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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第一章 願いの欠片
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第一章幕間 『神器と言う存在』

「それで、あれからどうなったか聞いてもいいか?」


「はい」


 しばらくたった後、アルはアリシアに事の顛末について聞いた。アルが最後の記憶にあるのは馬車に乗って泣きじゃくるアリシアを抱きかかえる所までで、その後の記憶については一切覚えていない。

 だからその先が気になったのだけど、結果としては大体予想と一緒で。


「あの後は侵食現象も収まり大罪教徒も撤退し、結果的には私達の勝利となりました。ただそれまでの過程で生じた犠牲を見ると勝利とは到底言えないですけど……」


「…………」


 戦う前は大勢の人達がいた。でもその大半は大罪教徒の奇襲によって犠牲になり、残った人たちも侵食現象で発生した魔物に何十人かが食い殺された。いくら街を守り切れたといっても到底勝利とは言えないだろう。

 そんな事実に奥歯を噛みしめた。英雄ならきっと誰も死なせる事は無かった。そう思ったから。

 でもアリシアは励ましてくれる。


「アルは勝てない敵にも立ち向かった。それは普通の人じゃ到底できない人です。だから、きっと大丈夫」


「ああ、そう、だな」


 普通の人じゃ到底できないとはいっても死んだ人は戻らない。いくら悔やんだってそれは同じだ。……なら、いつまでも悲しんでる余裕はないんじゃないのか。

 確かに悔しいさ。でも立ち止まっていちゃ前には進めないし、英雄になんて到底なれない。だからこそ今だけでも前を見続けて歩んで行かなくてはいけない。

 そしてそんな中でも救いはあった。


「それに見てください。外」


「外? ……!!」


 そう言われるから指示通りに外を覗き込む。すると街の人は誰一人として暗い顔はせずにせわしなく動いていて、木材を運んでは明るく会話していた。

 だから思っていた雰囲気よりも遥かに元気な街並みにびっくりする。


「死んでしまった人は確かに戻らない。だからこそみんな笑って歩こうって思ってるんです。いつまでも暗いままじゃ、やってられないですから」


「……そうだな」


 今度は優しく頬を叩いた。

 みんなが明るく頑張ってるんだ。なのにどうして英雄になりたいって叫びながらいつまでも暗い表情でいる事が許される。

 まだ笑う事は叶わない。それでも明るい顔でみんなと話そうと決めた。


「で、みんなの事だからもう手伝ってるんだろ?」


「ええ。ライゼなんか家一軒建ててやる~とか」


「ははっ。ライゼらしいな」


 ベッドから怪我の度合いを確かめる。まだ腕にはアリシアと同じく包帯が巻かれていて、アルには頭にまで包帯が巻かれていた。だけど動いても痛まないのなら動かなきゃ。英雄は戦うだけじゃない。色んな事で人助けをして何ぼだ。

 ……と、言いたい所なのだけど。


「でも、まずはみんなに伝えなきゃだな」


「……はい」





「で、用って何だ?」


 外に出た後、門の入り口付近で木材を運んでいたみんなを呼び止めて人目のない所まで移動させた。理由はもちろんアリシアの事について。今まで三人の事を騙していた事を謝りつつも本当の名前を伝えるのだ。

 いつまでもみんなを騙す訳にはいかない。


「実は三人に話が合ってさ。謝る事でもある。あり――――ジンの事で」


 そうしてアリシアを前に出すと三人は首をかしげた。

 何から言えばいいだろう。そう思って少しだけ迷いはしたけど、迷う暇があるなら結論から話せばいいと脳筋思考で話し出した。


「結論から言うと、ジンって言うのは俺が勝手に付けた偽名だ」


「「……えっ?」」


 すると三人が耳を疑うかの様な反応をした。そりゃそうだろう。だって今まで「ジン」がアリシアの本名だと思い込んでいたのだから。

 驚愕する三人を置き去りにアルはどんどんと話を進める。


「元々彼女には名前がなかったんだ。それで、俺が名前を聞かれた時に焦って名付けたのがジン。だからその……結果的に、俺達は三人を騙してた事になる。ごめん」


「い、いやそれはいいんだけど」


「いいんだ」


「名前がないってどういう事なんだ? だって、いやでも、そんな……」


 するとアリシアがこっちに視線を向けて来る。

 彼女の名前に関して話すのならこうなる事は十分知っていた。アルだって同じ立場だったら絶対に聞くだろうから。

 そしてこれに対しての答えは既に用意してある。


「……それは、彼女が神器から生まれた存在だからだ」


 何も隠す事は無い。アリシアは怖いと言っていたけど、彼女の境遇を理解する事によってみんなの接し方も変わる。そう踏んだのだ。

 その答えにアリシアは何も言わなかった。それどころか頷いて肯定する。

 でも普通の答えじゃないのだからみんなわ困惑する。元より《神器》なんていう武器は本当に貴重な存在で、そこらの冒険者が持てるべき武器じゃないのだ。


「え、神器から生まれた存在って……」


「文字通りの意味だ。元は神器に封印されていて、俺と契約を交わした事によってこうして顕現してる。切れ味の凄い剣をお揃いで持ってる理由とか、空を飛べたりする理由とか、それで理由が付くだろ?」


