第三章27 『誰かの策略』
「何が起った……?」
「あ、ライゼ」
どうやら通路に押し出されたのはアルだけじゃなくライゼも同じ様だった。そしてライゼも前に続く通路を見てびっくりする。
要するに上級の魔物がこれでもかってくらい出現する中に二人だけで放り込まれたって訳だ。これが吉と出るか凶と出るか。
起きて周囲を確認しても特に変わった所はない。ただ背後を除いて。
「……俺達坂道を転がって来たよな」
「そのはずだ。実際に体を打ちながら転がってた訳だし」
「じゃ、何で背後に道がないんだ」
「えっ?」
そう言うとライゼも振り返って確かめた。
アル達は突如伸びて来た壁に押し出されて坂道を転がってここまで来たはず。なら背後に坂道が存在してもいいはずなのに、アル達の背後には壁しか存在しなかった。まるで最初からそれしかなかったように。
軽く叩いてみても空洞がある訳でもなさそうだった。
「完全に閉じ込められてる……。道があるはずなのに」
「ライゼ、少しどいてて。壁が厚いっていうのならこれで!」
するとアルは強引ながらも神器を大きく振りかぶると何のためらいもなく壁に撃ち出した。直後に大量の土埃が舞っては視界を遮る。
これで戻る事が出来るはずだ。そして坂道を上った先でもう一度壁を壊せば道が――――。そんな考えは真っ向から否定される。
「は――――?」
「道が、ない!?」
かなりの厚さを削ったはずだ。それも坂道があるのなら確実に空洞が見えるくらいに。それなのに空洞は存在しない。
そこへもう一度撃ち込んだって結果は同じ。どれだけ攻撃しようとも空洞が現れる事はなった。
思いたくはないけど、ここで一つの可能性が浮き彫りになる。
「……魔法」
「え?」
「誰かが魔法を使って俺達を罠にかけたんだ」
そう言うとライゼは驚愕して見せる。そりゃそうだろう。だってあんな中で魔法を発動する余裕なんてないはずだから。でもそうじゃないとこの現象に理由が付かないのも事実で。
「岩を生成出来るのなら無理な話じゃないだろ。俺達を押し出して坂道を塞ぐくらい」
「でも、そうだとしても誰がこんな事を!?」
「それは分からない。でもまぁ、明らかに普通じゃない奴がやってる事は確かだ」
そうして如何にも進めと言わんばかりに用意されていた通路を見つめる。罠なら殺す為の何かがこの先にあるのだろう。それを分かってて進むのは嫌だけど、戻れない以上進むしか戻る為の希望はない。
だからこそ歩き出すとライゼは戸惑いながらも後を追う。
「ちょっ、進むのか!?」
「じゃあここで助けが来るのを待つか?」
「……だぁ~もう恐れがないんだかただのバカなんだか!!」
アリシアがいない以上周囲の索敵は出来ない。だからこそ五感を自分なりに極限まで研ぎ澄ませて敵の気配を察知しようとした。
通路の端に魔法石が設置されている辺り誰かが使っていたのだろう。運搬用の道ならわざわざ危険な道を攻略者に進ませなくたっていいはず。つまりこの道はどの攻略者も知らない未知のルートとなる訳で……。
「この道、本にあったっけ」
「ない。要するにどこかの誰かが勝手にほったんだろ」
本には迷わないように全ての道の特徴が書かれていた。天井の魔鉱石の量が多いとか、少し湿っているとか。でもその中に魔鉱石が人工的に設置された道なんて物は掛かれていなかった。
誰が何のためにこんな道を作ったのだろう。
その予測自体は既にできていた。ただ、その可能性を信じたくなくて脳裏から切り離そうとする。
「どうだ。誰かいるか?」
「今の所はいなさそうだ。それどころかこんな洞窟で俺達以外の足音や息もしないって事は今は誰も使ってないって事なはず。ここまで大きく掘るって事は、必ず何か大きな物を運ぶはずだから、数十人単位でこの道を使うだろ」
「はぇ~、すっごい考察力……」
「全部憶測だけどな」
なるべく足音を消しつつも移動し続ける。ここに攻略者がいるのなら話が通じるのかも知れないし、“奴ら”がいるのなら即座に殺さなきゃならない。
だからこそ左手は常に神器に触れさせながらも移動し続けた。
ライゼもそれを見て剣の柄に手を触れさせる。
「そうだ。洞窟じゃ声も響くからハンドサインにしよう」
「は、ハンドサイン……?」
「手で合図を送る。これが「止まれ」で、これが「行こう」。「しゃがめ」はこうで「了解」はこれ。わかったか?」
すると早速ハンドサインでOKを作って見せる。
もしここを常に使っているのなら音の反響くらい理解してもいいはずだ。逆にアル達はここまで反響する場所は初めてだからこそ相手が音を鳴らしても特定する事は難しい。
つまりどっちが音を出さずに相手の位置を掴めるか。そこで大体が決まるだろう。
それからすぐに動き出す。本に乗ってないルートだけど出口が完全に存在しないなんて事はないはずだ。誰かが使うって事は誰かが出入りしてるって事なんだから。
だから音を殺しつつも出口を目指そうとハンドサインを駆使しながらもしばらくの距離を進む。道中で沢山の事を考えながら。
――罠にしてはおかしすぎる。黒魔術を使って位置を確かめるか……? いや、なら神器でアリシアと話した方が確実……。
でも、そんな思考が停止する程の出来事が訪れた。だって、丁度曲がろうと思っていた曲がり角から巨大な影が音もなく現れたのだから。
その正体が最も遭遇したくなかった上級の魔物で――――。
真っ赤な眼はすぐにアルを捉えては凝視する。
――何でこんな所に奴が!?
