第二章1 『新しい仲間?』
「そこの木材運んで来てくれー!」
「分かった!!」
金槌片手に梯子へ上るおじさんにそう言われ、アルは重い木材を担いですぐにその場へ駆け寄った。ちなみにアリシアは工具を持って近づいて来てくれる。
あの後、みんなと街の復興作業を手伝う事になったみんなは各々それぞれの場所でお手伝いをする事になった。最初は人助けの為って名目でやっていたのだけど、手伝っている内に楽しくなって自分から望んで木材を運んでいた。
「はいこれ」
「わりぃな」
奇襲から既に三日。瓦礫がなくなったと思えば休憩もせずにすかさず家の建築作業に入り、体力のない人達はすぐに潰れてしまっていた。
本気で冒険者をしている人は平気なのだけど、金稼ぎ的な感じで冒険者をしている人はすぐにへばってしまい、いくら復興の手伝いで依頼が出ているとはいえ大半の冒険者は力尽きていた。
アル達はそんな中で色んな所に回っては多種多様の手伝いをしている。アリシアが釘を打つ時があったし、アルが昼ご飯としておにぎりを握った事もあったし、今みたいに木材の運搬もしている。
アリシアは既にみんなから空を飛べる人間と認知されているみたいで、最初は嫌がるかと思いきや喜んで空を飛び屋根の上まで木材を運搬していた。
「そう言えば今はどれくらい終わったんだっけ」
「手伝ってもらう範囲が既に七割。あと三割が終われば後は自分達で何とかなるから大丈夫らしいです」
「なるほど」
確か報酬は手伝えば手伝う程アップする、だったっけ。そんなボーナスがあったからみんな張り切ったのだろう。張り切り過ぎて倒れたみたいだけど。
ただ純粋に楽しむ人。金目当てで手伝う人。様々な人が入り乱れては色んな所から元気な声が響いて来る。その中にはライゼの絶叫も聞こえて来た。多分金槌で指でも叩いたんだろう。
「ここはもう十分だ。お二人さんは他の所に回ってやってくれ」
「了解」
そう言われるからすぐに振り向いて他の所へ向かおうとする。街の復興が終わればアル達も早く移動できる様になるし、どの道早いに越した事は無い。
……と思っていたのだけど、何かが走ってくる音に気づいてその方角へ振り向くとソレは既に目と鼻の先にまで迫っていて。
「くえーっ!!」
「うわっ!?」
のしかかって来たと思いきやモフモフの感覚に襲われ、ソレが何なのかを理解した。こんなにモフモフした感覚を簡単に忘れられる訳がないから。
何とかして脱出したと思いきや今度はくちばしで頬を何度かつつき始めた。
「アル!?」
「大丈夫! コレ敵意はないやつだから!!」
一先ず手を剣の柄に持って行こうとしたアリシアを静止させつつも何とかソレを落ち着かせる。あの時にアルを助けてくれた巨大な鳥――――フリューハを。
どうしてこんな所にと当たり前な疑問を浮かべていると、飼い主らしき女の人が走って来てはアル達の前で立ち止まった。
「こら、そういう事しちゃダメでしょ! すいませんうちのフリューハが……」
「い、いえ。別に何ともないので大丈夫です」
女の人はフリューハを押さえようとするのだけど、一般女性の力じゃ到底押さえられる訳がなく、フリューハは何度もアルの顔に頬ずりした。
……そうなる理由は少なからず思い当たる所があって。
「えっと、このフリューハどうしたんですか?」
「それが私にもよく分からないんです。三日前に向こうの山から戻って来てからずっと誰かを探しているみたいで……」
「んぎっ」
やっぱり彼女がこのフリューハの飼い主だったんだ。
あの時の事をどう説明しようか迷っている内にフリューハの行動で彼女は探し人がアルだった事を察する。
「もしかしてあなたなんですか? この子が探してるのって……」
「まぁ、多分そう言う事になります。あの時山に向かう際にこの子と出会って、それで急いでたのでこの子の足を借りる事になって、それで……そのせいだと思います」
「ああ、なるほど」
すると彼女は怒る訳でもなく、それどころかより一層明るい表情になって手を合わせていた。普通ならここは怒っても文句を言えないのだけど……。
彼女は手を合わせると心の底から嬉しそうに言う。
「よかった! この子の探し人が見つかって!!」
「えっと、怒らないんですか? だってこの子あなたの飼ってるフリューハなんじゃ……」
でもこんな状況に全く理解出来なかったアルはそう質問する。
三日前からって言葉から察するにこのフリューハとはずっと一緒にいたはずだ。となれば主従関係にあると思ったのだけど違うのだろうか。
と思ったのも束の間。彼女のは自分の仕事を露わにして説明を始めた。
「私、フリューハを扱う店舗を経営してるんです。のですけど、三日前の襲撃でフリューハが街に散乱してしまって……。それでこの子が一番最初に戻って来たんですけど、ずっと誰かを探していて」
「あ~。なるほど……」
