??? 『未来』
真っ赤に染まる夕方。二人はある所に出向いていた。
場所は街とはかけはなれた所にある草原。二つの国が敵対し戦争が起っていた場所で、つい最近も大きな争いが起ったばかりらしい。でもその内容と言うのが少し不可解な物らしい。
“死神が現れた”。それが戦場から送られた最後の手紙。現地に向かうにも勢力を削がれてしまった王都は簡単に手を出す訳にはいかず、仕方なくアルとアリシアに依頼を出したって訳だ。
「場所はここだけど……」
「…………」
その場所に到達した瞬間に何が起こったのかを理解する。手紙の意味も、王都が自ら出向かない理由も。全てソレを見て理解した。
草原に突き刺さる無数の剣。倒れる数万の兵士。それらを濡らす血。死体を食らうカラス。そして、その中で佇む一人の少女。さしずめ彼女がこの数を一気に相手して殺したのだろう。それなら手紙にも死神と書かれた理由が分かる気がする。
「なるほどな」
呟きつつも足を前に向けた。アリシアも警戒しつつ歩いてくれる。
数千数万の軍団を一人で殲滅する。そんなの絶対的にあり得ない事だ。っていうかあり得ないと信じたい。
でも目の前の光景がそれを認めさせてはくれなかった。
長い白髪を雑に伸ばし、ボロボロの服を地に染めた少女が。
やがて近づくと血塗れた少女は足音に反応して――――と言うよりかは存在に反応してこっちを向いた。その瞬間にアリシアが歩みを止めるって事は、少なくともアリス並の力の持ち主って事だ。だからこそアルも足を止める。
けれど目の前まで接近すると彼女に声をかけた。
「……これは、君がやったのか?」
「そう、なる」
すると覚束ない口調でそう答えた。
見た目的にはまだ十歳程度かそれ以下の少女。そんな幼い女の子がこれだけの敵を一人で斬り伏せるだなんて、まさしく死神――――。
少女はアルを見ると腕に抱いてあった剣の柄にてをかける。
「お兄さんも、敵?」
無色の眼、とでも言うべきだろうか。殺意だとか敵意だとか、そんな言葉じゃ片付けられない程の自然体な眼。無我の境地って言葉が一番相応しい。
何の感情も感じさせない純粋無垢な瞳はひたすらにアルを見つめる。だからこそ悟れる。ここで頷いたら死ぬ事を意識せずに死ぬと。
全身が凍り付きながらも顔を左右に振る。
「いや、俺は敵じゃないよ。戦う気はないから」
「そう」
そう言うと彼女はアルに興味を失くしてそっぽを向いた。自分で作りあげた地獄の道を見つめては何を考えているか分からない眼で見つめる。
アルが興味を示さない限り彼女も興味を示さない。それに気づいてアルの方から喋りかけた。
「……帰る場所は? 家族は?」
「ない。何もない。私にはもう、何も残されてないから」
「…………」
純粋無垢な瞳の中に隠された深い霧。それを見た瞬間から迷い果てては黙り込む。きっとアルでも容易には彼女の霧を払えない。そう察したから。
でも、それでも見捨てられない。見捨てるなんて、出来ない。だってアルには「諦めるな」って父の呪いがあるのだから。
だからこそアルは身勝手な事を言った。
「なら、来る?」
「…………」
すると彼女は黙り込んだ。それと同時に瞳には輝きが灯ってアルを見つめる。きっと、今まで救いがなかったんだろう。彼女の眼からはそう言う物が見て取れる。
救ってくれる人が目の前にいる。その時の希望は途轍もない物だから。
しかしアリシアと同じ翡翠色の瞳はすぐに光を失くして無感情の言葉を並べる。
「手、汚い。体も」
「綺麗にすればいい」
「髪、臭い」
「洗えばいい」
「服、血塗れ」
「着替えればいい」
「私、殺人鬼」
「っ――――」
その言葉に息を詰まらせる。
殺人鬼……。一人でこの光景を作り出しているのなら確かにその言葉が相応しいだろう。手紙には死神と書かれていた訳だし、物凄い戦闘力を持っている事も確定している。
連れて帰ったとしても返って逆効果になるかも知れない。
でも、あれだけ純粋な瞳をするって事はそれ程の理由があるって事だ。だからこそアルはその場で決意する。これから彼女をどうするべきかを。
「構わない」
「……馬鹿みたいに優しい人」
そう言って彼女は手を取った。
こういうのは最初は警戒して手を握らないのだけど、結構簡単に握ってくれた。――虚ろだった瞳に光を灯らせながら。
手を繋いで立ち上がると質問する。
「名前は」
「私は――――」
でも、その答えは真っ白で。
「名前なんて、ない」
これで真の意味で完結となります。
ここで書くのもアレですが宣伝ついでに書いた回なので宣伝をば。
今回でアルの助けた少女ですが、その先の物語は『彼岸に咲く願いの華』にて描かれていますので、よければそちらもご覧ください。もちろん英雄となった二人も(終盤に少しだけ)登場してくるので、彼女の物語をぜひご覧あれ!
てな訳で本当にありがとうございました。次回作もあるので見てね!
では!