「やばっ!?」
「アル!!」
すると鬼の様な見た目をした魔物は鼓膜が裂けそうなくらいの咆哮を放ちながらも手に持っていた大剣を振り上げた。そして真っ先にアルに向かって振り下ろす。
だから咄嗟に神器を引き抜いて抵抗するも全力の攻撃と咄嗟の攻撃じゃ明らかに力が違う訳で、アルはボールの様に跳ねながらも背後の壁に叩きつけられる。その衝撃で大きく吐血した。
「がっ……!?」
完全な受身が取れないとは言えこの威力。いくら上級の魔物とは言え流石に度が越え過ぎているはずだ。だってこんなの完全にぶっ壊れ性能の……。
そんな考えをしていれば魔物は怯んだライゼを見てもう一度大剣を振り上げた。そしてライゼはその見た目とアルが吹き飛ばされた事に腰を抜かしてしまった様で、尻餅を着いてはじっと血塗れの大剣に鈍く反射自分の顔を見つめていた。
「ライゼ逃げろ! ライゼッ!!」
けれど彼は一向に動こうとしない。いや、動けなんだ。あまりの恐怖に体が押し潰されて動けなくなっている。
だから残るは動けそうなアルだけ。早く動けって念じても体はダメージによっていう事を聞かなくて、今は神器を握り締めるのが精一杯だった。
やがて魔物はライゼの脳天にその大剣を振り下ろす。同時にアルの悲鳴にも似た声が洞窟内に響き渡る。
「ライゼ――――ッ!!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一閃の稲妻が宙を伝っては前方にいた魔物に当たり、体を貫いた事でひるんだ隙にクリフ達が即座に切り裂いた。
そんな風にして周囲の魔物を一掃するとアリシアはすぐにアルが押し出された所へ近寄った。
「おい、アリシア!」
「落ち着かないと噛まれるぞ!」
そう言われたって意味はない。神器で伸びた壁を打ち壊しては押し出された方向を見るのだけど、その先に空洞と言った物は一切なくて。
みんなもそれを見ては顔をしかめていた。
「あれ、壁が……。確かに空洞があったよな」
「確実にあった。って事はこれは誰かが仕組んだ事なんだろ」
「仕組んだって誰が!?」
「そりゃわかんねぇ」
するとみんなは即座に考え始めるのだけど、アリシアは壁に向かって全力で神器を振ると周辺の地面を揺らすくらいの衝撃を生んで壁を撃ち抜いた。
その先には空洞があって即座に飛び込むも明らかに違う空間で。
「アル!! ――って、ここじゃない」
「他の道に当たったみたいだな。確かに他の道はすぐ近くにあるって本にもあるが……」
微かに見えた空間には坂道があった。けれど撃ち抜いた先にあったのは今まで辿って来た道とは何ら変わらない道で、そこがアル達の押し出された空間ではないと即座に理解出来た。
だから今度は下に向かって神器を撃ち出そうと両手で握り締めては大きく振り上げるのだけど、その瞬間にまた巨大な地鳴りがアリシア達を襲う。
「うおっ、またか……」
「気を付けろ! また来るかも知んねぇ!!」
ジルスが鋭く叫ぶと全員がともに構える。
しかしそんな努力を嘲笑うかの様に真下から壁が伸びては完全に隔離されてしまい、壁を壊して合流しようとしてもすぐに復元されてしまう。
「ジルス! クリフ!!」
アリシア側に残ったのはフィゼリア、ナナ、ノエルの四人。ノエルがいるだけでも最低どうにかなると思うのだけど、状況は刻一刻と変わって行った。
だって通路がうねっては波の様に全体が変わっていくのだから。
「アリシア、これって……」
「ええ!」
――確実に岩を操ってるやつがいる! それもすぐ近くに……!
だから索敵魔法でどこに誰がいるのかを探ろうとする。通路の隅々まで、微かな反応すらも残さずに索敵しようと集中力を極限まで研ぎ澄ませた。
でもいたる所に大きな反応があるせいでどこに誰がいるのかが全く分からなくて。
――数が多すぎて索敵出来ない!?
そんな事をしていればついに壁が迫って押し潰されそうになってしまう。故に即座に壁を打ち破って脱出を試みるも、予想以上の速度で再生してはすり潰そうと迫っていた。
どうすればここを抜けられる。そんな事に頭を使うも次の一手でアリシア達も同じ様に罠にはまってしまうような結果になって。
「足元が!?」
「嘘っ!?」
飛行して避ける事は余裕だった。でも何より天井から迫って来た岩に押されてアリシアとノエルも同時に足元に出来た穴へと落下していく。更に非行防止の為か丁寧に天井が迫って来ていた。
やがて全員が罠にはまって穴に落っこちる結果となる。
その先がどれだけ危険な所かも知らないまま。




