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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章48 『休戦協定?』

 途轍もなく重い一撃が交錯したと思った瞬間から神速の連撃が互いの間で繰り返され、致命傷以外の負傷は全て無視して攻撃し続ける。

 普段は近くにアルもいたし全力で神器を振るう事が出来なかった。けれどアルもいないし全力で倒すべき相手がいる今、力を抑えて戦う必要なんて微塵もない。だからこそアリシアは全力で神器を振るい続けた。


「分かってはいたけど、それ神器なの?」


「ご名答。ザックリいうと私が作った武器ですね」


 神速の連撃を繰り出しながらもそんな会話をする。あまりにも速すぎて数十本の剣が同時に振られてるって見違えるほどに。

 冒険者としての戦いならこれが精一杯の戦いになるだろう。でも大罪としての戦いならこれでもまだ余力が十分すぎるくらいに残っているという事になる。まぁ、さっきの黒魔術レールガンでも全力じゃないのだけど。


 やがてルシエラが大きく一歩を踏み出す事によって足場を崩しバランスを崩壊させた。その隙に回し蹴りを繰り出しては脇腹を蹴って肋骨を何本か折られる。

 だから血を吐きながらも受身を取り即座に骨を再生させた。

 けれどそれだけじゃ終わらない。神速で近づいては神器にすら耐える刃を振りおろし、さっきとは立場が逆転した状況で攻撃を受け止める。


 今度は受け流さずに押しきると黒魔術でレーザーを撃ち出した。けれどそれをテレポートで回避すると目の前に現れては頭突きを食らわせて怯ませる。

 故にその隙を大爆発で埋めながらもバク転すると起き上がりざまに神器を振り上げ、その衝撃波だけでも奴の体を切り裂いた。


「おっと。正真正銘の飛ぶ斬撃とはやりますねぇ。ソニックブームってやつですか? 普通の肉体じゃ不可能だと思うんですが……」


「普通じゃないクセに何言ってるの」


「ごもっとも」


 互いに血を吹きだしたって関係ない。即座に再生させれば済む話なのだから。そして流れ出た血は一滴も残さず黒い霧に変換してはどっちが媒体として利用するかの競争が始まる。

 そんな終わりの見えない戦いをずっと繰り返し続けた。

 一撃を受ける度に骨は折れて再生する。普通なら激痛で戦う気力なんて沸いてこないのだけど、今だけは違った。


 アドレナリンが云々カンヌんって事もあるけど、何より自ら黒魔術で神経を操り痛覚を遮断しているから痛みは微塵もなかった。粉々に折れても即座に再生するから何も問題はないし。

 普通の治癒魔法なら後遺症が残るとか何とかで警戒はする。でも黒魔術は正真正銘の魔法。だからこそ直したい部位を再生させれば完璧に再生させる事が出来る。それこそさっきみたいに脳や心臓が消飛ぼうと。


 もっともルシエラに関しては吸血鬼だからって点も関わっているのだろう。半分が魔物みたいな物だし、黒魔術がなくとも再生能力が付いているのだから当然な気もするけど。

 しかし逆に言えば一瞬でも気を抜いてしまえばそこが死ぬ瞬間と言う事になる。痛覚がないのも再生するのも黒魔術があってこそ。という事は黒魔術を一瞬でも抜けば地獄の様な激痛が襲って来るって事だ。そんな物を耐えられるだなんて思えない。


「どうやら調子が上がって来たみたいですね?」


「ええ。そっちもねッ!!」


 そう言いながらも舞の様な動きでルシエラを牽制していく。けれど奴の顔には微塵も焦ったような表情が浮かばない限りまだ全力じゃないのだろう。

 と言うより心象世界を持ち出しても全力じゃないのだから当然か。


「ならそろそろ権能を使うとしますか。第一ラウンド開始です!!」


 するとルシエラは手元に不気味な炎を生み出して見せる。だから黒い雷で右腕を消飛ばすのだけど、即座に再生させるとその炎を地面に投げつけた。その瞬間から地面や背景が歪んではもう一度現実世界が心象世界に塗り替えられていく。


 世界を一時的に書き換える事がルシエラの――――《憂鬱》の権能。それだけでも十分に厄介な事だ。さっきみたいに色んな現象が思い通りに起ってしまうのだから。

 だからこそアリシアは即座にそんな世界を破壊しようと一段階強い黒魔術を解放させる。でも、全方向から飛び出して来た鎖は体を縛り付けて身動きを取れなくさせる。次に巨大な魔物を数十匹も生成して襲わせた。


「――そんな程度で私が倒せるとでも?」


 《嫉妬》の権能を一割だけ解放する。それだけでも周囲の魔物を一撃で吹き飛ばし全ての鎖を断ち切った。同時にマナで雷を発生させると砂鉄を集めて回転させ刃物のバリアを作った。

 それから出現する魔物は全て一撃で屠りながらも口を開く。


「アルはどこにいるの」


「……なるほど。それが貴女の力の一部ですか」


「質問に答えて! 今は優しくしてあげる余裕がないから」


「おぉ、怖い怖い」


 鋭い眼光で睨み付けるとルシエラはわざとらしく怖がる素振りを見せた。もしアルがこの世界にいるのなら全力は出しにくい。アルを巻き込んでしまうかも知れないのだから。

 幻はもう効かない。そう理解しているからこそルシエラは素直に答えた。


「安心してください。少なくとも彼はまだ生きてますから。交渉材料ですもの。殺す訳にはいきません」


「交渉材料って……まだ交渉するつもりなの」


「ええ。こっちだって諦めきれないので」


「……!」


 世界を救う。言うだけなら簡単だし冗談の可能性もある言葉だ。でもルシエラの瞳がその可能性を否定させてくれない。真っ直ぐに目標を見据える眼は、確かに本気で世界を救おうとしている眼だ。

