第一章17 『追い詰められる絶望』
「白……!?」
「そんな、白いのもいたのか!?」
今までずっと大罪教徒は黒装束ばかりだと思っていた。本にも載っていた姿は黒装束だけだったし、その他に白装束が載っていた記憶は微塵もない。
きっとみんなもそうだったのだろう。だからこそ全員が驚愕していた。
あれだけの数が襲って来たらきっと全滅する。直感でそう悟った。
――ヤバイ。どうする。どうやってこの窮地から抜け出す!?
時間が引き伸ばされる感覚の中で必死に考える。どうして黒と白で分けられてるのかなんて分かるはずがない。でも、このままじゃ絶対に死ぬって事だけは明確に理解出来る。
だからって彼女は群れを街に接近させない為に一人で戦っているし、増援を望む事も難しいはず。絶体絶命の文字が相応しい状況の中で真ん中に立っていた白装束がアルを指さすと他の白装束は一斉に飛び降りて来た。
「っ!!」
咄嗟に剣を握り締めて迎え撃とうとするのだけど、明らかに数が違い過ぎる。それに飛び込まない数人は魔法を使い攻撃の準備をしていた。
どうする。その言葉だけが頭の中で渦を巻く。
――でも、何かが肩を踏んだ途端に前へ飛び出ては二人が前方の白装束を切り裂いて返り討ちにした。それは地下水路に向かっていたはずの二人であって。
「フィゼリア! それにウルクス!?」
「遅れてすまない! ちょっと対策を取るので遅れた!!」
「こっからは私も戦いますよ~!」
間一髪の所で二人が加勢に来てくれる。それを見た白装束は更に数を増やしては一斉に襲いかかって来た。前衛に立っていた全員はそれに対応すべくすぐさま剣を構えては目の前で動く白装束を全て斬り伏せていく。
「地下水路の件は大丈夫なのか!?」
「入り口を全部塞いでおいたから大丈夫! だと思う!!」
ウルクスが曖昧な返答をしながらも細剣を使って素早く敵の急所を突いた。フィゼリアは人間離れした動きで間合いに入る敵全てを斬り伏せては神速の太刀筋でどんどん敵を斬り飛ばす。
アルとライゼも負けずと白装束と応戦し着実と斬り伏せていく。
乱戦となる中で次第と悲鳴も増えていき、所々で血飛沫が上がってはその叫びが途絶えていた。だからこそ歯を食いしばりながらもいち早く白装束を斬り続ける。
「お前が……」
自然と口から言葉が零れ出た。
奴らと戦う度にあの時の光景が脳裏で再生されて、もう戻れないんだと大きな後悔と共に途轍もない程の怒りを湧き上がらせる。
剣を握り締める手には自然と力が入り斬撃の威力を高めていった。
「お前らが……!」
相手は白装束なんだから村を襲った奴ではないだろう。でも、もうどうでもいい。大罪教徒そのものを斬り伏せられればそれでよかった。……そんな乱暴すぎる思考になるくらい、アルの心は荒んで行く。
やがて喉が張り裂けんばかりの叫びを上げると一心不乱に剣を振り続けた。
相手を殺す事しか考えていない頭で。
「お前らが村のみんなをッ!!!!」
「アル!?」
白装束の軍団に突っ込んでは負傷なんか気にせず狂ったように殺し始める。返り血を浴びようと反撃で攻撃が頬を掠めようと関係ない。致命傷以外は全て無視して奴らを殺し続ける。今だけは殺せれば何でもよかった。
感情に身を任せて目の前で動くものは何でも斬り伏せる。
憎かった。アルの唯一笑える場所を奪った大罪教徒が。彼女の前では冷静に装って――――装えていたのかも怪しいけど、内心では「絶対に殺す」と何度も叫び散らかしていた。
だからこそ対面して怒りが爆発する。
灰すらも、細胞一つすらも残さず殺すと怒りを相手にぶつけた。
「彼に続け――――ッ!!!」
アルが感情に身を任せて突っ込んだからか、殿と勘違いされみんなの士気が上がる。どんどん攻撃を受けては噴き出す血の量を増やしていく内視界が眩んで行く。回避なんて全くしてないのだから当然の結果ではあるけど。
全身には激痛が走るし視界は揺らいで敵か味方の区別も出来なくなる。ただ視界に入った動くものを片っ端から斬っていくだけ。
