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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章82 『英雄』

 アルは一人で抗っているんだ。無数の魂に埋もれたとしてもアリシアを助ける為に光を放ち続ける。それが今にも掻き消されそうな弱々しい光ではあるけれど、アリシアにとって希望の光となるには十分すぎる輝きだった。

 深紅の光は中心に留まっては漆黒の天使の動きを静止させる。


「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!」


 思いっきり咆哮しながらも真意の刃で奴の体を切り裂き続ける。再生され様が関係ない。今のアリシアの中に存在するのは「みんなの魂を解放する事」と「アルを助ける事」だけ。それこそが本当の自分がやりたい事だから。


 リトウスが言ってくれた。本当の自分でいて欲しいと。

 ならアリシアは自分のやりたい事をするだけ。何者にも縛られる必要なんてない。アルが憧れた英雄みたいに、自由奔走に人助けをして思いのままに生きる。そんな英雄を目指せればそれでいい。

 だからこそ救いたい人を救い、思いのままに生きるだけ。


 真意の刃を振る度に周囲には白いアネモネの花が舞い上がり幻想的な光景を作り出していた。絶対に留まる事は許されない。アルがアリシアを助けようとしてた時、どれだけ必死に救おうとしてくれたか。それを脳裏で思いだし力に変換する。


『誰もお前を』


『必要となんてしない』


『それこそお前に相応しい業だ』


 言葉を聞く度に攻撃を食らって血を流した。まるで心の傷を表現しているかのように。真意は魂をぶつける事によって解放出来る事は察せた。でも、それだけじゃない。アリシアだけの真意じゃ全ての魂を解放できないんだ。

 そりゃ、完璧な存在でも対処しきれない程の真意なのだから当然な気もするけれど。


 だからこそどれだけ真意で魂を解放しようと攻撃を食らって血を流して行った。これはアリシアだけじゃない。いわゆる他の大罪の尻拭いも兼ねている。だからこそアリシア一人じゃ漆黒の天使には勝てっこない。

 ……でも、だからって諦める訳にはいかない。


「ッ!!」


『死んでしまえ』


『大罪なんて』


『偽善者でしかない』


『どれだけの人が』


『救おうと足掻いたか』


『お前は知らない』


 《嫉妬》の権能は既に十割を発動している。それなのにアリシアよりも早く動いては炎や雷が体を貫き伸びて来る腕が剣となって胴体を貫く。

 どんなに足掻いたって再び攻撃されて血を流した。

 その度に体を再生させて再び真意の刃で攻撃する。もちろん黒魔術を使って向かって来る攻撃を弾き落とすけど、それでもたまに飛んで来ては体を貫いていた。


 ――私の力だけじゃ届かない。でも……!!


 脳裏でアルの笑顔を思い浮かべる。彼が隣にいてくれるのなら、アリシアはきっとどんな困難でも乗り越える事が出来るから。

 だからこそ想いに比例して真意は輝きを取り戻していく。


 ――大丈夫なのか?


「大丈夫じゃない……!!」


 ふと彼女から喋りかけられては本音を答えて神器を振りかぶる。

 正直言ってかなりヤバイ状況だ。アリシア一人じゃどうしようもなくて、アルがこうして抗っても攻撃は何度も命中する。それも意識外から急接近して。

 このままじゃやられるのは確実。だからと言って回避できる技がある訳でもないのだけど。


 あまり使用したくはなかったけど、高威力で爆発を引き起こすビームなども使って全ての攻撃を無効化していく。その度に爆発が起ってはアル達の元に衝撃波が向かう。

 やがて意識外から迫って来た腕に足を掴まれて思いっきり振り回される。


「しま――――うわっ!?」


 神器で腕を断ち切ったって更に多くの攻撃が降り注いでは隙を作らずに連撃を重ねた。使う技を増やしたから被弾する回数は激減した訳だけど、それでも攻撃その物が変わる訳じゃない。依然苛烈さを増しながらもアリシアに隙を与えなかった。


「ぐッ……!!」


 無数の魂の集合体。即ち真意が束になっている様な物だ。だからこそ一撃が途轍もなく重い物になるし、黒魔術で攻撃しても真意の部分だけで攻撃して後は消滅してしまう。数億の真意に対し一人の真意で対抗しなきゃいけない。そんな縛りを付けられながら勝つのは至難の業。

