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笑顔の代償  作者: 大根沢庵
第三章 君がいたから知った事
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第三章39 『分からない事と分かる事』

「じゃ、二人も戻った事だし現状を確認しよう。俺達は第四層へと到達したが、それは正規のルートじゃなく大罪教徒の掘った通路を通って来た。で、そのルートはガス爆発により崩壊したと」


「ああ。それで合ってる」


 第四層のキャンプへ行き一息ついた後、眠っていたり気絶していた全員を目を覚ました事で状況確認が始まった。アルは安静にしていなきゃいけないせいで車椅子だけど、それでも話し合いにはしっかりと参加する。

 やがてジルスが仕切ると言った。


「あの時に別れたのはアルとライゼ、アリシアとフィゼリアとナナ、俺とクリフとクロードとアリスとノエル、そしてウルクス。そうだな」


「ああ。それで俺達は出口を探そうとして移動したら鬼みたいな奴にあって交戦した」


「私達も一緒に行動してたんですけど、フィゼリアとナナと分かれ離れになって、それから私は単独行動でみんなを探してました」


「私とナナは落ちた先で魔物と交戦しました」


 向こう側の事情は一切知らなかったからそんな事があったのかとびっくりする。アルはライゼが戦っている時から記憶がないし、みんなと合流したって記憶もないからみんなの話を聞いて初めて状況を察した。

 っていうか比較的にアルが一番早く気絶していたのか……。

 弱い証明か否か怪しい所。


 その後にもみんながあの後にどうしていたのかを話してくれて、それで初めて状況が読めて行った。まぁ全部信じ難い物だったのだけど。

 アルの反応を無視して話し続けた。


「俺達はあれから色んな魔物を倒しながらもみんなを探してた。な」


「ああ。流石に危ないって思った事は多々あったが。ウルクスは?」


「僕はひたすら隠れてた。まぁ、子供の頃からかくれんぼ得意だったし。余裕だったし」


「どうやらトラウマを背負ったみたいだな……」


 そりゃフィゼリアが複雑骨折して流血してマナを使い果たした上に、ナナの魔族としての力を解放して初めて勝てた相手がうじゃうじゃ通路を歩いているのだ。一人で隠れる恐怖は凄かっただろう。というかその凄さを目で語っている。

 みんなもその事について色々とコメントを残す。


 ……みんな大変だったんだ。アルが気絶していた間でも気絶する前でも、ずっと大変な思いをしながら生き残っていた。それなのにアルは目を瞑って荷物になる事しか出来なかっただなんて。

 そう考えるとアルがどれだけ弱いのかが今一度目に見えて理解出来る。


「にしてもみんなもよく生き残ったな。特にアル組とフィゼリア組と、更にウルクスも」


「俺はアルに護ってもらってたから生きてるだけ。きっと最初に俺が戦ってたら今ここにこうして立ってないよ」


「えっ?」


 そう言うから思わず聞き返した。

 するとライゼの明るい表情が困惑の表情を浮かべるアルを捉え、グッドサインでどれだけ助かっていたかを伝えてくれる。


「あの時に本当に守るべき人が見えたからこそ生きる事が出来た。アルがいてくれたから、俺はこうして生きてるんだよ」


「……そっか」


 短く答えつつもハッキリ言われると妙に照れくさくて目を逸らした。今まで本気でそういう事を言ってくれる人は一人もいなかったから。

 だからこそ誰かの役に立てたのだと知って嬉しかった。

 しかしそこで話は終わらない。


「私はナナちゃんに助けられましたからねー。凄いんですよ、その後は出て来る魔物をバッシバシ一人でやっつけちゃうんですから!」


「えっ、ナナが!?」


「そうです! この子の本質はとんでもないんですよ!!」


 ナナがあの魔物を相手にする。それだけでも十分驚愕する事なのに魔物をバッシバシ倒すって言うんだから驚愕した。

 そんな力があるだなんて到底思えない。けれどフィゼリアはナナの頭を少しだけ触って髪をどかすと耳の上辺りについている角を見せびらかして。


「魔族の本気は凄いんですよー! 蒼い炎とか氷とかを出して、瞬殺ってやつですか? もうスパーンと一刀両断!」


「ハードル上げないで!!」


 勢いに任せて説明しているとナナからそんな事を言われて仕方なく黙り込んだ。けれどフィゼリアが生きているって事はナナのおかげって事の証明にもなるし、あんな通路で動き回っていたのなら死んで当然。だからこそみんなナナの力なんだって察する事が出来た。

 すると即座にアリスが思考モードに入る。


「あの魔物をナナ一人で対処できるって相当よ。単純な力で言えば私達と互角になるかも知れない」


「私と、アリスお姉ちゃんが……?」


「まぁ憶測でしかないんだけどね」


 憶測でもアリスと互角と言われてライゼ達の反応が凍り付いた。そりゃ今まで守る対象であったはずなのにいきなりアリス達の様な高みへ急上昇したのだから当然だろう。

 何と言うか騙された感覚。

 アリスはフィゼリアの方角を向くとその時の事について詳しく聞き始めた。


「この子が戦ってた時ってどんな感じだったの?」


「え? えっと、蒼い炎を出して操ってた様な……」


「なるほどね」


 そんな短い言葉だけでも聞けば何かを察した様で何度か頷いた。けれどそれだけじゃ何も察せないアル達はその動作に首をかしげ、そして彼女はそのことについて詳しく解説してくれる。

