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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章47 『大罪と大罪』

「いいんですか? 彼を放って置いて」


「大丈夫よ。だって、あそこに見えるアルさっきみたいに幻なんだから!」


 そう言って刃を傾かせるとルシエラの攻撃を受け流し、高速で回りながらも思いっきり蹴り飛ばしてアルへとぶつけさせた。すると苦しそうに立っていたアルは霧の様に消え失せては消滅していく。

 魔法での幻なら探知も出来るのだけど、恐らく黒魔術で作られた幻なのだろう。だからこそ普通なら判断が難しい物のアリシアはその正体を見抜けていた。


「さっきは騙された。でも今は違う。どんな幻も効かないと思って」


「そのようですね。小細工は通じませんか……。それなら力技でどうです!」


 すると木々に激突して血を吐いていたルシエラが呟く。そして自分の血を媒体に黒魔術を発動させると刀に黒い雷を纏わせながら前方に撃ち出した。

 だからこそアリシアは右足を大きく踏み出すと前方の地面を割ってルシエラの視界を遮る。もちろんこれが盾になるだなんて微塵も思っていない。っていうかこんな程度で盾になるのならアリシアは神秘の森で苦戦してない。


 やがて放たれた斬撃は障害物を一瞬にして打ち砕くと粉々に破壊し尽くした。けれどその先にアリシアはいなくて奴は微かに息を呑む。

 そして後ろから全身全霊の攻撃を脳天に叩き込もうとした瞬間に振り返り、間一髪で凌いでは周囲の地面をほとんど抉り飛ばす。


「なるほど、転移魔術ですか」


 今さっきのアリシアと同じ様に刀を滑らせると受け流して衝撃波を全て地面に向けた。だからその地面から反射される衝撃波で少しだけ浮き上がると鋭い一閃を視界の端で捉え、土埃の中ででも真正面から余裕を持って受けると思いっきり吹き飛ばされる。


「まぁ、今のは受け止めて当然か……」


「当然ですよ。普通なら不可能でしたがね」


 大罪と言うからにはあれくらい受け止めて当然。というよりまだ全力の半分すらもだしてないだろう。まぁ、それはアリシアも同じなのだけど。

 恐らくアリシアが本気を出せばこの心象世界は荒れ果てた光景となるはずだ。それもルシエラの想像次第で治ったりする可能性もあるが。


 心象世界は無意識に抱いた自分の世界。そんな世界を現実世界へ持ち出し書き換えているのだ。持続時間が短くともその中では自分の土台で相手と戦えるって事になる。大雑把かも知れないけど心象=イメージ。ジメージ=魔法なのだから。

 だからこそ魔術を使わずして魔術と同じ現象を引き起こす事だって出来る。


「ここは私の世界です。どんな攻撃もお見通しと思っておいてくださいね!!」


 そう言うとルシエラは左手を振って幾つもの武器をアリシアへ投げ飛ばした。一振りでそれらを破壊すれば今度は周囲の地面から竜が飛び出て来て、アリシアを見るなり一斉に口を開けてブレスを吐き出そうとする。だから雷で全ての竜を焼き尽くすと一撃で屠って見せた。


「一撃ですか。じゃあこれはどうですか!」


 今度は神秘の森で召喚した竜を五匹同時に召喚して見せた。それも黒魔術じゃない。全てこの世界で想像し創り出した存在だ。

 さっきの竜が流した血を媒体に黒魔術を発動させると真っ黒な玉を浮かべさせ、そこから全てを貫くレーザーを発射して竜を一刀両断する。

 ここで動き出そうとしてもそうはいかない。だって、次から次へと強力な魔物が出現するのだから。


「思う通りにいかない……!」


「そりゃ、思い通りに差せない為にこうしているんです。苦しんでもらいますよ!!」


 全ての魔物を一撃で屠りながらもそう愚痴を零す。

 この世界の中じゃアリシアとアル以外の全てが思い通りに動いてくれるのだ。だからこそアリシアは徐々に追い詰められていった。


 心象世界をやり過ごす方法は全く分からない。そもそも自分だけの世界を現実に持ち出すだなんて知らなかったのだから、当然と言えば当然なのだけど。

 しかし可能性ならある。いくら黒魔術と言えど世界には修復機能みたいな物が備わっているはずだ。それが一時的に現実を書き換えているこの世界を壊してくれるかもしれない。だからそれまで耐えれば勝機はある。


 もう一つは真意での破壊。

 真意はいわゆるイメージだけで発生する力だ。つまりイメージだけで支配されているこの世界なら破壊出来るかも知れない。

 だからこそ真意を発動させようとするも既にその可能性を悟っていたルシエラはそれをさせてくれない。


「真意は発動させませんよ!」


「っ……!」


 次々と上級以上の魔物が出現し続ける。それらを黒魔術で一掃し続けるのだけど、いくら全力じゃないとはいえその代償は着々とアリシアの中に溜め込まれていた。

 イメージで作られた物だから実物と比べればそこそこ柔らかい物の、強さその物はイメージの補正もあってかなり強化されている。更に増え続ける速度もあって一撃で倒せなきゃ対処が間に合わない。だから黒魔術を使うしか手がなかった。


 ――このままじゃどの道やられる。どうにかしてこの世界から抜け出さなきゃ。


 心象世界がここまで厄介だなんて誰が予想しただろう。全て自分の思い通りなのだからルシエラは黒魔術を使う必要なんて無くて、体力を消費せずにアリシアを追い詰めている。

 だからこそ焦燥の味は口の中で広がっていった。


 ――魔物たちは全て奴が創造してる。ならほんの一瞬でも意識を逸らせれば可能性はある……?


