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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章42 『現実』

「これからどうする」


「どうするって?」


「対策だよ。色々とやる事があるんだろ?」


 ナナの事や第四層への謎をあらかた片付けた後、キャンプに戻っては第五層の対策をする為に話し合っていた。

 そしてライゼは机の上に第四層の地図と第五層の地図を並べると複数個の石を並べてアル達だと示した。それから他の石を置くと軽く円を描く。


「第四層は敵がいないからこそ出口付近にもキャンプがある。そうだったよな」


「まぁここよりは小さいらしいが」


「なら第五層の準備はここで備えた方がよさそうだな」


 そうは言うが既に第一層で買ったリュックはパンパンなのだけど……。まぁ荷物は多ければ多い程いいし大丈夫だろう。更にクロードの負担がかかってしまうけどそれでいいか。だってクロードだし。

 第五層は未知の領域。到達した人なんてものの数人くらいしか――――。

 脳裏で確認しているとある事に気づいてジルスに問いかけた。


「……なぁジルス、この洞窟って第五層はまだ数人しか突破できてないんだよな」


「ああ」


「見た所このキャンプには強い攻略者が多いのになんで到達できないんだ? だって第四層は魔物が一匹も出現しないのに……」


 本には書いてない情報だ。第四層の事までは詳細に書いてあるのに第五層の情報は分からない事だらけだし、どういった所なのかも書かれていない。第四層まで到達できる人たちなのだから第五層にも入る事が出来るはずなのに。

 すると彼は唸りながらも深く考えて呟いた。


「アルの言いたい事も分かる。この層は魔物もいない訳だしな。――じゃあ、第五層の入り口に魔神級が常に攻略者を待ち構えていたのだとしたら。それも数十匹」


「「……っ!」」


 その言葉に全員が反応する。

 だって本当にそれしか可能性がなさそうなのだから。第五層が明かされていない理由。それは全て第五層に到達した攻略者が殺されていたから――――。

 そう思ったら背筋が凍った。だって今から向かう所がそんな場所なんだから。


「怖いか?」


「……ああ。怖いな。ちびっちゃいそうだ」


 ジルスから言われて素直に答えた。っていうか今の言葉を聞いて怖くならない人間の方がいないだろう。……妙に目を輝かせているクリフ以外。何かもう彼女の感覚が分からなくなってきた。

 怖い。凄く怖い。今までも十分怖かったわけだけど、今回に限っては言葉を聞いただけでも鳥肌が立つような恐怖がアルを襲っている。


 死にそうな時。仲間が死んでしまいそうな時。怖さの中で言うのならそれらが一番アルに恐怖を与える。でもそれらは実体験での恐怖。想像しただけの恐怖なんていうのはたかが知れてるから。

 しかし今回はその想像だけでアルを恐怖に陥れた。つまりそれ程の事が待っているという事で。


「今まで何とかやって来たけど、流石にそこまで来ると難しいって言うかなんて言うか……」


「分かってたんだけどね。僕達がどれだけ《深淵の洞窟》を軽く見てたのか……」


 アルもウルクスみたいに自覚していた。きっと自分は噂ばかりの《深淵の洞窟》を舐めてるって。行く前に散々自殺行為と言われて止められた事から重く捉えていたけど、今になってようやく理解した。《深淵の洞窟》の本当の怖さを。


 そりゃそんな事をされれば誰も攻略できない訳だ。そして自殺行為だって言われる訳だ。

 誰も攻略出来ない。だからこそ第五層は暗闇の謎に包まれている。《深淵の洞窟》って呼ばれている原因はそれなんだ。

 仮に第五層を攻略できても本当は第六層があるかも知れない。それは第五層を攻略できていないから――――。


「深淵……」


 小さくそう呟いた。

 もし何十層も続いていたらどうしよう。反射的にそんな事を考えてしまう。仮に予想通りなら進めば進む程敵も強くなって行くだろうし、辿り着けるだなんて到底思えない。


 今一度ここがどれだけの可能性を秘めているかが察せた。そして第四層に多くの攻略者がいる理由も。

 どうするのが正解なのだろうか。進むべきなのか、それともここで少しの間留まるのか。元々はアルのワガママで始まった攻略に過ぎない。アルのせいで第三層で地獄を見たに過ぎないのだけど、みんなが全力でやっても勝てそうにない相手とは戦わせたくない。

 かと言ってアル一人で向かうのも絶対的に無理な話なのだけど。


 第四層に巨大な何かがいないって事は第五層にいるのだろう。アリシアが第二層からでも驚愕するくらいの反応をして見せた何かが。そこまで強いオーラを放つ相手に勝てるかどうか。

 それにここには大罪教徒がいる可能性だってある。第四層にいないとなると第五層にしか――――。アリシアも同じことを考えていたのだろう。アルが囁くように問いかけると彼女も頷いた。


