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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章60 『巨人』

「みんな! よかった、戻ったの――――」


「見ての通り無事だ! 状況はどうなってる!!」


 クリフ達は洞窟から抜け出してから即行でキャンプに戻り、事の全貌を知っているはずのライゼにそう問いかけた。

 するとライゼは素早く状況を呑んである方角……巨人の方を向きながらも何が起こったのかを話し出した。のだけど、そこら辺は大体予想通りで。


「今から数分前にあいつが地面を突き破って現れた。それ以前と以降は何も」


「なるほど、急に出現して来たって訳か」


「大体読み通りだったな」


 地面の上で沸いたって言うのなら理解出来なくはない。だってその場合はほとんどが魔物な訳だし。けれど地面を突き破って来たとなると話しは変わる。

 その事を理解していたクリフは深く考えこむ。


 もしこの下にもさっきみたいに洞窟があるのならまだ希望は持てる。でもあれだけの巨体があんな程度の空間に収まるだなんて到底思えない。となるとやはり第五層から現れた可能性が大きい。つまり、まだ誰も見た事のない未知の生命体の可能性が――――。

 とまぁ、ここまで考える訳だけど、みんなの方がよっぽど早くその先の結論に辿り着いている訳で。


「第五層の敵か……。誰も見た事のない未知の生命体。正直ゾッとするな」


「情報がない分相手にするのが厄介だからね。中立的な可能性もあって欲しい所だけど、無理でしょうね」


「あれ、そこまで考え着くの早くないか」


「クリフが遅いだけだろ」


「なっ」


 ジルスから容赦のない一言を浴びせられながらも自分なりに考え続けた。

 第五層から来たって事はあそこの穴は当然繋がっているって事になる。つまりそこから新しいのが入ってるく可能性もあるし、早急に対策をしなきゃいけない所なのだけど……。


「アリス、アリシアの場所って分かるか?」


「ごめんなさい。あれの反応がデカすぎて……」


「って事はアレが例の存在って訳か」


 まさかこんなドタバタしている時に立て続けで色んな事が起るだなんて。狙いすましたかのようなタイミングにもどかしい物を覚えるも冷静になる。

 あれだけ強いオーラを放っていればクリフ程度のオーラなんて隠れてしまって当然だ。けれど早くしないとアルがどうなるかなんて分かった物じゃない。早い所何かしらの手を打たないと。だからこそこのパーティの司令塔的存在でもあるジルスに問いかけた。


「ジルス、どうする」


「えっ、俺か? そうだな。ありゃ絶対に放って置けない類の敵だ。恐らく無視してたら俺達を攻撃してくるだろ。今は地面から抜け出せなくて困ってるみたいだが、どう出るか……」


 上半身を出したのはいい物の、それ以上が出なくてクネクネ動いてはもがいている。そんな動作を見ていれば本当に強いのかと思えるけど、奴の放つオーラだけがヤバイ相手なんだって事を伝えてくれる。恐らくクリフじゃ勝ち目はないだろう。

 すると必然的にみんなの視線はアリスに向く。


「アリス。オーラだけであいつを倒せるかの判断は出来そうか?」


「そうね……。現状ならノエルと同じ強さの人があと一人はいれば奴は倒せると思う。その分尋常じゃない被害が出ると思うけどね」


「ノエルと同じ強さか。そんなのどこにも……」


 瞬時に全員が同じ事を思ってナナへと視線を向ける。けれど絶対に駄目だと一斉に判断しては即座に視線を逸らした。確かにノエルには届くくらいの実力を秘めてる訳だけど流石に駄目だ。