 一瞬でも魔物を創造する事から意識を逸らせれば勝機はあるかも知れない。でも一手でも抜けたら攻撃されるこの状況でどうやってルシエラへ攻撃を仕掛ければいいだろう。脳裏でそんな事を必死に考え続けた。

 流れ弾なら狙えるだろうか。奴の咆哮にいる魔物を攻撃する時だけ通常よりも威力を増す事が出来ればあるいは――――。


 アリシアの持つ権能は特大の黒魔術。本気を出せば今すぐにでも世界を滅ぼす事が出来るだろう。ただこの世界でそれを発動した時に現実世界での反動はどうなるだろう。

 壊せたとしても壊した瞬間から黒魔術を停止する事はアリシアでも至難の業。その一瞬だけでも世界が半壊してしまうかも知れない。……のだけど、顔を左右に振るとそれらの考えを全て捨て去って。


「――ええいもう面倒くさい!」


 さっきよりも強く黒魔術を発動させる。そうすれば当然ルシエラは阻止するために大量の魔物を出現させるのだけど、アリシアは全ての防御を捨て去り攻撃へと変換する。

 やがて剣を振りかざす動作を見て息を呑んだ。


「その技、まさか―――」


「ッ!!!」


 周囲の魔物は今から発動する技の余波で吹き飛ばす。倒せる訳じゃないから数を減らせる訳じゃないけど、それでも全ての集中力を掻き集めてその技に向けた。剣先に霧を集めては大きな玉を作り出し、その中からは雷や炎を放出しながらも技を構成していく。

 それだけじゃない。放たれる電磁波で周囲の土が持ち上がりながらも近づいて来る魔物を電磁波だけで焼いていた。


 それから剣先をルシエラに向けると更に雷を加速させて岩盤すらも浮き上がるまでに電磁力を増していく。

 やろうとしている事自体はレールガンと何ら変わりない。でもその速度は比べ物にならないくらい加速している。それこそいくらルシエラでも予測出来ても回避出来ない程に。

 やがてアリシアは呟くとレールガンを撃ち放った。


「――これは全力じゃないわよ」


「っ!?」


 刹那なんかじゃ話にならない。光速という言葉でも到底話になんかならない。亜光束にすら到達する様な異次元の速度で撃ち出す。

 レールガンって言うのは電磁誘導だけで物体を撃ち出す技術の事だ。電力とレールさえあればより高速に、そしてより強力な弾が撃てる。しかし弾が摩擦熱や電気抵抗によってプラズマ化または蒸発してしまう場合が殆どで、コインで例えるのなら五十メートルが精々と言った所だろうか。


 けれどそれはマナで引き起こされるレールガンに限る。普通の物質で普通の現象を利用し引き起こすレールガンならそうなるだろう。

 でもこれは黒魔術を使い技術だけを応用した最強のレールガン。だから弾は決して蒸発したりプラズマ化してしまう事はなく、また電力もレールも無制限。好きな威力好きな速度で撃ち出す事が可能だ。故にアリシアの放ったレールガンはルシエラが攻撃されたと意識する前よりも早く胴体を撃ちぬいて消滅させる。


 それだけじゃない。撃ち出した衝撃波は尋常じゃなく周囲の木々や魔物は溶けて消飛んで行った。同時にその一撃はこの世界を半壊させる威力を秘め、レールガンを放った瞬間からこの世界に亀裂が入り始めた。

 だから真意を発動させると地面に突き刺してこの世界を完全に破壊し尽くす。


「これで互角!」


 そうして心象世界に真意で無理やり干渉すると内側から破壊して現実世界へと引き戻した。気が付けば温かい太陽に照らされた森林の真っただ中で地面に剣を刺していて、目の前には血塗れのルシエラが倒れていた。

 彼から流れる血を利用される前に黒魔術の霧に変換させると自分の周囲にまとわせる。


「……これは参りましたね。まさか防御を全て捨て去るなんて」


「攻撃は最大の防御って言葉を教えてあげる」


「確かにこれで互いのダメージは互角ですね……」


 アリシアは黒魔術を使った代償で。ルシエラは体を再生させる代償で。互いにダメージが互角になった所で世界は元通りにされる。ルシエラにとってここまで悔しい事はないだろう。

 やがて立ち上がるルシエラを見て次の攻撃を構えながらも言った。


「あなたが大罪としての権能を発動するのなら私も大罪としての権能を発動するだけ。――ここからが本番よ」


「ええ。ここからが本番です」


 互いにまだ本気を出していない。だからこそこれから始まる戦いが過激になって行くのだと察せた。故に全力の一撃を構える。

 ――やがて、刹那の時を得ては互いの攻撃を振りかざしていた。

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