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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章87 『理』

「世界の、事……」


『そう。この世界や君のいた世界。その他の世界を構成する物についてだよ』


 そんな哲学的な話をされて面を食らう。この世界はそこまで哲学的な話も出て来なかったからあまり意識した事もなかったけど、面と向かってそう言われると急に重みが変わって来る。

 世界の真実。一度は考えた事だ。この世界はどうやって生まれ、どうやって構成されているのかなって。ヒヨコが先かニワトリが先かと同じ理論を何度も考えた事もある。まぁ、結果なんて出るはずがないのだけど。ソレに近しい物を感じてアルは黙り込んだ。


『そんな緊張しなくたっていいさ。肩の力抜いて、リラックスリラックス』


「この状況でリラックスする方が変だと思うんだけど……。ってか、何で俺だけにそんな事を?」


『んー、世界に干渉する件もそうだけど話した方がいいかなって。その方がいずれは君の為にもなると思うし、転生者唯一の疑問のはずだからね。それに君がこの世界で一番理解出来る存在だから』


「まぁ、間違ってないとは思うけど……」


 確かにずっと気になってた。この異世界は同じ宇宙に存在する世界なのかとか、真の別世界として存在するのかとか。普通なら「転生した! じゃあ生きるか!」みたいなテンションで突き進むのがセオリーだろう。だって世界の事考えたって答えが出る訳じゃないのだから。

 でもずっと気になってた。どうなってるのかって。

 だからこそラグナは答えてくれる。


『それじゃあ始めよう。まず最初にどこから話そっか』


「難しい話?」


『もちろん。哲学的な話が盛りだくさん』


「うっわ……」


 そりゃ世界の構造についてなのだから難しくて当然だろう。分子構造とか話されたらどうしよう、とか思っていたのだけど、ラグナは予想外の単語を口にするとそのまま問いかけて来た。


『君は“アカシックレコード”って知ってる?』


「アカシックレコードって確か、世界の記録を保管する概念みたいな感じだったよな」


『そうそう。元始から全ての事象、想念、感情が記録されてる世界記録の概念さ』


「それとこれがどう関係するんだ……?」


『まぁ焦らず聞きなさいな』


 ラグナはアルの質問には答えず優雅に紅茶をすする。だから焦らされる感覚に苛まれながらアルも同じ様に紅茶を飲んだ。

 やがて彼は続きを喋る。


『アカシックレコードは世界の全てを知ってる。君のいた世界なら人類の元始までもね。――でもそれはこの世界も一緒なんだ。この世界の元始すらも記憶してる』


「それって、アカシックレコードが二つの世界に存在するって事か?」


『ちょーっと違うかな』


 二つの世界には互いにアカシックレコードが存在する。そう考えたのだけど、ラグナはアルの考えに顔を左右に振った。

 すると指を鳴らして机の上にホログラムの様な何かを出現して見せた。そこには一つの点から幾つもの線が伸びては様々な点に繋がって行く。


『アカシックレコードは一つしかない。でも、どの世界にもアカシックレコードは必ず存在する。それが何を意味するか、君なら分かるね』


「……全ての世界が、アカシックレコードに繋がってる?」


 そう言うと彼は頷いた。でも本来アカシックレコードって言うのは概念だ。観測できるとは思えない。それなのにどうしてそんな事を――――。と、その考えもラグナにとっては筒抜けらしく、彼は口元に笑みを浮かべるとその謎を明かした。


『その通り。例えアカシックレコードが概念であってもそれが世界を作ってるんだ。この世界と君のいた世界だけじゃない。その他の沢山の世界にもアカシックレコードは繋がってる』


「ちょっ、待って待って!」


 いきなり他の世界と言われてラグナを静止させる。

 そんな哲学的な話をいきなりされてもわかりっこないし、そもそも常人のアルにとってそれ系の話はほとんど受け付けない。だからこそ考える時間を作った。


「他にも沢山の世界があるって、どういう!? そもそもアカシックレコードは概念のはずだ。それなのにどうして!?」


『何でボクが他の世界の事や概念の事を観測出来ているか、でしょ? 答えは簡単。ボクはそれに接続出来たからだ』


「は……?」


『世界は必ず一人が管理する事になってる。この世界の場合はボクがそう。で、ボクはその概念ってやつに干渉出来たって訳。ボク達の生きる世界も、君の生きていた世界も、全てアカシックレコードが見てる夢に過ぎないんだ』


「夢って……」


 あまりにも現実味のない言葉に絶句する。だって彼の言葉通りならアルの生きていた世界も生きている世界も、全てがアカシックレコードが見ている夢って事になってしまうから。

 でもラグナは即座に言ってくれる。


『でも君の生きる世界も生きていた世界も本物だ。大丈夫』


「……そう言ってくれるとは思わなった」


 そのおかげで取り乱した心を落ち着かせた。まぁ、まだ納得いかな部分も多いけど。例えここが夢の世界だとしてもアルの現実なのは変わらないんだ。

 やがてラグナは考える時間を作ると今一度話し始めてくれる。


『話を戻そう。アカシックレコードの夢は無数にあり、僕達はその内の一つの夢に住んでるんだ。それがこの世界って訳だね』


「何度聞いても想像できないな。そもそもアカシックレコードなんて実在するなんて……」


『実在するよ。だからこそ僕達は此処に生きてる。君のいた世界も夢の一つなんだ』


 ラグナが言わんとする事は分かる。アカシックレコードは無数の夢を見るからその中には高層ビルが立ち並ぶ社会が構成された世界があり、同時に超常的な力を持った《七つの大罪》によって世界が終焉を続けていた世界もある。そんな事を言いたいはずだ。