 と思いきやいきなり質問されて。


「アル、魔族ってどうやって生まれたか知ってる?」


「魔族? 確か《怠惰の賢者》が起こした世界の揺らぎに影響された人間が突然変異で魔族になったって本であったような……」


「その通り。魔獣も例外じゃないわ。そしてその事件を元に黒魔術は世界から姿を消し今の完全とは言えない魔法が残った。つまり魔族も魔獣も当時に黒魔術に影響されてるって事になるの。つまり――――ここまで言えば言いたい事は分かるわよね」


 直後に雷が脳裏をよぎった。

 世界の揺らぎに影響されて生まれたって事は知っていて、その世界の揺らぎが黒魔術を使用した物なのも知っていたけど、次の点に関しては微塵も不思議に思っていなかった。

 今考えてみればアルもアルでこの世界の常識に塗りつぶされているのかもしれない。


 でもみんなは一歩手前で留まっている様だった。まぁみんなにとっては大罪について真剣に考える様な物なのだから仕方ないけど。

 だからこそ今度はアルが説明係としてアリスが何を言いたいのかを説明する。


「アル、どういう事なんだ?」


「つまりは黒魔術に影響されたのなら黒魔術を使えてもおかしくないんじゃないかって事だよ」


「……?」


「黒魔術は世界に接続して本物の魔法を起こす術だ。それに影響されたって事は、少し無理やりだけど自分もほんの一瞬でも世界に接続してるって事になる。もしその状態が維持されているのだとしたら?」


「自分も、黒魔術を使える……?」


「そう言う事だ」


 盲点だった。この世界のほとんどに疑問を抱いたのにこのことに関しては疑問を抱けていなかっただなんて。にしてもこの世界の住人なのによく気づけた物だ。大罪に対して何の抵抗もないのなら無理もない気がするけど。

 でも納得するのと同時に疑問も湧き上がって来る。まるでアルの心を読んだかのようにライゼが問いかけると、アリスがそれに対して納得できる返事をした。


「じゃ、じゃあ何で魔獣は黒魔術が使えないんだ? だってその可能性があるのなら――――」


「魔獣に知能があると思う?」


「…………」


 論破にも近い事をされて黙り込む。

 確かにその通りだ。黒魔術を使えるのなら使えばいいじゃないかという結論に辿り着くのは当然の事。でも魔獣に考える力なんてない。だからこそ奴らは大量で襲って来るし作戦も無しに突っ込んで来る。

 けれど逆に魔族は考える力があるのだ。だからこそナナみたいに強大な力を使えたって無理はない。――しかし解決は同時に疑問を連れて来る。


「でも、だとしても代償の事についてはどうなるんだ。だって黒魔術には代償が必要なんだろ? それに血が流れてない場合は自分の血肉を代償にするってアルが言ってたし……」


 これに関してはアルも答えられない。だから黙ってアリスの答えを待った。

 フィゼリアの話を聞いただけじゃナナは相手やフィゼリアの血を媒体に世界へ接続した訳じゃなさそうだ。なら自分の血肉を代償にしたって事になるのだけど、そうなるとナナの小さい体じゃ数十分使っただけでも死に至るはずだ。なのにどうして。


 アルだって全快の状態から一秒だけ全力で使っても心臓を握り潰される様な反動が来る。みんなからの話じゃ通路にいた魔物は並大抵じゃ倒れないみたいだし、ナナだけで倒せるとは……。

 するとアリスは予想より斜め上の回答をする。


「魔族は常に世界に接続されてるって考えたらどう?」


「……へ?」


「常に世界に繋がれてる状態だとしたら不可能な事じゃないわ。本にも魔族は普通にしてるだけでも滅茶苦茶強いみたいな事かいてあったでしょ」


「いやまぁ確かにそうだけど……!」


 確かに魔族は滅茶苦茶強いって本にも書いてあった。それも王国騎士の本気が魔族にとっての通常だって書かれるくらいには。

 でも仮にそうだとしても常に接続されてるって事は常に代償を支払ってるって事でもある。その理由はどう付ける気なのだろう。

 ……そのことについても説明してくれて。


「それに代償の説明なら異常なまでの再生力で説明が付くわ。更にナナは特別な存在。何か普通じゃない事が起ってたって無理はないの」


「普通じゃない事って……」


 ナナは世界のバグで生まれた存在。言い換えれば普通の生命の定義は存在しない事になる。魂を管理する枝が繋がってるかどうかも分からないし黒魔術を使える説明だってつかない。だからこうして《深淵の洞窟》に潜っている訳なのだけど。

 やがてアリスは一息つくとこう言った。正々堂々と。


「ハッキリ言うとナナは普通じゃないわ。正直に言うと――――大罪にも近しい存在よ」

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