 ……しかし、残ったのは彼女くらいしかいなくて。


「わっ、私、役に立てるのなら戦いたい!」


「ノエル……」


「私だって守りたい! 守られるだけなのは、嫌!!」


 真剣な眼差しでそう言う。その瞳を拒否する事はしずらいし、けれどあまりにも危険すぎるのは確かだ。だからこそみんな選択に迷った。

 今じゃ守ると言っていたアリシアもいない。果たしてどうするべきか。


「……オレ達って、今までアリシアに頼りっぱなしだったんだな」


「ああ。いないで初めて気づく事ってヤツだ。となると方法はたった一つしかない」


 そう言うとジルスはポンとナナの肩に手を乗せた。こればっかりは非常に危ない賭けでしかない。負ければどうなるかなんて分からないのだから。

 やがて強気な笑みを浮かべながらも言った。


「ナナ、力を貸してくれるか」


「……! うんっ!!」


 すると眩い程の笑顔で返してくれる。こんな幼い女の子に頼って良いのかという疑惑はあるが、ここまで来たら関係ない。そう言い聞かせて納得させる。

 今は奴をどう退けアリシアを見付けるか。その事に頭を回さなきゃいけないのだから。

 付け焼刃で戦力が決まるとジルスは引き続き考えた。


「戦力面はどうにか仕立て上げたが、アルとアリシアはどうした物か。索敵が出来ないんじゃどうしようもないし早々出て来る事もないはずだぞ」


「そうだよなぁ。あいつがいる以上外側から回り込んで索敵する訳にもいかなさそうだし、何より気を付けなきゃいけない奴らもいる」


 そう言うとクリフは今にも這い出て来そうな巨人を見つめた。

 まず大前提に奴が勝手に出て来たなんて事はないだろう。必ず何か裏で理由があるはず。その理由って言うのが――――。


「大罪教徒?」


 ノエルの言葉に頷く。

 この洞窟でここまでの事が出来るのは精々大罪教徒くらいだろう。というより、奴ら以外に何の可能性があり得るって話にもなりかねない。


「俺達はあいつらの戦い方を十分知ってる。だからこそ、外側から回って行く事は不可能だ」


「それは絶対に防がれるって事?」


「ああ。大罪教徒は一人いたら三十人いると思えの精神で行った方が手っ取り早い。そこから見るに進撃は許さねぇだろ」


 クリフの言葉にジルスやクロードも頷いた。別に近距離だけだったら空を飛んだり空に吹っ飛ばしたりして進めばいい。けれど奴らは魔術を得意とした魔術師軍団もある。故にそれは難しいだろう。

 となると残った手段は一つだけ。


「って事は、アリシアを探すのならあいつを倒さなきゃいけないって事ね」


「そうなるな」


 そうして全員でもう一度巨人を見つめる。

 アレを倒してからの捜索。ぶっちゃけ言えば巨人討伐はただのおまけでしかない。そのおまけがあまりにも大きすぎる訳なのだけど。

 やがてクリフはジルスに問いかけた。


「どうする。オレ達だけでやるか」


「いや、人手が欲しい。恐らく取り巻きも出て来るはずだ。そいつらを押さえながらとなると明らかに人手不足になる」


「なるほど。となるとキャンプのみんなに協力を依頼するしかねぇって事か」


 急に現れた上に作戦もロクに立ててないから急ごしらえで作った作戦だけど、それでもこれで何とかなるはずだ。昔から考える事はジルスの専売特許だし。

 このキャンプにいる攻略者はみんな手練れの攻略者って事になる。みんなあの第三層を突破できる程の力の持ち主って訳なんだから。

 するとジルスは即座に方向性を定めてみんなに指示を出した。


「キャンプにいる攻略者の協力は俺が何とかする。みんなはあの巨人を何とか出来ないか」


「何とかって言ってもねぇ……。まあやるだけやってみるわよ」


「すまない。頼む」


 アリスはそう言って渋々巨人の方へと歩き出した。ノエルとナナもそれに続いて歩いて行く。クリフとクロードだって護衛みたいな物だ。一緒に付いて行かなきゃいけない。

 ……のだけど、歩く前にジルスへ少しだけ質問した。


「ジルス」


「ん、どうした?」


「勝てるのか」


 するとジルスは深く俯いて答えてくれなかった。確かにあの三人がいれば巨人は倒せるだろう。でも問題なのはその先に待ち受けている物だ。それだけは流石に勝てるかどうか分からない。それは彼も一緒で。


「……分からない。仮にあの巨人を倒せたとしても、アリシアとの賭けは未知数だ。アルがいるから何とかなるかも知れないが、あの様子じゃ何とも言えない」


「そうか」


 そうなっても当然だろう。だって、もしかしたらアルは既にこの世界にはいないのかもしれないのだから。

 でも、絶対に可能性だけは諦めたくない。だから彼の背中を叩くと呟きながらも余人の後を追った。


「アルが死ぬ訳ねぇだろ。あいつは、誰よりも純粋な英雄を追い求める男だ」


「……そうだな」


 アルは一度何もかもを失った。けれど何もかもを失っても、理想や願いを折られたとしても、それでも尚吠え続けている。英雄になりたいと。英雄になるんだって。そんな男が簡単に死ぬはずなんてない。

 だから、希望だけは絶対に捨てない。


「タイミングを見切り次第ドンパチ初めていいんだよな?」


「ああ。攻撃してくるようじゃ容赦なく反撃してやってくれ」


「りょーかい」


 最後に確認を取ってアリスの元へ向かった。

 主力となるのは三人。そして残った二人は護衛兼取り巻きの駆除。正直言ってその取り巻きって言うのが第五層から出て来るかも知れない敵と大罪教徒なのだから、不安要素はもちろん付きまとう。もしかしたら巨人を相手にするよりこっちの方が危ないかも知れない。


 それに大罪教徒だってただ数がいるだけで弱いって訳じゃない。黒装束は比較的に弱い訳だけど、それでも全員がライゼやウルクス並の戦闘力を持っている。数で襲いかかって来ればもちろん苦戦するだろう。

 白装束は強い代わりに比較的数は少ないけど安心はできない。奴らは近距離の他にも魔術で攻撃してくるのだから。


「さーて、どう来るかな」


「一応回避の準備をしておいてね」


 みんなで巨人の前に立つ。よくよく見れば口や眼が存在すると思いきやそれらは黒いモヤで覆われ、全身が真っ白な割にはただならぬ異様感を放っていた。

 そして、五人を捉えると巨人は動き出す。


 振り上げた拳をまっすぐに振り下ろした。

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