「この子、あなたの事が気に入ったんですね」
「き、気に入る?」
気に入ったとは言ってもあの場面って結構強引だった気がするのだけど……。フリューハの事についてはよく分からないけど相当懐きやすい性格なのだろうか。現に今こうして一度乗っただけでも懐かれている訳だし。
すると彼女は人差し指で円を描きながらもフリューハの事について少しだけ教えてくれる。
「フリューハは人に懐きやすいんですが、特に懐きやすい人がいるみたいなんです。それが自分を必要としてくれる人。他人を思いやれる心優しい人。そして嘘を付けない人。本質的にその人を見極める事が出来るらしいんですよ」
「なるほど……。で、今回の場合はその人が俺って事ですか?」
「そう言う事ですね。気に入られたみたいです」
引き剥す事を諦めて逆にモフりにいくと嬉しそうに受け入れる。だから一先ずモフったままで話を聞くのだけど、そこから先は直感で悟った通りの展開で。
「その……いかがでしょう?」
「この状況でそれですか……」
「おお、アル。ちょうどよか―――――なに、そのフリューハ」
「これにはちょっとした事情があってですね」
あの後、アルは一応相談する為にライゼ達と合流した。するといきなりフリューハを引き連れて来たアルに対して三人が神妙な視線を向けて来る。その中でフィゼリアはフリューハが頬ずりしただけで何があったか察する。
そしてありのままを三人に話した。
「アリシアを助けに行く時にこの子の足を借りただろ? その一件で気に入られたみたいで、この子飼い主がフリューハを扱ってて……。一応リーダーはライゼだから相談しに来たんだ」
「一応って何!?」
さりげなくライゼをいじりつつも経緯を伝える。
別にアルの持っているお金だけでもギリギリ足りるは足りるのだけど、それでも餌代とか色んなお金がかかりそうだったし、相談するに越す事は無いと思ったのだ。
最初は否定されると思った。だけどライゼはすぐに返答をくれて。
「いいんじゃないか。別に」
「えっ、いいの!?」
「子供みたいな反応するんだな……」
初めて子猫を拾ってきた様な感覚を覚えつつもライゼの許可に少しだけ喜んだ。のだけど、アルよりも遥かに喜んでいるのはフリューハの方で、羽を大きく広げたと思いきやまたアルに覆いかぶさった。
モフモフの体に身を沈めつつもフリューハに抱き着く。
そうしていると我慢できなくなったのだろうか。フィゼリアも走って来ては思いっきり飛びつきその柔らかさに表情を緩ませた。
「モッフモフ! これ凄いモフモフしてる!!」
「え、そんなに?」
「凄いですよ! ほらほら!!」
気になったライゼの手を引っ張ってフリューハの体に押し付けて沈みこませる。その横でウルクスも抱き着いてモフモフしていた。
早速大人気な事に喜んでいるんだろう。既に打ち解けたフィゼリア達を背中に乗せて走り回っていた。
そんな光景を見てアリシアが呟く。
「……あの子にも名前を付けてあげないとですね」
「名前? ああ、そっか」
アリシアには深く考えて付けた名前があったけど、フリューハの場合は急に仲間になったから考えてなかった。っていうかあの時じゃこうなるだなんて微塵も考えてなかったわけだし。
だから深く考えるのだけどアリシアが続けて喋るからそんな思考は遮られる。
「あんなに懐くって事は、それ程私を助けようとしてくれたって事なんですよね」
「えっ? ……まあ、そうなるかな。あの時はアリシアを助ける事だけで頭がいっぱいだった」
言われてみれば、あの時に山へいち早く向かうのにはフリューハが必要だった。だから連れて行ってくれって強く願った。つまりフリューハから見ればそれが自分を必要としてくれる証になったのだろう。アリシアを助ける事で必死だったからって訳か……。
何と言うか、勘違いに近い事が起きてるような気がしてならないけどこれでいいと納得させた。
「っと。アリシア?」
「少し、疲れました」
「……そっか」
すると急に頭を肩に乗せるからびっくりする。けれど今の言葉がこうする為の口実なのだと知って優しく受け入れた。
脳裏ではフリューハの名前に付いて考え続ける。どんな名前がいいだろうか。フリューハ――――恐らく翼の意味を持つドイツ語のフリューゲルが元になってるはず。どうして異世界にドイツ語があるのかなんてわからないけど。
それでも名付けるのなら羽とか翼に関連する名前がいいだろう。ギリシャ語で翼は何て言ったっけ。確か、プテ、プテリュクスとか言った様な気が……。
なら羽毛とか羽は確か、
「フテラ」
「ふてら?」
元々はプテラという言葉だったはずだけど、どっちかと言えばフテラの方がフリューハであるあの子に相応しいだろう。性別は知らないけれど。
やがてアルは立ち上がるとハッキリ告げた。
「決めた。あのフリューハの名前はフテラにしよう」