「アル、落ち着け! あんまり追い詰め過ぎると噛まれるぞ!!」
「――――ッ!!!」
そんな制止なんか全く聞かずに暴走し続ける。
目眩のせいで足元が覚束なくなっても関係ない。今は何よりも目の前の敵を殺せれば何でもよかったのだ。
だからこそ足を滑らせて腹に攻撃を食らう。
「っ!! あああああああああああッ!!!!」
握り締める剣の切れ味を利用して敵の手首を切り落とし、距離を離せばすかさず追い詰めて真っ二つに切り裂く。そんな乱暴すぎる戦い方をずっと続けた。
――とても英雄になりたいと願った者の戦いとは言えない。
英雄って言うのはもっと冷静に戦況を見極め最適な作戦を立て、みんなを勝利へと導く者のはずだ。それなのに今のアルは一言で言うならバーサーカー――――“狂戦士”といった所。
常に死と隣り合わせの戦い方をしていると白装束の数も減って来て、その分足元には死体と血だけが大量に存在していた。
視界の中に白い物が見えなくなってから動くのを止めてその場に座り込む。時間だけならほんの八分くらい戦っただけなのに体力を凄い消耗させた。まぁ、あんな動きをしてちゃ体の方が悲鳴を上げるのは至極当然の事なのだけど。
「アル、大丈夫か!?」
「落ち着いて。今は大丈夫だから」
そんな言葉に助けられて呼吸を冷静に整える。
……まだ音がする。錫杖を揺らす度にシャリン、という音が耳に響いては足元はさらに増えていった。きっとまだまだいるんだろう。透明化の魔法を使っていれば接近しても見つからない訳だし、それで待機しているのなら状況を見て加勢に行けばいいだけ。
アルが向くとさっきより数倍も数が増えた白装束が武器を振りかざす。
「まだいるのか……」
「幻覚だと嬉しいんだけどね……」
「残念、現実だ」
そんな光景を見て三人が呟いた。確かにこれが幻覚ならどれだけ嬉しいだろう。現実ならこれだけで絶望一色に塗り潰される訳だし。
ふと、奴らの持っていた錫杖を握り締める。
「ここで俺達を殺す気満々だな」
「そりゃ血を集める事が目的なんだからそうなるでしょう」
真ん中に立っていた札を顔に張り付けた白装束が合図すると、全員が各々の武器を振り抜いてはその切れ味の良さを見せつける。離れていても明がハッキリと映る程の滑らかさ。きっと斬られたらしばらくは出血が止まらないだろう。
そして手を振り下ろすと一斉に飛び込もうと足をかがめる。
みんなは怯えた手つきで各々の武器を握って返り討ちに使用と構えた。
けど、そんな中で飛んで行った一本の錫杖がリーダー格の白装束の頭を貫く。
「っ!?」
「何だ……?」
そうしてみんなが視線を向けた先には何かを投げた跡のポーズを取るアルがいて。
今度は右手で握り締めた錫杖を乱暴に投げつけて二人くらいは行動不能にさせる。その次に剣を握り締め投げつけると奴らの足場を粉々に破壊した。
「――行くぞ!!!」
誰もが唖然とする中でアルが大きく叫ぶ。自分の剣を投げつけた代わりに錫杖を握り締めると、それを天に向けて振りかざす。
「全員、続け―――――ッ!!!」
するとさっきまで黙っていた冒険者も、唖然としていた騎士団も、アルの声に士気を無理やり底上げされて鬨の声を上げた。
そうして全員で白装束が立ち上がり始めている瓦礫へと走っていくと、ライゼが左右にいたウルクスとフィゼリアにしか聞こえない声量で呟いて。
「……乱暴な指揮だこと。カリスマ性の欠片もありゃしないな」
「あれがアルなりの英雄像何だと思う。確かに雑だし急に先頭に立ったから違和感もマシマシだけど、それでも士気は上げた」
「背中が語ってるもん。どんな形であれ英雄になるんだーって」
そんな会話は微塵も聞こえてないアルは敵の武器で敵を討つ。全員で突っ込むと更に待機していたであろう白装束が姿を現し、更に数人の黒装束も姿を現した。
文字通りの乱戦となる中で上手く錫杖を操り目の前の敵を倒す。
――もう自分を見失うな。今はみんなを守る事だけを考えろ!!
