 広場に戻ってからみんなの視線が突き刺さる中、話しにくいから三人を部屋に呼んで話しこんでいた。そして騎士団長がくれる物を離すとライゼは思いっきり喜ぶ。まぁ、馬車を借りるのに薬草採取の報酬二回分くらいらしいから、そう考えると随分助かるのだろう。

 更にその荷台を引く為の脚もついこの前仲間に入れたばかり。次第と旅が出来る様になっていった事に喜んでいると、ライゼが話し出す。


「あ、そうだ。なあアル」


「どうした?」


「二人とも結構人気になってるんだな。仲間だからって凄い声をかけられたよ」


「……へっ?」


 確かに噂が広まっているのは知っていたけどライゼ達にも声がかけられる程だったんだ。まぁ、騎士団長が礼をしたくなるくらいの確定的な噂だからそうなっても仕方ない。……確定的な噂ってもう噂じゃないんじゃないのか?


「そうそう。あの二人はどんな感じなのか~って、如何にも二人をスカウトしたいって人達がぐいぐい押し寄せて来てさ。いやぁ~人気者って辛いね!」


「あんな戦いを見せられればそんな反応にもなりますよ」


 意外と広い所まで広まっていた事に驚く。まぁ、二人と言っても大半はアリシアの方へ話題が言ってるのだろうけど。実際あの場面で大暴れしていたのはアリシアだけだし、アルは連れだと見られても仕方がない。

 とりあえずこの問題は後回しにしつつも今後の話に切り替わる。


「それで、今後の予定はどうする?」


 ライゼが空気を入れ替えると各々が深く考え始めた。

 みんなにアリシアの事を話したからきっとアリシアに関連する行動を取る事にはるはず。でも、その行動と言うのが何も分からないが事実。神器の情報と言ってもほとんどが噂程度だからあてにならないし、アル達みたいな冒険者が神器を持つような人に近づける訳もない。

 だからどうするかをアルも考えた。


「一番いいのは神器を持つ人に話を聞く事だろうけど、どこにいるのかも分からなければ近づくコネもないからな……」


「何も分からない今、八方塞がりですからねぇ」


 まさにその通りだ。アリシアの事を知りたいとは言え神器を持った人なんてこの世界に数人しかいない。そしてそんな人はちんけな冒険者なんか相手にしないだろう。

 ふと流れ込む静寂。みんなは深く考えこむ為に黙り込んでは試行錯誤を繰り返した。

 アルだって必死に考える。何故アリシアは一般的な神器の定義に当てはまらないのかとか、どうして剣に封印される事になったのかとか。


 考えれば考える程謎は浮き彫りになって来る。アリシアが自ら話せば解決する謎もあるのだろうけど、それでも今は神器の件について何よりも最優先に考えた。

 ――アリシアを救う。それが何処かの英雄に刻まれたアルの使命。でもその為にはまだ越えなきゃいけない障害があまりにも多すぎる。一番大きな壁は彼女の心をどう救ってあげるかだけど、神器の定義についても十分謎が渦巻いている。


 他とは違うって事は、必ず何か別の意味があるって事だから。


「……あの洞窟に戻ろう」


「えっ?」


「もしかしたら何かが分かるかも知れない」


 そう言うとアリシアがいち早く反応した。

 あの洞窟に戻る。それがどれだけの選択なのかは知っている。……今じゃ一番嫌っている、一番好きだった場所に戻るって意味だから。

 すると当然の如くアリシアが心配して来て。


「アル、あそこは……」


「大丈夫。俺はアリシアを救いたい。それだけであそこに戻る理由には十分なんだ」


 そう。それだけで戻る理由には十分すぎるのだ。

 確かに思い出すだけでも辛くなる。家族の証であるペンダントを握る度に、悔しさと後悔が同時に沸き出て来る。だけど“そんな程度の理由”でアリシアに手を差し伸べないなんて事、アルにはとてもじゃないけど出来ない。

 救いたい人がそこにいる。それだけで本心に抗う理由が生まれる。


「いいのか?」


「ああ。それにあそこはずっとアリシアを閉じ込めてた場所なんだ。何かがあってもおかしくない」


 あの時は自分が助かる事と村が焼かれた現実に絶望していたから余裕がなかったけど、時間が経ちアリシアがこうして隣にいてくれる以上、アルの心は大丈夫だと思える。

 独りと誰かが隣にいるんじゃ、後者の方が遥かに気持ちが楽だから。

 ライゼ達もアルの気持ちを汲み取ってくれた。


「……じゃあ、俺達はその間に度に必要な物をかき集めるか。騎士団長サマが用意してくれるとは言え、意外な物も役に立つからな」


「そうだね。ライゼは手が器用だから縄とかも買っておかないと」


 そうして旅の予定までもが決まりそうな中、アル達はずっと話し込んだ。きっと沢山の困難があるであろう旅路について。

 でも、そんな中でアルは言った。


「アリシア。明日の朝なんだけど、出発前にちょっと付き合ってくれないかな」


「付き合う?」


「見せたい物があるからっ」

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