「まぁ、言われてみればそうなるかもしれないけど……」


 もうここまでくればトンデモ理論になるけど、早い話が「神器から生まれた存在ならめっちゃ強くても違和感ないだろ」って事だ。それを普通に受け入れてくれるかは別として。

 神器の話に触れてしまえば隠す事も“一部を除いて”ない。だからこそアルは全てを話した。


「話すよ。俺がどうして彼女と出会って、ここにいるのか」



 ―――――十分後。



「……以上が俺とアリシアの出会った経緯だ」


「そんな、思ってたのよりずっと絡まってたんだな……」


 英雄の件は伏せておきながらその他の事はあらかた全てを話し、みんなはその事実に驚愕していた。あまり多くの事も話し過ぎても困惑するだろうからその先は話さず黙り込む。

 そりゃ、みんなから見ればアリシアも村の生き残りと思うだろうから当然の反応だ。今まで人間と思っていた人が神霊だったのだから。


「えっと、アリシアは神霊で、アルはその契約主……って事でいいんだよな」


「ああ」


「そんなの聞いた事ないな。っていうか神器って大抵封印されて出来る物じゃないと思うんだけど……」


「「えっ、そうなの? ――えっ?」」


 ライゼの言葉に二人で反応するのだけど、神器について互いに何も知らない事に今更驚愕する。そうして顔を合わせると互いに指を差しながらも確認し合った。……その結果は当然どっちも知らないって結果だったのだけど。


「アル、神器の事知ってたから私を軽く受け入れたんじゃないんですか!?」


「アリシアこそ神器その物なんだから他の神器の事も知ってる物だと……」


 それだけでアリシアがどれだけおかしい存在なのかが理解出来た。

 神器なんて武器は世界に数十本あるかどうかの代物。アルが読んだ剣の事典では神器の存在そのものは示唆してあったものの、どこにあるかも分からない為不明な物が多く、その大半が噂をまとめた物だけ。

 だからこそ神器は全てアリシアみたいになると思っていたのだけど……。

 気を入れ直すとライゼに質問する。


「ライゼ。神器の事、どれだけ知ってる?」


「えっと、確か神器は神聖な力を宿した武器って定義が一般的だけど、近年じゃ膨大な威力を有する武器も神器だって定義が強いらしい」


「その中にアリシアみたいな人の姿になる話……はないだろうから噂とかは?」


「噂……。それらしい話は見たことがない。一応英雄譚も神器系統も完全に覚えきってるけど」


「それはそれで凄いな」


 何気ないライゼの記憶力にびっくりしながらも考え込む。

 この中で一番英雄譚や神器系統に詳しいのはライゼだ。だから彼ならそれらしい噂も知っていると思ったのだけど、どうやら違ったらしい。

 となるとアリシアは完全に神器とは程遠い存在になるかも知れない。どんな定義とも当てはまらないのだから。


「アリシアは神器について何か知ってるか?」


「私はそこまで。一、二本程度なら覚えてますけど、それも私とはとてもかけ離れたような話ばかりで……」


「そっか」


 となると大図書館で調べるしかないけど、この街の大図書館は数年かけて読みつくした。だから残る可能性としては他の街へ移動する事なのだけど、きっとそれもすぐにとなると難しいだろう。……仲間でいるのなら。

 もちろんライゼ達から離れるつもりはない。でも、どうしても急ぐのであれば一時的にでも離れる事は必要だろう。

 急かす事か。そうじゃないか。頭の中で考え続ける。


「う~ん……」


「アル?」


 そうとなればアリシアの正体は突き止めた方がいいだろう。仮にコレが神器なのだとしたら一般的な定義には当てはまらないし、きっとそこに真実があるはず。

 何でわざわざ件に封印させる必要があったのか。神器が二つになったのかとか。それらがそこにあると信じるしかない。


「アリシアはどうしたい?」


「私、ですか? えっと……」


 彼女の真実を知れるのならいち早く知りたいのが本音。でも、アルは急ぎ過ぎた結果がどうなるかを知っている。

 アリシアが真実を知るのを急ぎたいと言うのならそれでいいし、今はまだいいと言うのならそれでも構わない。もとよりこういう絡み合った真実は紐解くのに物凄い時間が掛かるのだから。

 そして、どうするかを選んだ。


「……まだ、いいです。それに今は街の復興作業を手伝わなきゃいけないですし」


「そっか」


 ならやれる事はただ一つだけ。

 三人を置いてけぼりにしているのを今更思い出して視線を向けながらも軽く言った。


「あっ。……とまぁ、そういう事で」


「ああ、まあ、分かった」


「何かここまでくると何でもありだね……」


 頭の処理が追いついてないんだろう。三人共ボケーっとした顔で立ち尽くしていた。まぁ、いきなりあんな事を言われれば頭の処理が追いつかなくて当然だろう。

 そんな中でもアリシアは更にみんなを置いてけぼりにする一言を付け加える。


「じゃあ……作業、戻りましょうか」


「……えっ、ここでそれ言う?」

これにて第一章は終わりとなります。

もしよろしければ感想などを下さると嬉しい限りです!

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