『そこら辺の原理は真意と一緒だね。無数の世界はアカシックレコード繋がっていて、それらはこの大樹の様に構成されている。だから世界からアカシックレコードを経由して別世界に接続すれば君の様に転生させる事も可能なんだ』


「なるほどな。真意を例にしてくれるとすごく分かり易い」


 アルがアリシアの魂に接続したのが一番理解しやすい例となるだろうか。接続したからこそ魂をこっちの世界に引き込める。あまり考えると知恵熱が出そうだから深くは考えないけど、原理としてはそれでいいのだろう。

 しかし気になる事が出来て質問する。


「無数の世界があるから剣と魔法の世界もあるって事は分かった。でも真意って一定の世界にしか存在しないのか? 少なくとも俺のいた世界には真意って呼べる事象はなかった」


 もしアルのいた世界もアカシックレコードの夢だと言うのなら構造自体はこの世界と一緒のはずだ。それなのに向こうじゃ真意と呼べる現象は確認されていない。強い意志を持てば真意が発動される。それでアルも出来たのなら向こうの世界じゃ何人もが発動できるはずだ。それなのにどうして。

 するとラグナは「あぁ~」と呟いてから答えた。


「俺の世界じゃ確認出来てないだけで実はあるとか、そう言う感じなのか?」


『言い方は悪くなるけど、正確に表現するならハズレだね』


「ハズレ?」


 世界に辺りとハズレってあるのだろうか。だってどの世界も大抵一緒だろうしアカシックレコードが元になっているからには構造も変わらないはず。それなのに何で……。

 ラグナは少し考えながら口を開くと説明してくれる。


『夢にも良し悪しってあるでしょ? それとほとんど変わらないんだ。世界の住人が均衡を保てば、それを維持する抑止力は必然的に機能しなくなる。そうなれば世界が滅ばない限り抑止力は働かない』


「つまり俺のいた世界は真に平和だって言いたいのか?」


『そう言う事。この世界と比べてみれば遥かに平和でしょ?』


「まぁ、そうだな……」


 この世界は村人全員が殺されたって「またか」で済まされるだろう。でもそう言った事件が全くない向こうの世界じゃニュースに取り上げられて大々的に拡散される。それこそが二つの世界の違いなんだ。

 確かに戦争が起ってるクセにどこが平和なんだって言いたくなる。でもこの世界は常時世界大戦と同じ状態。比べてしまえば向こうの世界は天国とも言えるだろう。だからこそ、世界の均衡を保つべくして作られた抑止力は機能を失くしていく――――。


『抑止力……つまり守護者は世界の生存本能が生んだ存在。君が生まれる遥か前じゃ世界が混沌だったからこそ守護者は抑止力としての役目を果たしていた。でも現代はどう? 一日に一万人以上死ぬ?』


「…………」


『それこそが大きな違い。戦争が終われば兵器がいらなくなるのと同じ原理だね』


 ラグナはそう言ってまた紅茶を飲み干した。

 原理はよ~く理解出来た。この世界にはマナって言う力が存在するし、力があるからこそ人は争い殺し合う。でもマナがない向こうの世界じゃ戦ったって武力の差がある。だからこそこの世界と比べれば平和なんだ。

 ふと気になる事が出来て質問する。


「じゃああの世界も遥か昔は真意が使えたって事か?」


 今は平和だからこそ使えない。なら遥か昔は使えたのだろうか。時代には詳しくないけど、フランスの百年戦争とか。

 するとラグナは顔を左右に振ってこたえた。


『残念だけどボクは向こうの世界の神じゃない。向こうの歴史には答えられないよ』


「そ、そうか。っていうか考えてみれば当たり前か……」


『でも使えた人ならいたんじゃないかな。君以上に詳しくないけど、かの有名なジャンヌ・ダルクとかね』


「ああ」


 確かにそこら辺の人なら使えそうだ。実際にジャンヌ・ダルクは聖女として崇められた訳だし。

 ラグナは注いだ紅茶に砂糖を入れながらも話し続ける。


『と、ここまで話したところで君はこう思ったはず。アカシックレコードが見ている夢ならソレはどこにあるのだろうって』


「だから止めてってば」


『ソレは概念だから目に見えないだけで確かに存在する。君の生きていた世界にも、この世界にもね。この世界の全てが理解出来ても、この世界の生みの親であるアカシックレコードまでは理解出来ないんだ。それこそが理だからね』


 そりゃ、どんな問題でも極限まで突き詰めれば卵が先かニワトリが先かで揉めあうのは確実だろう。だって自分達はその真実には到達できないのだから。実際にアルが生きていた時代じゃ地球の誕生は観測出来ても宇宙の誕生は何一つ不明のまま。

 きっとそれこそが理なんだ。

 しかしラグナは続けて言った。何か意味ありげな言葉を。


『でも、中には到達する人もいるかもね。――無数に広がる世界の何処かで』

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