「大罪教徒は第五層にいる……って可能性はないか?」


「あるでしょうね。第四層は魔物がいない。つまり本拠地の護衛がいないって事ですから。まぁ、本当にここに本拠地があるかも分かりませんが」


 分からない事だらけなのは依然変わりない。ただ分からないだけならいいのだけど、確かめる為のリスクがあまりにも大きすぎるのが問題だ。選択肢は他にもあるかもしれない。でも今は数個しか思いつかなくて。


 アルは爪を噛むと深く考えこんだ。

 大罪教徒が第五層にいるのなら魔物や原生生物に対してはどうしているのだろう。本拠地の周りに結界石でも置いているのかは知らないけれど、何かしらの方法で魔物を避けているのなら……。

 違う。アリスの言葉を元に考えるのなら魔物は黒魔術の副産物だ。なら黒魔術で操れたっておかしくないのではないか。なら拠点の護衛として魔物を守備に立たせる事も可能?


 奴らのトップはアリシアと互角に戦えるほどの強さと黒魔術を持っている。そんな力があるのなら魔物の十匹や百匹は操れて当然。

 なら尚更本拠地を守るはずだ。だって何もしていない魔物に襲われるだろうから。


 それに例の巨大な存在。第四層にいないとなれば第五層にいる事になり、そんな奴を相手にしなきゃいけない可能性がある。果たしてアリシアとアリスとノエルでも勝てるかどうか。

 打算は止まらない。対策もままならない。

 けれど何としてでも準備や策を練らなきゃいけない。今回ばかりは今までみたいに準備できたからって飛び込む訳にはいかないから。

 みんなも同じ事を考えていたようで、ライゼ達はその対策について話し始める。


「第五層に行くとしてどんな対策が必要かな」


「まず武器の手入れは必須だろうな。その他にも縄や照明器具も必要だ。ランプじゃないもっとちゃんとした奴」


「第三層でそこそこ使っちまったからな~」


 第五層の敵に触れない限りみんなも考えたくないのだろう。まぁ、考えたくなくて当然な気もするけど。アルだって考えたくない。でも考えなきゃどの道後悔するのは確定的であるからこそ深く考えこむ。

 そうしているとアリスが話しかけて来た。


「アル、ちょっといい?」


「ん。どしたの?」


 ちょんちょんと肩をつついて来るからそっちの方角を見る。けれど視界に映ったのは妙に遠慮気味な表情をしながらもこっちを見るアリスで、その後ろにいたノエルも暗い顔をしている。だからアル達にとって何か都合の悪い事を考えたんだって察せた。

 するとアリスはハッキリと宣言して。


「第五層の攻略だけど、恐らくもう第三層みたいにみんなでの攻略は出来ないわ」


「……やっぱりか。まぁ、元から分かってはいたけど」


 本来第四層まで普通の冒険者が到達する事自体がおかしいのだ。ライゼ達の戦闘力を見るのなら第二層辺りが妥当って言った所だろうか。

 それなのに全員でここまで辿り着いた。アリシア達みたいな強い人の手足を引っ張り守られ続けながら。一度離れたらどんな事になるのかをアル達は第三層にて思い知らされた。だからこそ第五層への攻略は絶対的に不可能。


「そこで一つ提案があるわ。といっても、アルはもう分かってると思うけど」


「ああ……」


 アリスの考えは読めている。というより、彼女から言われるよりもその結論が脳裏をよぎっていた。だって彼女の言う事は全て正論で間違ってはいないのだから。

 それを知っていたからこそ彼女の言葉に納得させられる。


「全員で第五層には行けない。特にアル達は」


「……ああ」


 アリスは精霊。ノエルは聖竜。アリシアは邪竜。そしてクリフ、ジルス、クロードは王国騎士にも勝てるくらいの実力者。アリシアとクリフは神秘の森で本気を出していても他の四人はまだ全力を出していないのだ。

 そんな人達にしがない冒険者である【ゼインズリフト】の面々が付いていけるはずがなく、戦力外通告されるのは至極当然の結果だった。


 第三層であれだけ苦戦し、第三層なのにあれだけボロボロになるまでやられたのだ。いくらウルクスは隠れてやり過ごしていたとは言え、真正面からやりあったアル、ライゼ、フィゼリアの三人は骨折や流血がどれだけ酷かったかだろう。

 層をまたぐ毎に敵が強くなって行くこの洞窟じゃこれ以上の進軍を文字通りの自殺行為。きっと囮にもなれないはずだ。


「アル……」


「いいんだ別に。分かってた。――この世界は単純には出来てないんだから」


 果てしない無力感に襲われる。

 英雄を目指したはずだ。強くなろうと努力したはずだ。でもどれだけ強くなったって、どれだけ技術を学んだってみんなには届かない。だからこそこうなる。

 諦観にも近い思いを抱きながらもそう言った。ただその時のアリシアの表情が刺さっていて、心の中で悲鳴を必死になって押さえていた。

 だからこそ誤魔化すように言う。


「俺達はここで待機するよ。……後は、頼む」

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