 冗談なんか付いていない。その為にアリシアの力を借りたいんだ。


 純粋な気持ちでやっているのならアリシアだって許容するし協力もする。大罪でありながらもアリシアの力を借りようとするって事は、自分だけじゃどうにもならない程の力が相手なんだって事だし。そんな相手が世界を滅ぼそうとしている。それこそ大罪の時見たく世界は残酷な結果を迎えるだろう。

 ……でも、どうしても許せない。いくら世界の終焉を止める為とは言え命を奪う事になんら抵抗もない上に自己の為だけにやっているのだから。


 仕方のない事なんだって理解出来る。どっちにせよ協力してもしなくても黒魔術は発動する事となる。その時の為に媒体とする血を集めなきゃいけないのだ。当時のアリシアは殺した人と自分自身の血肉を使って黒魔術を発動したけど、互いに無傷で発動するのなら必ず第三者の犠牲が必要となる。

 邪魔をされないように殺すついでに血を抜いているって事何だろう。


「貴女も分かっているはずですよ。世界が崩壊すればどんな事になるのか」


「……分かってる」


 世界の崩壊。即ち歴史の初期化という事になる。今まで人類の歩いて来た道を全て何から何まで消し炭にする事となるのだ。

 その光景がどれだけ残酷な物かをアリシアは知っている。


「なら尚更そんな事させる訳にはいかないでしょう。世界が崩壊してしまえば人類が今まで歩いて来た道も、大切な場所も、仲間も、全て失う結果となるんですよ」


 彼の言う通りだ。今世界が崩壊してしまえば今まで触れ合って来た人達も、大切な場所も、仲間も、大好きなアルも、全て掻き消されてしまう。

 何で今になってそんな事が起ろうとしているかなんて分からない。でもそれが嘘じゃないって事は理解出来た。


「私とてそんな事はさせたくない。だから手を借りたいんです貴女の力があればその終焉を止められる!」


「私の力って……。大体どうしてそんな物が急に起ころうとしてるの」


「……分かりません。ただその存在は確認されてるんです。原因不明意図不明の存在が」


「――――」


 話を聞いたって信頼できる訳がない。でも理解はできる。手を貸してほしいって理由やその終焉を止めたい理由も。

 しかしどうしても許せなかった。手を貸すのが最善なのは知ってる。なのに心がその選択をさせてくれない。


「あなたの言う事も一理ある。本当のその通りなら私が手を貸せばいい話」


「なら……!」


「でも許容できないのは変わらない。既に幾億もの命を奪っておいて最低な事を言うけど、私はそんな手段を使いたくなんかない」


 命を軽く見ていた時期さえあったのにどの口が言う。自分自身にそう呟いた。

 狂気に身を任せ命を小石の様に蹴飛ばし扱った記憶。それは自分で言った言葉に矛盾を投げかける。お前がそれを言うのかって。

 するとルシエラは表情を険しい物に変えた。


「私は――――英雄に憧れた。絶対に叶う訳の無い理想の英雄に」


「英雄……?」


「どんな犠牲も出さずに何もかもを救う。それが憧れた英雄。だから、あなたの手には乗らない。……乗れない」


 私情を挟めばどんな事になるか。そんなの飽きるくらいに知っている。

 アルと出会う前のアリシアなら何の躊躇もなく彼に力を貸しただろう。でも英雄に憧れた今じゃ――――アルを好きになった今じゃ、そんな事なんてできない。だってそれは己で定めた道に反してしまうから。


「なっ。じゃあ貴女は世界がどうなってもいいって言うんですか!?」


「そう言いたい訳じゃない。ただ、あなたの要求が私の道に反してるだけ」


「……私情を挟む気ですか」


「ええ」


 ルシエラの言葉に頷く。

 本来なら絶対にやっちゃいけない事だ。でも、その理想を貫き通すからこそ英雄と呼ばれる。なら絶対に不可能でも理想を突き通さなきゃいけない。それこそがアリシアの憧れた英雄なのだから。


「絶対に不可能です。誰一人犠牲を出さずして世界を救う事なんて出来ない。それこそ夢を見続ける偽善者の戯言に過ぎない」


「偽善者。戯言ね……。確かにそうかもしれない。英雄っていうのは偽善の塊。でもそれを貫いて実現できたからこそ大英雄は生まれたの。だから、私だって諦められない。――もう二度と諦めたくない」


 アルから諦めない勇気を貰った。それだけで戦う理由は、私情を挟む理由には十分すぎる。理想を追い求めて戦うのが英雄ならアリシアもその道を行くだけ。アルと同じ道を歩みたいから。

 もう一度黒魔術を発動させると宣言した。


「話し合いはこれで終わり。私は理想を貫き通す為に戦うだけ。あなたは?」


「……なら、私もそうするとしましょう。力づくで貴女を奪う」


 そう言って武器を構えた。

 これでいい。この先に待っているのが絶望でも希望でも、今はこれでいい。

 だからこそアリシアは《嫉妬》の権能を二割解放すると構えただけでも周囲の地面を破壊する。同時にルシエラも《憂鬱》の権能を解放すると同じ様に構えた。

 第二ラウンド、とでも言えばいいだろうか。二人が互いに剣を振るった頃には心象世界はその反動だけで崩壊していった。

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