 それこそ大英雄でもない限り――――。


 ――これが最後の償いのチャンス。


 脳裏でもう一度そう呟く。

 これを逃したらもう二度とこんなチャンスは巡って来ないだろう。仮に達成した所で罪がうやむやになる訳でもないけれど、それでも、あの魂を解放する事が出来るのなら。

 気合いを入れ直して真意を発動させる。


「はああああああああああああああああッッ!!!!!!」


 雷に乗せて放ち周囲の攻撃を全て無効化する。意識外からの攻撃だって超感覚だけで察知しては回避して反撃も加えた。

 でも、その瞬間に一本の腕が脇腹を貫く。


「え―――――?」


 自分自身でも貫かれたと察知したのは血が噴き出してからだ。それまでの間、その存在に気づけず超感覚にも引っ掛からなかった。つまり真の意味でアリシアの隙を突いたって事になる。

 すると貫いた腕は先端を返しの様にして振り回し地面に激突させた。それも普通の人間なら絶対に死んでしまうような威力で。


 その衝撃で大量に吐血しつつも即座に立ち上がって反撃を続ける。今度は普通の魔法みたいな攻撃だけじゃなくレーザーみたいな物も撃ち出されていて、神器で弾き飛ばす度にどこかへ触れては爆発を引き起こした。

 だからそれに対抗すべく漆黒の炎を出現させると糸をなぞるかのように伝わせては大爆発を起こす。もちろん真意も兼ねてるから途轍もない衝撃波も生み出した。


「ったく、誰かを守るだけでここまで苦戦するなんて!」


 ――みんながいるからこそ全力が出せない。こんな縛り一番嫌いなヤツだ……!


 大罪としての権能をフルに使用すればもっと楽に倒せるだろう。でも、決めたんだ。もう誰も殺さないし殺させない。だからこそ全力を振るう事は許されない。

 しかし向こう側は遠慮する意味なんてないからこそ全力で攻撃を仕掛け、その度にアリシアは衝撃波が皆に向かないように破壊し続ける。

 そんな事をしていれば当然ピンチに陥る訳で。


「――あ、やばっ!?」


 たった一撃だけ弾き逃してしまい、咄嗟に神器で防ぐも爆発自体は直撃する事となる。それを気に腕が伸びては形を変えてアリシアの体を貫いたり切り裂いたり殴打したりと、レーザーも加えてありとあらゆる手段で殺そうと攻撃した。

 だから権能を全開にすると周囲の全てを吹き飛ばしてその場から脱出する。その衝撃波だけでも離れていたみんなが傷を負うくらい。


 ――全力を出す事は出来ない。でも、やらなきゃやられる。せめてアルの時みたいに真意が使えれば何とか……!


 向こうは殺しや破壊や何でも出来る。対してこっちは犠牲を出さずに敵を倒す一つのみ。アルみたいに真意を二つ持てたら可能性はあるのだけど。

 いや、自分だけでやるんだ。どれだけ傷ついたってアルを助ける為ならきっと――――。

 そんな意志を否定するかのように奴は攻撃を叩き込み続け、アリシアはその攻撃を打ち消して被害を最小限に定める。


 ――ここだ!!


 攻撃を打ち消した瞬間。そこだけに一縷の望みをかけて全力の真意を発動させる。奴の攻撃も本体も真意に触れれば消滅する。なら最大級の真意攻撃を叩き込めばきっと倒せるはずだ。そう願いながらもコンマ何秒かの隙を突いて真意の刃を全力で突き出した。

 伸びていく刃は一瞬にして奴の元へと辿り着き、胴体に巨大な風穴を開けて――――。


「は――――?」


 届いて、いない。さっきまでは普通に切り裂けたと言うのに今だけはバリアが張られているみたいで、アリシアの刃はそのバリアに阻まれて全く届いて何かいなかった。

 今、アリシアは攻撃に全てを向けている。防御は何一つしていない。奴がそんな大き過ぎる隙を逃すはず何てなくて、またさっきみたいに持てる手段を全て使って攻撃を仕掛けて来る。それを防ぐ手段なんてなくて。


 大量の雷や氷や風が体を貫き、炎が体を焼き、腕は変形して体を刺し生命力を大量に吸い上げる。いくら大罪とはいえ生命力まで抜かれちゃ体力もなくなって行く訳で、何とか全てを弾き返した頃には息切れて吐血していた。