今度こそは冷静さを保つ。さっきみたいに無茶に飛び込んでは傷だらけで戦う事も止め、未だ爆発しそうになる感情をひたすらに抑えて戦い続ける。
持ち手が血で滑って使えなくなったり刃毀れすればすぐに落ちている武器に持ち替え、それでも駄目な場合は敵から無理やり武器を奪って攻撃した。そんな風に戦い続けている内に数も減っていく。
やがて背後を取った黒装束をライゼが斬り伏せる。
「ライゼ……」
「大丈夫だアル。お前には俺達が付いてるから」
「……そっか。ありがとう!」
そうして武器を振りかざしては互いに刃を突き刺す。――背後にいた敵に向かって。
襲って来る数もすくないからいよいよ幕引きかと思い周囲を見渡した。するとある冒険者が最後の黒装束を斬り倒してようやく敵の姿は見えなくなる。まだまだ待機しているんじゃ既に襲ってきているはずだしこれで終わりなんだろう。
けど、だからってそれでめでたしなわけじゃない。戦っている最中にも命を落とした者が沢山いるし、床に飛び散った血の全てが敵の血という訳でもない。
瓦礫の合間には最初の奇襲で死んでしまった冒険者も複数いる。
守る事だけを考えろ。そう言い聞かせておきながらこれだけの犠牲者を出す。……そんなの、もう英雄とは到底言えないだろう。
すると熱い爆風が届いて群れの方角を見た。
「……うっそぉ」
「あの数を全部一人で倒したのか……!?」
その先には大型の魔物と魔獣の群れの掃討を終えた彼女が宙に浮いていて、酷く抉られた地面をじっと見つめていた。
やがてアルと目が合うとはっと我に返る。
だから手を振って戻ってくるように伝えるのだけど彼女は何故かそれを聞かなくて。
「あれ、伝わってないのかな」
「って言うよりかは無視されてる気がする……」
「えっ!?」
――この状況で無視するくらい嫌いだったのか!?
と脳裏で彼女への行いを全力で悔やみつつ必死に手を振り続けた。でもピンチになった時は必ず助けに来てくれたし、きっと振り向いてくれるはず。そう思って手を振り続けた。
……そう、思っていたのだ。
彼女はしばらくこっちを見て黙り込んだ末に森の方角へと飛んで行ってしまう。
「ちょっ、ジン!?」
「どこいんだ? 森なんか向かっても何も……」
その時脳裏で彼女が森の方角をじっと見つめていたのを思い出す。それも怯えた様子で腕を震わせ息を荒くする姿も。
どうしてあんな反応をしたのだろう。前に大罪教徒と戦った時は微塵も怖がってなかったはずなのに、何で今になって森の方角を見て怯えて――――。
瞬間、森の方角から途轍もない速度で赤い亀裂が伸びて来るのが見えた。
「うわっ、何だコレ!?」
「赤い亀裂……。ってまさか!」
すると何かを知っている様子のライゼは驚愕のあまり飛び上がる。
初めての現象に困惑したアルは若干パニックに陥ってしまうけど、深呼吸で心を整えるとすかさずライゼに向かって質問した。
「ライゼ、これって?」
「侵食現象だ」
「し、しんしょく……?」
初めて聞いた言葉に戸惑う。今まで生きてきた中で侵食現象なんて言葉は初めて聞いた……はずだ。侵食なんて言うからには何かが地面を蝕んでいるのだろうけど、それは何なのだろうか。
そんな疑問はすぐに解決される。
「さっきみたいに巨大な魔物が出現した際に起こる現象の事だ。その魔物は核になり、自身を中心に巣を張り巡らせる。その巣が赤い亀裂って訳で、そこからは――――」
「そこからは?」
「――魔物が無数に沸き出る」