 血を流し過ぎたのだろう。目眩もするし平衡感覚も失われる。


 このままいけばやられるのは確実。奴の体内で抗い続けているアルの真意も光が弱くなっているし、その度に攻撃が激しくなってアリシアは追い詰められる。

 まぁ、今までの罪を償うのだからこれくらい当然だと思うけど。


 ――流石に、もう……。


 神器を杖にしてなけなしの真意を黒魔術に乗せる。それだけで攻撃を防ぎつつも霞む視界で前を睨んだ。守らなきゃいけない。それこそがアルの願いでアリシアの願いでもあるのだから。

 せめてもう一撃。そう思い至って剣先を奴の胴体に向けた瞬間だ。誰かに背中を押されたのは。温かくて優しくて、そして力強い手が。


 ――頑張れ。


「……!!」


 何度も聞いたアルの声。何度も触れたアルの手。それら全てがアリシアを応援してくれる。背中を押してくれる。それだけで奴に立ち向かうのには十分すぎる理由だった。

 そう。それだけで十分なのだ。なのにもう一人の手がアリシアの背中を押しては同じく声をかけて力強く推してくれる。


 ――頑張って。


 ――りと、うす……。


 瞬間、二人の意志が流れ込んでアリシアに力をくれた。奪われた分と、それ以上の力を与えてくれる。どれだけ醜い姿になったって二人だけは絶対に見捨てようとはしない。救いたい人を心から救うまで、死んでも諦めない。

 なら救われるしかないんじゃないのか。ここまで応援してくれているのだから。

 ふと、紅いペチュニアと紫のニゲラの花が舞い上がる。


 背中を押されたからこそ左足を一歩踏み出し、右腕を限界まで引き絞って真意を発動させた。それも一人だけじゃない。アルの真意まで混ざり込んだ真意が発動される。更にもう一人、リトウスの分まで。

 真紅と紫だけじゃなく白い花までもが入り乱れ、真っ白な真意の色彩を加えながらも威力は加速していった。三人分の真意が混じった刃は甲高い音を立てて極限まで強化される。

 やがてそんな刃を撃ち放った。


「――らあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!」


 神速の一閃となった一撃はもう一度バリアに阻まれて激しく火花を散らせる。どれだけ力を振り絞ったって一向にバリアを敗れる気はしない。でも、自然と負ける気はしなかった。だって大好きな二人に応援されているのだから。

 腕が悲鳴を上げる。真意の衝撃に耐えられずに血が噴き出しては骨も折れて行った。そんな中で必死に耐え続ける。


 右腕の袖も全て破れては肌が露わになり、どれだけの衝撃を受けているのかを見せびらかした。どれだけの激痛が流れ込んだって歯を食いしばって耐える。それどころか更に威力を増させてもっと負荷をかけさせた。

 やがてもう一度二人が背中を押すとついにバリアには亀裂が入り始める。


 脳裏で自動的に今までの記憶が再生される。リトウスと二人で過ごした日々。アルと一緒に過ごした日々。仲間に囲まれて笑い合った日々。そして、リトウスとアルとアルトリアの三人で過ごした、幻想の日々。

 幾つもの笑顔が今のアリシアを彩ってくれた。その絆や笑顔だけは絶対に忘れないだろう。

 重なる想いが望んだ未来へ導いてくれる。それだけで立ち上がる理由になる。

 だからこそ立ち上がれる。何度でも、何度だって。


 やがて、真意の刃はバリアを貫いてその巨体を貫いた。


 大きな風穴があいては漆黒の天使はまた金切り声を上げて耳障りな咆哮をする。でも、それ以降は全く叫ばずに身動きすらも取らなかった。その理由はたった一つ。――この一撃が彼らの魂を解放したからだ。

 風穴の部分は塞がるどころか更に広がって消滅していった。同時に体内でうごめいていた魂達も一緒に消滅していく。


 突如始まった最終戦は、アリシアが助けられながらも敵を倒す形で幕を閉じた。だからこそみんな心の底から安堵して座り込む。

 同時にルシエラの視線はアリシアに向いていた。


「圧倒的な脅威に対し、臆さず絆を信じて戦うその姿……」


 振り向かなくたって彼がどんな感情を抱いているのかは分かる。アリシアだって同じ立場だったら絶対にその背中に憧れるはずだから。

 するとルシエラは小さく呟いた。


「……ほんと、かの大英雄に似てますね」

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